「いよいよだわ・・・。」

夕日に暮れなずむ香港の街を一望できる、DOATECビルの最上階で、彼女――レイファンは目の前にいる男にそう言い放った。



「あ・・・?」

目の前の男が怪訝そうにこちらを向く。男は何故か上半身が裸だった。
こんな場所で上半身裸など、正直どうかと思った。
そういう彼女自身も、腰近くまで切れ込みの入った大胆なチャイナドレスを身に着けているので、人のことを言えた義理ではないのだが。

彼の日に焼けた上半身は、一分の隙もなく見事に鍛え抜かれた筋肉の鎧で覆われている。
凛々しいというには些か鋭すぎる彼の眼光が、彼女を射抜くように見つめる。
彼女は、はやる気持ちを抑えるが如く、静かに彼を指差した。

「念願のドラゴン退治。」

そう言って彼女は薄く笑みを浮かべる。
男は何を考えているのか、表情を変えずにしばし彼女を見据えていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「無理だな、俺に負けはない。」

彼がそう言った瞬間、二人を取り巻く空気が僅かに重さを増した気がした。
突然膨れ上がった彼の尋常でない闘気が容赦なく彼女に襲い掛かり、彼女は思わず武者震いを覚えた。

(今度こそ、必ず・・・。)

その感覚を紛らわすように、彼女は心の中で呟いた。

そして彼女は、三度、男の前に立った。







華と龍



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