「次回の公演での衣装合わせだが、君の背が伸びてるので作りなおす必要があるらしい
だから今日の授業が終わったら劇団の雑務課に顔を出すように。」
「はい わかりました。 (わざわざ先生が来て言う程の事でも無いのに……)」
「火薬を使う少し危険なスタントもある。 夏バテしないように睡眠をよくとっておけ」
タームはアスカに優しそうな視線を一瞬向けて食堂を立ち去った。
「明日から練習か…… 負けられないわねっ」
だが、アスカはその事に気づいてはいなかった。
裏庭歌劇団
作:尾崎貞夫
第3話【告白】
「ぐわあぁぁーーーーーっ! こんちくしょーーーーーーーーーっ!」
通し稽古なので稽古着を着たアスカが玉のような汗を飛び散らせながら演技していた。
「はいOK 実際の舞台ではここで火薬使うからね」
ターム演出作品 ファーストインパクトの舞台での通し稽古であった。
タームはただ一人観客席に座って通し稽古の模様を見ていたが、
アスカの演技指導の時は立ち上がって細かな指示をしていた。
だが、アスカはその違いに気づいてもいなかった。
「ありがとうございますっ」 ダメ出しされるんじゃ無いかと内心思っていたアスカは
頭を下げて首にかけたタオルで汗を拭いながら舞台の袖に引っ込んでいった。
「お疲れ 本番はお互い気をつけないと火傷してしまうな」
キール役でもあり、この世界では有名な役者である佐竹ヨシノブがアスカに声をかけた。
「ありがとうございます」
アスカは劇中で敵対し続けていた佐竹が稽古が終わるや否やフレンドリーになったので
少しめんくらっていた。
劇中での事を引きずってしまう自分が馬鹿らしくなり、
アスカは礼を言ってその場を立ち去った。
稽古着から学校の制服に着替えて廊下にある自動販売機でジュースを飲んでいると、
背後から肩を叩く者がいた。
「アスカ お疲れさん いよいよ本番だね」
同級生でもある碇シンジであった。
「シンジ……あんたの出番は一時間も前に終わってるでしょ 残ってたの?」
詰問しながらもアスカの眼は輝いていた。
「通し稽古を自分の番が終わったからって帰れる立場じゃ無いよ 僕らはまだ学生なんだし
……だけど……本音を言えば帰る前に一度会いたかったからかな……」
エヴァのロングランな舞台公演の間 周りには学生は少なくれっきとした劇団員ばかり
だったので、演技上の気づいた事を言い合う形で始まった二人の交際とも言えない関係
ではあるが、事情を知る第三者からは暖かい眼で見られていた。
「もう一時だ 門限はとおに過ぎてるし、許可されてるとは言え早く帰った方がいいね」
シンジはローレックスの腕時計(熱心なファンからの頂きもの)を見て呟いた。
「うん……」 自分がシンジに恋しているなどとは認められないアスカはもう少し
一緒にいたい の一言が言えずに困っていた。
「寮の前まで送るよ」 シンジはアスカの手を取って言った。
「ありがと……」 いつもシンジとの配役が多いせいで舞台ではいつもシンジが相手役
だった……その時の事を思い出して アスカは舞台のようには行かないと内心呟いた。
10分程の道程だったが、二人にとってはかけがえの無い時間であった。
「それじゃおやすみ 明日は学校で会えるよね」
シンジは寮では無く実家から通っているのでアスカと寮の門の前で別れた。
アスカはあらかじめ寮母さんから鍵をあずかっていたので寮の扉を開け、
寮母室のポストに鍵を返却し、自分の部屋に足音に気を付けながら向かった。
「ふぅ……目覚ましセットしよっと」
アスカは溜め息をひとつついて三つある目覚まし時計をセットしていった。
寝間着に着替えベッドに横たわっても目が冴えていてなかなか眠れそうに無かった。
「アイツ……誰とも付き合って無いんだよね……もてるのに何故かしら……
私や劇団の女の子には興味無いのかしら……」
”告白しても無いんだから仕方無いじゃ無い”
心の底から沸き上がって来た泡が弾けた。
そう、自分はまだスタートラインにも立っていないのだと気づいた。
焦燥感と共に不安やシンジを誰かに取られる恐怖、
そのようなマイナスの想念にアスカは囚われはじめたが、首をぶるぶると振った。
「今時、告白なんて簡単なもんじゃ無いの……別に学校内恋愛が禁止してる訳じゃなし……
ふじゅんいせいこうゆう……さえしなければ……いえ ばれなければOKよっ」
アスカは拳を握り締めて言った
誰か突っ込んであげて(笑)
「告白する機会さえあれば……はぁ もう寝よ」
アスカは溜め息をもう一つ吐いて部屋の電気を消した。
翌日
授業が全て終わり、帰り支度をしていたシンジとアスカの前にタームが現れた。
「決定稿じゃ無いんだけど、次のエピソードの台本が出来たんだ。
明日にでも顔合わせしたいから、悪いけど今日の内に台本を読んでおいてくれないか
第二練習室を借り切ってるから、そこを使うといいよ」
タームは用件を言って忙しいのか足早に教室を去った。
「私は何の約束も無いけど、シンジは大丈夫なの?」
「今日は取材も入って無いし大丈夫だよ 第二練習室に行こうか」
二人は教室を出て第二練習室に向かった。
普段は人で一杯の第二練習室もがらんとしており、嫌が上でもシンジと二人きりな
状況にアスカは酔っていた。
台本の読み合わせなどよくある事なので、二人は自分たちに関係のある台詞の所の
読み合わせを始めた。
アスカがシンジへの恋心を吐露するクライマックスのシーンに差しかかり、
物語の展開から告白シーンがあると読んだアスカは台本を素早くめくり、
目当てのシーンがある事を確認し、腹を据えた。
「ちょっと恥ずかしい台詞だから、ごめんね」
アスカは舌をぺろっと出してシンジに背を向けて台本を読みはじめた。
「シンジ……あなたの事が好きです……私の立場ではこれしか言えません」
そして少し間を置いて
「シンジ……あなたの事が好きです……私の立場ではこれしか言えません」
「あれ、その台詞 二度目だよ?」
シンジは台本から顔を上げてアスカの背中に語りかけた.
劇中でも鈍で亀な朴念仁で通しているように実生活でも似たようなシンジは、
アスカの決死の覚悟で言った告白の意味に気づかなかった。
「…………女に恥をかかせないでよ……」
振り向いたアスカは恥ずかしさからか眼に涙を溜めていた。
「えっ……あ……その……ありがとう 僕もアスカの事好きだよ」
シンジは慌てながらもアスカを傷つけないように、
シンジも言いたくても言えなかった言葉を伝えた
その時、抜群のタイミングで練習室の扉が開かれた。
「おっ 熱心に練習してるな 結構結構 おや、惣流君どうした?」
入って来たのはシナリオの読み合わせを指示したタームであった。
・
わざとか? タームさんならこれぐらい……(をひ)
・
「あの……感情移入してしまって……いいシナリオですね」
アスカは溜めていた涙を隠そうともせずに言い切った。
シンジは未だにあたふたしていて、こういう時の変わり身の速さでは負けるなと
某ヒゲの監督がアニメ化した少女漫画のあ○まのような事を内心思っていた。
この作品はフィクションです。 実在する人物・団体・サイト・作品とは何の関係もありません
*尚、ファーストインパクトにこんなシーンは多分ありません。
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どうもありがとうございました!
第3話 終わり
第4話
に続く!
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