三人が窓枠に手を掛けて窓下の風景を見ていると、背後で機械音が響き、下から人の乗
った枠の無いエレベーターのようなものがせり上がって来た。
「ようこそ、特務機関NERVへ……」
無言で突っ立っている碇ゲンドウの側にいる、旧姓赤木リツコが笑みを浮かべて言った。
7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第4話「真実の重み」
「父さん……義母さん……これは……」
「おじさま おばさま……」
シンジとアスカが呆然としている側で、吉田は顔色一つ変えずに突っ立っていた。
「あなた達が成人したら伝えるって惣流さんとも話してたんですけどね……」
リツコは少し憂いを秘めた表情で語り始めた。
「待て……不安要素は排除しておかねば……」
碇ゲンドウはそう言って指を鳴らした。次の瞬間、銃を持った二人の警備員が室内に駆
け込んで来た。
「と、父さん!」
シンジが顔色を無くして父に抗議しようとしている間に、吉田は二人の警備員に左右か
ら拘束されかかっていた。
「ちょっ、おじさま! 彼は私たちを助けてくれたのよ!」
あっと言う間に手錠までかけられた吉田を見てアスカは鼻白んだ。
「おまえ達が襲われた時、偶然そこにいて助けてくれたとか言ったな……あまりにも都合
が良すぎるとは思わんか? その襲撃者とグルになってここに潜入する為の芝居を打った
のでは無いのか? どこのエージェントか知らないが、舐めた真似をしてくれる……連れ
て行け」
ゲンドウの合図で、吉田は左右から確保された状態で部屋を出ていこうとしていた。
「吉田君は中学校の時も同じクラスで同じ大学なんだ。そんなエージェントとか言う存在
じゃ無いよ、父さん」
父を単なる普通の会社の法務担当役員だと思っていたシンジはようやくショックから立
ち直って抗議したが、警備員達は躊躇する事無く吉田を部屋から移送させていった。
「私の権限で調べさせて貰ったけど、今現在、第三新東京大学の教育学部に吉田繁智なる
生徒は在籍していないのよ……残念ながらね」
吉田が部屋を出たのを確認して、リツコがファイルのようなものを取り出して言った。
「それ、どういう事だよ……」
シンジはここに来て初めて吉田に疑念を抱いた。
「それで追跡調査したんだけれど、吉田繁智なる人物は中学を卒業してすぐに事故死して
いるのよ……工事中の建物から鉄材が落下して、そこに通りかかった幼稚園児を助けよう
としてね……その幼稚園児は落下地点から突き飛ばされて助かったけど、吉田繁智は死亡
したわ。だから彼は吉田繁智ではありえないの。分かって貰えたかしら?」
リツコは淡々と事実を述べていった。
「死んでいる? じゃ、彼は何なのよ。訳わかんない」
一日の間に奇妙な事が重なったので、頭脳明晰で知られるアスカもさすがに混乱してい
た。
「シンジ……その鞄を渡すんだ。彼の持ち物だろう?」
ゲンドウは一歩前に進み出て言った。
「そうだけど……どうするの? 父さん」
「襲撃者の持っていた拳銃が入っていたのだろう? 彼の指紋が付着しているかも知れな
いし、襲撃者の特定にも必要だ……分かってくれるな?」
「…………吉田君をどうするつもりなの? 父さん」
ゲンドウに鞄を渡しかけた所でシンジが疑問を投げかけた。
「彼が吉田某では無い事は確かのようだが……まぁ、色々と調査はさせて貰う」
ゲンドウはそう言いながら、所在無さげに顎髭に手をやった。
「それより、何故私が襲われないといけないんですか? 襲われる理由なんか無いです」
アスカが誘拐されかけた時の事を思い出して激高した。
「それは……あなたの御両親の研究の成果があまりにも大きすぎたからよ……惣流夫妻は
それぞれドイツとアメリカの大学の客員教授って事になってはいるけど、実はとても大き
なプロジェクトを実行する為の隠れ蓑なの。アスカちゃんが襲われた事もあるから、来週
にでも帰国する事になっているわ……私が第三新東京大学の助教授になったのも、そのプ
ロジェクトのせいなのよ……」
リツコの言葉を聞き、アスカは打ちのめされた。実の娘にも真実を告げず、外国で秘密
のプロジェクトに関わっていたと聞かされては、アスカの動揺も当然の事であった。
「もうおまえ達も無関係ではいられないだろう……全てを話す事にしよう」
そう言ってゲンドウはシンジとアスカを会議室のような部屋に連れていった。
「全てはセカンドインパクトで南極に隕石が衝突した時から始まったの……衝突した巨大
な隕石は地球の地軸をも狂わせ、溶けた南極の氷によって水位が上昇したのは知っている
わね……ようやく復興が成って、その隕石の中に未知の生命体が何種類も存在している事
が分かったの。研究を開始して10年を経て、ようやくその生命体のDNAに似た存在の
解析が終わったのだけど、その生命体の遺伝子の一部を遺伝子治療の形で人間に適用する
事で、人類はとてつもない進化を遂げる可能性が見い出されたの……アスカちゃんも生命
理工学部ならその意味が分かるわよね」
そこまで言ってリツコはアスカの顔色を窺った。
「人類の限界を超えるって事? けど、異生命体のDNAを人類に適用なんて危険じゃな
いの?」
「異生命体のDNAを解析して、人類のDNAをそれに近づけると言う訳だから問題は無
いとは言えないけど、少ないはずよ……使徒と呼ぶその生命体の持つ能力があまりにも強
力だから、その存在を知った一部の機関、結論から言えばプロジェクトに参加出来なかっ
た国がその秘密を入手しようとしているの……別に私達はそれを自分達だけのものにする
つもりは無いのだけれど、その技術の流出にはコントロールが必要なの」
アスカとシンジが説明を受けている頃……薄暗い部屋の中で煌々と輝くディスプレイを
一人の女性が見つめていた。
「いた……まだ準備が整ってないと言ったのに無理をするから……」
蒼い髪の女性は監視カメラに映し出された吉田と警備員を見て溜め息を漏らした。
「警備員のリストが必要ね……どこから潜ればいいかしら……」
蒼い髪の女性はそう呟きながら、黙々とキーボードを叩き続けていた。
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よくやったな・・シンジ
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どうもありがとうございました!
第4話 終わり
第5話
に続く!
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