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Nakamichi TX-1000
Computing Turntable ¥1,100,000(アームレス・カートリッジレス)
1981年,ナカミチが発売した最高級ターンテーブルシステム。ただ単に大型であるのではなく,レコード再生の
理想を求めたハイテク機構「アブソルート・センター・サーチ・システム」を搭載し,持ち前のテープデッキで培った
優れたメカ技術やモーター技術を投入して作り上げられた高性能プレーヤーでした。一方でローテクが尊ばれる
アナログプレーヤー界の中では,きわめて個性的な存在でした。TX-1000の最大の特徴は,上記の「Absolute Center Search System(アブソルート・センター・サーチ・
システム)」でした。これは,レコード盤の中心穴のずれをミクロン単位で検出し,自動的に補正して,完全に真
円の状態で音溝をトレースできるようにする機構でした。ナカミチの資料によると,いくらプレーヤー自体の回転
精度を上げても,レコード盤の中心穴が狂っていると,ワウ・フラッターや変調雑音が増加し,トーンアームが左
右に振られることにより,左右チャンネル間の位相ずれが起こり,音色の濁り,音像が動き回り,音像が広がっ
たように聞こえるなどの現象を引き起こすのだそうです。仮に,レコード盤の偏心量が0.34mmだとすると,プレ
ーヤー単体のワウ・フラッター値が0.001%でも,実際のワウ・フラッター値は,レコードの最内周では約0.15%
にも達するということでした。ナカミチのレコード盤とプレーヤーとの関係を重視する考え方は,テープデッキのヘッ
ドとテープの関係(アジマス)にこだわるナカミチ独自の姿勢と通じるものがあり,納得させられるものでした。「アブソルート・センター・サーチ・システム」の仕組みは,テープデッキのNAACにも通じる,かなり複雑で高度な
ものでした。ターンテーブルが,センターサーチプラッターとメインプラッターの2重構造になっており,ドライブモータ
ーと一体になったメインプラッターには,センターサーチプラッターを動かすコントロール部分が組み込まれています。
レコードをセットし,センターサーチ指令を行うと,通常は収納されているセンサーアームがレコード盤上に現れ最終
溝をトレースしてセンターずれを光学的に検知し,内蔵のマイクロプロセッサーにによりそれを演算します。センター
サーチプラッター調整用の2組のコントロールモーターに動作司令が送られ,アブソルートセンターが自動的に求め
られます。このようにして,約10秒でレコードのセンターずれを20ミクロン以内に補正されるというものでした。調整
の状態,偏心量は左側のディスプレイパネルに表示されるようになっていました。
メインドライブモーター(ターンテーブルを回すモーター)には,ナカミチ自慢のスーパーリニアトルクモーターを搭載して
いました。このモーターは,ローターマグネットを均一に着磁せず,星形に着磁することで,コイルに流れる電流の変化
がサインウエーブ状になるようにした特殊な構造で,これにより,ワウ・フラッターのうち従来のDDモーターで問題にな
っていたフラッター成分(細かな周期の回転変動)が抑えられ,コギングやトルクムラのきわめて少ないS/N比の高い
スムーズな回転が得られていました。
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モーターの軸受けには,新開発のPRC(Pressuer Regulation Chamber)オイルバス方式を採用していました。こ
れは,滑らかな回転を得るために安定した潤滑油の供給を行うもので,温度変化による潤滑油の膨張,収縮に合わせ
て呼吸するプレッシャー・レギュレーション・チャンバーを備えたオイルバスにより,潤滑油の油切れ,流出を防止し,常
に安定した潤滑油の状態を保つものでした。モーターの軸,軸受けの高精度な加工と相まって,1/100ミクロン単位
のレベルで振幅の少ない安定した回転が得られていました。このモーターにクォーツPLL制御を組み合わせることによ
り,ワウ・フラッターは,0.003%WRMS(FG直読法),センターサーチ後のテストレコード再生では,0.02%WRMS
という特性を実現していました。
TX-1000では,トーンアームベース,メインドライブモーターが同一フレーム上に配され,表面積が最も小さくなるような
