SS〜エアメール プロム パリ〜 |
第三夜 〜展開する事象〜 |
再び目を開いた時 そこには鮮血が飛び散った様子はなかった。 ほっとしたのもつかの間走り去る人影。 それは銀髪のあいつだった。 よく見ると、それまで確かに繋がっていた両腕の鎖が離れている。 そうか。 金髪の彼女が切ろうとしたもの。 それは、銀髪のあいつの両腕を繋ぐ鎖だったのだ。 でも、なぜ? 「しまった!なぜ鎖が外れたのだろう。 おい、待て」 金髪の彼女も走り出す。 何がなんだか分からない内に二人の姿は見えなくなってしまった。 ま、僕の財布は無事戻ってきた訳だからよかったのだけれど。 「トキさぁん、大丈夫ですかぁ。」 エリカさんがこっちに走ってくる。 「何かあったんですか?」 「いや、別に」 「でも・・・いきなり叫んで走っていってしまったから。 びっくりしちゃって。」 「いいんだ、結局何もなかったし。」 「そうですか、ならいいんですけれど。 それじゃ、気を取り直して巴里観光の続きやりましょうか。」 「そうだね。そうしよう。これまでのことはなかったってことで。」 でも なんかおかしかったな、あの二人。 あれ、まてよ。 そう言えばあの時、金髪の女性が銀髪のあいつを取り押さえて 僕の方へ近づいてきた時、こんな会話が聞こえたような・・・ 「何やっているんだ、あれでは丸分かりじゃないか。 あんな演技では懲役1000年っていう悪党には見えないぞ。」 「ごめんなさぁい☆」 「こら、だからその「☆」がつくような喋りはやめろって言っているんだ。」 「え、でもぅ。」 「とにかく、このブツは持ち主に返す。 もう一度別のカモも見つけてやり直し。」 「はぁい☆」 「だから〜、その喋りはやめろって。」 世の中にはいろんな人がいるもんだな。 そんなことを考えながら歩いていると 「ちょっとそこのに〜ちゃん。 な、うちらの芸、見て行かへんか。」 な、なんなんだ、こいつ〜 番傘をかぶったちっこい怪しげなやつ で、その周りにいるのが犬、鶏、ネコ 馬に猿に狸にきつねに・・・ え、これ蛇? うわぁ、でかいなぁって見上げたら ??? 「楽しそうですね。」 「た、楽しそうって、これどうみたって・・・。」 「ええ、象ですね。」 「そんな、いともあっさりと反応されちゃ。」 「巴里じゃ珍しくないんですよ、象って。 こうやって、毎日街頭行進をやっているんですから。」 「そうなんですかぁ・・・」 なんかおかしい。 でも、エリカさんがあれだけ真面目な顔で説明してくれるんだから 間違いないだろう。 そんなことを思いながら視線を移すと 「うわぁ、こいつカワイイ〜」 「あ〜!そいつに手、出したらあかん。」 「え?!」 かぷっ 「うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」 「あ〜、もうそのライオンはな、なんにでも噛み付くんやから うかつに手、出したらあかんのやて。 さ、けんたくん。 こっちの肉の方がうまいで。」 きゃうん、きゃうん♪ 「さぁ、みんな。ショウの始まりや」 どこからともなく聞こえてくる音楽 ぱっと番傘を取ったそいつはくるくるっとその場で二回転宙返り こっちを向いてにぱっと笑った。 茶色のお下げ髪、赤いちょんちょんが見えた。 「楽しかったですね。」 そう言ってエリカさんは目の前のカップに口をつけた。 ここはシャンゼリゼ通りにある喫茶店 さっきコンコルド広場で繰り広げられたショウの余韻に浸りながら 屋外のカフェでお茶を飲んでいるのだが。 確かに楽しかった。 あれだけの動物達を使いこなせる少女はそうめったにいないだろう。 でも・・・ 僕はあの後も大変だったんだぞ。 蛇は巻き付いてくるし 猿には蹴られるし ネコにはひっかかれるし さらに 「にいちゃん、にいちゃん」 「な、なんだよ、その手は」 「お代に決まっとるやない。」 そうしたことは普通ははっきり言わんもんだろう。 例えばさ。 ぼうしとか箱とか空缶とかおいて ぺこり、っと頭を下げるもんだど思うんだけどな。 無視を決め込もうかと思ったその時 「あ、私出しますから。」 エリカさんがコインを二つポケットから取り出して少女に渡そうとした。 「ちょ、ちょっと待って下さいよ。 それじゃ、僕の面目が・・・。」 「いいんですよ。これって気持ちみたいなものですから。」 「そんな・・・エリカさんにそんなことしてもらったら、困りますよ。 僕に出させて下さい。」 慌てて僕はお札を一枚、少女に渡した。 「ありがとな、に〜ちゃん(^^)」 あ〜、今思い出しても・・・(−−♯ あれ・・・待てよ。 でも、あの時。 あいつ、立ち去る前になんかエリカさんに言っていたような。 「いつもすんまへんな、さくらになってもろて」 ??? 「エリカさん、そう言えばさっき・・・」 「あ、トキさん、大変でしたね。手、大丈夫ですか。」 彼女はそう言って、さっきライオンにかまれた方の僕の手を握った。 |
第四夜に続く |
![]() |