SU-V9の写真
Technics SU-V9
STEREO INTEGRATED DC AMPLIFIER ¥125,000

1981年にテクニクス(松下電器)が発売したプリメインアンプ。前年のSU-V10で開発・搭載
された「ニュークラスA」方式を採用した「ニュークラスA」シリーズのプリメインアンプで,その間
に開発された新しい技術も導入され,スリムですっきりとした筐体の中に低歪みとハイパワー
を実現した,テクニクスらしいプリメインアンプでした。

パワー段の基本的な回路構成は,初段のFET差動増幅,カレントミラー負荷,ブートストラップ
構成から,出力段の3段ダーリントンまで,全段をプッシュプルコンプリメンタリィ構成として,裸
歪みを徹底して低減した回路構成となっていました。パワートランジスタにはPc200Wの大電
力タイプが投入されていました。そして,「シンクロバイアス回路」,「リニアフィードバック回路」
「コンセントレーテッドパワーブロック」の技術が投入され,120W+120W/THD0.003%と
いう低歪み・ハイパワーを実現していました。

「シンクロバイアス回路」は,入力信号に同期(シンクロ)して出力段のバイアスをコントロール
する回路で,プラス側の信号が入ったときは増幅作用を停止しているマイナス側の出力段に
マイナス側 の信号に対してはプラス側の出力段に一定の電流を流すようなバイアスを与え,
出力段を常に能動状態において,出力トランジスタの休止に起因するスイッチング歪みを解消
するものでした。さらに,信号系路とバイアス電流系路を独立させ,クロスオーバー歪みも解消
したもので,SU-V10以来の「可変バイアス」方式によるノンスイッチングアンプを構成「してい
ました。

「リニアフィードバック回路」は1980年に開発され,SU-V7に初搭載されたもので,歪み改善の
NFBを当時の多くの他メーカーのように否定するのではなく,積極的に生かしていこうとするもの
でした。NFBループ内に無限大増幅を可能とするような独立した帰還回路を形成し,理論値とし
て歪みゼロを実現しようとするもので,具体的には,電圧増幅部にPFB(同相帰還)をかけ,ゲイ
ンを発振手前まで大きくとり,そこに大量のNFBをかけて歪みを大きく低減(可聴域の加減では
無限に近く,上限の20kHzでも40dB以上)し,ダンピングファクターも大きく取れるという方式で
した。

「コンセントレーテッドパワーブロック」は,一体の放熱器ブロックに,電解コンデンサ,電源回路
ドライブ回路,パワートランジスタなど大信号・大電流部をコンパクトに集中(コンセントレート)した
もので,大信号・大電流部が発生する強い磁界が他の信号系路に影響を与えるのを防ごうとする
もので,SU-V10等にも採用されていた方式でした。このコンストラクションは,シャーシやカバー
などにシールド効果の高い磁性体を使用できるため,外部誘導をも抑える効果が得られ,実際に
設置した状況の利点も大きなものがありました。
また,スリムな筐体でハイパワーを確保するために,放熱器には新設計の高効率チムニー型放
熱器が搭載されていました。チムニー効果による高い放熱効果と後述のサーボ電源による回路
の高効率化と相まって安定した長期動作が可能となっていました。

パワーブロックと放熱器

 アンプやスピーカーを守る保護回路として,リレー使用の純電子式保護回路に加え,新たに熱検
出保護回路が装備され,アンプ内部の温度が異常に上昇すると自動的にサーボ電流の電圧をダ
ウンし,熱的に安定な動作に導くようになっているなど,3重の保護回路が搭載されていました。

電源部には,SU-V7で初搭載された「サーボ電源」が搭載されていました。これは,電圧検出回路
とブリッジ型に組んだ4個のSCR(Silicon Controlled Rectifierz=サイリスタ)によって,整流と同時
に導通角をコントロールすることで,電力供給の応答性を大幅に向上させたもので,1次側の変動
や出力段の大電流消費による電圧変動をなくし,常に安定した電圧を出力段を含む全段に供給す
ることが可能となっていました。また,従来の10分の1という低インピーダンスを実現し,10倍もの
容量の電源に匹敵する高レギュレーションを確保していました。

負荷インピーダンス自動検出回路

この「サーボ電源」には,負荷インピーダンス検出回路およびタップ切換回路が装備され,電源ON
後,ただちにスピーカー端子に接続されたスピーカーの合成インピーダンスを検出し,トランス巻線
のハイボルテージタップおよびローボルテージタップが自動的に選択されるようになっており,スピー
カーのインピーダンスが8Ωの場合も4Ωの場合も同じ120W+120Wの定格出力が保証されてい
ました。

フォノイコライザは,初段にローノイズFETをパラレル使用した差動アンプが配され,カスケード接続
カレントミラー負荷でハイゲイン増幅したのち次段以降を高性能ICで構成していました。MC基本の
ハイゲイン設計のイコライザー回路で,フォノSN比88dB(MM・2.5mV),71dB(MC・250μV)
の高SN比を確保していました。MM・MCとも入力コンデンサをもたないICLイコライザとなっており
ストレートDC動作時には,フォノ入力はわずか1つのカップリングコンデンサを通過するのみであり,
TUNER・AUX・TAPEはハイゲインのDCアンプでダイレクトにスピーカー端子まで増幅されるように
なっていました。
また,SU-V9では,「リニアフィードバック回路」をパワー段に加えてイコライザ回路にも初搭載して
いました。この結果,低域のNF量の不足しがちなフォノイコライザ回路の全域にわたり多量のNFB
を安定してかけることが可能となり,MMポジションでTHD0.0005%(1kHz,出力5V)という超低
歪率を実現していました。

