「吉田君!」
 このような形で吉田が助けに来るとは思っていなかったシンジは驚愕した。
「そいつを投げつけたらエレベーターに入っていろ!」
「わかった!」
 シンジは手にした金属製の灰皿の台を化け物に放り投げた。
「シンジ!」
 アスカがエレベーターの中から必死になってシンジに呼びかけた。
「さぁ、早く乗るんだ!」
 吉田は自動小銃の引き金を絞り、シンジの灰皿を避ける為に体勢を崩していた化け物の
腹に弾倉一つ分の銃弾を叩き込んでエレベーターに飛び乗った。
「出せ!」
 今か今かと待ち構えていたアスカはエレベーターを操作し、エレベーターの扉はゆっく
り閉まっていった。吉田は万一、化け物が飛び込んで来た時の為に、小銃の銃把を構えて
いた。エレベーターが閉まる直前に化け物が突進を始めたが、少しの差でエレベーターは
閉まり、降下を始めた。
「鉄砲で撃っても死なないなんて、あの化け物は何なんですか!」
「ATフィールドがあるからな……あれが俺達の敵 ”使徒”だ」
 吉田は空になった弾倉を取り出して、新しい弾倉を装填して言った。


加藤喜一(仮名)○○歳誕生日記念作品(笑)
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第8話「転移」


「ようやく騎兵隊のお出ましか……足手まといかも知れんが、時間ぐらいは稼げるな」
 透明なエレベーターの窓から階下を見下ろして吉田は呟いた。
「吉田君は父さん達に追われてるんだよね? 父さんに説明してみるけど大丈夫かな?」
「それより、吉田某って人物は幼稚園児を助けて死んだそうじゃないの。あんた誰?」
 シンジとアスカは正反対の反応を返した。
「まぁ待て……取りあえず安全な場所に移動してからだ」
 そう言って吉田は懐から携帯電話のようなものを取り出した。
「何だ?」
 その時、エレベーターの上部から大きな音が響き、その少し後にエレベーターは停止し
た。
「ど、どうしたの?」
「さっきの使徒が無理矢理ケーブルを引っ張ってるんだろうな……時間が無い! 早く俺
に掴まるんだ!」
 吉田は携帯電話のようなものを操作しながら言った。
「エレベーター動かないのに、どうすんのよ!」
「落ち着くんだアスカ、吉田君を信じよう……吉田君がいなければ僕達はとっくに……」
 次の瞬間、エレベーターの直上で大きな音が響いた。
「何? 何なんだ?」
 アスカを守る一心で気を張りつめていたシンジもさしもの事に怯えを見せ、庇うように
抱きしめられたアスカも声の無い悲鳴を上げた。
「使徒が飛び降りて来たんだな。大丈夫、もうすぐだ」
 吉田がそう言った次の瞬間、使徒は硬化させた腕で天井をぶち抜き、手首の辺りまで突
出させて来た。シンジとアスカの頭上であったが、幸い屈んでいた為当たる事は無かった。
使徒は硬化させた腕を引き抜くのに苦労しているようであった。
「シンジ! 伏せないと!」
 パニックに陥ったアスカが吉田の身体から手を放し、シンジに注意を促そうとした。
「俺に掴まるんだ! 早くしろ! もう15秒も無い!」
 吉田は慌ててアスカの脇から手を差し入れた。
「ちょっ! 変な所触らないでよ!」
「それより、シンジをしっかり掴んでおくんだ!」
 あと10秒、使徒はようやく腕を引き抜いた所だった。
 そして、吉田達三人が息を詰めて見ている間に、使徒は大きく腕を振りかぶって腕を再
突入させようとしていた。
 吉田の言う時間が訪れてから2秒後、凄い勢いで振り下ろされた使徒の腕は易々とエレ
ベーターの天井を突き破り、身体ごとエレベーターの中に突入したが、エレベーターの中
はもぬけの空となっていた。
「おい、もう大丈夫だ」
 吉田にそう声を掛けられて、周りが真っ白になった時に瞑ったままだった眼を二人は開
いた。
「三人? 聞いて無いわよ」
 蒼い髪の女性が吉田の前に立ちふさがって言った。
「すまんな、どうにもこうにもせっぱ詰まってな。ATフィールドを突破出来るかと思っ
たが、俺だけじゃ無理だったんで、泡食って逃げてきた訳だ」
 吉田は靴を脱いで魔法陣を出、銃を部屋に転がして蒼い髪の女性に近づいて言った。
「それなら、せめて転移する前に言っておきなさいよ? マテリアルが足らなければ、三
人の内、誰かは転移出来なかったかも知れないのよ? 質量保存の法則を無視する事が出
来ないのは貴方でも承知でしょう? よくそんな無茶が……それにマテリアルは同量の砂
金より入手しづらいのよ?」
 蒼い髪の女性はひたすら怒った後、米袋のようなものを引きずって魔法陣の脇にセット
した。
「綾波さん? いや似てるけどちょっと違う……もしかして、綾波さんのお姉さん?」
 シンジは蒼い髪の女性の顔をぼーっと見ていた後、おもむろに話し出した。
「綾波? 中学校の時の綾波レイ? かなり感じ変わった……というか別人じゃない?」
 アスカもまじまじと蒼い髪の女性を見つめて言った。
「どこまで説明してる?」
 蒼い髪の女性は吉田にジト眼で問いかけた。
「全然……ここに連れて来るのは予定外だったからね」
「その割には驚いて無いじゃない?」
「NERVでいろんな事があったからだろう……使徒とも遭遇したし」
 吉田と蒼い髪の女性はひそひそと小声で話を始めたが、何せ狭い部屋であるから、シン
ジとアスカにも駄々漏れであった。
「それで、貴方は誰なんですか?」
 吉田と蒼い髪の女性のひそひそ話に焦れたアスカが魔法陣から出て問いかけた。
「人の部屋に汚れた靴下で上がり込んでいて、そういう事言う訳? ……ってあなた、ス
カートぐらい穿いたらどうなの?」
 蒼い髪の女性はアスカを哀れむかのような表情で睨みつけた。
「仕方無かったのよ。急に妙なのが襲って来たから。何か着る物貸して貰えない?」
 アスカは今更ながらに恥ずかしくなったのか、股間を気にして言った。
「貴方は一体……」
 綾波レイではあり得ない事は分かっていたが、レイに姉などいない事を思い出してシン
ジは呟いた。
「自己紹介がまだだったわね……私の名前は綾波レイ……。
 だけど、貴方の知ってる綾波レイでは無いわ
 蒼い髪の女性は笑みを浮かべて言った。




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第8話 終わり

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