少ししてようやく落ち着いたレイは再び話しはじめた

「けど、いいの? あの人……潰れてしまうかも知れないわよ」
レイは最後までアスカの名を口にはしなかった。
ささやかな抵抗なのか、それとも……

「僕の手の届くところにさえいてくれたら……大丈夫だよ」
シンジはレイを泣かせておきながらも迷いの無い目でにこりと笑って言った。


裏庭歌劇団

作:尾崎貞夫

第10話【嵐の再デビュー】


「ふむ……再デビューは私の演出作で無い方がアスカ君の為かな」
タームは自室でここ三ヶ月間に行われる舞台の予定表を見て唸っていた。
「私やシンジ君が敢えてタッチしない方がアスカ君の為だな……」
タームは資料の中から一通の封筒を選び取り出した。

数日後……


裏庭歌劇団の劇団員用の練習場にシンジとアスカの姿があった。
朝7時と言う事もあり、シンジとアスカ以外の団員の姿は無かった。
第三者のぶしつけな視線ややっかみを避ける為早く練習して、
それから二人で朝食を食べるのが最近の日課となっていた。

「体力的にはもう完調だと思うけど、再デビューはまだかしら……」
アスカは柔軟体操を終え、腹筋運動をしているシンジに話しかけた。

「その辺りはターム先生に任せてるからねぇ……その内連絡来ると思うけど」
シンジは腹筋を終え、タオルで汗を拭きながら答えた。

「焦ってるのは自分で分かってるんだけど……不安なのよ」
これまで休む間も無く舞台に出演していたアスカにとって、
無為に過ごす時間が重く感じられても無理が無い事だろう。


練習場に劇団員がちらほら目に付きだした8時半頃に二人は練習を終え、
いつもモーニングを食べている喫茶店に向かって歩いていた。

「聞いたんだけど、来月の短期公演のオファーを断ったって本当?」

「あの劇団は僕をエヴァの頃の固定イメージで捉えてるから、新味が出せないんだよ
だから、決してアスカの心配するような理由じゃ無いよ」

「そうね 14歳の頃のシンジのイメージと今のイメージは違うしね」
アスカはくすりと笑って言った。

「僕はそんなに変わったとは思って無いけど……」
シンジは憮然とした表情で答えた。

「あの頃は夕方になると顎におヒゲが生えてきたりしなかったわよ」
「アスカがそれが嫌いなら永久脱毛しようか?」
シンジはおずおずと問いかけた。

「冗談よっ」 アスカは少し前まで結核で入院していたとは思えない程いきいきしていた。


喫茶店に到着し、食後のコーヒーを飲んでいる時、シンジの携帯電話の着信音が鳴り響いた

「はい、碇ですが……あ、ターム先生ですか おはようございます
え、アスカですか? ええいますよ 代わりましょうか? ええ はい わかりました」

「どうかしたの?」
シンジが携帯を切るのを確認してアスカが話しかけた。

「アスカの再デビュー作品が決まったから、一度事務所に顔を出してくれだってさ」
シンジは我が事のような笑みを浮かべて言った。

「本当?」 会話からうすうすそうでは無いかと思っていたものの、
いざシンジから告げられると、アスカは喜びで舞い上がってしまいそうになった。

「おめでとう アスカ……だけど、これからが本当の正念場だよ」

「うん……ありがとうシンジ……」 アスカは涙を堪えて瞬きをしながら答えた。


数分後 朝食を終えた二人は喫茶を出て裏庭歌劇団の団員用駐車場に向かっていた。

「シンジの今日の予定は?」 アスカは少しの期待を込めて問いかけた。

「うん ターム先生の所に顔を出してから、打ち合わせが一件あるけど、11時半ぐらい
には終わると思うよ」 シンジは車のドアを開け、シートに腰を埋めながら答えた。

「私は10時からダンスのレッスンで一時間で終わるの……
ねぇシンジ…… お昼私のマンションに食べに来ない? 今朝からカレーを仕込んでるの」

「ご招待ありがとう アスカのマンションには退院の時以来行って無かったね
少し時間は流動的だけど30分ぐらいの誤差で治まると思うから」

「うん 待ってるわね」 アスカはそう言ってシンジが車を出すのを手を振って見送った。


午前11時45分…… アスカはマンションの自室で鍋に入ったカレーをかき混ぜていた。

「シンジは甘口と辛口どっちが好きかな……取り敢えず中辛でいいかな」
アスカはおたまでルーをすくって味の調整をしていた。

ピンポーン その時、待ちに待ったドアホンの音が鳴り響いた。

「はーい!」 アスカは玄関に向かって走り、ロックを解除した。

「適当に飲み物買って来たよ」 シンジはコンビニの袋を手にして笑みを浮かべた。

「まだ少しちらかってるけど、入って……」

「お邪魔します……」 シンジは女性の部屋に一人で入るせいか少し緊張していた


「もうカレー出来るから」 
アスカはシンジをソファーに座らせてカレーの最終調整をしていた

「ターム先生から資料貰って来たけど……アスカの再デビューなんだけど、
凄い事になりそうなんだ……」 シンジは鞄から封筒を取り出して言った。
「凄い事ってどんな事なの?」
アスカは火を止め、カレー皿にご飯を盛りながら答えた。

「裏庭歌劇団の冬季公演”2015”の主役に選ばれたんだよ」
シンジは少し興奮しているのかカレーを食べる前だと言うのに汗を拭きながら言った。

「私が結核にかかる前に企画出てた、尾崎先生演出作の2015? じゃシンジも一緒に
主役なんじゃ無いの? またエヴァものやるなんて思っても無かった……」
「それが、シンジ役は二期下の後輩がやるんだよ 僕も別件で予定入ってたしね」

「ちょっと残念だけど、再デビューが主役級なのはシンジとターム先生のおかげね」

「けど、冬季公演って事は、また外野の騒音が喧しくなりそうね……
ま、そんな事気にしちゃいられないんだけど」
アスカはこれから起こる事態を予期していたのかも知れなかったが、
予想を上まわる事態が二人を待ち受けている事に気づくのはすぐであった。


二人が食事を終え、帰るシンジを見送りに駐車場までついて来たアスカの前に
数十人が立ちはだかったのである。

数秒後には数十のフラッシュが焚かれ、二人は眩しさに目を開ける事も出来なかった。

ようやく視力が回復した頃にはレポーターがアスカとシンジの周りに密着し、
マイクを突き出して来た。

「アスカさんが冬季公演に主役で再デビューするとの事でここに来たのですが、
お二人は付き合っているのでしょうか?」
アスカのコメントを取りに来ただけだったが、予想外にシンジとのツーショットを目撃
してしまったレポーターが口早に質問を浴びせかけて来た。

アスカはこの騒ぎの中、勇気を出してシンジにキスしなくて良かったと思っていた(笑)




2015はThe Epistles にて公開中 予習しておくように(笑)


御名前 Home Page
E-MAIL
作品名
ご感想
          内容確認画面を出さないで送信する


どうもありがとうございました!


第10話 終わり

第11話 に続く!


[第11話]へ

[もどる]