LT-1の写真
DIATONE LT-1
リニアトラッキング・電子制御フルオート・プレーヤー
¥200,000(カートリッジレス・ディスクスタビライザ装備)
ダイヤトーン(三菱電機)が1980年に発売した高級アナログプレーヤー。フルオート,リニアトラッキングという構成で性能を追
求した高級機でした。パイオニアのPL-L1,ヤマハのPX-1,PX-2等共にリニアトラッキング方式の高級機が勢揃いしていた
時代でした。

LT-1の最大の特徴は,もちろんリニアトラッキング方式の採用にありました。アナログレコードの原盤を刻むカッティングマシ
ンと針が同じ動きをするリニアトラッキング方式は,理論的には理想の方式といわれています。メリットとしては,(1)音溝の接
線方向を正しくトレースするために,トラッキングエラー,高調波歪を減少させることができる。(2)インサイドフォースの発生がな
いため,針先の対象コンタクトが可能になることで,全体的にトラッキング能力が向上する。(3)トーンアームを短く設計できるた
め,等価質量が低減され,より軽く強いトーンアームが実現する。などがあるといわれています。

反面,本来強固に固定しておくことが理想のトーンアームベースが動くために生じる問題やトラブルがありました。また,アーム
ベースの加工精度やアームの移動の高度な制御など,実際に製品化するためには相当な高い技術が必要でした。このあたり
が相当難しく,主流にならなかったともいわれています。しかし,一つの理想を追求した方式であったことはまちがいありません。

LT-1のリニアトラッキングメカニズムでは,トーンアームを固定する移動ベースの駆動には,直径0.05mmの細線を49本より
合わせてナイロンコーティングを施して耐久性を高めたステンレスワイヤーでした。柔軟性にも優れたこのステンレスワイヤー
で駆動し,3個のローラーでスムーズにアームベースを移動することにより,駆動系の振動をアームベースに伝えないようにな
っていました。アーム後方には2個のフォトダイオードが置かれ,この2個のフォトダイオードの出力差を検出することで正確にア
ームの移動を制御し,トラッキングエラー角は,0.05°以内で,通常のアームの1/60という値に抑えられていました。アー
ムの設計においては,アームベースの移動に伴う振動を徹底的に抑えるために,アームの移動ベースに発生する振動を最小限
にとどめ,さらに,その振動を針先に伝えないように注意深く設計されていました。具体的には,コンピュータシミュレーションや
数々の物理理論を駆使してアームの形状,駆動点の位置,アームの支点などが決定されていたようです。

アームは,有効長175mmのショート&ストレートアームでした。パイプ部にはチタニウム合金を採用し,軽量化と高剛性化を図
っていました。パイプ内部には,ブチル系ゴムによる防振パッドが挿入されパイプ鳴きが抑えられていました。プラグイン部には
チャックイン方式が採用され,ヘッドシェルには軽量のマグネシウム合金が用いられていました。アームピボット部は高感度とな
るように,ジンバルサスペンションとピボットのスパンを広げてパイプ部のガタをなくしたワイドスパンピボットが組み合わされて採
用されていました。カウンターウェイトの取り付けには,従来の針圧ノブとメインウェイトによる構造に,ウェイトケースとブチルゴム
ダンパーを加えたアンチレゾナンスフィルター内蔵型が採用されていました。アーム内導線,ヘッドシェル導線には,特殊皮膜を
施した無酸素銅線を使用していました。

ターンテーブルは,アルミダイカストのターンテーブルにステンレスプレートを重ね合わせ構造で,不要振動を抑えた異種金属2層
構造の重量級ターンテーブルでした。このターンテーブルを,高い工作精度による極めて精密な軸受け構造を持つ高トルクDCモ
ーターで駆動し,クォーツPLL方式使用の高速応答特性を持つサーボ回路により安定した回転を確保していました。また,重量
700gの真鍮製のディスクスタビライザを標準装備し,レコード盤とシートの密着性を強め,SN比,低域の解像度の向上を図って
いました。

これらのメカニズムは,高精度を確保するためにダイカストベースに取り付けられ,そのダイカストベースを40mm厚の積層ボード
に固定する2層構造としてダイカストの高い精度,剛性と積層ボードの強度,内部損失を生かす設計となっていました。

LT-1は高級プレーヤーとしては珍しいフルオートプレーヤーでした。光学システムによるレコードサイズ自動検出機構を搭載して
おり,ボタン一つでスムーズにアームが動作しレコード演奏が始まるEC(電子制御)フルオートシステムでした。フェザータッチに
よる静かでスムーズな操作が可能でした。電子制御回路は1チップのLSIにまとめられ搭載されていました。

以上のように,LT-1は,ダイヤトーンが技術を結集した作り上げたしっかりした作りの高級フルオートプレーヤーでした。ダイヤト
ーンは本機以外でも,縦型リニアトラッキングプレーヤーなどリニアトラッキング方式では頑張りをみせました。高級リニアトラッキ
ングプレーヤーの代表的1台としてLT-1は記憶に残る名機だと思います。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介しましょう。



もてる技術のすべてが,
高い精度をもって結集した。

 ◎リニア・トラッキング・システムを採用
 ◎チタニウム合金アーム
 ◎トラッキングエラーを抑え高S/Nを実現
 ◎音質を重視したコンストラクション



●LT-1の主な定格●
 

■ターンテーブル部■

駆動方式 ダイレクト・ドライブ
モーター 12極クォーツPLL・DCサーボモーター
ターンテーブル 外径312mm,重量2.5kgのステンレス板+アルミ合金ダイカスト
回転数 331/3,45rpm
ワウ・フラッター 0.011%(WRMS/FG直読法),0.025%(WRMS/JIS)
SN比 80dB(DIN-B)

■トーンアーム部■

形式 全長225mm,有効長175mmスタティックバランス,
ユニバーサルストレートパイプ
トラッキングエラー角 ±0.05°以下
針圧調整 0〜3g直読式(0.1gステップ)
ヘッドシェル マグネシウム合金(6.2g)
カートリッジ取付重量範囲 10〜16g
16〜20g(サブウェイト使用)

■総合■

電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 15W
外形寸法 485W×177H×413Dmm
重量 18.5kg
※本ページに掲載したLT−1の写真・仕様表等は1980年11月のダイヤトーンの
 カタログより抜粋したもので,三菱電機株式会社に著作権があります。したがって
 これらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられていますので,
 ご注意ください。 

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