「え……と、ごめん、名前覚えて無いんだけど」
シンジは道の脇にあったDIYショップの駐車場に車を停めて携帯を取り出した時、お
ずおずと謎の青年に問いかけた。
「吉田繁智(よしだ しげとも)。第三東京大学教育学部の二回生。高校は空手部の実績
のある第三高校に行かされてたから中学の時の事は忘れられても仕方無いかな」
吉田と名乗った青年は淡々と答えた。
そして、運命は動き始めた……
7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第3話「地下世界」
「ほんとにここでいいのかな……」
シンジは父に指定された場所に車を止めて言った。
「場所は合ってると思うけど」
アスカは携帯端末を取り出して現在位置を確認した。
二人が心配になるのももっともで、シンジの父、碇ゲンドウに指示された場所と言うの
が第三新東京市の庁舎群の外れにある、国立の研究所らしい施設の裏門だからであった。
「セキュリティも凄そうだな。あっ、今カメラがこっち向いたぞ」
吉田がそう告げたのと時を同じくして、固く閉ざされていた裏門の扉が開いたので、シ
ンジはエンジンをかけた。
シンジがおそるおそる車を敷地内に入れると、一見倉庫のような建物の閉ざされたシャ
ッターが巻き上がって行った。同時にスロープの照明が招かれるかのように点灯していき、
実はここが倉庫では無く、隠された地下駐車場への入り口である事が明らかになった。
「ここに降りろって事か……」
シンジはアスカと吉田の方をちらっと見て、アクセルを踏み込んだ。
緩いカーブを曲がった頃、背後でシャッターの閉じられる音が聞こえた。シンジの父親
の職場という事だから危害が加えられる心配は無い筈なのだが、さすがに三人とも雰囲気
に飲まれたのか、唾を飲み込む音が断続的に続いた。
一度に一台しか通れないような狭い地下通路だけに、シンジが慎重に車を運転したせい
もあり、車が三台止まっている地下駐車場にたどり着くのには三分以上かかっていた。
「こちらにどうぞ」
警備員らしい男が現れ、シンジ達の車を駐車場の一角に誘導した。
「シンジの父親がどんな人物かは知らないが、重要な機密に関わる仕事をしているんだろ
うな……」
吉田が感慨深そうに言った。
「小父様とはたまに会うけど、そんな感じには……」
「父さんは仕事の事はあまり言わないけど、そんな機密って程の事は……」
「だってあの警備員、特殊警棒じゃ無くて拳銃を所持してるぜ?」
吉田のその言葉は二人に冷や汗をかかせるのには充分であった。
「銃といえば、あの銃はどうしたの?」
「スポーツバッグに入れてる」
そう言って吉田はスポーツバッグを手に車から降りた。シンジ達の安全確保の為、警備
員を牽制するのが目的であり、スポーツバッグにいつでも手を突っ込めるようにしてシン
ジとアスカが車から出るのを待ち受けていた。
吉田のその牽制に気づいて無い訳は無いだろうが、警備員は表情一つ変える事無く、三
人をゲートらしき所に連れていった。警備員がカードをスロットに通し、暗唱番号を打ち
込むと、合金で作られたかのような分厚いゲートが開いた。
「どうぞ」
警備員が丁重にシンジとアスカをゲートの向こうに案内した。吉田も二人の後を追おう
とゲートを超えようとした時、アラート音が鳴った。
「ここは空港だったのか?」
吉田は肩をすくめて苦笑した。
「失礼ながら、中を改めさせて貰って宜しいですか?」
警備員が慇懃無礼
「残念だが重要な証拠が入っているので余人に預ける訳にはいかない……シンジの腰の
ベルトに反応しなかったと言う事はX線照射と言う所か……ならば中身は分かっている
筈……俺が持っていては危険だと言うならばこうしよう……」
吉田はスポーツバッグをシンジに放り投げた。
「宜しいでしょう……では」
警備員は先頭に立って通路を歩き始めた。複雑な通路を一分程歩き、エレベーターらし
い場所の前で警備員が立ち止まった。
「お連れしました」
カードや暗証番号では無く、マイクでの通話による認証が行われ、地下からエレベーター
がせり上がって来る音が響いた。
「ねぇ、さっきからかなり降りてると思うけど、一体地下何階まであるのかしら」
エレベータの下降する速度は遅くは無く、むしろかなり早い部類だと言えるのに、いつ
まで経っても到着しないので、アスカが不安そうにバッグをかき抱いた。
「…………」
だが、警備員は一言も話そうとはしなかった。
「こっちの面 ガラス張りなんだね どうしてだろう……」
あまりにも高速で降下しているのと、エレベーターシャフトにざらつきや継ぎ目一つ無
いので、かなり経ってからシンジが気づいて言った。
「…………」
吉田はガラス張りの面を凝視したまま一言もしゃべらなかった。
「ちょっとどうなってるの? もう二分ぐらい降りてるんじゃないの?」
アスカが不安のあまり恐慌を起こし始めた時、ガラス張りの面から目映いばかりの光が
差し込んで来た。
「なっ何?」
さっきまでの薄暗さに眼が慣れていた為、アスカは目を細めて言った。
「地下世界……第三新東京市の地下にこんな所が……」
ドーム状にくり抜かれたかのようなジオフロントの景色にシンジとアスカは見入ってい
た。
興奮さめやらぬ内にエレベーターは終点に到着し、三人は警備員の誘導に従い、動く歩
道に乗り込んだ。
「こちらでお待ちです」
数分後、三人は会議室らしい部屋の入り口に到着した。
「父さん?」
シンジが扉を押し開けると、薄暗いフロアーが廊下の光で照らし出された。
「さ、どうぞ」
警備員が三人を促すので、仕方なく三人は部屋の中に足を踏み込んだ。背後で扉が閉ま
った次の瞬間、薄暗かった室内が光に包まれた。いや、正確には外からの光を遮断してい
た窓ガラスが電気を通され、本来の光が室内に満たされたのであるが、三人はそんな事に
気づく余裕など無かった。
部屋の正面にはバスケットのコートよりも巨大な斜めのスクリーンに何かが投影されて
おり、眼下には巨大な三台のコンピューターらしい物体と、それを取り巻くように大勢の
オペレーター達がキーボードを叩いていた。
三人が窓枠に手を掛けて窓下の風景を見ていると、背後で機械音が響き、下から人の乗
った枠の無いエレベーターのようなものがせり上がって来た。
「ようこそ、特務機関NERVへ……」
無言で突っ立っている碇ゲンドウの側にいる、旧姓赤木リツコが笑みを浮かべて言った。
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よくやったな・・シンジ
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どうもありがとうございました!
第3話 終わり
第4話
に続く!
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