瀬戸の雨………







「やっと………見つかったんだね。」


誰に言うともなく
私はつぶやいた。



傍らに聞いていてくれる誰かが居る訳じゃない。



あの子は………


今晩はあんなことがあったんだし
今頃はお風呂のお湯の温かさにぼ〜っとなっていてくれる。


そう信じたいけれど
きっとそうはいかないんだろうね。



泣いてないだろうか?
一人で………





誰かと離れ離れにならなくちゃいけないなんてことは
生きている限り何度でも訪れる。
だからまた
人は人と出会えるんだけど。




ね。
これで、本当に良かったのかい?


「また会える」
なんて簡単に言ってしまって良かったのかい?


あの子に嘘なんかつきたくはないけれど
それに私だって………





私だって一人になりたくなんかない











あの日

たった一人だけ助かった女の子がいた。
それが………私。




後のみんなは………


気がついた時には辺りには誰も居なかった。

水の音
そして…蛍の光。
たった一つのその小さな小さな光だけが心の支えだった。



他の誰かを探そうとしても
水は辺り一面に広がっていた。
一歩でもその中に入ろうとしたら
もうこの場所にさえも戻って来られないような気がした。






ただひたすらに雨が降る。
轟く滝のような音を立てて。


私はただその場に居るしかなかった。
その小さな光と共に。








コトリ



棚の上に置いてある瓶を降ろす。
蓋を開け
少しだけグラスに注いでみる。
そして
一口、口につけてみる。



まだ薄い。
酸味も甘みもまだまだ足りない。
でも

もうこれを準備することもない。




きっともうあの人も………














………瀬戸………さん






ふとあの人の声を聞いたような気がした。
いや、これはきっと夢だ。
酔って幻の声を聞いているだけだ。
私は再び目を閉じようとした。





「……瀬戸さん……」

肩に置かれた手の感触。

思い切って目を開けてみる。





「………田川………先生………」


そこに居たのは見慣れた白髪。
いつもと同じ優しそうな笑みを浮かべていた。



「瀬戸さん。
 本当にありがとうございました。
 あの子のおかげですね。
 やっとこの子を見つけることが出来ました。」



そう言って手を差し伸べた先に
一人の女の子が姿を現した。



「せっちゃん、やっと会えたね。」




「………みっちゃん………」




「ごめんね、せっちゃん。
 寂しい思いさせちゃって。」


「…ううん、そんなことないよ。
 心配してたんだからね。
 いつまでたってもみっちゃんだけが
 見つからなかったんだから。
 

 先生………心配して………いつまでも………」




その後は

声にならなかった。




あの子に聞こえやしないだろうか?
そう心配にもなったが
私はみっちゃんと抱き合って泣いた。
三十年の時の想いを流すかのように。



みっちゃんはただ
「ごめんね、ごめんね。」
と繰り返すだけだった………








どのくらい時間が経っただろうか。

窓の外が少しずつ明るく白くなってきたようだった。




「光江さん、そろそろ」
田川先生が声をかける。


「はい……」


みっちゃんは先生に向かった頷いた後
私の方へ向いた。



「せっちゃん………。」





その後の言葉が続かない。
でも、それじゃいけないんだよ。
みっちゃん。




「じゃ、バイバイ、みっちゃん。」


私は手を振る。



また明日ね。
そんな感じで声をかける。


これ以上引き止めちゃいけないから。
これ以上思いを残しちゃいけないから。


だから、私からさよならしなきゃね。


「………うん………バイバイ」


名残惜しそうに手を振るみっちゃん。







これで、全て終わるんだ。
やがて何事もなく消えてゆくであろう二人を見送ろう。
泣きもせず笑いもせず
ある一つの別れをあるがままの表情で………
私はそう思った。




そんな時だった。




「ところで瀬戸さん、一つ提案なんですけれど………」

田川先生が喋り始める。


「このままお別れなんて寂しいでしょう。
 ですからね。





 これは貴女と私達だけの秘密にして欲しいんですよ。」









そうしてあの人の告げたのは………








「そしてまた朝が来る………」