PD-T09の写真
PIONEER PD-T09
COMPACT DISC PLAYER ¥360,000
パイオニアが1991年に発売した高級CDプレーヤー。前年の1990年にPD-T07で世界初の「CDター
ンテーブル・メカニズム」を開発して搭載した同社が,さらに高域再生限界を広げる「レガート・リンク・コン
バージョン」を新たに搭載して発売した最高級機でした。パイオニアの歴代CDプレーヤーの中でも最上
級機ではなかったかと思います。

PD-T09のひとつ目の大きな特徴は。「CDターンテーブル・メカニズム」でした。それまでのCDプレーヤ
ーでは,CDの中心部だけを保持して回転させるメカニズムであったため,ディスクの不要振動が発生しや
すく,そのため,サーボへの負担やジッターが大きくなり,音質への影響もあったと考えられます。それを
低減するために,ピックアップとスピンドルモーターを下部から上部に移動し,アナログプレーヤーのように
ターンテーブルを設け,ディスクを下部から全面で支えて回転させる「CDターンテーブル・メカニズム」を開
発し搭載していました。この方式により,外部振動や音圧の影響,ディスクのそりによるうねり動作に強く
なり,不要振動が大幅に低減されていたということです。また,ディスクの垂れ下がりがないため,面ブレ
による読み取り信号のジッター発生は約15%も低減されていたそうです。ターンテーブルを駆動するモー
ターには,起動トルク65g・cmの大型ブラシレスホールモーターを搭載し,直径4.5mmの極太シャフト,
ターンテーブルの慣性モーメントの効果と相まって,負荷変動に強い安定した回転性能を実現していまし
た。実際見ると,ターンテーブルがせり出してくる様がかっこよく,アナログプレーヤーのようなターンテー
ブルは,いかにも安定性が良さそうに感じたものです。CDをくるっとひっくり返してレーベル面を下にして
セットするのが最初は奇異な感じでしたが,ある意味でアナログレコードと同じ形で,理にかなった方式
だと納得させられたことを思い出します。

ターンテーブル部

PD-T09のターンテーブルメカニズム

PD-T09の2つ目の大きな特徴は,「レガート・リンク・コンバージョン」でした。レガート・リンク・コンバージョ
ン」は,CDに記録されている22.7μsec毎の音楽信号データ間を自然界の音や楽器の持っている周波数
成分を再現するのに適したなめらかな関数曲線で結ぶもので,これにより自然な波形伝送が得られ,20kHz
以上の周波数成分も結果として急激にカットしたカーブにならず,1/f減衰特性にしたがって超高域成分も再
現されることになりました。この方式の効果か,PD-T09の音は,非常に耳当たりのよい自然でやわらかな高
域が特徴的でした。

D/Aコンバーターは,1ビットタイプで,自社開発の「ハイスピード・パルスフローD/Aコンバーター」を搭載し
ていました。パイオニアは,1ビットD/Aコンバーターにおいて「高いオーバーサンプリング,低次ノイズシェイ
パー」という思想でした。1ビットタイプのD/Aコンバーターは,振幅軸方向の分解能を時間軸方向の”0,1”
の2値で表現し,ビット圧縮をかけ,さらにノイズシェイピング技術によって高精度なD/A変換を行います。こ
のビット圧縮の際して発生する再量子化ノイズを可聴帯域外に追いやるのがノイズシェイピング技術であり,
その働きをするのがノイズシェイパーです。PD-T09では,帯域外のノイズも低減しようと,ノイズシェイパーを
384fsというきわめて高いオーバーサンプリング周波数で動作させてきめ細かなサンプリングを行って再量子
化ノイズを大きく低減し,さらに,高いオーバーサンプリングによりノイズシェイパーの低次の動作が可能になる
ことで,帯域外ノイズやアナログローパスフィルターに起因する音質への影響を抑えていました。また,ジッタ
ーの影響を低く抑えるために,マスタークロックを16.93MHzという低いクロック周波数で動作させていまし
た。

