SL-10の写真
Technics SL−10
クォーツD.D.フルオートマチックプレーヤーシステム 
          ¥100,000(MC形カートリッジ付)
テクニクスが1979年に発売したジャケットサイズプレーヤー。1970年に世界で初めてD.D(ダイレクト
ドライブ)ターンテーブルSP−10を商品化したテクニクスが,その10周年を期して発売した意欲作で,当
時大変な話題を呼びました。その最大の特徴は,直径30cmのLPレコードを再生するアナログプレーヤー
としては限界の大きさ(小ささ)を実現していたジャケットサイズ(31.5cm×31.5cm)だったことです。
LPレコードのジャケット(外箱)は,ちょうどこの31.5cm×31.5cmでしたので,ジャケットサイズと称し
ていましたが,これは大変なことで,テクニクスならではの高度な技術が成し得たものでした。       

このサイズを実現した最大の技術的特徴は,リニアトラッキングアームの採用でした。これをフタの部分に
取り付けて一体化した構造で,頑丈なダイカスト製のフタを閉じると優れた耐ハウリング性能を誇りました。
リニアトラッキングアームの走路は高精度のスライド軸受け,アーム軸受けには,4点支持のジンバルサポ
ートを採用していました。トーンアームは,回転軸の中心に重心位置が一致する独特のダイナミックバランス
方式になっていて,プレーヤーを厳密に水平に置かなくても,正常な再生ができました。たとえ斜めにしても
垂直に置いても,逆さまにしても正常に再生できる驚異的な構造でした。                    
 

SL-10の内部構造斜めにしても再生可能
 
カートリッジは,独自のプラグイン方式を採用していました。これは,リード線を用いずに直接アームにカートリ
ッジを差し込み,固定ネジでロックするシンプルな構造で,がたつきが無く細かな調整が不要な便利なもので
した。これはT4P規格という独自の規格に適合したカートリッジしか使えないのが弱点ですが,当時,各社か
らこの規格のカートリッジが発売されていきました。つまり,それほどこのプレーヤーのインパクトは大きく実際
大ヒットしました。このSL−10には,ピュアボロンパイプのカンチレバー採用のMC形,310MCが装備されて
いました。さらに,MCカートリッジ用のヘッドアンプ(SL−10ではMCプリアンプと言っていた)を内蔵し,スイ
ッチ一つでMM形にもMC形にも対応できる機能を持っていました。                         

ターンテーブルはもちろんD・Dで,ターンテーブルとモーターのローターを一体化した独自の一体構造になって
いました。FGサーボによるクォーツロックで,ワウ・フラッター0.025%,SN比78dB,回転数偏差0.002%
以内の高い回転精度を誇りました。                                            

シンプルで機能的なデザインのキャビネットはダイカスト製で,コンパクトながら高い強度と重量を持ち,優れた
耐ハウリング特性を実現していました。そして,この機能と美しさを両立した優れたデザインが通産省選定の
グッドデザイン大賞を獲得しました。このコンパクトで洗練されたデザインを実現する上で最も難関だったのが
放熱の問題で,ターンテーブル裏側にフィンを設けて放熱を助けるようにしたという苦労話も残っています。 
 
操作は,4つのキーに集約されたフルオート制御で,いっさいアームにふれることなく安全に正確な演奏ができ
ました。アームのアップダウンもキー1つで操作でき,リレーと遅延回路を用いたミューティング機能と連動して
いて,レコード演奏開始時,終了時の,針が降りたとき,上がるときのノイズも一切ありませんでした。レコード
のサイズ,有無も自動検出で,キャビネットが開いていたりレコードがないときはアームは動作しない洗練され
た安全設計にもなっていました。                                             

このSL−10はD.Dプレーヤーの元祖テクニクスが,その優れた技術と知恵で開発したすばらしいプレーヤー
でした。このサイズを実現する上で先ほどの放熱の問題等数多くの困難があり,技術者たちが,「32cm角な
ら何とかなるのだが・・・」と開発チームのリーダーに訴えても,頑としてジャストジャケットサイズを主張して実
現した執念が実った力作でした。そして,それを感じさせないほど道具として洗練されたアナログプレーヤーの
名機だったと思います。私自身は,史上最も洗練されたアナログプレーヤーだと思っています。         
 
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



 
 
 

テクニクス先進のプレーヤー技術と
高度な電子技術がここに結晶。  
ジャケットサイズのクォーツD.D。
 
 
◎精密走行を実現する独自のダイナミック
  バランス形リニアトラッキングアーム    
◎アームとの結合にはリード線を廃した独自の
  プラグインコネクタ方式を採用        
◎ワウ・フラッタ0.025%,SN比78dB    
  技術の粋を結集したクォーツD.D.搭載 
◎無共振思想を貫くダイカストキャビネット   
◎指先だけですべての操作ができる       
  電子制御フルオート機構           

 

 SL−10の定格

●ターンテーブル部●


駆動方式 ダイレクトドライブ
駆動モーター ブラシレスDCモーター
制御方式 クォーツフェイズロックドコントロール
ターンテーブル アルミダイカスト製,直径30cm
回転数 331/3,45rpm オートセレクト(マニュアル可)
回転数偏差 ±0.002%以内
ワウ・フラッター 0.025% WRMS(JIS C5521)
SN比 78dB(IEC 98A weighted)

●トーンアーム部●


形式 ダイナミックバランス形,リニアトラッキングトーンアーム,ジンバルサスペンション軸受構造
トラッキングエラー角 ±0.1度以内
アーム実効質量 9g(カートリッジ含む)
アーム共振周波数 12Hz
アーム駆動モーター DCコアレスモーター

 

●カートリッジ部●


形式 プラグインコネクタ,MC形ステレオカートリッジ 
コアレスツインリンクコイル方式
カンチレバー ピュアボロンパイプカンチレバー
ダンパー TTDD(Technics Temperature Defense 
     Damper)
周波数特性 10〜60,000Hz 
10〜10,000Hz±1dB
温度特性(5℃〜35℃) ±1dB(10kHz),1kHz基準
振動子実効質量 0.23mg
針先 0.2×0.7ミル ダエンダイヤ針
自重 6g
交換カートリッジ EPS-310MC 標準価格18,000円

 
 

●MCプリ・プリアンプ部●


SN比 70dB(IHF A)
周波数特性 20〜20,000Hz±0.5dB
定格出力 2.5mV
歪率 0.02%(定格出力時)

 
 

●総合●


電源 AC100V 50/60Hz,DC12V
消費電力 16W
外形寸法 幅315×高さ88×奥行315mm
重量 6.5kg
※本ページに掲載したSL−10の写真・仕様表等は1980年12月のTechnics
 のカタログより抜粋したもので,松下電器産業株式会社に著作権があります。し
 たがってこれらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられてい
 ますので,ご注意ください。                                  
 

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