アスカとシンジが説明を受けている頃……薄暗い部屋の中で煌々と輝くディスプレイを
一人の女性が見つめていた。
「いた……まだ準備が整ってないと言ったのに無理をするから……」
蒼い髪の女性は監視カメラに映し出された吉田と警備員を見て溜め息を漏らした。
「警備員のリストが必要ね……どこから潜ればいいかしら……」
蒼い髪の女性はそう呟きながら、黙々とキーボードを叩き続けていた。
7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第5話「脱走」
「さぁ、早く歩け」
「あまり手間をとらせてくれるなよ」
吉田は逃げ出す隙も無いように左右を警備員で囲まれていたが、チャンスが到来するの
を待ち続けていた。自分がこのまま投獄でもされたら全ての計画が崩れる事を考えると、
自分を支援している筈の人物がそれを放置するような人間では無い事は分かっているが、
準備に掛かる時間を考え、牛歩戦術を続けていた。
両手には手錠がかけられ、脇を警備員二人に掴まれているものの、この二人の縛めから
脱する事は不可能では無いのだが、警備員が自動小銃まで持っていてはリスクの方が遙か
に大きかった。
TRRRR
吉田が待ちわびていたコール音が、警備員の一人の持つ無線通話機から流れ出した。
「ん? 何だ?」
「ちょっと待て」
右側に立つ警備員が吉田から目線を外し、腰の無線通話機に手をやろうとした瞬間、吉
田は警備員の左足を自分の右足で絡めてバランスを崩し、次に手錠で繋がれたままの両手
を使って左にいた警備員に裏拳をかました。警備員は鼻骨を折られて鼻血を噴きながら崩
れ落ち、その警備員が地に着くまでの間に吉田は右の警備員の延髄に両手を使ったチョッ
プをかまして失神させ、その警備員から無線通話機を奪った。
「俺だ! 今すぐやってくれ!」
吉田はどんな意味があるのか無線通話機に向かって叫んだ。
* * *
「おまえ達も狙われているとあっては、解決するまでは大学に行かせる訳にもいかん……
幸いにももうすぐ夏休みだろう……安全が確認出来るまではこの施設にいなさい。核を
ダース単位ででも撃ち込まれない限りはここが一番安全だ」
「ですが、叔父様。夏休みまでには単位を取得するのに出席を欠かせない講義もあります
し……」
「その心配はいらん……第三新東京大学はプロジェクトの中核だ。単位の心配などいらん
よ。その気になれば卒業資格を与える事だって出来る」
そんな事は問題にもならんとばかりにゲンドウは言い放った。だが、こうして冷徹な物
言いをしているものの、そういった諸問題への検討はもう済ませている辺りはシンジの
”父親”であった。
「生命理工学部に入ったアスカちゃんが、このプロジェクトに関わる事は、アスカちゃん
にとってもいい勉強になる筈よ。お父様もお母様もきっとお喜びになるわ……」
碇リツコはアスカへの懐柔を始めた。
「夏休みに司法試験対策の合宿とか言っていたが、それもキャンセルだ。対策がしたいな
ら顧問弁護士の所にいる若い居候弁護士を呼んでマンツーマンで勉強させる! だから、
今だけは言う事を聞いてくれ、シンジ」
ゲンドウは真摯な表情を浮かべてシンジに懇願した。
「わかったよ父さん……アスカもそれでいいよね?」
シンジがアスカに問いかけると、アスカは黙って頷いた。
「居住区に案内するわ」
リツコは椅子から立ち上がって二人を案内した。
そして、シンジとアスカがリツコに伴われて退出した後……
「碇司令! 警備部から伝達です! 吉田繁智なる人物に銃器を奪われ、逃走されまし
た!」
部屋内に20代前半の若いオペレーターらしき女性が駆け込んで来た。
「何っ どういう事だ! 警備員から逃げ出したのか!? だがジオフロント内は完全
にモニター出来る筈だ! あるいは熱源チェックで一人づつ確認して行けばいい!」
ゲンドウはさすがに焦りの色を隠す事が出来なかった。
「数千のモニター映像はMAGIがチェックしましたが、不審者は映っていません!」
「そんな馬鹿な……仮に内通者がいてもそんな事が出来る筈が無い……様々な方法で調査・
追跡を急がせてくれ。刃向かうようなら発砲も許可するが、殺してはならんぞ!」
ゲンドウは汗を拭いながら吐息をついた。
「やはりエージェントだったか……奴の所持品を急いで調べさせろ! 最優先事項だ!」
ゲンドウは研究班にも連絡をして席を立った。
「凄い部屋だね……」
ジオフロント内にそびえ立つ職員専用のホテルのロビーでリツコから部屋のカードキー
を預かり、リツコと別れて最上階に来た二人は、部屋から望むジオフロントの景観を見て
溜め息をついていた。
「カード、一枚しかくれなかったけど……その、小母様、私達の事を認めて下さってるの
かしら」
スイートルームと言ってもいい広さの室内には複数のベッドルームやジャグジー付きの
風呂、更にサウナすら備えており、二人を圧倒させるには充分であった。
「それじゃ、一番景色のいいこの部屋をアスカが使いなよ」
スイートルームの西隅はホテルの角の部分になっており、南側と西側に窓があり、素晴
らしい景観を誇っていた。ちなみにこのベッドルームはダブルベッドであったが、シンジ
はその事に未だ気付いてはいなかった。
「僕は入り口に近い所のベッドルームを使うから」
そう言ってシンジは手荷物を手に部屋を出ようとした。
「待ってよ……シンジ」
アスカは素早くシンジの服の裾を掴んだ。
「どうかしたの? アスカ」
シンジは出来るだけ平常心を心掛けて振り向いた。
「私はずっと前から……シンジと……馬鹿」
そう言ってアスカはシンジに抱き付いた。
その頃、蒼い髪の女性がいた薄暗い部屋には煌々と明かりが点され、吉田は奪取した銃
器の手入れに余念が無かった。
「予備弾倉も無いんじゃ、二丁も持ち歩く必要は無いな」
吉田は一丁の自動小銃から弾倉を抜き、装填されている弾数を確認して言った。
「また、潜り込むつもりなの? 今度こそ、殺されるわよ」
蒼い髪の女性はキーボードを叩きながら声のトーンを変えずに吉田に問いかけた。
「あそこまで怪しまれるとは思って無かったな……しかし早くシンジ達と接触しないと、
第三使徒はもう活性化しているのだろ? 今の彼等を守れるのは俺だけだ」
「どうして、そこまで彼等を守ろうとするのかしらね」
紅い瞳をたたえた謎の女性はキーを叩くのを止めて振り向き、吉田に好意的な笑みを浮
かべていた。
「俺をそういう存在にしたのは、あんた達だろうに……」
吉田は自動小銃を構えて言った。
ジオフロントへの侵入・脱出は手引きがあっても難しいとゲンドウすら言うのに、何故
吉田は既に脱出を果たしているのであろうか……また、謎の蒼髪の女性の正体とは?
そしてシンジとアスカを付け狙う謎の存在とは……謎が謎を呼び、彼等の定めを螺旋の
ように取り巻いて行く……
シンジ・アスカ・吉田…… 彼等の運命や如何に!
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正体って……バレバレじゃん
ウホッ いい展開
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
内容確認画面を出さないで送信する
どうもありがとうございました!
第5話 終わり
第6話
に続く!
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