電源部は,デジタル&サーボ,アナログ,D/Aコンバーターそれぞれ専用に独立させた3電源トランスの強力
なもので,さらに,電源回路は3つの電源トランスの2次側をデジタル&サーボ,サーボドライブ,D/Aコンバー
ター,オーディオの+,−,FLの6パートに分けた6パート15レギュレーターという徹底して相互干渉を排除した
ものでした。

PD-T09の内部
PD-T09のベース部PD-T09の底板

シャーシをはじめとする構造体においても,振動・共振を排除する凝った構造がとられていました。「アコースティ
ック・シェル・コンストラクション」という貝殻のように丸みを帯びたシャーシ形状は剛性が高く耐震性に優れた構造
とするための一つのくふうでした。底面のアンダーベースはゆるやかなRをつけた形状で,内部・外部の音圧を拡
散する効果があり,メカ上部のサイレントシャーシ,両サイドパネルもシェル形状化し,定在波の発生しやすい平
行面を排除するくふうがなされていました。そして,アンダーベースは2重構造で,厚アルミ押し出し材にビームを
介して,銅メッキを施した2mm厚鉄板を配するというがっちりした構造になっていました。さらに2枚のアンダーベ
ース間にはスペースを確保し,オーディオ用電源トランスからの配線材を下に通して直近から上段のオーディオ基
板へ接続し,信号系路を最短化するダイレクトコンストラクションも追求されていました。インシュレーターも金属削
り出しのシェル型とし,優れた振動吸収特性を実現していました。

以上のように,パイオニアのCDプレーヤーの新たな展開の基礎となる技術がすべて搭載され,コンストラクション
などの面からも徹底的に凝った作りが特徴的だった同社の最高級機でした。その音は実に堂々としたもので,高
域の繊細さも持ちながら低域の支えのしっかりとした厚みのある音が強く印象に残っています。1991年の発売
ですからそれほど古い製品ではありませんが,パイオニアのCDプレーヤにおける大躍進のひとつの契機を示した
名機として強く印象に残っているので取り上げさせていただきました。
 
 

 
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。

 


 
CDターンテーブル方式に加え,
レガートリンクコンバージョン搭載。
限りなく自然に近づきました。
◎なめらかで自然な音楽再生を実現。
  レガートリンクコンバージョン搭載。
◎ディスクの不要振動を抑え, 安定した回転を
  実現したCDターンテーブル・メカニズム。
◎オリジナル開発のハイスピード・パルス
  フローD/Aコンバーター搭載。
◎自社開発クリーンレーザーピックアップ。
  正確で安定した信号読み取りを実現。
◎忠実な波形伝送を実現する
  A級動作FETバッファーアンプ。
◎高剛性で耐震性にすぐれる新開発
  アコースティック・シェルコンストラクション。
◎強力な電源供給能力。
  3トランス・6パート・15独立電源。
◎直径15mm極太シャフトの高トルクモーター。
  ターンテーブル方式ディスクドライブ。


●PD-T09の主な仕様●
 

●一般●

型式 コンパクトディスクプレーヤー
ピックアップ 3ビーム半導体レーザー方式
電源電圧 AC100V,50/60Hz
消費電力 18W
重量 20kg
外形寸法 440W×151H×433Dmm

●オーディオ特性●

周波数特性 2Hz〜20kHz
SN比 115dB以上(EIAJ)
ダイナミックレンジ 99dB以上(EIAJ)
チャンネルセパレーション 110dB以上(EIAJ)
ワウ・フラッター 測定限界(±0.001%W・Peak)以下(EIAJ)
全高調波歪率 0.0015%以下(EIAJ)
出力電圧 2.0Vrms
チャンネル数 2チャンネル(ステレオ)
デジタル出力 同軸出力 0.5Vp-p(75Ω)
光出力  −15dBm〜−20dBm(波長660nm)
バランス出力 2.0Vrms
※本ページに掲載したPD-T09の写真・仕様表等は1992年9月の
パイオニアのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に著
作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載,引用等を
することは法律で禁じられていますので,ご注意ください。

★メニューにもどる
 
            
★CDプレーヤーのページにもどる
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。                    


メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp