「それで、貴方は誰なんですか?」
吉田と蒼い髪の女性のひそひそ話に焦れたアスカが魔法陣から出て問いかけた。
「人の部屋に汚れた靴下で上がり込んでいて、そういう事言う訳? ……ってあなた、ス
カートぐらい穿いたらどうなの?」
蒼い髪の女性はアスカを哀れむかのような表情で睨みつけた。
「仕方無かったのよ。急に妙なのが襲って来たから。何か着る物貸して貰えない?」
アスカは今更ながらに恥ずかしくなったのか、股間を気にして言った。
「貴方は一体……」
綾波レイではあり得ない事は分かっていたが、レイに姉などいない事を思い出してシン
ジは呟いた。
「自己紹介がまだだったわね……私の名前は綾波レイ……。
だけど、貴方の知ってる綾波レイでは無いわ」
蒼い髪の女性は笑みを浮かべて言った。
7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第9話「平行世界」
「はぁ? それどういう事よ! 全然説明になってないじゃない」
アスカは自称綾波レイに詰め寄った。
「説明すると長いんだけど……貴方達の知っている綾波レイは現在この世界にいないわ」
「僕の知ってる綾波さんに何かが起こったんですか?」
この世界にいないと言われてシンジは青ざめた。
「そういう事では無く、そのままの意味でこの世界にいないの……同意の下で私の世界で
保護しているわ……彼のサポートとして私の能力が必要だったから……誰でもいい訳じゃ
無くて、私達の世界からのアプローチを受け止める事の出来る人では無いといけなかった
の」
蒼い髪の女性は段ボール箱から着替えを取り出し、アスカに手渡して言った。
「平行世界が存在しているとでも言うの?」
アスカは知的好奇心をくすぐられたのか、蒼い髪の女性に問いかけた。
「ええ、そうよ。私達は全てがデジタルデータで構成されている平行世界から来たの。本
来介入するべきでは無いのだけれど、この世界を含むいくつかの平行世界にほころびが生
じていて、本来ならその世界だけで危機から回避出来る筈が 出来なくなってしまってい
るの。私達はそれらの世界を救済するのが仕事。私達みたいな能力を持つ者をダイバーと
呼ぶのだけれど、それぞれのダイバーの能力は元いた世界の特徴が反映されているの……
私は世界がデジタルデータで構成されていたから、この世界での物質をデジタルデータ化
する能力を持っているのよ」
蒼い髪の女性はOAチェアーに腰をかけ、皆にも腰を降ろすように指示した。
「そんな事が本当にあり得るんですか……」
シンジは不安そうに顔を上げて言った。
「現にさっきも貴方達はホテルのエレベーターから転送されたでしょ? デジタルデータ
に変換する事によって転送が可能なの。デジタルデータではあるけれど、生命あるものの
複製は禁じられているけどね……」
「父さんから、この世界では吉田君は死んでいると聞かされたんですが、貴方が吉田君を
蘇らせたんですか?」
「そういう訳では無いの……今日、貴方達を使徒が襲撃したと思うけど、他の一般的な平
行世界では使徒と言うのは巨大な怪獣のような存在で、チルドレンと言われる存在が操る
ロボットのようなエヴァンゲリオンで撃しているのだけど、この世界ではDNAの一部し
か残されなかったので、そのDNAの一部を人間に取り込む事で使徒化させているの……
彼、吉田繁智は本来私達の世界に侵攻した使徒であり、第二使徒ケルブと言われていた存
在であったの」
「おいおい、いきなりそこまで話すのか?」
吉田は少し慌てて蒼い髪の女性に問いかけた。
さすがに先程襲撃してきた使徒の恐怖を知っているシンジとアスカも驚いていた。
「彼だけが使徒では無く、ケルビム因子を持つ者達が集合体としてケルビムと呼ばれる使
徒になるのだけど、その世界はデジタルデータで構成されていた故、彼が自己増殖して単
体で使徒ケルブとなって私達の世界を破滅一歩前まで追い込んだの。だけど、デジタル
データであるが故に、私達の世界の赤木博士と私、そして、貴方達チルドレンと言われる
