SA-9900の写真
PIONEER SA-9900
STEREO AMPLIFIER ¥185,000

1974年にパイオニアが発売したプリメインアンプ。当時のパイオニアのプリメインアンプとして最上級機であった
だけでなく,1970年代当時,プリメインアンプとしては驚異的な大出力と高いクオリティを両立させようとした意
欲作でした。また,意匠的な部分でも,各社のプリメインアンプに多くの影響を与えたと考えられる1台でした。

イコライザー回路は,初段にローノイズFETによる差動増幅器として出力中点の安定化を図るとともに聴感上の
ノイズレベルを下げる設計となっていました。2段目の電圧増幅段は,定電流負荷を用いて直線性のすぐれた増
幅系として低歪みとし,ノイズ選別されたトランジスタの使用でSN比を向上させていました。そして,出力段は低
歪率のSEPP回路とし,十分なドライブ電流を流して,約5kΩの低負荷時までA級動作を保証していました。
イコライザー回路には,±48Vもの高電圧が供給され,フォノ最大許容入力は感度2.5mVに対して500mVを
確保していました。イコライザーカーブのためのNFB素子には,誤差の少ないニクロム金属皮膜抵抗と,スチロー
ルコンデンサーを使用し,厳密でフラットな特性を得ていました。
PHONO2の入力は,−12dBまでのレベル調整が可能となっていて,レベルを絞ったときには最大許容入力を
高める効果が得られるようになっていました。また,4段階(35kΩ,50kΩ,70kΩ,100kΩ)のインピーダン
ス切換が備えられ,カートリッジの負荷の違いによる音質の差を微細に調整できるようになっていました。

コントロール回路にも,初段にFET差動増幅部が置かれ,±48Vの2電源方式がとられていました。FETの採用
でSN比の向上が図られ,2電源方式でクリックノイズが防止されていました。電圧増幅部もイコライザー回路と同
様に,定電流負荷として裸特性を向上させ,ブートストラップ回路を使わないことにより,低域での位相特性や過
渡特性を高めるという,イコライザー回路と同様な設計がなされていました。
トーンコントロールは,メインのトーンコントロール(BASS100Hz,TREBLE10kHzで各1.5dBステップ11ポジ
ション±7.5dB可変)とサブトーンコントロール(BASS50Hz,TREBLE20kHzで各1.5dBステップ7ポジション
±4.5dB可変)と4つのトーンコントロールツマミを備えた「ツイントーンコントロール」が搭載され,より幅広いトーン
コントロールが可能となっていました。2つの回路はメインがNF型,サブがCR型で,両方のコントロールを併用して
も干渉が起こらないようになっており,また,トーンコントロールのON/OFFスイッチも備えられていました。
ボリュームは,2dBステップ,22接点の本格的なアッテネーターを採用し,4連構成として,トーンアンプの前段と
後段の2点で減衰させる方式をとり,実使用時のSN比を向上させていました。また,3段(0,−15,−30dB)切
換のレバー式アッテネーターと併用することで,より細やかな音量調整も可能となっていました。

パワー部は,3段ダーリントン接続による全段直結純コンプリメンタリーOCLで,110W+110Wの大出力を余裕
を持って取り出していました。また,2段の差動アンプとバイアス補償回路により,外部温度の変化などに対しても
十分な安定度を確保していました。2カ所の定電流回路によってトランジスターの動作範囲を広げ,回路の裸利得
を大きくとり,差動内部でも適度なNFBをかけ,出力段からの最適なNFBとあわせ,過渡特性の向上と安定性を
高めていました。さらにこの回路に大きな時定数を持たせることで,超低域の位相ずれも抑え,DCアンプに近い動
作を可能として,すぐれた低域再生を実現していました。
また,定電流回路により電源電圧の変動によるアイドル電流の変化が抑えられ,上記のバイアス補償回路によっ
て各トランジスタ間の温度差に対しても一定の補償ができ,ハイパワー時から微少出力時まで安定したアイドル電
流が得られ,クロスオーバー歪みが排除されていました。さらに,ドライバー段のエミッター抵抗を中点からフロート
し,かなりの大振幅時までA級動作をさせることで,さらにクロスオーバー歪みを根本から解消していました。
そして,SA-9900には,1台ごとに,その製品を実測した生のデータが添付されており,性能への自信と高級機ら
しさを感じさせられたものでした。

SA-9900の内部
SA-9900のイコライザーアンプ

SA-9900の最大の特徴としてシャーシ設計,筐体構造がありました。筐体右側に入力端子,左側に出力端子を
配置したサイド端子方式を採用していました。この構造により,入力端子類はイコライザー基板と一体になり,フォノ
端子とイコライザー回路を結ぶシールド線が不要になることで,音質的に理想的な設計となりました。さらに,入力
端子と出力端子を左右に分離することで,電気的な相互干渉を防ぐという合理的かつ先進的な設計となっていまし
た。このような方式は,後に,他社のアンプにも影響が見られました。
また,出力端子側のパネルには,PRE OUT,POWER AMP INの端子を備え,セパレートしても使えるように
なっていました。

以上のように,SA-9900は,パイオニアのプリメインアンプの当時の最高級機として,意欲的で斬新な設計とオー
ソドックスに性能を追求した設計がうまく調和した高性能アンプでした。滑らかでかつ肌触りのいい中庸をいく音はパ
イオニアならではのものがあり,そのデザインや設計はその後のプリメインアンプにも影響を与えた1台でした。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 


