今日もまた桐島カンナは一人銀座の街を走っていた。
どうしてこんなことをしているのか。
彼女には全く分からなかった。
どうしてなんだろう。
考えようとすると、
いや、考える前に彼女の体は動いていた。
走ってみたかった。
この街を。
見てみたかった。
自分達が守り、そして暮らしているこの街を。
舞台の上からだけでは
劇場の中からだけでは
見えないものを、感じられないものを
彼女は探そうとしていたのかもしれない。
それが何なのかは分からないけれども。
なんとか建て直し、商いを始めている店が見えた。
そんな中。
倒された木々。
壊されたままの建物。
戦いの爪跡が残る街角。
この街は「復活」というにはほど遠い状態なのかもしれない。
「だったらさ」
公演なんかやっててもいいんだろうか。
彼女の中にある「疑問」が少しずつ大きさを増してくる。
「あたいたちが今やらなきゃいけないことってさ」
ふっと空を見上げる。
何かに問うように。
「あっ」
この時期には珍しくもない、雪がちらちらと舞い始めた。
ぽわぽわっとした丸く柔らかな白い破片。
それはほんのひとときの間、さーっと視界を覆うように降ったかと思うと
まもなくその姿を消した。
最後のひとつ、ふたつのかけらが落ちたその先に
彼女は見つけた。
名前は知らないが、小さな若苗色の木の芽を。
「まだ冬かと思っていたけど、季節は確実に巡ってきているんだ。
それにこの芽。
今はまだ小さいけど、少しずつ大きくなっていく。
そしていつの日か大きな樹となりこの街を見ていくのだろうな。」
そんなことを考えているとなんだか嬉しい気持ちになった。
「ね、お姉ちゃん。」
いつのまにか彼女のすぐ傍らに小さな女の子が立っていた。
「おいおい、いつからそこにいたんだよ。」
カンナの疑問に女の子は?という表情をした。
ここにいちゃいけない?と言わんばかりに。
ただ敢えてそう返さず、女の子は何事もなかったかのように会話を続けた。
「ね、お姉ちゃんっておおっきいね。」
「はは、あたいはこれでも劇団の中じゃイチバンでかい女優さんだからね。」
「お姉ちゃんって女優さんなの?」
「そうだよ、そう見えないかい。」
「………ううん、そんなことないよ。」
「そんなに戸惑わなくたっていいさ。
どうせあたいはらしくないんだから。
でもさ
あたいのような女優さんだって必要なんだよ。
あたいにしかできない役だってあるしさ。」
「うん。」
そ〜だよ、っていう気持ちを表現しようと首を思いっきり縦に振る少女。
「恵ちゃ〜〜ん、何処に行ったのぉ。」
「あ、おか〜さんが呼んでる。
私行かなくちゃ、まだまだお手伝い残っているから。
私がしっかりしないと、おか〜さんが大変なの。」
「偉いんだね、まだ小さいのにさ。」
「ううん、私もう小さくないもん。
もうすっかりオトナだもん。
じゃあね、お姉ちゃん。」
「ああ、またな。」
って、あいつまるで誰かみたいじゃないか。
そうつぶやき彼女の走り去った後を見ようとする
と
そこには何もなかった。
足跡はおろかその場に確かに人がいたという
確証の持てるものは何一つ残されていなかった。
ただ
小さな木の芽だけが
さきほど見つけた姿のままでその場に在った。
はは。
笑えるじゃないか。
これじゃあ、まるで………
やめとこ。
あたいらしくないや。
帰ろっか。
あそこにさ。
あたいも頑張らないとな。
「そ〜だよ。」
彼女の独り言に答えるように
何処からか声が聞こえた………ような気がした。
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