シンジは、新たに家の一部となった部屋の掃除をしていた。つまり、新たにレイが住
む事になる部屋である。
もともと個人の荷物を殆ど持っていないレイの引っ越し自体は簡単に終わっていた。
むしろ問題なのは部屋の掃除だった。レイが引っ越して来るにあたって、マンション
の管理人が掃除はしたのだが、長年使っていなかった事、壁に穴を開ける時にかなり
ホコリが飛び散った事などで相当汚れていた。そこで、レイの荷物を運び込む前に、
全員で大掃除をする事になった。全員といっても、そういった方面の能力が欠落して
いるミサトとアスカは殆ど役に立っていなかったので、まじめに掃除をしているのは
シンジとレイだけだった。
しかし、汚れているといっても、以前のレイの部屋に比べるとまだ綺麗な方だった。
それでも、レイが一生懸命に掃除をしているのは、シンジの影響で綺麗好きになって
いた事と、シンジと一緒に掃除をしている事自体が嬉しいからだった。
二人は懸命に掃除したが、やはり二人だけでは能率が上がらず、おまけに二人を監視
するかのようにアスカも同じ部屋の中にいたので、ますます能率が上がらなかった。
そのため、レイの部屋の掃除だけで昼近くまでかかってしまった。
そんな時、リビングの掃除をしていたミサトがやってきた。
「シンちゃ〜ん。おなかすいたんだけど、何か作ってくれない?」
「え、もうそんな時間ですか? それじゃ、冷蔵庫の中におにぎりがありますから、
おかずと一緒に出して下さい」
「シンジ、おにぎりなんていつの間に作ったのよ?」
「うん。どうせ今日は引っ越しと掃除でお昼は作れないだろうと思ってたから、朝の
うちに作っておいたんだ」
「ふ〜ん。相変わらず、マメね」
「さっすがシンちゃん!」
「碇くん、すごい!」 ぱちぱち
レイは拍手までしていた。
「そ、そんな事ないよ。それじゃ、みんなでお昼にしよう」
そう言って、結局はシンジが全員のお茶やおにぎり、おかずなどを用意していた。
しかし、今回は今までと違い、レイがシンジを手伝っていた。そんな些細な事でも
シンジは嬉しかった。
「んぐ、んぐ、んぐ、んぐ……。
ぷはぁ〜ッ! カ〜ッ!
やっぱ、働いた後のビールは、ん(う)まいわね〜っ!!」
「まったく……ミサトってホントにオヤジね。昼間っからビールなんか
飲んで」
「アスカ、ミサトさんは私が引っ越して来た時には、もう飲んでたわよ」
「うん。飲んでたね」
「じゃ、朝からじゃない! 良く酔わないわね」
「私にとっては、水みたいなモノよ。……ところでシンちゃん、シンちゃんも部屋
替わる?」
「え、僕ですか?」
「そうよ。だってシンちゃんの部屋、小さいでしょ? レイの方に広い部屋がもう
一つあるから、シンちゃんもそっちに引っ越したらいいわ。いいでしょ、レイ」
「は、はい! 私は構いません」
レイは心底嬉しそうにそう言った。ミサトは、少しいたずらっぽくアスカを見た。
オヤジと言われたのを根に持っているようである。
「な、何言ってんのよミサト! こんな仕返し、汚いわよ!」
「だって、もともとシンちゃんの部屋だったのをアスカが取ったんだからいいじゃな
い。それに、シンちゃんだって広い部屋の方がいいに決まってるでしょ」
「そ、それなら、私がレイの方の部屋に引っ越すわよ。シンジは元の部屋に戻れれば
いいんでしょ?」
「う、うん。僕はどっちでもいいけど……」
「じゃあ、私がレイの方に引っ越すわね。いいでしょ? レイ」
「え、ええ……」
レイは、思いっきり残念そうに、そう呟いた。
そして、四人での大掃除、玄関先に置いていたレイの荷物の運び込み、アスカの引っ
越し、シンジの引っ越しなど、全ての作業が終わったのは、午後五時過ぎだった。
四人は、リビングでシンジの入れたお茶を飲みながらくつろいでいた。
「ところでミサト、今日の夕食どうするの? レイの引越し祝いをするんでしょ?」
「う〜ん。そのつもりなんだけど、今、街がこんな状態でしょ? まともに食べられ
るお店ってまだ無いのよ。ジオフロントに行けば、結構いい物が食べられるけど、
お休みの日にまでわざわざジオフロントには行きたくないし。かと言って、隣町に
まで出掛けるのも面倒だし……」
「じゃあ、どうするのよ」
「う〜〜〜ん」
「あ、あの……私が作ります」
「え? レイ、あんた料理作れるの?」
「はい。碇くんに教えてもらってるから、簡単な物くらいなら作れます」
「でもいいの? 今日はレイの引っ越し祝いなのよ?」
「私は、ここで一緒に暮らせるだけで十分です。それに……、
碇くんに料理を作ってあげるって約束してるから」
レイは少し赤くなり、うつむきながらそう言った。
アスカはレイの言葉を聞き、まゆをピクピクさせていた。
「へ〜、そんな約束してたんだ。いつの間に〜。やるじゃない、シンちゃん!」
「か、からかわないで下さいよミサトさん! 前に綾波にごはんを作って
あげた時に、そのお礼にって綾波が僕に何か作ってくれるって言ったんですよ」
「ふ〜〜〜ん。でも、う・れ・し・いでしょ、シンちゃん」
「は、はい」
