「春送歌〜君を見送る日に〜」 |
汽笛………?? 一面の青 塩の香り 船は もうどこにも見えない 色とりどりの紙テープ 海の中で浮かんでいる 波に流され 何処かへ移ろうとしているよう ここに居るのはあたしたちだけ さっきまでいた 船出を見送る沢山の人 いつのまにかいなくなっていた それほど 時が経っていたのね 「な、そろそろ………帰ろっか。」 「………そうね、そうしましょう。」 カンナさんとマリアさんの声が聞こえる レニの肩にもたれ 寝息をたてているアイリス そんな二人を肩の上にあげるカンナさん アイリスはそのまんま カンナさんの肩に手をかけて眠り続けてる それを見たレニ 安心して目を閉じた 身支度が整った……という様子で その場を動き始めるカンナさんとマリアさん 大きなあくびをしながら それに続くすみれさんと織姫さん あ! 二人顔を見合わせて……… なんだかバツが悪そうに顔をそむけてる ふふ あたし 見てたんだけど なんとなく 気になっちゃって みんなの様子が……… 「さくらはん。」 紅蘭があたしに声をかける あたしは……… あたしはまだ この場所を離れたくない 永遠の別れなんかじゃない そう信じたい でも もしこの場所を離れてしまったら 二度と逢えないような気がする 大神さんとは……… ずっとここに居たい 待ち続けたい 今にでも海の向こうから 大神さんを乗せた船が 帰ってくる そう思えるから 「な、さくらはん」 もう一度あたしの名を呼ぶ紅蘭 気づいてない訳じゃないのよ ただ………ね 後に続く言葉に答えたくなかったから あたしは答えなかった 紅蘭の声に それでも彼女はあたしに向かって こう言葉を続けた 「………ありがと………な」 「………?」 「さくらはんが気づいてくれへんかったら うちはあれを大神はんに渡すことが きっとできへんかった。 いや、それ以前に完成させることさえ できへんかったと思う。 ……ほんま、おおきに。」 一瞬紅蘭が何を言ったのか分からなかった。 予想していた言葉とは違っていたから。 紅蘭? 少し考えてみて あたしはようやく彼女の意図することが 何なのか思い出した 「………あれ、大神さんに渡せた?」 「ううん、直接は渡せんかったわ。 出来上がったのがああいう時間やったやろ。 あれからやったら、寝てる大神はんを 無理矢理起こさんとあかんかった。 そんなん気の毒や、そう思うて 部屋の前に置いてきたわ。」 「………大神さん、きっと気づいてくれたわよ」 「そうやといいんやけどな。」 「さくらはん、今日は疲れたやろ。 そろそろ帰りまひょ。」 「………紅蘭………」 「?………」 「…ん、何でもないの。」 あたしは 一面の青に背を向けた。 この場所に留まりたい気持ちはまだ消えない。 でも 歩き続けないと いつまでもこの状態が終わらない そう思えてきた。 きっと 歩き始めれば 明日は始まる。 明日にはきっと大神さんが帰ってくる。 あたしは歩き始めた。 「あ、さくらはん。まってぇな〜。」 紅蘭の声が追いかけてくる。 振り返ると 笑顔で手を振る彼女の姿。 そんな彼女にあたしは微笑んでこう答えた。 「帰りましょ、あたしたちの帝劇へ。」 そう 明日はきっと あの場所から生まれるはずだから あたしたちは帰ろう。 再び生まれる場所へ。 |
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