構造を採用し,このフレームは特殊なインシュレーターを介して本体から3点で吊り下げられてフローティングされていま
した。本体キャビネットの4隅に設けられたインシュレーターは,エアチェンバーがサイドにまで回り込む形にして横方向
の復元力を高め,縦揺れのみでなく横揺れにも強くしたエアーサスペンション方式を採用していました。質量が大きく剛
性の高い本体キャビネットとあわせ,優れたハウリング,防振対策となっていました。ターンテーブルのメインプラッターは,材質が非常に均一で精度の高いグラビティダイキャストで成型されたアルミ製で,
調整メカニズムが組み込まれている部分以外は,ハニカム構造が取られ,プラッター自体の剛性を高め,鳴きを抑えて
いました。レコードがのるセンターサーチプラッターは,平面度の高い硬質ガラスの両面にメタルコートを施したメタライズ
ドガラスを使用し,完全なフラットサーフェスを得るとともに,レコード盤に帯電した静電気をメインプラッター上部に埋め込
まれたゴールドコンタクトを通じてアースするようになっていました。以上のように,非常に高度なメカニズム,構造を採用したTX-1000は,レコード再生の理想を追求し,トーンアームの左
右のぶれを追放し,回転精度を極限にまで高めることに成功していました。さらに,別売の吸着式ディスクスタビライザー
(オーディオテクニカのAT−666の専用品)を組み合わせることで上下方向のぶれも解消することができるようになってい
ました。そこから得られる再生音は,非常に滑らかで音場の広がりのあるすばらしいものでした。2年後の1983年には,
アブソルート・センターサーチ・システムをややシンプル化し,小型化・軽量化された弟機DRAGON-CT(¥400,000)
が発売されました。これらはアナログレコード再生の究極の姿の一つを実現した名機だったと思います。
DRAGON-CT
Computing Turntable ¥400,000
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
レコードの偏芯に着目した
世界初のターンテーブルTX-1000。
究極の完成度を秘めて,
いま,Nakamichiから。
◎レコード音溝の絶対中心を自動的に割り出す
アブソルート・センターサーチ・システム搭載。 |
◎ローターマグネットの特殊着磁と,ユニークな
PRCオイルバス方式により,高精度な回転特性 を得たスーパーリニアトルクDDモーター搭載。 |
◎モーター,アームベースを同一フレーム上に配し
本体から浮かした構造と,強力なインシュレーター による徹底したハウリング,防振対策。 |
●主な規格●
|
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駆動方式 | ダイレクトドライブ | ← |
ドライブモーター | Qualtz PLL DC,ブラシレス/スロットレス/
コアレス スーパーリニアトルクDDモーター |
← |
センターサーチターンテーブル | メタライズドガラス(直径29cm,重さ1kg) | ガラス(直径31.3cm,重さ1.1kg) |
メインターンテーブル | アルミ(直径30cm,重さ3.8kg) | アルミ(直径31cm,重さ1.4kg) |
ターンテーブルマット | 別売TM-100(ラバーマット) | ゴム(直径30.3cm,重さ550g) |
ワウ・フラッター | 0.003%(WRMS/FG直読法)
0.02%(WRMS,センターサーチ後) |
0.008%(WRMS/FG直読法)
0.03%(WRMS,センターサーチ後) |
S/N比 | 78dB以上(DIN-B) | ← |
寸法 | 本体:680(巾)×208(高さ)×515(奥行)mm
電源部:125(巾)×85(高さ)×325(奥行)mm |
546(巾)×230(高さ)×421(奥行)mm |
重量 | 本体:40kg
電源部:5kg |
20kg |
※本ページに掲載したTX−1000,DRAGON-CTの写真・仕様表等は1984年2月の
Nakamichiのカタログより抜粋したもので,ナカミチ株式会社に著作権があります。した
がってこれらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられていますので,
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