その言葉を聞き、再びアスカのまゆが動いた。
「それじゃ、今から作りますから」
そう言ってレイは、買ったばかりのシンジとお揃いのエプロンを身に付け、
キッチンへ向かった。
「あ、綾波、何か手伝おうか? 調味料とか分かる? 鍋や包丁の場所とか……」
「ほらシンジ! レイは自分で作るって言ってんだから、
おとなしくテレビでも見てなさい!」
「いててててて。ア、アスカ。痛いよ! 耳を引っ張らないでよ!」
「何よ! ……それともレイの腕が信用できないの!?」
「い、いや、そんな事ないけど……」
「だったら、おとなしくしてなさい! レイだって、見られたら
気になるでしょ!」
「そうよシンちゃん。ここはレイに任せましょう」
『それにしてもアスカ、うまい事言ってシンちゃんとレイを離したわね。なかなか
やるじゃない』
ミサトには、アスカの行動は全てお見通しだった。
シンジは、テレビを見ながらもレイの事が気になり、キッチンの方ばかり見ていた。
アスカも、そんなシンジの事を気にしていたので、二人ともテレビの内容は殆ど見て
いなかった。ミサトは、そんな二人を面白そうに見ながら、ビールを飲んでいた。
……そうこうしているうちに、いい匂いが漂ってきた。
「食事の支度ができたので、どうぞ」
レイがそう言うと、シンジは真先にキッチンへ向かった。テーブルの上には、
炊きたてのごはん、豆腐の味噌汁、野菜炒め(肉抜き)、玉子焼き……
などが並んでいて、レイは、その横で少し照れたようにほほえんでいた。
「すごいじゃないか綾波! いつの間にこんなに作れるようになったの?」
「えへへ。あの後、ずっと練習してたから」
「本当にすごいわね、レイ! ああ、豆腐の味噌汁だわ。素敵。
日本人は、やっぱり味噌汁と、ごはんと、ビールよね〜〜!」
「ま、まぁまぁね」
『う〜、レイのやつ、いつの間にこんなに作れるようになったのかしら?』
「それじゃあ、冷めないうちにどうぞ」
『そ、そうよ。問題は味よ!』
そう思い、アスカは一口食べてみる。
『う……。おいしい』
「おいしいよ綾波、本当においしいよ!」
「く〜〜〜、この味噌汁、おいしいわ! この野菜炒めもビールにバッチリ合うわ
ね〜。アスカ、おいしいわね」
「た、確かにおいしいわね」
「良かった! 口に合わなかったらどうしようかと思ってたの」
レイは、三人が食べるまで少し心配そうにしていた顔を輝かせた。
「大丈夫だよ綾波! これだけの物が作れるんだから大したものだよ」
「そうよレイ。その歳でこれだけ作れれば大したものよ。……でも、シンちゃんの
味に似てるわね」
「それは、碇くんに教えてもらってるからだと思います」
「そうね。やっぱり似てくるのね。……ところでレイ。シンちゃんに手料理食べて
もらって、うれしいでしょ?」
「はい! とっても!」
レイは素直にそう答えたが、それを聞いたアスカのまゆが(以下略)
そんなアスカを横目で見ながら、更にミサトは続ける。
「そうよね。女の子にとって、好きな人に手料理を食べてもらうのは、幸せの一つ
よね」
それを聞き、シンジもレイも赤くなる。
「ね、アスカもそう思うでしょ?」
「…………何よミサト。さっきから随分と私に絡むじゃない?」
「べ〜〜つ〜〜に〜〜」
「ふっ……。どうやらミサトもシンジも、私が料理を作れないと思ってるようね。
おあいにく様、天才のこの私には不可能はないのよ。私にかかれば、料理なんか
お茶の子さいさいよ」
「じゃあアスカ、今日のお礼に、今度私たちでレイに何か作ってあげましょうよ」
「い、いいわよ。じゃあ、ミサトは何が作れるの?」
「私の得意料理はカレーなんだけど」
「カレーか」
『カ、カレー……』
ミサトの言葉を聞き、シンジの脳裏にいつかの悪夢がよみがえった。
「ミ、ミサトさん。カレーは止めましょうよ」
「どうして?」
「だって、綾波のために作るんでしょ? それなら、肉の入る料理は止めましょう」
『レトルトでアレだったんだ。これが手料理となるとどんな物が出来る事やら……。
それに、肉は火が通ってないと食中毒の恐れがある。それだけは絶対に避けなけれ
ば……』
「う〜ん、そうね。じゃあ、肉を使わなければいいのよ」
「え?」
「変わったところで、キノコカレーとか、シーフードカレーなんてどうかしら?」
「あ、ミサト、それいいわ! シーフードカレーにしましょう」
「よっしゃ! じゃあ決まりね!」
『しまった〜〜〜! そっちの方が食中毒の可能性が高い。うう……後はアスカ
の腕に期待するしかないな……』
しかし、シンジの希望は、アスカの一言によってあっさり崩れさった。
「シンジ、あんた料理の本持ってんでしょ? 後で貸して」
「え? でもアスカは天才なんじゃなかったの?」
「いくら天才でも、作った事ないものは作れないわよ。シーフードカレーは
初めてなのよ」
『あああ〜〜、頭が痛くなってきた。せめて死者だけは出さないでくれ〜〜』
今のシンジにとって、もはや神頼みしか残されていなかった。
その後、シンジはシーフードカレーの作り方が載っている本を持ってきた。女性が
