DENON PMA-970
STEREO PRE-MAIN AMPLIFIER ¥200,0001980年にデンオンが発売した高級プリメインアンプ。オーソドックスで手堅い作りのプリメインアンプで,
派手さはないものの,上級のセパレートアンプでの成果を取り入れて作られ,電源部を始めしっかりした
内容を持ったいいアンプでした。PMA-970は,MC入力からスピーカー出力まで全段コンデンサーレスの完全DC構成を特徴としてい
ました。DCドリフトを抑えるDCサーボ回路には,デンオン自慢の「ダイレクトDCサーボ方式」を採用し
ていました。これは,初段FET差動アンプのパラレル接続とサーボ素子だけのシンプルな構成を特徴と
し,サーボアンプを持たない構成であるため,サーボ回路による特性劣化が起きにくいというものでした。
アンプ全体の構成も信号経路のシンプル化が追求されイコライザーアンプ,パワーアンプの2アンプ構
成とし,2つのアンプ間には,音質劣化の要因となる回路を介在させずにダイレクトに接続する構成とし
そのために,トーン回路はパワーステージ前段のサーボ回路に付加するという手法をとっていました。PMA-970の大きな特徴として,カートリッジ,プレーヤーに優れた製品を持つデンオンらしく,優れた
イコライザーアンプを搭載していることでした。「無帰還型リアルタイムイコライザ」と称されたPMA-970
のイコライザーアンプは100kHzまでの広帯域再生を追求したもので,CR型を発展させたものでした。
構成は,新開発ローノイズデュアルFETによるDCリニアアンプ2段と段間のCR型イコライジングフィル
ターからなり,初段はダイレクトDCサーボ方式のデュアルFETのパラレル差動増幅にカスコード差動ブ
ートストラップとデュアルトランジスターのカレントミラー回路を併用した構成になっていました。次段の
電圧増幅段では,ダーリントン・ローカル・フィードバック回路でA級プッシュプルとし,SEPPの出力段と
あわせ,CR型イコライジングフィルターを低歪みでローインピーダンスドライブするという回路構成にな
っていました。CR型イコライジングフィルターには厳選された高精密な素子を採用し,徹底したローイン
ピーダンスタイプにして,「無帰還型リアルタイムイコライザー方式」により,CR型で当時世界でも類が
ないほどの高S/N90dBを獲得していました。イコライジングフィルターからの信号を受ける後段のアン
プも前段同様の回路構成とし,前段アンプには±60V,後段アンプには±32Vをそれぞれ独立した安
定化電源から供給する独立構成とし,それぞれの回路には,Pc300mW・fγ100MHzという高出力
高速・高耐圧のトランジスターを使用し,クリッピングレベル18V(MCは23mV)の高出力・広ダイナミ
ックレンジを実現するとともに,RIAA偏差20Hz〜100kHz±0.2dBという広帯域特性をクリアしてい
ました。パワーアンプ部は,上級機のセパレートアンプPOA-3000で開発されたデンオン独自の「リアルバイ
アス回路」を採用し,バイアス電流を制御してA級動作に近い動作を行うというものになっていました。
通常のノンカットオフ動作を行う可変バイアス方式は,トランジスタがカットオフを起こさないように,バイ
アス動作点をコントロールして無信号時にも常にバイアス電流が流れるように働く仕組みでした。また,
いわゆる純A級動作のアンプでは,1個のトランジスタの直線動作領域で信号波形全体を増幅するた
め出力のピーク値の1/2のバイアス電流が必要であり,特性は優れていますが,消費電力に対して
効率的にはきわめて低いものとなります。
「リアルバイアス回路」は,入力信号を高速で検波して,FET差動のバイアス平衡ドライブ回路でパワ
ートランジスタが純粋なA級動作(1個のトランジスタで波形全体を増幅する)を維持するのに必要なバ
イアス量(その時点のピーク出力の1/2)を完全に供給するというものでした。バイアス電流の巧妙な
制御により従来の可変バイアス方式よりA級動作に近づけるというもので,純A級方式に比較して約
1/10の消費電力ですみ,優れた特性も実現していました。パワー段をドライブするバッファーアンプ,プリドライバー段の構成は,「初段ローノイズFETパラレル差
動カスコード,ブートストラップダイレクトDCサーボ+差動カレントミラー平衡ドライブ+ピュアコンプリメ
ンタリープッシュプル」方式のバッファーアンプ,「差動3段カレントミラー出力」のプリドライバー段という