フォノ入力は2系統装備され,PHONO1はMM・MCの切換に加え,さらに各々で1mV/2.5mVと
100μV/250μVの2段ずつ計4段の入力感度切換が装備されていました。PHONO2は,MM専
用となっていました。

トーンコントロールは,テクニクス自慢のシェルビングトーンが搭載され,TREBLE,BASSに加え,
12dB/octの急峻な立ち上がり特性と,最大10dBのブースト量を持つSUPER BASSの搭載により
スピーカーの周波数特性を低域へ約1oct拡張することも可能となっていました。

以上のように,SU-V9は理詰めで技術を積み重ね,歪みを徹底して追求し,すっきりとしたスリムな
筐体でハイパワーと低歪みを実現したテクニクスらしい1台でした。当時,テクニクスのブランドやすっ
きりとした筐体のイメージ,雑誌などの評価などからソフトで力感の少ない音という先入観をもたれる
など,オーディオファンに広く人気を得るには至りませんでした。しかし,実は同じ価格クラスのアンプ
の中で最も強力な電源部を持つなど,スピーカーの実力を引き出し,しっかりとしたクリアな音を持っ
た実力派のアンプでもありました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



Vの頂点
理論歪ゼロのリニアフィードバック回路を
プリ部にも搭載
120W+120W(T.H.D.0.003%)の
ニュークラスAアンプ


Power Amp Quality
◎増幅器の理想を徹底追求。120W+120W
  0.003%のニュークラスAアンプ
◎理論値歪ゼロ。可聴域の歪を極限まで
  磨きあげたリニアフィードバック回路
◎スイッチング歪,クロスオーバー歪を
  解消したシンクロバイアス回路
◎電磁輻射による高域歪を事実上解消した
  コンセントレーテッドパワーブロック
◎すぐれた放熱効果を持つチムニー型放熱器
◎新たに熱検出回路を加えた3重保護回路


Power Supply Circuit
◎全段に定電圧を供給。スリムかつハイパ
  ワーを実現した負荷自動検出サーボ電源


Preamp Quality
◎世界初!イコライザ回路にもLFBを搭載
  0.0005%(MM)の低歪を実現
◎贅をつくした回路構成で高SN比を実現
  MC基本設計のハイゲインフォノイコライザ
◎ストレートDC,シンプルな回路構成で
  忠実な波形伝送に理想を追求


Function
◎超低音のみをブースト,音楽演奏の空気感
  を再現できるスーパーベースコントロール
◎MM・MC,さらに様々な仕様のカートリッジ
  に対応するフォノフルマッチセレクタ





●SU-V9の定格●



(tuner, aux→SP out総合特性)

実効出力
120W+120W(20Hz〜20kHz,8Ω,0.003%)
120W+120W(20Hz〜20kHz,4Ω,0.007%)
全高調波歪率
0.003%(20Hz〜20kHz,定格出力−3dB)
パワーバンド幅
5Hz〜100kHz(THD,0.02%)
TIM
測定不能
残留ノイズ
0.7mV(ストレートDC)
ダンピングファクタ
80(8Ω)
負荷インピーダンス
main or remote :4Ω〜16Ω
main and remote:8Ω〜16Ω



(その他の特性)

入力感度/入力インピーダンス
phono MM:1.0mV/47kΩ,2.5mV/47kΩ
phono MC:100μV/100Ω,250μV/220Ω
tuner,aux,tape:150mV/33kΩ
phono周波数特性
20Hz〜20kHz±0.2dB
周波数特性
tuner,aux,tape
20Hz〜20kHz +0,−0.2dB
0.5Hz〜170kHz +0,−3dB
phono最大許容入力
(1kHz,RMS)
phono MM:170mV(2.5mV,THD 0.003%)
phono MC:17mV(250μV,THD 0.003%)
全高調波歪率
phono MM→rec out
0.0005%(1kHz,出力5V)
SN比
phono MM(2.5mV入力):88dB
phono MC(250μV入力):71dB
tuner,aux,tape:103dB
トーンコントロール
super bass:30Hz(−10dB〜+10dB)
bass:100Hz(−10dB〜+10dB)
treble:20kHz(−7dB〜+7dB)
トーンコントロール
ターンオーバー周波数
super bass:75Hz,150Hz(12dB/oct)
bass:500Hz
treble:2kHz
フィルタ
high:7kHz(−6dB oct)
subsonic:20Hz(−12dB oct)
ラウドネスコントロール
(VR −30dB)
7dB(50Hz)
プリアンプ部出力電圧
150mV(rec out)



(総 合)

電源
AC100V 50/60Hz
消費電力
205W
外形寸法
430W×120H×350Dmm
重量
14.7kg


※本ページに掲載したSU-V9の写真,仕様表等は,1981年
 10月の Technicsのカタログより抜粋したもので,松下電器
 産業株式会社に著作権があります。したがってこれらの写真等
 を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますので
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