三人もいるのに、料理の本を持っているのがシンジだけという所に多少問題がある
ような気がするが……。
ミサトとアスカが本を見ながら色々と相談しているので、シンジは食器を洗っている
レイを手伝う事にした。
「綾波、手伝うよ」
「あ、碇くん。ありがとう」
「でもビックリしたよ。綾波があんなに作れるようになってたなんて」
「でも、まだまだ碇くんにはかなわないわよ」
「そんな事ないよ。綾波ならすぐに僕なんか追い抜いちゃうよ」
「そうかな……。じゃあ、作れる料理が増えたら、また食べてくれる?」
「もちろんさ! 喜んで食べさせてもらうよ!」
「良かった」
……そんな二人をミサトとアスカは見つめていた。
「本当にあの二人、仲がいいわね。まるで新婚さんみたいね」
『う〜〜〜、 なによなによあの二人! いい雰囲気作っちゃって!
私だって料理くらい作れるんだから! 見てなさいレイ。いい気に
なってるのも今のうちよ』
『私の料理で、シンジなんかイチコロよっ!!』
(……別な意味でイチコロにならなければいいが……)
アスカは、自分の料理をシンジが食べ、褒めてくれているシーンを想像して、
にへら〜としていたが、目の前の問題をまず解決しなければと思い、
現実の世界に戻ってきた。
『しかし……どうやってあの二人を引き離すか……。う〜ん……どうしよう、どう
しよう。かいけつ・みやむーちゃんにでも頼むか……。う〜ん』
『あ、そうだ!』
「レイ、あんた引っ越し作業した上に料理まで作ったんだから汗かいてるでしょ。
先にお風呂に入りなさいよ」
「え?」
「そうね。レイ、そうしなさい」
「私が先でいいんですか?」
「もちろんよ、レイ。あなたは家族なんだから、順番なんて気にする事ないのよ」
「綾波、そうしなよ。後は僕がやっておくから」
「ありがとう碇くん。それじゃあ、そうさせてもらいます」
「ゆっくり入ってなさい」
「はい」
そう言って、レイは風呂に入っていった。
『ふふふ……。狙い通りね。あんな雰囲気のままで二人だけにさせておく訳には
いかないもの』
アスカは、思い通りに事が運んで、得意になっていた。
『ふ、相変わらずアスカ、うまいわね。ま、レイばかりがシンちゃんに近づきすぎて
も面白くないものね。二人がバランス良く張り合うのが、一番面白いわ』
ミサトは、今の状況をとことん楽しんでいた。
アスカやミサトの抱く思いなど知るはずもないシンジは、食器を洗いながら、ニヤけ
る顔を止められなかった。レイの手料理が食べられた事、また作ってくれると言って
くれた事、これらの事を思い出し、舞い上がっていた。しかし、ミサトとアスカの
シーフードカレーの作り方の話が耳に入ると、一瞬にして憂鬱な気分になってしまう。
「やっぱりシーフードっていうくらいなんだから、魚を丸ごと入れればいいんじゃ
ないの?」
「それだったら、ロブスターを一人一匹付けるのなんかどう? 見栄えが
いいわよ」
「それじゃあ、豪勢にアワビやサザエを入れるとか」
「日本人はタコが好きなんでしょ? 生きたままカレーと一緒に煮込むとか」
「なかなかいいわね。それ」
シンジは、二人の会話を聞きながら、このままでは本当に死人が出ると思い、
片付けを終わらせると、二人にシーフードカレーのアドバイスを始めた。
『せめて、人間の食べれる物を作ってもらわなければ……』
シンジは必死だった。
シンジが二人に色々とアドバイスをしていると、レイが風呂から出てきた。
「あ、あや、あや……綾波! な、な、な……!」
? シンジの様子がおかしいので、二人とも後ろを振り向いた。
そこには、頭からバスタオルをかぶっただけのレイが立っていた。
「あんた! なんて格好してるのよっ!!」
アスカは怒鳴りながらシンジの後ろに回り、目を押さえつけた。
「? 私はいつもおフロから部屋まで、この格好だけど」
「それは一人暮らしの時でしょ!! ここにはシンジも
いるんだから、服くらい着なさいよ!」
「私は平気。それに、碇くんには一度見られてるから」
「うっ!!」
「なっ!!」
「ほ〜」
「シンジ! どういう事よ!!」
「痛い痛い痛いよアスカ! 爪立てないでよ! 違うんだ。あれは事故
なんだ。リツコさんに頼まれて綾波にカードを届けに行ったんだよ。そしたら、綾波
がシャワーから出てきて……いてててて! そ、そうですよねミサトさん!」
「ん〜〜そうね。確かにカードを届けるようには言ったけど、レイの裸を見て来い
とは言ってないわよ」
「そ、そんな……ミサトさん……いてててて!」
『頼む! 綾波、その先は言わないでくれ〜!』
シンジの祈りが神に通じたのか、それほど重要な事だと思わなかったのか、レイは
それ以上の事は言わなかった。
「とにかくレイ、これからはお風呂から裸で出てこない事! いいわね!?」
「それがこの家の決まりなの?」
「ここだけじゃ無く、普通はそうなの!」
「決まりなら、そうするわ」
そう言って、レイは自分の部屋の方に歩いていった。
「まったく……何考えてんだか……」
「あ、あの〜アスカ、手、離してくれる? 痛いんだけど」