もので,パワー段を強力にドライブし,TUNER INからSP OUT間でもスルーレイト250V/μs,ラ
イズタイム0.6μsを実現し,動的歪みの少ない立ち上がりの優れたアンプとなっていました。
電源部は,重量7.6kg,直径145mm×高さ121mmの大型のトロイダルトランスと,66,000μF
の大容量ブロックコンデンサー(直径63.5mm×高さ120mm)による強力電源回路を搭載していま
した。トロイダルトランスは多重シールドにより磁束漏れを防ぎ,パワーアンプの電圧増幅部とパワー
部,さらにイコライザーアンプの2つのDCリニアアンプそれぞれを別巻線から独立した安定化電源を
通して供給する構成として,動的干渉を抑えていました。トーンコントロール回路にはデンオン独自の「リアルタイム・トーンコントロール」を採用していました。
これは,信号経路からコンデンサーをすべて取り除き,高精度なトーンコントロール素子をパワース
テージ前段のサーボ回路に付加する方式をとることで,トーンコントロール使用時またはトーンディフ
ィート時にもゲインの変化,回路構成の変化がないというものでした。
内部コンストラクションにおいては,内容積の1/3を占める電源部と信号増幅系を十分にシールドし
さらに,すべての入出力端子は,最短のプリント基板に直結,各種のモード切替は前面パネルのツ
マミ類によってコントロールされるリモートスイッチにより必要箇所で処理することで,内部配線の引
き回しを最小限に抑え,特性の劣化を防いでいました。以上のように,PMA-970は,デンオンはセパレートアンプに投入していた技術を生かして作り上げ
たオーソドックスながら高性能なプリメインアンプでした。弟機のPMA-950も発売され,両機とも優
れたアンプとして高い評価を得ていました。
DENON PMA-950
STEREO PRE-MAIN AMPLIFIER ¥150,000
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
ハイパワー/ハイスピード再生・・・。
かつて体験したことのない
「透明感」の世界。
全段コンデンサーレス構成を実現。
●ダイレクトDCサーボ回路を採用
◎超低域の安定性と特性改善に威力を発揮する
応答速度の速いダイレクトDCサーボ方式
◎MC入力から完全DC構成。
音の透明感・スピード感を飛躍させた
シンプルな信号経路最新高級カートリッジの再生帯域を大幅に越える
●驚異のRIAA偏差20Hz〜100kHz±0.2dB
◎DCリニアアンプ2段による
高性能リアルタイム・イコライザーアンプを搭載
◎MCカートリッジに焦点を合わせた,
ハイゲイン・イコライザーハイパワー100W+100Wを達成
●高効率・高出力「純粋」A級パワーアンプ
◎A級アンプの優秀性を真正面から追求。
画期的技術による高効率・高出力の実現
◎A級動作を最新エレクトロニクス技術で飛躍させた
リアルバイアス回路
◎スルーレイト250V/μs(TUNER→SP.OUT)
高速応答のプリドライバー回路
◎A級ハイパワーアンプを強力ドライブする
大形トロイダルトランス使用の電源部
◎新アイディアによる高速プロテクション回路超高域100kHzまでなめらかな特性
●新開発リアルタイム・トーンコントロール
◎合理的な内部コンストラクションと
リモートスイッチの応用で信号経路を大幅短縮
◎高次元の趣味性を表現する,
鏡面研磨の豪華な木目仕上げのニューデザイン
■パワーアンプ部(TUNER→SP.OUT)■
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回路方式 | ダイレクトDCサーボ方式DENON classA 回路 |
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定格出力
(両ch駆動,正弦波連続出力) |
20Hz〜20kHz負荷8Ω:100W+100W
1kHz負荷4Ω :80W+80W |
20Hz〜20kHz負荷8Ω:80W+80W
1kHz負荷4Ω :100W+100W |
入力感度/入力インピーダンス | 150mV/40kΩ |
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全高調波ひずみ率 | 0.003%(20Hz〜20kHz) | 0.004%(20Hz〜20kHz) |
混変調ひずみ率 | 0.005%以下
(60Hz/7kHz:4/1,定格出力相当振幅出力時) |
