SU-V8Xの写真
Technics SU-V8X
INTEGRATED AMPLIFIER ¥108,000

1983年にテクニクスが発売したプリメインアンプ。テクニクスブランドは現在ではすでにピュアオー
ディオ分野から撤退してしまいしましたが,技術的アプローチで高性能な機器を次々と発売し,家電
ブランドの中でも,最も長く続き,頑張りを見せていたブランドでした。プリメインアンプの分野でも,早
くから野心的な力作を展開し,いわゆる「ノンスイッチングアンプ」の分野でも,1979年のSU-V10
以来,「シンクロバイアス回路」による「ニュークラスA」を展開し,このSU-V8Xは,ここまでの低歪み
への技術的挑戦を着実に積み重ねた内容を持っていました。

パワーアンプ部は,低歪み,ハイパワー&ワイドDレンジを追求して,これまでテクニクスが積み上げて
>きた低歪み化の技術「シンクロバイアス」「リニアフィードバック」「コンピュータドライブ」が投入されていま
した。
「シンクロバイアス」は,入力信号に同期(シンクロ)して出力段のバイアスをコントロールする回路で,プ
ラス側の信号が入ったときは増幅作用を停止しているマイナス側の出力段に,マイナス側の信号に対し
てはプラス側の出力段に一定の電流を流すようなバイアスを与え,出力段をカットオフさせないようには
たらく,SU-V10以来の「可変バイアス」方式でした。
「コンピュータドライブ」方式は,1981年に開発搭載された技術で,バイアスのコントロール
にマイクロコンピュータを用いたものでした。アンプ内部の出力トランジスター上部に設けられた温度セン
サーからの情報だけでなく,音楽信号そのものを検知する信号センサーからインプットされる情報をもと
に,マイクロコンピュータが出力トランジスターの瞬時瞬時の温度動作状況を算出し,アイドリング電流が
最適値となるためのバイアスを,出力情報としてバイアス回路へリアルタイムにインプットすることで,常
に出力トランジスターが最適なアイドリング電流でドライブされるために,クロスオーバー歪みはほぼゼロ
に抑えられるというものでした。
「リニアフィードバック」は1980年に開発されたもので,歪み改善のNFBを当時多くの他メーカーのよう
に否定するのではなく,積極的に生かしていこうとするものでした。NFBループ内に無限大増幅を可能と
するような独立した帰還回路を形成し,理論値として歪みゼロを実現しようとするもので,具体的には,電
圧増幅部にPFB(同相帰還)をかけ,ゲインを発信手前まで大きくとり,そこに大量のNFBをかけて歪み
を大きく低減(上限の20kHzでも40dB以上)し,ダンピングファクターも大きく取れるという方式でした。

SU-V8Xには,さらに新開発の「パワーリニアサーキット」が搭載されていました。この「パワーリニアサー
キット」は,ハイパワー,ローインピーダンス負荷といった,アンプにとって厳しい条件でも出力段の動作を
保証しようというもので,「リニアフィードバック」をさらに拡張し,その効果をアンプ出力段の電流ドライブ
リニアリティを高めるようにした回路で,ローインピーダンス負荷時の歪み改善の効果が得られていまし
た。

出力段は,高耐圧トランジスターを2パラ接続で使用したパラレルプッシュプル,3段ダーリントン構成で
150W+150W(6Ω)の大出力を実現していました。この大出力の出力段を支える電源部は,低ESR
(等価直列抵抗)・平滑用電解コンデンサー×4を搭載し,整流回路からの完全なL・R独立設計がとられ
チャンネル間の干渉はシャットアウトされ。300Aの瞬時電流供給能力が確保されていました。また,パ
ワートランスには,巻線に無酸素銅線を使用し,従来トランスに比較して20%以上も太い線を高密度に
巻ける,独自の完全整列巻き線を採用したものを搭載し,この巻線を,トータル3重の磁気シールドケー
スの中に,機械振動を抑える特殊レジン封止されていました。
出力段と電源部は,「コンセントレーテッドパワーブロック」が採用されていました。これは,一体の放熱器
ブロックに,電解コンデンサ,電源回路,ドライブ回路,パワートランジスタなど大信号・大電流部をコンパ
クトに集中(コンセントレート)したもので,大信号・大電流部が発生する強い磁界が他の信号経路に
影響を与えるのを防ごうとするものでした。

SU-V8Xの内部

フォノイコライザーは,MCカートリッジに対応したもので,超ローノイズFET採用の初段差動増幅器と高耐
圧・高スルーレイトオペアンプを組み合わせたICL構成となっていました。この結果,フォノSN比88dB(MM
2.5mV),72dB(MC・250μV)の特性を実現していました。

