SONY PS-X800ソニーが1981年に発売したリニアトラッキングプレーヤーシステム。ソニーがこだわって開発してきた電子制御アーム
QUARTZ LOCK
D.D. FULL AUTO PLAYER SYSTEM ¥150,000
「バイオトレーサー」とリニアトラッキング方式をドッキングさせたハイテクの固まりのようなアナログプレーヤーでした。リ
ニアトラッキング方式は理想的な方式といわれながら,残念ながらマニアにはあまり受けが良くなく,広く普及すること
なく消えていきましたが,このPS-X800は実用的な1台だったと思います。PS-X800の最大の特徴は,上記のようにアーム部にありました。ソニー独自の電子制御アーム「バイオトレーサー」
をリニアトラッキング方式に組み合わせたという技術的に非常に特徴的で画期的なモデルでした。ソニー自慢の「バイオトレーサー」は,1000分の1秒の間に数百の論理判断を行うマイクロコンピューターと,速度およ
び位置検出センサー,リニアモーターによって全ての動作を電子的にコントロールする高精度な電子制御アームでした。
「バイオトレーサー」の大きな特徴は操作性と音質の両立を目指したアームの制御を高度に行っていることにありました。
「バイオトレーサー」により,どんなカートリッジを使用しても低域共振のピークを3dB以内に抑えることができ,クロストー
クも改善されるという従来のオイルダンプアーム的な働きをしていました。そのうえに,リードイン,リターン,リピートといっ
たアームのオート動作の制御,コントロールボタンによるマニュアルアーム並の自在なキューイング(アームの位置調整)
が可能となっていました。アームの位置はボタンの操作で約0.5mmの微調整も可能でした。さらに,電子式の針圧調
整とインサイドフォースキャンセラーを装備していたため,レコード演奏中でも針圧調整が可能でした。PS-X800に搭載されたリニアトラッキング方式は,「アクティブトレースサーボ」と「モノレールガイド・スライド軸受け」の
採用により,「カッティングマシンに近づける」という理想を追求したもので,「ライバルはカッティングマシンだけ」というキ
ャッチコピーにソニーの自信がうかがえました。
「アクティブトレースサーボ」は,リニアトラッキング方式の弱点としてあげられていた「シャクトリ虫運動(アームの間欠移
動)」を追放するため,アームの横送り用モーターを常に回転させて,レコードの溝のピッチが粗くなったらアームの移動
速度をアップ,細かくなったらダウンという制御を行うことで針先の速度とアーム支持部の速度をほぼ一定にしながらア
ームを常に連続移動させるという方式でした。ピッチの変化を読み取る働きは,「バイオトレーサー」の位置検出センサー
が行っていました。また,アーム送り用のモーターには,ターンテーブルと同じくリニアBSLモーターを採用し,正確で滑
らかな移動を実現していました。これに,アーム支持部のガタを追放するために横送りの支持軸とアーム支持点を一致
させる「モノレールガイド」による軸受けの搭載でアーム支持点の安定化を図っていました。さらに,「バイオトレーサー」
による強力なダンプ力がアームのガタつきを打ち消す働きもしていました。アームには,当時のカートリッジの軽針圧・ハイコンプライアンス化に対応し,かつ「バイオトレーサー」の追従性の高さを
確保するために角形ショートスパンアームパイプを使用していました。角形断面にすることにより,丸形に比べて約70%
断面2次モーメントが強化されたということでした。シェルコネクターには,シェルプラグの先端をクサビ効果による強い力
でホールドし,根本を4方向から締め付ける「ネックシリンダー機構」を採用し,ユニバーサルタイプでありながら一体構造
なみの強度を確保していました。ターンテーブルの回転系は,「リニアBSLモーター」「マグネディスク速度検出」「クォーツロック」の3段ブロックで正確で
滑らかな回転を追求していました。
「リニアBSLモーター」は,「ブラシ&スロットレス」の名の通り,トルクムラの原因となるブラシもスロットも持たないシンプ
ルな構造のモーターで滑らかな回転を実現していました。「マグネディスク速度検出方式」は,ターンテーブルに高密度着
磁した検出信号をマルチギャップヘッドで平均値検出し,微少な回転数の変化もキャッチしてサーボをかける方式でした。
比較的高い発生信号周波数を持っているため,フラッター成分の中でも高い周波数までサーボ補償が可能となっていま
した。このサーボ系に水晶発振の高い発振精度を利用して位相制御をかける「クォーツロック」を組み合わせて,ワウ・フ
ラッター0.015%(WRMS)の高い回転精度を実現していました。キャビネットには,金属に比べて内部損失が大きく,かつ高精度の加工が可能で,強度も大きいというソニー自慢の新素
材SBMCを採用し,要所要所に補強を施して部分共振をも抑えていました。インシュレーターは,固体と液体の中間のゲ
ル状物質を封入した構造として,SBMCキャビネットや防振設計のバイオトレーサー方式のアームとあいまって,ハウリン
グに強い構造としていました。以上のように,PS-X800は,ソニーらしく理詰めの設計が目立つハイテクプレーヤーでした。各所に投入された技術水準
は相当なもので,デザイン的にもハイテクをうまく表現した実用的なフルオートプレーヤーでした。そして,ソニーのアナログ
プレーヤー最後の高級機であり,「バイオトレーサー方式」最後の一花ともいえそうなモデルでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
(リニアトラッキング&バイオトレーサー)で
トレーシング能力を飛躍的に高めました。
もはやライバルはカッティングマシンだけだ
と考えます。
◎リニアトラッキング&バイオトレーサー
●アクティブサーボトレーサー
●モノレールガイド軸受け
◎角形ショートスパンアームパイプ
◎ネックシリンダー機構
◎3段ブロック回転系
◎SBMCキャビネットと
高粘弾性物質封入の大型インシュレーター
◎オートゼロバランス
◎電子式針圧印加方式
◎フルオート機構
◎2スピードアーム送り
◎光電子ディスクサイズセレクター
◎ミューティング機構
◎デッキとのシンクロプレイ
●主な定格●
<ターンテーブル部>
ターンテーブル | 32cmアルミダイキャスト |
ワウ・フラッター | 0.015%WRMS(回転系) |
負荷特性 | 0%(針圧150g) |
起動特性 | 1/2回転以内(33・1/3rpm時) |
SN比 | 78dB(DIN-B) |
<トーンアーム部>
トーンアーム | リニアトラッキングバイオトレーサー
(電子制御トーンアーム) |
有効長(全長) | 180mm(240mm) |
針圧調整範囲 | 0.5g〜3.0g(電子式) |
シェル自重 | 7.2g(SH-156) |
使用可能カートリッジ自重範囲
(シェル自重含む) |
10〜17g,16〜29g(補助ウェイト小・大使用) |
<その他>
大きさ | 440W×120H×440Dmm |
重さ | 11.6kg |
※本ページに掲載したPS−X800の写真・仕様表等は1981年5月のソニー
のカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があります。したがっ
て,これらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられていま
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