「何よ? そんなにレイの裸が見たかったの?」
「そ、そういう訳じゃないよ」
「ふ〜〜ん。じゃあシンちゃん、前の時にレイの裸をじ〜〜っくり見たのね。だから
もう見なくてもいいんだ」
「ミ、ミサトさん! いたたたた……アスカ、誤解だよ! 僕は別にワザと
見た訳じゃないんだから」
「ふん!」
そう言ってアスカは手を離した。よほど強く押さえつけていたのか、シンジの目の
周りは赤くなり、爪の形もくっきりと付いていた。また、目もチカチカしていた。
「それにしてもレイって……勝った」
何をどう比べているのか分からないが、アスカは優越感に浸っていた。しかし、
よせばいいのにミサトがアスカにちょっかいをかける。
「ふっ……さらに勝った」
「何よ、ミサト? 何が言いたいのよ?」
「べ〜つ〜に〜。今アスカが比べていたものを私も比べてただけよ」
「いいのよ。私はまだ発育途中なんだから。ミサトなんて、もう張りなんかないで
しょ?」
「失礼ね! 私のだってまだまだ張りがあるわよ。ほらほらシンちゃん、触って
みる?」
そう言って、ミサトはシンジの方に寄っていった。
「ちょ、ちょっとミサトさん! よして下さいよ」
「ミサト、何してんの? やめなさいよ。……まったく、ミサトといいレイといい、
女の恥じらいってものがないのかしら?」
『じゃあアスカにはあるのかな?』
と、シンジは思った。アスカが家にいる時の格好は、どれもシンジが目のやり場に
困るようなものばかりだった。時々、シンジの前にバスタオル1枚で出てきた時も
あった。しかし、それを口にしたらどうなるかは分かっているので、あえて口には
しなかった。
そんな所に、再びレイが入ってきた。
「これでいい?」
そう言ったレイの身体は、先程より僅かばかり隠されただけだった。平たく言えば
下着姿である。
「だから! どうしてそういう格好で出てくるのよっ!? わざと
やってんじゃないでしょうね!?」
アスカは、シンジの目を押さえるのも忘れ、レイに詰め寄った。
「? 私はいつも朝までこの格好だけど」
「だからそれは一人暮らしの時でしょ! パジャマか服くらい
着なさいよ!」
「バジャマは持ってない。それに、制服は汚れたから洗濯してる」
「他の服は?」
「持ってない」
「持ってない? ……一着も?」
「ええ、持ってないわ」
「信じらんない! よく今まで、そんなんで生きてこれたわね!
……ちょっと来なさい。私の古い服あげるから。そんな格好で
ウロウロされちゃ、たまんないわよ」
そう言って、アスカはレイを引っ張っていった。意外とアスカは面倒見がいいのか、
それとも単にシンジの前にレイの裸や下着姿を見せたくないのか、どちらかだろう。
恐らくは後者だろうが……。
そんな二人を、いやレイを、シンジはまばたきをするのも忘れ、見つめていた。
以前にも裸を見て、胸まで触った事があるのに、下着姿を見るのは初めてという
訳の分からない状況の中、シンジは鼻血を出していた。
「大変ね〜、シンちゃん」
「これじゃあ、身体が持ちませんよ」
「そうよね〜。シンちゃん若いから、きっと今晩は寝られないわね〜」
「……楽しそうですね、ミサトさん」
「そりゃ〜もう! レイが引っ越してきていきなりコレでしょ? もう楽しくって
楽しくって……。これからイロイロあるかと思うと楽しみだわ〜〜。
ああ、ビールがうまい!」
「はぁ〜〜〜」
シンジは溜め息をつくしかなかった。
その後、ミサトの言った通り、レイは時々常識外れの行動で、みんなを(主にシンジ
だが)てんてこまいさせた。
例えば、全員で見ていたテレビドラマのえっちなシーンについて、事細かく質問して
きたり、面白がってミサトが見せた深夜番組についても、同様に質問してきた。もち
ろん、それにシンジが答えられるはずも無かったので、ミサトとアスカが二人がかり
で、『十四歳の少女が当然知っている常識』を伝授する事になった。話の内容が内容
だけに、シンジは部屋の隅に追いやられていた。
しかし、シンジは不安だった。ミサトもアスカも、一般人の常識という所から少し
……いや、かなり外れている所がある。また、レイも人の言う事を素直に信じて
しまう所がある。シンジは、レイまであの二人のようにならない事を祈るしかなかっ
た。
そんなシンジの気持ちが分かるのか、ペンペンがやって来て、シンジの横に座った。
「ペンペン、男どうし、仲良くやろうな」
「クワ?」
ペンギンに愚痴を言うのも情けない話だが、今のシンジは、そこまで不安だらけだっ
た。
やがてレイは、二人の授業が終わったのか、シンジの元にやってきて、ちょこんと
座った。そして……
「ねぇ碇くん、ヒニンって何?」
「ちゅどぉーーーーーーん!!!」
そういう擬音を残し、シンジは吹き飛んだ。
「な、な、何を教えてるんだよ二人とも!?」
シンジは真っ赤になって、二人に抗議した。
「私じゃないわよ。ミサトがレイに言ったのよ。シンジに聞けって」
「ミサトさん!」
「い〜じゃない別に。それに、こんな環境じゃ何が起こるか分かんないでしょ?
