その頃、蒼い髪の女性がいた薄暗い部屋には煌々と明かりが点され、吉田は奪取した銃
器の手入れに余念が無かった。
「予備弾倉も無いんじゃ、二丁も持ち歩く必要は無いな」
吉田は一丁の自動小銃から弾倉を抜き、装填されている弾数を確認して言った。
「また、潜り込むつもりなの? 今度こそ、殺されるわよ」
蒼い髪の女性はキーボードを叩きながら声のトーンを変えずに吉田に問いかけた。
「あそこまで怪しまれるとは思って無かったな……しかし早くシンジ達と接触しないと、
第三使徒はもう活性化しているのだろ? 今の彼等を守れるのは俺だけだ」
「どうして、そこまで彼等を守ろうとするのかしらね」
紅い瞳をたたえた謎の女性はキーを叩くのを止めて振り向き、吉田に好意的な笑みを浮
かべていた。
「俺をそういう存在にしたのは、あんた達だろうに……」
吉田は自動小銃を構えて言った。
7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第6話「使徒」
「碇司令……彼の持ち物の解析が済みました」
職場では妻としての顔を見せず、研究主任としての態度を保持して来た碇リツコだが、
他に誰もいないせいか声のトーンは少し落ちていた。
「ふむ……」
ゲンドウはリツコからデータの入ったカードを受け取り、執務室の端末で吉田の持って
いた物の解析データを表示させた。
「ぱっと見には特別異常が無いようなのですが、気になる事が一つ……」
「気になる? 科学者らしく無い言葉だな……どこが気になるのかね?」
「この鞄なんですが、製造年月日が2014年3月となっています。しかし、その時期に
は既にこの会社は債務超過が露見して整理されているので、鞄を造れるはずが無いのです
が……使っている材料等には不審な点が見あたらないので……」
「ふむ……しかし、吉田繁智なる人物では無い事は確かだろう……監視カメラの映像から
正体を割り出す事は出来んか?」
「それが……監視カメラのデータの内、彼が映っていたと思われる部分だけが削除されて
いるのです……管理パスワードを持っていてもMAGIによるチェックでログが残るとい
うのに、どうやったものかと……」
「もしや、ゼーレの回し者では無いのか?」
「それは……彼が使徒だと言う事ですか?」
「ああ……ゼーレは私達に研究材料として第一使徒を提供したが、他にも隠し持っていた
のかも知れん……潜入している加持君の話では、既に人体との融合も行われている可能性
もあると言う……シンジとアスカが狙われたのも、二人が適格者だからかも知れん……」
「それじゃ、プロジェクトに加われなかった日本の企業を、ゼーレが影で操っていると言
う事なんでしょうか……」
「国内で適格者は20名程度しか発見されていない……その殆どを保護下に置いてはいる
が、未だ真相を明かしてはいない……その方針を転換するべきかも知れん……彼等適格者
は我々人類の希望たり得るが、同時に人類の未来を脅かす存在……使徒になる可能性をも
秘めているのだから……」
「シンジとアスカちゃんにも協力して貰いたいけれど……アダムの子、すなわちエヴァと
なる事は人間を捨てる事……そんな事を強要出来る訳が……」
ゲンドウとリツコは立場を忘れ、子供達の事に思いを寄せていた。
* * *
空調の利いた部屋の広いベッドで事を終えた二人は未だ身体のほてりを抑えきれず、ひ
んやりとしたシーツに身体を預けていた。
「シャワー……浴びて来る」
シンジの躰に半身を押し付けていたアスカがベッドから立ち上がって言った。
「なら、僕も一緒に……」
シンジはアスカの手を取って懇願した。
「駄目……まだ恥ずかしいから。お風呂場はもう一つあるでしょ?」
アスカは染みのついたベッドのシーツを剥いで身に纏いながら言った。
「分かった、じゃそうするよ」
シンジは気恥ずかしさをごまかす為か鼻を掻いて言った。
シンジは脱ぎ散らかしていたトランクスを身に付け、もう一つある風呂場に向かった。
「こうなるのを見越してこんな部屋に泊まらせたのかな……」
シンジは風呂場でボディシャンプーを手に取りながら、ふと呟いた。
「一応婚約者なんだし……認めてくれてるのかな」
シンジもどんな顔してアスカと話すべきか照れくさくて分からなかったので、すぐ部屋
に戻る気にならず、頭を洗い始めていた。
* * *
「碇司令! 第二カートレイン入り口から侵入者です!」
オペレーターの一人が執務室に駆け込んで来てゲンドウに報告した。
「何! 侵入者だと? 映像は回せないのか!」
「動きが速すぎるのと、何らかの妨害が為されている模様です! 既に死傷者10名!」
「ジオフロントへのゲートを全て封鎖しろ! こちらにはまだエヴァがいないと言うのに」
そこまで言ってゲンドウはオペレーターを下がらせた。
「NERVの防備態勢はどうなっているんだ。こうも翻弄されるとは……やはり使徒か」
「使徒なのでしょうか? 我々の技術では融合がまだ不完全なのに……」
「恐らくな……使徒だとしたら対戦車バズーカを持ってしても止められはしない……AT
フィールドの前にはどんな攻撃も無力だ……だがしかし、為すがままにされる訳にはいか
ん。人類の未来は何としても守らねば我らに明日は無い!」
ゲンドウは焦燥感に駆られながらも、冷静に事態を受け止めていた。
* * *
「もう始まったみたいよ? 間に合うかしら……」
薄暗い部屋の一室では、蒼い髪の女性が端末を操作してNERVにハッキングし、現在
の状態を伝えた。
「間に合わせて見せるさ……何としてもな」
「…………ホテルの一階ロビーでいいかしら」
「ああ、頼む」
吉田は奇妙な機械で囲まれたシートの中心で、銃を構えたまま待機していた。
「こんな銃だけでどうにかなる相手でも無いが、シンジとアスカを助けに行くか……」
「碇シンジが主体なの? あなたは前の世界で惣流アスカと……」
「言うな! 所詮俺達はこの世界では異邦人だって事さ……」
吉田はその言葉を言い終えてすぐ、かき消すかのようにその姿を消した。
「なら、何故そんなに必死に守ろうとするのかしら……」
蒼い髪の女性は理解出来ないと言う体でキーボードを叩き続けた。
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第6話 終わり
第7話
に続く!
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