斬新なサイドパネル方式や各初段に差動アンプを持つ
高性能回路,さらにツインコントロールの採用。
大出力110W+110Wのパワーと,
歪のない美しい音質です。
◎後部いっぱいに放熱器を置き,入出力端子は左右に
 分離したユニークなサイド端子方式の採用です。
◎イコライザーは,初段にFET差動アンプを採用した,
 ±2電源の3段直結A級SEPPによる,音質重視回路。
◎低歪率だけでなく,500mVのフォノ最大許容入力による
 ダイナミックマージンの余裕と,±0.2dB以内の正確な
 イコライザー偏差。
◎PHONO2の入力は,−12dBまでのレベルコントロー
 ルと,入力インピーダンスの4点切換えが可能。
◎コントロール回路も初段にFET差動アンプを採用した,
 ±2電源3段直結回路です。
◎トーン回路は,パイオニアだけのユニークなツイントーン
 コントロール方式で,高度のコントロール技術が発揮で
 きます。
◎ボリウムコントローラーには,22接点の本格的アッテネ
 ーターを,特殊4連構成で採用。
◎ローカットとハイカットのフィルターは,それぞれシャープ
 な特性の2段切換え式。
◎パワー部は差動2段,3段ダーリントン接続で終段をパラ
 レルプッシュプルとした,全段直結純コンプリメンタリー
 OCL回路。
◎最適NFBによるグレードの高い音質,位相ずれがなく
 抜けの良い,すぐれた低域特性を実現しています。
◎過渡的クロスオーバーひずみの追放で,ハイパワーから
 微少出力時まで,歪の少ない美しい音質です。
◎新開発の温度検出回路をはじめ,万全の保護回路が
 採り入れられています。
◎2台のデッキを接続して,自由に交互のテープ複写が
 できるデュプリケートスイッチ。
◎信頼性を高める,1台ごとの実測データ。
◎A・B2系統のスピーカーが接続できます。
 
 
●SA-9900の規格●

(パワーアンプ部)


回路方式 差動2段3段ダーリントンパラレルプッシュプル
純コンプリメンタリーOCL
実効出力 20Hz〜20kHz両ch駆動
 110W+110W(8Ω)
 110W+110W(4Ω)
高調波歪率 実効出力時:0.1%以下
55W出力時,8Ω:0.04%以下
1W出力時,8Ω:0.04%以下
混変調歪率 実効出力時:0.1%以下
55W出力時,8Ω:0.04%以下
1W出力時,8Ω:0.04%以下
出力帯域幅 IHF両ch駆動
 5Hz〜40kHz(歪率0.1%)
周波数特性 10Hz〜80kHz+0−1dB
入力端子
(感度/入力インピーダンス)
POWER AMP IN:1V/50kΩ
出力端子 SPEAKER:A・B(4〜16Ω),A+B(8〜16Ω)
HEADPHONE:4〜16Ω
ダンピングファクター 20Hz〜20kHz,8Ω
 30以上
S/N IHF,Aネットワークショートサーキット
 110dB以上

 

(プリアンプ部)


回路方式 イコライザーアンプ
 正負2電源方式,FET差動1段3段直結A級SEPP
コントロールアンプ
 正負2電源方式,FET差動1段3段直結
入力端子
(感度/入力インピーダンス)
PHONO 1:2.5mV/50kΩ
PHONO 2:2.5〜10mV/35kΩ,50kΩ,70kΩ,100kΩ
TUNER:150mV/50kΩ
AUX 1:150mV/50kΩ
AUX 2:150mV/50kΩ
TAPE PB 1:150mV/50kΩ
TAPE PB 2:150mV/50kΩ
PHONO最大許容入力
(高調波歪率0.1%)
PHONO 1:500mV(1kHz)
PHONO 2:500mV〜1.0V(1kHz)
出力端子
(レベル/出力インピーダンス)
TAPE REC 1,2:150mV
PRE OUT:2V/1kΩ
高調波歪率 20Hz〜20kHz
 0.05%以下
周波数特性 PHONO:30Hz〜15kHz±0.2dB
TUNER,AUX,TAPE PB:7Hz〜40kHz+0−1dB
トーンコントロール
(1.5dBステップ)
BASS:SUB±4.5dB(50Hz)
     MAIN±7.5dB(100Hz)
TREBLE:SUB±4.5dB(20kHz)
       MAIN±7.5dB(10kHz)
フィルター LOW:15Hz,30Hz(12dB/oct)
HIGH:8kHz,12kHz(12dB/oct)
S/N IHF,Aネットワークショートサーキット
 PHONO:70dB以上
 TUNER,AUX,TAPE PB:95dB以上
アッテネーター 0,−15,−30dB

 

(電源部その他)


使用半導体 FET10,トランジスター74,ダイオード他33
電源電圧 100V,50/60Hz
定格消費電力 270W
最大消費電力 730W
ACアウトレット 2(電源スイッチ連動)
1(非連動)
外形寸法 420W×165H×403Dmm
重量 20.0kg
※本ページに掲載したSA-9900の写真,仕様表等は,1976年
 7月のPIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア
 株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を
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