SS〜エアメール プロム パリ〜 |
第四夜 〜それはわずかな時なれど〜 |
え、え、エリカさん・・・ 間近にせまった彼女の顔、まともに見られないよぉ。 僕は自分の顔がだんだんほてっていくのを感じた。 「なんともないみたいですね。よかったですね、トキさん。」 そう言って彼女は僕の顔を見て 「あ、え、えっと・・・ごめんなさい。」 慌てて僕の手から自分の手を離した。 そのまま沈黙、固まる二人。 し、しまった。なんかきまずい雰囲気だぞ。 なんか言い出さないと・・・。 「あ、あ、あのエリカさん。」 僕はなんとか彼女に声をかけようとした。 「は、はいっ。なんでしょ。」 よ、よかった。 ちょっと声うわずった感じだけれど、答えてくれた。 「あの、エリカさんって・・・」 「はい?」 「なぜ、そんなに日本語がうまいんですか?」 ・・・・・・・・・・ あれ、なんか悪いこと聞いちゃったかな? 「あ、ごめんなさい、以外でしたか?」 「欧州じゃ日本人って珍しいかと思って。 僕、海外旅行初めてなもので。」 「そうでもないんですよ。巴里ではね。 日本の文化って言うのかな。 こちらでは有名なんですよ。 例えば・・・ネコの話とか学校の先生の話を書いた作家さんとか。」 ああ、夏目漱石か。 「それに、日本の、えっと、なんて言っていたかしら。 その絵の雰囲気を元にして作られた絵画とか音楽 好まれるようになりましたから。」 モネの睡蓮、ドビュッシーの版画・・・だったっけ。 「私にとっては日本ってまた未知の土地なのですが でも、こうやって日本に触れ合っていると 私、日本って国、大好きになれそうです。」 「エリカさん、そう言ってもらえると、僕うれしいです。」 「そう言えば、トキさん。」 「はい?」 「日本人っていつもああいった格好をしているのですか?」 そう言って彼女が指差した先に見えたもの。 黒色の髪がすらりと肩まで伸びた少女。 微笑みを絶やさないその姿は見る者の気持ちを穏やかにさせてくれそう。 でも・・・ この暑い昼のさなかに、振り袖? それに、こんな会話も聞こえてきた。 「姫、素敵なてぃたいむでございますな。」 「爺、そうであるの。」 「あ、え、え〜っと・・・」 僕は答えにつまってしまった。 間違い、じゃないんだけどな。 でも・・・最近はあそこまでのはなかなかいないと思うんだけど。 「あ、冗談ですよ。冗談。 トキさん見てたら分かります。 日本ってああいう方もいるっていうことなんですよね。」 ほ、よかった。 気を落ち着けて僕も紅茶を飲もう。 そんなことを思いながらカップを手に取ろうとした時 「エリカ殿、そろそろ参ろうぞ。」 さっきの振り袖の少女。 いつのまに・・・ 「え、もうそんな時間なんですか。」 「そうでござるよ。」 「ごめんなさい、トキさん。 私、もう行かなくてはなりません。 ここでお別れです。 でも・・・今まで楽しかった。」 「ど、どうして。 エリカさん、まだこんなに明るいし 時間、たっぷり有るし。 それに、僕まだなんにも取材してないし。」 「つべこべ言うな、少年」 「そうですよぉ☆これで終わりじゃないんだからぁ」 「そうやで、そのうちイヤでも会えるようになるでぇ」 「拙者、その日を今から楽しみにしているぞよ」」 どうしたんだろ 僕の目の前にはさっきまでいろんな場所ですれ違った少女達が 一人ずつ出て来ては消えていった。 そして 「トキさん」 「エリカさん」 「今度は・・・」 「夢じゃなくて・・・」 「・・・・・・・で、会いましょ。」 彼女までが消えていく。 そんなぁ、エリカさん。 まだ、会ってそんなに話もしていないのに。 どうして・・・ 消え行く彼女の姿を見つめながら僕は叫んでいた。 「エリカさぁーん」 |
第五夜に続く |
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