いざって時のために、知っておいた方がいいでしょ?」
「何よミサト! そのいざって時っていうのは? 相変わらず、いやらしいわね」
「あ〜ら。私は何一つ具体例は言ってないわよ。アスカ、何を考えたのかな〜?」
「う、うるさいわね!」
「碇くん、いざという時って?」
「は……ははは……後でアスカかミサトさんにでも聞いて」
「?」
「僕、疲れたから寝ます」
そう言ってシンジが立ち上がると、レイが声をかけてきた。
「あ、碇くん、待って!」
「ん? 何、綾波?」
「あの、おやすみなさい」
そう言って、少し赤くなり、うつむく。
「あ」
シンジは安心すると共に、嬉しかった。
『良かった。時々、強烈な事をやらかすけど、綾波は綾波のままだ。アスカやミサト
さんのようにはなってないな。本当に良かった』
二人には失礼な事だが、シンジは心からそう思い、微笑んだ。
「うん、おやすみ、綾波!」
「……ちょっとシンジ、私には何も言わないの?」
「え……でもアスカ、いつも返事してくれないじゃないか」
「今日からしてあげるわよ!」
「じゃ、おやすみ、アスカ」
「はい、おやすみ!」
少し照れたように、そっけなくそう言った。
「じゃあ私たちも寝ましょうか。おやすみ、シンジ君」
「はい、おやすみなさい、ミサトさん」
そう言って、四人はそれぞれの部屋に入っていった。
シンジは元の自分の部屋に戻った。掃除をして、自分の荷物を運び込んだにも関わら
ず、どこかアスカの匂いがするようで落ち着けなかった。
また、寝ようとして目を閉じると、レイの裸や下着姿が浮かんできて、ミサトの言う
ように、全く寝られなかった。
「はぁ〜。明日から毎日こんな生活なんだろうか? これじゃ、ホントに寝不足で
死んじゃうかもな……」
クラスの男どもに聞かれたら袋叩きにあいそうな事を呟きながらも、引っ越しと掃除
の疲れから、やがて眠りに落ちていった。
シンジのにぎやかな日常は、こうして始まった。
なお、数日後、二人の料理を食べたレイが気を失ったのは言うまでもなかった。
・ ・ ・
ピピピピピピピピ……
「ん……ん〜」
シンジはいつものように目覚ましを止めた。
シンジの朝は早い。誰よりも早く起き、みんなの食事を作る。朝食はいつもシンジの
担当になっていた。理由は簡単。他の人は寝過ごして起きて来ない事が多いからで
ある。そんな訳で、仕方なくシンジがやる事になっていた。
「さて、今日から四人分作るのか。確か綾波は肉が嫌いだったな。となると、朝食の
定番、ハム、ベーコン、ウインナーはダメか。玉子焼きか目玉焼きにするかな。
魚は大丈夫なのかなぁ? それだったら、塩ジャケなんかも……」
シンジは着替えをしながらも、そんな事を呟いていた。ほとんど主夫である。
顔を洗い、冷蔵庫の中を覗いていると、後ろから声がかかった。
「おはよう、碇くん」
「え?」
シンジはそう言って振り向くと、そこには、微笑んでいるレイの姿があった。
「あ、おはよう、綾波。どうしたの? こんなに早く。朝食は僕の担当だよ」
「うん、知ってる。碇くんのお手伝いをしようと思って……。迷惑かな」
「と、とんでもない! 助かるよ、綾波!」
「良かった。……それじゃあ、私は何をすればいいの?」
「そうだね……じゃ、とりあえずキャベツを切ってくれるかな?」
「はい」
そう言って、いつものシンジとお揃いのエプロンをつける。
「あ、ところで綾波、肉以外は大丈夫なの? 魚とかは大丈夫?」
「ええ、肉以外は平気」
「それと、朝食はいつもパンなの? それとも、ごはん?」
「どちらでもいい」