トーンコントロール回路は,「リニアフィードバック」の効果をトーンコントロール回路に生かすよう,メインアン
プのNFループを利用したBASSと,NF-CR型のTREBLEで構成され,高いSN比と,低歪みを実現してい
ました。トーンコントロールは,ターンオーバー切換式で,BASS・250Hz/500Hz,TREBLE・2kHz/4kHz
で切り換えられるようになっていました。また,ストレートDCポジションにすると,トーンコントロール回路をパス
することができるようになっていました。

入力系統は,フォノは1系統ながら,ハイレベル入力は,TUNER,CD,AUX1,AUX2,TAPE1,TAPE2と
6系統備えられ,ポジションスイッチにVideo,TV,VTR,DA tape等の表記が併記されているところは,デジ
タルオーディオ,AVなど,当時の時代の動きを感じさせ,今見ると興味深いものです。
リアパネルには,さらに外部機器接続端子が装備され,グラフィックイコライザが便利に使えるようになってい
ました。

以上のように,SU-V8Xは,高度な回路技術が投入され,すぐれた物理特性をもった,テクニクスらしいプリ
メインアンプでした。中央にプロテクション,ストレートDC,via tone切換,コンピュータドライブの動作状態
を示すディスプレイが縦に配置され,プッシュボタンを多用した未来的なデザインは,滑らかで物理特性の良
さを感じさせる音の印象ともつながるものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



パワーリニアサーキット搭載,
150W+150W(6Ω)。
デジタル時代のハイ・グレードモデル


◎増幅器の理想に挑むテクニクス
 アンプから「歪」の概念を払拭します
◎電磁輻射による高域歪を解消
 コンセントレーテッドパワーブロック
◎高純度ハイパワー再生の土台を支える
 強力出力段&電源回路
◎コンピュータコントロールによる
 万全のプロテクション
◎MC基本設計の超ローノイズイコライザ
 アナログレコードも最高の音質でどうぞ
◎高品位ソースの実力を存分に味わえる
 ストレートDCポジション
◎LFBの効果をフルに生かした
 ターンオーバー付トーンコントロール
◎新しいHiFiソースにも対応は万全
 6系統ハイレベル入力セレクタ
◎2台のデッキを自在に駆使できる
 独立型recセレクタ>
◎グラフィックイコライザ等の接続に便利な
 外部機器専用接続端子(リアパネル)




●SU-V8Xの定格●


(tuner,aux→SP out総合特性)

実効出力
150W+150W(20Hz〜20kHz,6Ω,0.005%)
120W+120W(20Hz〜20kHz,8Ω,0.003%)
全高調波歪率
0.002%(20Hz〜20kHz,定格出力−3dB)
パワーバンド幅
5Hz〜100kHz(THD,0.002%,8Ω)
TIM
測定不能
残留ノイズ
0.5mV
ダンピングファクタ
80(8Ω)
負荷インピーダンス
main or remote :4Ω〜16Ω
main and remote:8Ω〜16Ω



(その他の特性)

入力感度/入力インピーダンス
phono MM:2.5mV/47kΩ
phono MC:170μV/220Ω
tuner,aux,tape:150mV/18kΩ
phono周波数特性
20Hz〜20kHz±0.5dB
周波数特性
tuner,aux,tape
20Hz〜20kHz+0,−0.1dB
0.5Hz〜170kHz+0,−3dB
phono最大許容入力
(1kHz,RMS)
phono MM:230mV(THD 0.003%)
phono MC:15mV(THD 0.003%)
全高調波歪率
phono MM→rec out
0.001%(出力5V)
SN比
phono MM:88dB
phono MC:72dB
tuner,aux,tape:104dB
トーンコントロール
bass:50Hz(−10dB〜+10dB)
treble:20kHz(−10dB〜+10dB)
フィルタ subsonic
30Hz(−6dB oct)
ラウドネスコントロール
(VR −30dB)
9dB(50Hz)
プリアンプ部出力電圧
150mV



(総合)

電源
AC100V 50/60Hz
消費電力
240W
外形寸法
430W×141.6×380Dmm
重量
12.8kg

SU-V10Xの写真
Technics  SU-V10X
INTEGRATED  AMPLIFIER ¥128,000

翌年の1984年には,SU-V8XをベースにSU-V10Xが登場しました。基本的な回路構成や電源部な
ど基本的な部分は受け継がれ,各部に改良が施されていました。
SU-V10Xの最大の改良点は,出力段の前段のプリドライブ段にありました。高性能オペアンプを設け
た利得制御回路が,出力段からの悪影響をシャットアウトする「コンスタントゲイン・プリドライバ」を新開
発搭載し,プリドライブ段自身の歪みの発生を抑えながら,実スピーカー駆動時のドライブ・リニアリティ
を高めていました。また,パワーブロックの放熱器も改良され,放熱面積がアップされ安定した出力段の
動作を確保していました。