0.004%以下
(60Hz/7kHz:4/1,定格出力相当振幅出力時) |
出力帯域幅
(IHF両ch駆動) |
5Hz〜100kHz(THD.0.02%) | 5Hz〜100kHz(THD.0.03%) |
周波数特性 | 1Hz〜400kHz+0,−3dB(1W出力時) | 1Hz〜250kHz+0,−3dB(1W出力時) |
SN比 | 108dB(IHF-A) | 110dB(IHF-A) |
出力インピーダンス | 0.08Ω以下 | 0.1Ω以下 |
スルーレイト | 250V/μs |
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ライズタイム | 0.6μV | |
出力端子 | スピーカー:
A,B/4〜16Ω A+B/8〜16Ω(インピーダンス切換スイッチ付) ヘッドホン: ステレオヘッドホン (インピーダンス切換可能LOW,HIGH,ダイレクトの3段) |
スピーカー:
A,B/4〜16Ω A+B/8〜16Ω(インピーダンス切換スイッチ付) ヘッドホン: ステレオヘッドホン (インピーダンス切換スイッチ付LOW,HIGH) |
■プリアンプ部(イコライザーアンプ)■
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入力感度/入力インピーダンス | PHONO-1,2MM:2.5mV/50kΩ
PHONO-1 MC:200μV/100Ω TUNER,AUX,TAPE-1,2:150mV/40kΩ |
PHONO-1,2MM:2.5mV/47kΩ
PHONO-1 MC:125μV/100Ω TUNER,AUX,TAPE-1,2:150mV/40kΩ |
最大出力/定格出力 | 18V/150mV | 10V/150mV |
PHONO最大許容入力 | MM:300mV(1kHz),MC:23mV(1kHz) | |
RIAA偏差 | MM,MC=20Hz〜100kHz±0.2dB |
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全高調波歪率 | 0.001%(1kHz出力10V時) | 0.001%(1kHz出力8V時) |
■総合特性■
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SN比
(IHF-A,入力短絡) |
PHONO-1,2MM:90dB
PHONO-1 MC:75dB(250μV入力時) TUNER,AUX,TAPE:108dB |
PHONO-1,2MM:90dB
PHONO-1,2MC:75dB(250μV入力時) TUNER,AUX,TAPE:110dB |
トーンコントロール | BASS :100Hz±8dB
TREBLE:10kHz±8dB |
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サブソニックフィルター | 18Hz・6dB/oct |
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ラウドネスコントロール特性 | 低域:100Hz+7dB
高域:10kHz+6dB |
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ミューティング | −20dB |
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■その他■
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電源 | 100V 50/60Hz,305W(電気用品取締法による) | 100V 50/60Hz,265W(電気用品取締法による) |
占有寸法
(ツマミ,ゴム足,端子含む) |
W506×H168×D451mm | W470×H140×D410mm |
重量 | 23kg | 15kg |
※本ページに掲載したPMA-970,PMA-950の写真,仕様表等は1980年2月,
1981年4月のDENONのカタログより抜粋したもので,日本コロムビア株式会社
に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは
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