「じゃあ、今日は和食にしよう」
そう言って二人は朝食の準備を始めた。レイが手伝ってくれているので、いつもより
ゆとりがあり、おかずを増やす事もできた。
「……さて、そろそろ二人を起こしてこようかな」
「もう起きてるわよ」
アスカが不機嫌そうに入ってきた。
「アスカ、おはよう」
レイはにこやかにそう言ったが、アスカの不機嫌そうな表情は変わらなかった。
「おはようアスカ。珍しいね、起こす前に起きてくるなんて」
「……そりゃ、朝っぱらからイチャイチャ、イチャイチャと大声で話されたら、
おちおち寝てらんないわよ!」
「ごめんなさいアスカ。……でも、そんなに大きな声だった?」
レイの問いが論点から少し外れていたため、アスカも毒気を抜かれてしまった。
「はぁ〜。な〜んか、張り合いが無いわね」
「あら、三人とも朝から仲がいいわねぇ〜」
ミサトも入ってきた。
「どこをどう見たらそう見えるのよ! この状況で!」
「だってホラ、『ケンカするほど仲がいい』って言うじゃない。……それより、
早く朝食食べましょ。せっかくの料理が冷めちゃうわよ」
「はいはい」
「……あら、今日はいつもより豪勢ね」
「はい。綾波が手伝ってくれたんです。それで、いつもより余分に作れて」
「へ〜レイがねぇ〜。……レイはきっと、いいお嫁さんになるわね」
「本当ですか!?」
レイは心底嬉しそうだった。
「もち本当よ! この私が保証するわ」
「ミサトに保証されても、嬉しくないわよね、レイ」
「……どーいうイミよ、アスカ?」
「だってミサトがお嫁さんについて話しても、全っ然説得力が無いもの。料理はでき
ない、一番最後に起きる、それに……」
「わ、悪かったわね!」
そう言ってビールを一気に飲んだ。
「そーいう所が、一番お嫁さんって感じじゃないわね」
アスカは勝ち誇ったようにミサトを見ていた。さすがのミサトも、これには言い返す
言葉が無かった。
「ところでシンジ。今日、買い物に付き合いなさいよ」
「え、何の?」
「あんたバカぁ!? レイの服に決まってるじゃないの!
レイって本っ当に自分の服持ってないのよ。だから、今日はレイの服を買いに行く
の。いいわね、レイ」
「え? ええ、私は構わないけど……」
「あんたの服の事なのよ。もっと気合入れなさいよ!」
「……で、僕は何をすればいいの?」
「シンジのセンスなんか最初から期待してないわ。あんたは荷物持ちよ。
決まってるじゃない!」
「……はいはい」
「あ……あなたたち、悪いけどそれは今度にしてくれない? 今日はちょっち仕事が
あるのよ」
「仕事?」
「ハーモニクステストじゃないんですか?」
「命令ならそうするわ」
「そ、し・ご・と」
「どんな仕事よ? まさかお金を受け取って悪い奴らを亡き者にする仕事じゃない
でしょうね……」
(おいおい、それは仕事人だろ)
「フフフ……。それは、ヒ・ミ・ツ。本部に着いてからのお楽しみよ」
そう言ってミサトは、少し意地の悪い笑みを浮かべた。
「…………嫌な予感がするわね」
「うん」
「……そうなの?」
「そうよレイ。ミサトがあんな表情をする時は、ロクな事がないのよ」
「綾波も気を付けた方がいいよ」
「うん」
「何よアンタたち。……まぁいいわ。じゃ、食事が終わったら、すぐネルフに行く
わよ」
それから数時間後、三人はそれぞれのエヴァに乗り、芦ノ湖の水が抜かれ廃墟と化し
た第三新東京市の前に立っていた。
「……ちょっとミサト、まさか仕事って……」
「そ。エヴァ三体による、ガレキの撤去作業よ」
「なんでエヴァでそんな事しなきゃなんないのよ!