SU-V10Xのパワーブロック周辺SU-V10Xの接続端子部

もう一つ大きな変更点は,入力系の充実がありました。CDを含む従来のオーディオソースに加 え,TV
チューナー,ビデオ,ビデオディスクプレーヤーなどの接続が積極的に考慮された設計になり,aux1/
TV,aux2/video(2系統),tape2/VTRの4系統には,映像コンポジット信号の入力も備え,AV関連
機器の一括結線と映像/音声の同時切換が行えるようになりました。
また,前面パネルにもaux2/video端子が設けられ,3台目のテープデッキ,2台目のビデオデッキなど
の接続に利用して編集等にも便利になっていました。このような面で,AVアンプ的な色彩も色濃く備える
ようになっていたといえそうです。

以上のように,今から見ると,デジタルオーディオ,AV分野の隆盛といった時代の中で,SU-V10Xは,
同社のプリメインアンプとして進むべき方向を探っていたような感じもします。これ以降,テクニクスのア
ンプはフォノなどのアナログ系がだんだん簡略化され,DACの搭載や,ハイレベル入力の充実といった
方向に進み,形を変えていきました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



150W+150W/THD0.002%。
新回路コンスタントゲイン・プリドライバ搭載。
DA対応フィデリティと
先進のAVコントロール機能を備えた
ニューモデル。


◎技術の粋をつくした超低歪回路で
 ハイパワー&ワイドDレンジを実現
●ゆとりのダイナミックパワー400W+400W (2Ω)
 310W+310W(4Ω)

◎高品位パワーの土台を支える
 強力出力段&電源回路

●電磁輻射による高域歪を解消。
 コンセントレーテッド・パワーブロック。
●パワー・プリ・マイコン完全独立の電源回路構成。
●放熱器も巧妙な設計。

◎コンピュータコントロールによる
 万全のプロテクション
◎アナログレコードも最高の音質で
 MC基本設計の高性能イコライザ

●ターンオーバー3段切換えも装備した,
 低歪・高SN比トーンコントロール。

◎新開発電子セレクタが可能にした
 AV機器の映像/音声同時切換え

●あらゆるAVソースが接続OK。
 8系統のワイド入力端子。
●映像も音声もワンタッチで切換えOK。
●フロントパネルにも映像/音声入力端子を装備(aux2/video)。
●入力/録音ソースが独立してセレクト
 できるレックモード・セレクタ。>
●外部機器専用接続端子(リアパネル)。
●極太のスピーカコードが使える2スピーカ接続端子。
●極太のACコードを採用。




●SU-V10Xの定格●


(パワーアンプ部)

実効出力
150W+150W(20Hz〜20kHz,6Ω,0.005%)
120W+120W(20Hz〜20kHz,8Ω,0.003%)
全高調波歪率
0.002%(20Hz〜20kHz,定格出力−3dB)
パワーバンド幅
5Hz〜100kHz(THD,0.002%,8Ω)
周波数特性
20Hz〜20kHz+0,−0.1dB
0.5Hz〜170kHz+0,−3dB
TIM
測定不能
残留ノイズ
0.5mV
ダンピングファクタ
80(8Ω)
負荷インピーダンス
main or remote :4Ω〜16Ω
main and remote:8Ω〜16Ω



(プリアンプ部)

入力感度/入力インピーダンス
phono MM:2.5mV/47kΩ
phono MC:170μV/220Ω
tuner,CD,aux1/TV,aux2/video
tape1/DA tape,tape2/VTR:150mV/18kΩ
phono周波数特性
20Hz〜20kHz±0.2dB
phono最大許容入力
(1kHz,RMS)
phono MM:160mV
phono MC:10mV
SN比
phono MM:90dB
phono MC:72dB
tuner,CD,aux1,2,tape1,2:110dB
トーンコントロール
bass:50Hz(−10dB〜+10dB)
ターンオーバー周波数:125Hz,250Hz,500Hz
treble:20kHz(−10dB〜+10dB)
ターンオーバー周波数:2kHz,4kHz,8kHz
オーディオミューティング
−20dB
フィルタ subsonic
30Hz(−6dB oct)
ラウドネスコントロール
(VR −30dB)
+9dB(50Hz)
プリアンプ部出力電圧
150mV




(総合)

電源
AC100V 50/60Hz
消費電力
240W
外形寸法
430W×147H×392Dmm
重量
13kg


※ 本ページに掲載したSU-V8X,SU-V10Xの写真,仕様表
 等は,1983年10月,1984年10月のTechnicsのカタログ
 より抜粋したもので,松下電器産業株式会社に著作権があり
 ます。したがってこれらの写真等を無断で転載・引用等すること
 は法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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