第二章:プロローグ






だ………れ………


ボクを………呼ぶ………のは………





まぶたを上げることさえけだるさを感じる。
できることなら
このまま何もすることなく
身体のあらゆる部分を
このままの状態に保っておきたい。
そんな気分だ………。



このけだるさは何なんだろう………。



数日前
沢山の拍手と歓声の中
<春公演・夢のつづき>は楽日を迎えた。
止まることを忘れたように続く
アンコールを求める拍手の音に
ボク達は何度答えただろうか?
その数さえ数えられないほど
疲れていたのかもしれない。


………いや………
きっと疲れていただけじゃない。


それはこれまでの公演の中では
感じることができなかったもの
否、実はそれに近いものを
本当は知っていたのかもしれないが
それとは比べものにならないくらいの感情に
ボクの中は支配されていて
それ以外のものを受け入れることができなかったから………

………かもしれない。



ゆっくりとまぶたを開ける。



机の上にある電球のまわりだけが
先ほどまで明かりを創り出していた
その名残を残すかのように
ぼぅっと白いもやのようなもので覆われていた。

ただ
それが見えたのは目を開けたほんの一瞬

再びその場に目を移すと
先ほどまでの白いもやはすっかり消えていた。



………一瞬の闇………



なぜだろう。
誰もいないはずのこの部屋。
居るのはたった一人、ボクだけのはずなのに
また呼ばれたような気がした。


誰?
ボクを呼ぶのは………


閉じられた窓をを開けてみる。
光がすぅーっと部屋の中に入ってくる。
今夜は満月、月の光が一番強い夜。

ふと気づくと
部屋の中一面に甘い香りが漂っていた。
月光と共にこの部屋にもたらされた春の香り。


こんな夜だから………


ボクはこの部屋から外へ出てみたくなった。
何が待っているか分からないけれど
いや、待っているものなど
何もないのかもしれないけれど。

何かを見つける為に………




第二章
「春酔夢」
〜星たちのつぶやき〜