私は嫌よ! イメージが台無しじゃない!」
「仕方ないでしょ。いくら世界中から重機を持ち込んでも、都市まるまる一つ分の
ガレキを撤去しようと思ったら、何年かかるか分からないのよ。その点、エヴァだっ
たら一機で重機千台分以上の働きができるから、能率がいいってMAGIが判断したの
よ。あなた達だって、早く元通りの街に戻って欲しいでしょ?」
「……ガレキの撤去なら、N2爆雷で吹っ飛ばせばいいじゃない」
「何バカな事言ってんのよ! 周囲には民家もあるのよ。そんな事、できるはず
ないじゃないの!」
「一緒に住んでると考え方が似てくるのかしら。ミサトと同じ事言ってるわね」
「うるさいわねリツコ! 私は冗談で言ったのよ。……それより、アレ、本当に使
えるの?」
「もちろんよ。この日のために、私が作っておいたんだから」
そう言ってリツコは、モニター画面をうっとりと眺めていた。
「これがねぇ〜……。ま、アスカの気持ちも分からなくはないけど」
そう言って、ミサトもモニターを見た。
モニターに映っているエヴァの装備は、
初号機
超巨大ハンマー + 超巨大スコップ
弐号機
ソニックグレイブ + スマッシュホーク
七号機
超巨大スコップ オプションで超巨大一輪車
といったモノだった。大きさを無視すれば、どこから見ても土木作業員である。
「あ〜ん。何で花の十四歳の乙女が土木作業なんかしなきゃいけないのよ! ねぇ、
レイだってそう思うでしょ?」
「命令だから、仕方ないわ。それに、もともとエヴァは汎用兵器だから、こういう事
も想定されているのよ」
「はいはい。相変わらずの優等生な答えね。あんたに期待した私がバカだったわ。
だいいち、街をこんなにしたのはあんたでしょ。こっちに後片付けを回さないで欲し
いわね」
「碇くんを守るためよ。仕方なかったわ」
「仕方ないってねぇ……。他にもやりかたはあったでしょ。こっちはいい迷惑だ
わ!」
「なら、アスカはそこで見てればいいわ。私と碇くんとでやるから」
「何でそこでシンジが出てくるのよ?」
「一人じゃ時間かかるから、碇くん、手伝ってくれる?」
「う、うん。いいよ」
みるみるアスカの顔が不機嫌になっていった。
「ちょっとレイ! あんた、最近ずうずうしいわよっ!」
そう言って弐号機は七号機につかみかかろうとした。そこへ、初号機が間に入った。
「ア、アスカ落ち着いて。三人でやれば、きっとすぐ終わるよ」
「キャーーーーーーッッ!!!」
アスカ(弐号機)は突然その場にしゃがみこんでしまった。
「え? ア、アスカ、どうしたの!?」
「ちょっとアスカ、一体何があったの?」
シンジとミサトは、いきなりのアスカの行動に驚いていた。
「……シンジ〜、あんたアタシの胸触ったわね!」
「「はぁ?」」
シンジとミサトは、見事にハモっていた。
「何言ってるんだよアスカ? 僕は弐号機を止めようと思って……」
「私と弐号機はシンクロしてんのよ! 弐号機の胸を触るのは、私の
胸を触るのと同じなの!」
「そんな無茶な……」
「無茶でも何でも胸触ったんだから、ちゃんと責任取りなさいよ!」
「そんな〜……」
「アスカ、胸触られると責任取ってもらえるの?」
「そうよ、それが男ってもんよ!」
「じゃあ碇くん、私も責任取ってくれるの?」
「うっ!!」
シンジはめまいを感じた。
『う〜、よりによってこんな時に言うなんて……。アスカはもとより、ミサトさんや
リツコさん……いや、発令所にいる人全員に聞かれてしまったじゃないか〜』
アスカの制裁、ミサトの冷やかし、考えるだけで目の前が真っ暗になってしまう。
「ちょっとレイ、どーいう事よ!?」
「前に碇くんがカードを持ってきてくれた時、私の上に乗ってきて胸に触ったの」
「あ……綾波……だ……だから……あれは事故だって……」
「シンジは黙ってて!!」
「は……はい」
この時、よほど弐号機が恐かったのか、初号機はしりもちをついていた。しかも、
ATフィールドまで張っていた。
はっきり言って、カッコ悪い。
「レイ、シンジがカードを届けた時って……アンタ確か、裸でシンジの前に出たって
言ったわね」
「ええ、シャワーを浴びた後だったから、そのまま」
「じゃあ何? シンジは裸のアンタを押し倒して、胸を触ったの?」
「そうなるのかしら」
「だ……だから……あれは事故で……」
「シ〜〜〜ン〜〜〜ジィ〜〜〜!!」
「ヒィ〜〜〜!!」
この時の弐号機は使徒よりも恐かった、と後にシンジは語っている。
そして、弐号機の左肩のパーツが開いた。
「ん? ちょっとミサト! 何でプログナイフが入ってないのよっ!?」
「何で使徒も来てないのにプログナイフがいるのよ? 痴話ゲンカならエヴァから降
りてからにしなさい。情報公開してるんだから、エヴァは世界中の人が見てるのよ。
みっともない事は止めなさい!」
『良かった……。こんな事もあろうかと思ってプログナイフを抜いておいて本当に
良かった……』
ミサトが胸をなで下ろしている時、後ろから声が聞こえた。
「シンジ、今の話は本当か?」
「ち、違うんだ父さん! あれは偶然なんだ。慌てた僕が綾波にぶつかって
……だから……その……」
「本当か、と聞いている」
「う……。触ったのは本当だけど、わざとじゃないよ。すぐに離れたし……」
「そうなのか、レイ?」
「はい。私が『どいてくれる?』って言うと、碇くんはすぐにどいてくれたので、
私はそのまま服を着ました」
「そうか、話は分かった。……シンジ、お前には失望した」
