SB-1000の写真
Technics SB-1000
ACCOUSTIC SUSPENSION SPEAKER SYSTEM ¥180,000

1973年にテクニクスが発売したブックシェルフ型スピーカーシステム。一見普通のブックシェルフ型
システムですが,ユニットからエンクロージャーまで,当時のテクニクスが「歪みの低減」をテーマに,
技術の粋を集めて作り上げた1台でした。

ウーファーユニットは,30cm口径で,多段式振動板鍛造技術によって,ヤング率の高い材料で内部
損失の大きな材料を材料をはさみ込んだ構造の3層1枚のTCコーンが採用されていました。分割共
振が低減され,中高音域の音圧特性がフラットに保たれ,歪みも低く抑えられていました。さらにボイ
スコイル口径と振動板口径の間にも分割振動を軽減するバランス関係があることから,最良のボイス
口径として直径100mmのボイスコイルが搭載されていました。ボイスコイルは,駆動力リニアリティを
良くするために,磁極幅を大きく,ボイスコイル幅を小さくしたロングプレートショートボイスコイルを採用
し,±7mmという大振幅においても一定磁束内でドライブされ,漏洩磁気によるリニアリティ損失も起こ
さないようになっていました。また,磁性体内の渦電流発生を抑えるため,高固有抵抗で,飽和磁束
密度の高い特殊電磁鋼板の積層コアを,ポールピースプレートのボイスコイル近接部に採用して,交
流磁気回路のリニアリティを改善していました。
さらに,サスペンションの非直線性による歪みの発生を抑えるため,前後対称に2つのダンパーを相対
させた構造の対称二重構造ダンパーを搭載していました。これは,後にケンウッドのLS-990Aに搭載
された「クラスAサスペンション」にもよく似た方式が見られ,非常に先進的な構造であったといえるでし
ょう。

SB-1000のウーファー

ミッドレンジユニットは,4.5cm口径で,ウーファーと同様にヤング率の高さと内部損失を両立させた
3層すきTCダイヤフラムを使用したドーム型ユニットを搭載していました。磁気回路には,特殊電磁鋼
板によるラミネートコアを採用し,磁気回路における歪みを低減していました。ミッドレンジユニットでも
ダブルダンパー構造が採用され,ボイスコイルボビンを紗ブルダンパーで支えるようになっていました。
さらに,有孔ポールピースとバックキャビティを設け,振動計のリニアリティを高めていました。

SB-1000のミッドレンジユニット

トゥイーターは,20ミクロン厚のチタンをダイヤフラムに使用した直径19mmのドーム型ユニットを搭載
していました。エッジ部にもチタンを使用し,制動材とエッジ孔により低歪率化を図っていました。アル
ミ系金属に比べ30%も軽量で剛性の高いチタンを使用し,すぐれた構造により,30kHzまで伸びた
高域特性を実現していました。磁気回路には,飽和磁束密度が高く,固有抵抗の大きいパーメンジュ
ール(Fe-Co合金)を採用し,19,000ガウスの高い空隙磁束密度により,渦電流による歪みを低減
した高能率低歪率再生を実現していました。

SB-1000のトゥイーター

ネットワークも低歪化が図られ,チョークコイルにはケイ素鋼板Eコア巻きを採用し,100Wの大出力時
にも0.1%以下の低歪率を実現していました。また,コンデンサーも一部MPコンデンサーを採用して低
損失低歪率化を図っていました。
キャビネットは,9mm合板+18mm硬質パーチクルボード+9mm合板という36mm厚極厚3層キャビネ
ットという全体のキャビネットの大きさに比して厚さ・強度ともものすごいもので,共振を徹底的に抑えて
いました。
また,各スピーカーユニットは,ダイカスト製フレームを角形に延長してキャビネットバッフルいっぱいに組
み込んだ構造として,バッフル強度もいっそう強化していました。

SB-1000の内部SB-1000のユニット

前面バッフル上には,中,高音独立で+2dB〜−6dB連続可変のアッテネーターを備え,背面のスピーカ
ー入力は,通常のネットワーク経由の端子(フル・レンジ端子)以外に,直接各ユニットに接続できるマルチ
端子も搭載されていました。

SB-1000と他のスピーカーシステムの写真

以上のように,SB-1000は見た目ごく普通のブックシェルフ型で,他のスピーカーシステムと並んでいて
もむしろ小さめなくらいでしたが,超強力なユニットとエンクロージャーなど内容充実の実力派システムでし
た。その中身の凄さは,同じくらいのサイズのスピーカーシステムの2倍ほどもある52kgという重量にも表
れ,スピーカーから始まったテクニクスブランドの意地を感じさせられたものでした。ワイドレンジで歪み感の
少ないその音は,テクニクスらしさにあふれていました。
 

 
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 
 


磁気回路からエッジまで徹底して歪を除去
新開発超低歪率30cmコーン形ウーハ
●駆動部の歪を極小にしたラミネートコアと
 ロングプレート・ショートボイスコイル方式
●振動板の分割振動による歪を解消した
 TCコーンと大口径100Φボイスコイル
●サスペンションによる歪を取り除いた
 対称二重構造ダンパーと有孔ポールピース


4.5cmダイアフラムの新設計ドーム型メディアム

●磁気回路にラミネートコア採用
●ボイスコイルボビンのダブルダンパー支持


20ミクロン厚,極薄チタンダイアフラム採用
新開発ドーム形ツイータ

●エッジ孔と制動材を付加,低歪率を実現
●パーメンジュール採用の低歪率磁気回路


■ケイ素鋼板Eコア巻きチョークコイルとMPコン
 デンサ使用の低歪率ネットワーク
■3層構造の超重量級キャビネット
■直接接続のマルチ,フルレンジ入力端子
 
 

●SB-1000主な定格●


形式 3ウェイ3スピーカ,完全密閉型
インピーダンス 8Ω
最大入力 100W
出力音圧レベル 90dB/W(1.0m)
再生周波数 20〜30,000Hz
使用スピーカー ウーハ:30cmハイコンプライアンスコーン形
メディアム:4.5cmドーム形
ツイータ:1.9cmドーム形
クロスオーバー周波数 500Hz,5kHz
マルチアンプ時 ウーハ〜メディアム間 400〜1kHz
メディアム〜ツイータ間 2.5k〜7kHz
キャビネット 36mm3層構造
レベルコントロール 中音用 +2〜0〜−6dB
高音用 +2〜0〜−6dB
外形寸法 392W×582H×397Dmm
重量 52kg
※本ページに掲載したSB-1000写真,仕様表等は1973年4月の
 Technicsのカタログより抜粋したもので,松下電器産業株式会社
 に著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載,引
 用等をすることは法律で禁じられていますのでご注意ください。
                        
 

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