「春酔夢〜星たちのつぶやき〜」






  それは、ある春の夜、帝劇の中庭であった、ささやかな出来事。



 「・・・織・・・姫・・・?」
 「レニ、どーしたですか。こんな所に。」
 「ちょっと星を見に来た。」
 「ワタシもでーす。たまにはこーいうのもいいかと思ったでーす。」
 「・・・・・・そう。」


スタスタスタ


 「あ!レニ。待って下さーい。ちょっとお話、しませんか?」
 「・・・・・・」
 「ね。レニ。」
 「・・・・・・」

レニは織姫からちょっと離れてベンチに腰を下ろした。

 「レニ、春公演。ようやく終わりましたね。」
 「・・・・・・そうだね。」
 「練習中は本当にどーなるかと思ったでーす。ちぇりーさん、
  いやさくらさんはあいかわらずステップ間違えてばかりだしー。」
 「・・・すみれ、カンナ。状況変わらず。」
 「まったくよくやりますねー。あの二人。その度に練習ストップ。
  もう勘弁してって感じ。」

 「本当にどうなるのかな。これで公演できるのかな。
  ボクはそう思ってた。だけど・・・。」
 「そうですねー。ワタシもそう感じましたー。
  でも、本番が近づいてくると・・・。」
 「だんだんみんな、雰囲気が変わってくるんだ。」
 「そう、あれほど中断ばかりしていた練習がそうでなくなりましたー。
  みんな、寝ることさえ忘れて。」
 「たまに、舞台のすみっこで誰か寝てたけどね。」
 「え、誰ですかー。アイリスはよくお休みしてましたが。」
 「・・・紅蘭。セットの準備で大変そうだったみたいだ。」
 「あ、そうだったですかー。
  て、レニ、よくいなくなると思ったら。」
 「気になって舞台裏に行っていたからね。」
 「レニも他人のことを心配するようになったのですねー。」
 「そういう織姫だって・・・。
  よく練習中の伴奏、自分から進んでしてたじゃないか。」
 「それは・・・。
  ワタシのイチバンの得意分野でーす。やって当然でーす。」
 「ふーん。」





   そして、春公演「夢のつづき」本番。
   いつもは誰かが何か事を起こして舞台中断なんてことがあった。
   けれど、今回は違っていた。
   事故らしい事故は何一つ起こらず、一日一日無事舞台をやり終え、
   そして、千秋楽。
  「夢のつづき」を唄い終え、幕が下り、拍手の鳴る中。
   みんな泣いてた。
   織姫は「みなさん、何やってるですかー。」って言ってたけど。
   ボクは知ってるんだ。
   カーテンコールの後、みんなに見つからないように
   隅の方で一人泣いていたのを………。





 「ちょっと、レニ。何一人で笑ってるですかー。」
 「・・・・・・別に。
  ね、織姫。ちょっと付き合ってくれない?」
 「え?」
 「ボク、ちょっと体動かしたくなった。
  あの時のことを思い出して・・・ね。」
 「うーんと。ま、レニがそういうならいいでしょー。お付き合いしましょう。」


   互いの手をとる二人
   星々の薄明かり
   月のスポットライトの中
   舞う二つの影
   花の香を運ぶそよ風
   どこからともなくワルツの調べが聞こえてきそうな
   そんな時間


 「ねえ、レニ。ちょっと聞いてくれますかー。」
 「え、何?」
 「実はワタシ、昔の自分、キライでした。
  素直になりたいのに素直になれない自分。
  その為に少尉さんや花組のみんなを大変な目にあわせてしまって・・・。」
 「・・・・・・織姫・・・。
  それは・・・ボクも同じ。」
 「レニ?」

 「ボクは昔のボクが嫌いなのか好きなのか・・・分からない。
  だけど・・・今のボクの方がもっと好き・・・だと思う。
  隊長に会えて、アイリスに会えて、みんなを守りたいと思ったから。
  ボクは今のボクになったんだと思う。
  だから・・・その・・・織姫も・・・・・・・・・・。」
 「え?レニ。ワタシも何ですかー。」
 「・・・きっと昔の織姫と比べて・・・変わったんじゃ・・・ないかな?」
 「レニ、あなたすごいこと言いますねー。
  ワタシ、嬉しいでーす。」
 「・・・・・・・・・・・。」
 「あ、レニ。ひょっとして照れてませんか〜。」
 「・・・・・・・・・・・。」
 「ねぇ、レニ。」
 「・・・・・・ぅ、うるさい。
  ボク、もう眠くなったから部屋に帰る。」
 「あ、ちょっと待ってくださーい。
  ね、レニ。もうここに来て一年になるんですねー。」
 「・・・そう、ボクはまだ11ヶ月だけど。」
 「もーう。細かいことはナッシングでーす。
  ダンスに付き合った代わりに、今度はワタシに付き合って下さーい。」
 「・・・何に?」
 「たまにはワタシのピアノ。聞いていってくれてもいいでしょー。」
 「でも、もう遅いし・・・。」
 「大丈夫でーす。皆さんのお邪魔にならないように静かな曲にしますから。」
 「・・・・・・。」
 「レニ!」
 「・・・りょーーかい。」
 「その答え方、やっぱり変わりませんねー。」
 「・・・そういう織姫だって・・・。」
 「さ、レニ。行きましょー。」
 「うん。」


そして、しばらくすると音楽室の方から静かなノクターンが流れ始めた。

が!

 「ねぇ。レニ。
  って、あーあ。眠ってしまいましたかー。
  しかたないですね。でも・・・起こすのもかわいそうだしー。
  もー少しこのままにしておいて・・・。
  子守り唄でも弾きましょうか。」

 「それじゃ、おやすみ。レニ。」



<終わり>



初出:1999.4.4 サクラ大戦BBSにて


そして…ゆめのつづき…