「うっ……」
「裸の女性を押し倒し、胸を触っておきながら何もせんというのは、相手の女性に
対して失礼だ」
「はぁ〜〜〜?」×無数
その場にいたレイ以外の全員が見事にハモった。ちなみに、レイは何の事か良く分
かっていないので、反応のしようが無かったのである。
「……やはり離れて暮らしていたのがいけなかったか。シンジの教育が足りなかっ
たな……」
「あの〜碇司令、それはちょっと違うと思いますが……」
「何を言うか! 私の若い頃はだな……」
「碇……ちょっと来い。どうやらお前とは徹底的に話し合う必要があるようだ」
「こら冬月、何をする!? 私はまだシンジに話が……」
「では葛城くん、後の指揮は任せる」
「は、はい。冬月副司令」
「待て冬月! ここの司令は私だぞ!」
だが、その声は、司令席の降下と共に消えて無くなった。
『シンジ君、お父さんと一緒に暮らしてなくて、本っ当に良かったわね』
リツコは、しみじみそう思っていた。
「え、え〜と。とりあえず三人とも作戦を伝えるわよ。まずアスカ、あなたは弐号機
で、まだ解体されていないビルを破壊。そして、それをシンジ君とレイで所定の位置
まで撤去。いいわね、三人とも」
「分かったわよ。要するに、徹底的に破壊すればいいんでしょ?」
「そ、今のアスカにピッタリの仕事よ」
「言われなくったって! シンジの〜
ぶぅわぁかぁぁぁっっっ!!!」
弐号機のふるったスマッシュホークの一撃は、半壊していたビルを粉々に吹き飛ばし
た。
「ふぅ……。ま、上はあれでいいとして……」
「ミサト、これは賭け率が変わるわよ」
「そうね。今までアスカの方がリードしてると思ってたのに、まさか裸のレイを押し
倒して胸まで触っていたとは……意外だったわ」
「でも、事故とはいえ、レイちゃんの胸を触るなんて……。シンジ君、あんな顔
して、意外と手が早いのかも知れませんね」
「さすがは、碇司令のお子さん……といった所かしらね」
「意味シンな発言ね、リツコ」
「それよりマヤ、今回の事をMAGIに打ち込んでみて」
「はいセンパイ! でも、この事でアスカちゃんが積極的にシンジ君に迫る事も考え
られますが」
「でも、シンちゃんは強引なのは嫌うわよ」
「でも、アスカが本気で迫れば、シンジ君、逃げられないんじゃない?」
「う〜ん……でも、家にはレイがいるし、それは無理なんじゃない?」
「そうね。じゃマヤ、今の事も考慮に入れてみて」
「はい」
カタカタカタカタカタカタカタ……
チーン
「出ました! 今の所、フィフティフィフティ。完全に互角です」
「う〜ん。ますます難しくなってきたわね」
「ん? ちょっとリツコ、この『大穴』って何?」
「あ、それ。シンジ君がレイとアスカ、両方に手を出す確率よ」
「それは無いんじゃない? あのシンちゃんに限って」
「私もそう思ったんだけど、MAGIの診断では、日に日にその確率が上がってるのよ」
「ふ〜ん。で、この『超大穴』ってのは、何?」
「あ、それ。ミサトがシンジ君に手を出す確率よ」
「何よそれ!?」
「ミサトだってシンジ君と一緒に暮らしてるんだから、無いとは言えないでしょ?」
「それだったら、シンちゃんが私に手を出す確率の間違いじゃないの?」
「いえ、それは無いわね。すぐそばに自分の事を好きだと言う二人の女の子がいる
のに、あえてミサトに手を出す必要が無いわ。MAGIもそう言ってるし。だから、あく
までミサトがシンジ君に手を出す確率なのよ」
「全く……身内をカケに使うなんて信じられないわね」
「何言ってんのよ? 始めたのはミサトでしょ。もう今さら止められないわよ」
「どうして?」
「碇司令も参加しているからよ」
「碇司令まで? ……で、司令はどっちに賭けてるの?」
「……『両方とも』に賭けてるわ」
「……まったく何を考えるんだかあのオヤジは……」
(同感。ゲンドウ、性格変わったぞ)
ジオフロント内でこのような会話がなされているとは知らず、地上では破壊の限りが
尽くされていた。
「ほーっほっほっほっ!
一度こういうのやってみたかったのよね〜!
あ〜、スッキリするわ!!」
鬼気として街を破壊する弐号機を見て、シンジは背筋が寒くなるのを感じた。なぜ
なら、街を破壊するアスカのエネルギーは、本来は全てシンジの身体に降りかかる
はずだったからである。
「でも、これでアスカの気が晴れてくれるといいんだけど……」
シンジは、小さくそう呟いた。その時、七号機から通信が入った。
「ん? 何、綾波?」
「碇くん、さっきアスカが言ってた、『責任取る』ってどういう事なの?」
「はぁ〜〜〜 ……後でアスカにでも聞いてみて」
「?」
……そして数時間後、エヴァ三体(主に弐号機)の活躍により、主だったガレキは
撤去されていた。勢いに乗ったアスカが、建設中のマンションまで幾つか破壊して
しまったが、全体の作業からすれば、微々たるものである。
後は普通の重機でも十分出来るので、エヴァはジオフロントに戻っていった。
街を破壊し尽くし気が晴れたアスカは、シンジへの制裁を『往復ビンタ十回』
程度で済ませたが、それだけでもシンジは床に倒れていた。
また、冬月に延々と説教されているゲンドウは、ネルフの女性職員から、改めて
『危険人物』としてマークされる事となり、威厳はますます低下していった。
……その日の午後、シンジは、ミサトとアスカの質問責めにあい、当時の事を全て
白状させられたのだった……。
合掌。