存在がギリギリで彼の存在そのものを書き換えると言う荒業を使って危機から免れ、それ
以来彼は私達の味方として活動してくれているの……。とある世界で平和に暮らしていた
んだけど、この世界の危機が表面化したので、その世界にいるパートナーに何も告げずに
姿を消したの」
「そんな事が……そんな事があったんですか……」
シンジは吉田の境遇を思ってか、体育座りをして身体を震わせていた。
「少し予定は早まったんだけど、せっかくここに来たんだし、今後の事を話しましょうか。
現状のNERV……すなわち貴方のお父さんの組織では使徒対策として敵が行ったのと同
じような方法……つまり人間にエヴァ因子のDNAを適用し、使徒を倒し得る存在にしよ
うとしているのだけど、様々な問題でそれを躊躇しているの……主に人道的な問題ね……
それを行えば二度と元の身体に戻れない可能性があり、また特定の因子を持つ者……母親
がセカンドインパクトの年の流星雨を見た者の一部でないといけないの……恐らくこの世
界でも20人といない筈よ……それには貴方達も含まれているの。だから、現状の装備で
は使徒を撃滅出来ないと分かっていても一歩踏み切れていないの……この世界の碇ゲンド
ウは他の世界の碇ゲンドウより優しいのが問題ね……」
「じゃ、私達もあの使徒のような存在にならないと使徒を倒せないんですか?」
アスカもさすがに顔色を変えて問いかけた。
「使徒を送り出している組織では、未だ隕石に付着していたDNAの解析が不十分だから
知能も弱くなり凶暴になるけど、今のNERVの技術ならそんな事は無い筈よ……使徒は
ATフィールドと言われる力場を形成していて、それはエヴァ因子を埋め込まれたチルド
レンによるATフィールドでしか中和出来ないの……中和した後は銃撃で倒す事も可能よ。
より強いエヴァ因子を持つ事が出来る者……碇シンジ、惣流アスカ……貴方達二人にこの
世界の命運がかかっているのよ」
「僕達に……この世界の命運が……はは 僕達は只の大学生ですよ」
シンジは脂汗を拭って言った。
「他の世界よりも過酷な事には違いないわ……でも私が協力すれば貴方達へのエヴァ因子
の注入による危険性は減るわ……全てを碇ゲンドウ氏に話して共闘するしか無いの……こ
の世界のほころびを消さずして、彼 吉田繁智や、本来この世界にいた綾波レイは元の世
界に帰れないのよ……無論、私もね」
「僕に出来る事なら……僕達の世界を守る為に片道切符でこの世界に来てくれた人の為に
も……やります!」
シンジは強い意志を込めて立ち上がった。
「私にしか出来ないと言う事は私に挑戦してるって事よね……私もやるわ……自分達の為
にも」
アスカも立ち上がり、シンジの手を握りしめた。
「分かったわ。それじゃ、NERVに連絡して迎えを寄越して貰って頂戴……マテリアル
はあまり残されていないから、自分達の足で行きましょう」
蒼い髪の女性はシンジに電話機を手渡して言った。
「あ、はい!」
シンジは父の連絡先用の番号にダイヤルしていた。
「ねぇ……ちょっと聞きたいんだけど」
自動小銃を持って行くかで悩んでいる吉田にアスカは近づいていった。
「何だ? 俺で分かる事なら……」
吉田は自動小銃を持ち歩かない事にして立ち上がった。
「貴方の元いた世界のパートナーって……
誰
?」
アスカのその問いは吉田の心を激しく揺さぶるに充分であった。
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今のご気分は?(選んで下さい)
トリフィド時代かよ>流星雨
説明的すぎる……
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
内容確認画面を出さないで送信する
どうもありがとうございました!
第9話 終わり
第10話
に続く!
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