「もう始まったみたいよ? 間に合うかしら……」
 薄暗い部屋の一室では、蒼い髪の女性が端末を操作してNERVにハッキングし、現在
の状態を伝えた。
「間に合わせて見せるさ……何としてもな」
「…………ホテルの一階ロビーでいいかしら」
「ああ、頼む」
 吉田は奇妙な機械で囲まれたシートの中心で、銃を構えたまま待機していた。
「こんな銃だけでどうにかなる相手でも無いが、シンジとアスカを助けに行くか……」
「碇シンジが主体なの? あなたは前の世界で惣流アスカと……」
「言うな! 所詮俺達はこの世界では異邦人だって事さ……」
 吉田はその言葉を言い終えてすぐ、かき消すかのようにその姿を消した。
「なら、何故そんなに必死に守ろうとするのかしら……」
 蒼い髪の女性は理解出来ないと言う体でキーボードを叩き続けた。


7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第7話「異邦人」


「ふぅ……今日はいろんな事がありすぎだよ……」
 シャンプーまで完備だったので頭も洗ったシンジは、ドライヤーで頭を乾かしながら考
え事をしていた。
 大学の帰りに誘拐未遂事件、それを助けに入った吉田……そして知らされていなかった
父と母の仕事、そして先ほどの蜂蜜のように甘い時間……シンジの心を惑わせるには充分
だった。

「私とした事が……今度からはちゃんとさせないと……まだ早いんだし……」
 大概の物は揃っていると言っても過言では無いこの特別室だが、先程の二人に最も大切
な物が完備されて無く、アスカは充足感と微かな危機感を交互に味わいながら寝室に戻っ
て来た。
「あ、アスカ、おかえり」
 アスカが下着姿でベッドルームに戻って来ると、シンジはベッドに備え付けのシーツを
張っている所だった。
「もうそろそろ、晩ご飯かしらね……」
 ジオフロントだけに現在の時間が分かりづらく、アスカは窓際でブラウスに袖を通しな
がら、日が暮れる直前のジオフロントの風景を眺めていた。
 TRRRR
 その時、部屋の電話が鳴り響き、シンジは電話を取るべく立ち上がった。
「はい……シンジですが。あ、母さん?」
「シンジ? 敵の襲撃があったそうよ。充分注意して」
 リツコの言葉が終わるか終わらないかの内に窓ガラスが割れる音が部屋に響いた。
「アスカ!」
 シンジは受話器を放り投げて、音の方に振り向いた。
「な、何なのよ! あんた!」
 下の窓から侵入した謎の人型をした生物は四つんばいでアスカに躙り寄って来た。人間
のような身体ではあるものの、濁った瞳からは知性の輝きは見られず、顔の皮膚は角質化
しており、なまじ人間に似た身体をしているだけに、恐怖感が募った。
「アスカ、こっちだ!」
 シンジは鏡台の前にあった木製の椅子を手に取り、謎の怪物に威嚇しながらアスカを呼
び寄せた。
「ウケケケケ」
言葉に無理矢理合わせるとこんな感じだろうか……この世界の音とは思えないような奇声
を上げて怪物はシンジとアスカに躙り寄って来た。
「なんなのよ……こいつ」
 武器になりそうな物が無いのでアスカはシンジの陰で震えていたが、ぶら下がったまま
の受話器に気づいて受話器を取った。
「アスカです! 奇妙な化け物が部屋に!」
「アスカちゃん! 今、特殊部隊がそっちに向かってるわ! あと五分て所かしら!」
「アスカ!」
 謎の生物が二人めがけて飛びかかって来たので、シンジはアスカの腰に手を回して強引
にその場を離れた。
 鏡台とサイドテーブルの電話機が壊れる異共和音が耳に痛かったが、二人は必死にその
場を離れた。
「ちょっとシンジ、私スカート穿いて無いのよ」
 上はブラウス、下はパンティで靴すら穿いて無いアスカが抗議の声を上げた。
「それどころじゃ無いよ! アスカ」
 シンジはアスカの腕を引いて部屋を出た。エレベーターホールまで一気に駆け抜けると、
エレベーターが一基上に上がって来ている所であった。
 「だけど、ここで襲撃を受けたら……」
 シンジは果敢にもエレベーターホールの脇の喫煙室にあった円柱形の灰皿の灰皿の部分
を取り外した物を手に、エレベーターホールに戻って来た。
 完全にホテル内の構図が頭に入って無かったのか、エレベーターが最上階まであと二階
と言う所で、化け物がようやくエレベーターホールに現れた。
「近づくな!」
 シンジは金属製の灰皿の台を構えて威嚇した。
「グギギギギ」
 だが、その威嚇に屈するどころか、まともな攻撃手段を持たないシンジを嘲るかのよう
に化け物は笑みを浮かべた。
「もうすぐエレベーターが着く! そうしたらすぐに乗り込むんだアスカ!」
「シンジはどうするのよ!?」
「僕はここで時間を稼ぐ! 二人でエレベーターに入ろうとしたら、二人ともやられてし
まう!」
「そんな!」
 自分を逃がす為には他に方法が無いのだとアスカは気付いてしまった。

 チーン
 音と共にドアが開いたので、アスカは中に飛び込もうとした。
「何とか間にあったようだな! 後ろに隠れていろ!」
 エレベータには自動小銃を構えた吉田が乗り込んでおり、アスカは危なく吉田にぶつか
る所であった。
「ドアの開閉ボタンを頼む!」
 吉田はアスカにそう言って自動小銃を手にエレベーターホールに躍り出た。
「吉田君!」
 このような形で吉田が助けに来るとは思っていなかったシンジは驚愕した。
「そいつを投げつけたらエレベーターに入っていろ!」
「わかった!」
 シンジは手にした金属製の灰皿の台を化け物に放り投げた。
「シンジ!」
 アスカがエレベーターの中から必死になってシンジに呼びかけた。
「さぁ、早く乗るんだ!」
 吉田は自動小銃の引き金を絞り、シンジの灰皿を避ける為に体勢を崩していた化け物の
腹に弾倉一つ分の銃弾を叩き込んでエレベーターに飛び乗った。
「出せ!」
 今か今かと待ち構えていたアスカはエレベーターを操作し、エレベーターの扉はゆっく
り閉まっていった。吉田は万一、化け物が飛び込んで来た時の為に、小銃の銃把を構えて
いた。エレベーターが閉まる直前に化け物が突進を始めたが、少しの差でエレベーターは
閉まり、降下を始めた。
「鉄砲で撃っても死なないなんて、あの化け物は何なんですか!」
「ATフィールドがあるからな……あれが俺達の敵 ”使徒”だ」
 吉田は空になった弾倉を取り出して、新しい弾倉を装填して言った。




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どうもありがとうございました!


第7話 終わり

第8話 に続く!


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