その後、ショッピングセンターを出た二人はセンター内の駐車場に向かおうとしていた。
「それじゃここで待っててよ。車を寄せて来るから」
 そう言ってシンジはアスカを残して駐車場に行ったので、アスカは荷物を手にシンジの
車を待っていた。

「やけに早かったわね?」
 二分ぐらいして、アスカの待つ場所に車が止まったので、アスカは振り向いた。
「な、何よ、あんた達……」
 だが、振り向いたアスカを待ち受けていたのは、黒いスーツを着た男二人であった。
「惣流アスカ・ラングレーさんですね……我々とご同道願いたい」


7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第2話「襲撃」


「な、何なのよ、あなた達」
 アスカはあまりの事態に思わず後ろずさった。
「御安心下さい……貴方に危害を加えるつもりはありません……ただ……」
 黒服の男がそこまで言った時、駐車場の中からシンジの車の音が聞こえてきた。アスカ
は制止する黒服の男を振り切り、荷物を手に握りしめたままシンジの車に駆け寄った。
「アスカ、早く乗って!」
「ありがとう、シンジ! 助かったわ」
 アスカはシンジの車の助手席に潜り込み、ノート型端末の入ったポーチを足下に置き、
ショッピングセンターで買った荷物を後部座席に放り込んだ。
「裏口から出るよ!」
 シンジは車をバックさせ駐車場の構内でUターンし、男達の待ち受けている出入り口と
は逆の裏口に向かって車を進めた。完全無料の駐車場で無ければ袋の鼠であった事だろう。

 二人を乗せた車は平日の昼間という事で閑散としている駐車場の構内を駆け抜け、幾つ
かある出入り口の中でも最も交通量の多い幹線に近い出口を選んだ。
「助かったか」
 出口が見え、外の光が差し込んでいるのを見て、シンジはまるで吸った息を吐くのを忘
れていたかのように大きく息を吐いた。
 だが……彼等の手はこちらの想像以上に長かった……。
「車を止めて出てくるんだ!」
 出入り口では黒服の男が銃を手に立ちはだかっていた。
「くっ!」
 シンジは慌ててバックさせようとしたが、追って来ていたらしい黒塗りの車が退路を断
った。
「さすがは、碇の息子……咄嗟の機転は利いているが、そこまでだ」
 出入り口で待ち受けていた男が助手席の窓に銃口をコンコンと当てて威嚇した。今の状
態で抵抗して本当に撃って来る確率がどれぐらいのものかは分からない為、抵抗の意志が
無い事を告げる為、シンジはウインドウを降ろした。
「恨むのなら研究の成果を私物化しようとする両親を恨みな。同道して貰おう」
 黒服の男はそう言って、シンジ達の車に銃を手にしたまま後部座席に乗り込もうとした。
「うぐっ!」
 男が乗り込もうとした時、背中に何かが飛来して命中した。
「な、なんだ」
 呻く男が振り向くと、今し方自分に飛んで来たのはスポーツバッグである事に気づいた。
スポーツバッグが何故自分を呻かせる程の衝撃を与えたのか、男は混乱を隠せなかった。
「鉛入りのサポーターが4つ入っているんでね……」
 声の主は先ほどまで無人かと思われた、情報端末のある公衆電話ターミナルのBOXか
ら現れた紺色のジャージを着た青年であった。
「邪魔をする気か!」
 さすがにプロの人間らしく黒服の男は銃を取り落としておらず、手にしている銃を向け
ようとした時、謎の青年はすでに跳躍に入っていた。次の瞬間、謎の青年の跳び蹴りを食
らった黒服の男はシンジの車の後部に後頭部をしたたかにぶつけて昏倒した。
「映画の撮影だったら悪いな……」
 謎の青年は軽口を叩いて男から銃を取り上げ、スポーツバッグを拾いシンジ達の車の後
部座席に乗り込んだ。
「車を出すんだ! 窓も閉めた方がいい!」
 謎の青年はシンジにそう告げた後、手にした拳銃に安全装置をかけた後、弾倉を取り出
した。
「本物だったのか……」
「な、何なのよ、あんた……」
 アスカは謎の青年を叱責せんばかりの勢いで問いかけた。
「アスカ、この方は僕たちを助けてくれたんだから……」
 幹線道路に合流した直後だったので、シンジは運転に集中しながらもアスカに注意した。
「シンジも覚えてくれてないのか……ま、あまり話した事は無かったけどな……」
 謎の青年は追って来る車が無いか後ろを見ていたが、完全に追っ手を撒く事が出来た事
を確認して、振り向いて言った。
「え?」
 自分の名前を謎の青年が知っていた事にシンジは驚きを隠せなかった。
「中学二年の一学期の中間試験の時、俺が落としてしまった消しゴムを拾って貰った事が
あるんだけどな……」
 謎の青年は恥ずかしそうに頬を掻きながら呟いた。
「じゃ、中学校の時の同級生って事?」
 アスカも同じクラスだったが、四年ほど前の彼の姿を思い浮かべる事は出来なかった。
「いくら何でも、知りもしない赤の他人を今回みたいに助けたりはしないよ……」
「そうかな……もし僕達じゃ無くても貴方はきっと助けたと思うよ。多分ね」
「ま、シンジと惣流さんだと気づいたのはスポーツバッグを投げてからだったけどな」
 謎の青年は照れ臭そうに頬を掻いた。
「警察に電話するなら携帯を貸してくれないか? 姉が警察官だし、相談に乗ってくれる
と思うが……」
「ちょっと待ってくれないかな。今思い出したんだけど、犯人が父さんの事について何か
言ってたんだよ……だから、父さんに連絡してみる」
「それでもいいけど……これ、不法所持だよな……窓から捨てる訳にもいかないし」
 謎の青年は安全の為か銃のチャンバー(薬室)内に残っていた弾丸を排出し、弾倉にそ
の弾丸も加えて弾倉を装填し、安全装置がかかっているのを確認して言った。
「なんか銃の扱い手慣れてるみたいだけど、詳しいの?」
 アスカはその模様をミラー越しに見ており、不気味に思って問いかけた。
「いや、空手部の先輩がサバイバルゲームってのが好きで、人手が少ない時に拉致される
から最低限の事は知ってるだけだ」
 謎の青年は銃をスポーツバッグに入れながら応えた。
「え……と、ごめん、名前覚えて無いんだけど」
 シンジは道の脇にあったDIYショップの駐車場に車を停めて携帯を取り出した時、お
ずおずと謎の青年に問いかけた。
「吉田繁智(よしだ しげとも)。第三東京大学教育学部の二回生。高校は空手部の実績
のある第三高校に行かされてたから中学の時の事は忘れられても仕方無いかな」
 吉田と名乗った青年は淡々と答えた。

そして、運命は動き始めた……




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第2話 終わり

第3話 に続く!


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