「何のつもりだ……まさか?」
吉田がサキエルの能力に気付いた次の瞬間、使徒の自爆攻撃に気付き、ATフィールド
を全開にした。
「ぐわっ!」
恐らくは両腕だけの自爆であったのだろうが、ATフィールドを中和されかかっていた
為、吉田は先程の場所まで派手に吹き飛んだ。
「グルルルル……」
先程の自爆のせいか、使徒は完全にベークライトの戒めを解かれており、壁に打ち付け
られて失神している吉田にゆっくりと近づいて行った。自らの腕を蟹のように切り離して
自爆させた使徒ではあったが、その再生能力により肩口から既に触手のようなものが再生
を始めていた。
「くっ……腕だけ自爆とはな……」
もし全身を使った自爆なら命は無かった事に吉田は気付いていた。
意識を取り戻してはいたものの、まだ身体はショック状態を起こしており、吉田は迫り
来る使徒を睨みつける事しか出来なかった。
7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第14話「消失」
「まだ、シンジ達は間に合わないよな……くっ……」
次の瞬間、光の槍が襲って来たが、吉田は身体を動かす事が出来ず、ATフィールドの
内圧を高める事でそれに抗しようとしていた。
「グルルゥゥウ」
ATフィールドで受け止める事は出来ないと判断した吉田は、使徒の放った光の槍の先
端がATフィールドに触れた次の瞬間、発生させているATフィールドを歪ませ、使徒が
全身の力で押し込もうとしている光の槍を受け流した。使徒が油断してATフィールドを
張っておらず、中和されなかったので第一撃は防げたものの、使徒は再びATフィールド
を発現させてしまっていた。
「グラァァァ」
使徒は鱗かのように硬化した拳を、倒れている吉田に突きだして来た。
「よっと!」
吉田の目にはそれはあまりに単調な攻撃で、どこを殴打しようとしているのかすら見え
てしまっていた。使徒が右腕を吉田の足で蹴られたと知った時には、ショック状態から立
ち直った吉田が正拳を腹に突き込んでいた。使徒は吉田の正拳により、数メートル飛びず
さっていた。
「ん? フィールドを張ってると光の槍を出せないのか……」
光の槍を具現させての攻撃だと先程のように簡単に防ぐ事は出来ない為、吉田はそう判
断した。
「それなら、俺にも勝機はあるって事だよな……」
吉田は今や重荷にしかなっていないプラグスーツを身に纏ったまま、互いのATフィー
ルドが中和される地点にまで歩いて行き、構えを取った。
「グア?」
使徒は不敵な吉田の構えを挑発と見たのか、数メートルを一度に飛んで吉田に跳び蹴り
をぶちかました。
「空手家相手に、そんな見え見えのキックが効くかよ!」
吉田は使徒の攻撃を完全にかわすだけで無く、飛びかかって来た使徒の首に手を巻き付
け、使徒の勢いを利用して、壁に使徒の頭を叩きつけた。
「グワァァァ」
ATフィールドが中和されている状態では瞬間的に近い治癒能力も働かないのか、使徒
は派手な悲鳴をあげた。
「おまえさん、そんなナリなのに痛みに弱いんだな……」
どのような人物が使徒の因子を植え付けたのかは知らないが、格闘の専門家等で無い事
は明かであった。
「グッ! グラッ!」
使徒は吉田のコンビネーションキックを受けてのけぞった。
「あまり追いつめると自爆しかねんからな……」
間合いを取らない場合は自爆を狙われ、ATフィールドが中和されない距離なら傷を治
されてしまう為に、吉田はある程度離れての戦いを強いられていた。
「くっ……さすがにっ……一人じゃ辛いな……」
現状の装備では使徒に抗する事は出来ない……パレットガンが健在だったとしても、止
めを刺すには至らないだろう事を吉田は把握していた。吉田は重く感じ始めた身体をひき
ずりながらも、シンジ達が来るまでの時間を稼いでいた。
* * *
その頃シンジ達は……
「これは……想定していなかった事態ね……」
アスカの母親はがくりと膝を落として言った。
「チェックなら私もしたわ……やり方に問題は無かった筈……問題があったとすれば、エ
ヴァの遺伝子の解析が十分では無かったと言う事なのかしら……それにしても……」
蒼い髪の女性は、空になってしまったエントリープラグ状の装置の中を見つめていた。
シンジとアスカにエヴァの遺伝子を適合させる……その適合率を示すパーセンテージが
100%になれば成功であったのだが……97%で長い間拮抗していたのが、突然400%
に達してしまい、緊急停止したものの、満たされていた筈のLCLと共に中にいた二人が
消失してしまっていたのだ。
「とにかく……報告を……」
アスカの母親は研究者の顔つきに戻って、立ち上がった。
「失敗……したのかしらね……それとも……」
蒼い髪の女性が不審そうな顔で装置の中を覗き込んだ瞬間、部屋の明かりが明滅した。
次の瞬間、機械音が響いて来た。
「これは……装置が稼働しているの?」
エヴァの遺伝子をシンジ達に適合させるのに使用した装置が、運転されている事を示す
グリーンのランプを点灯させて動き始めた。
「これは……どういう事? 理論値の二倍以上で動作しているなんて……」
アスカの母親はモニターに、彼らがS2機関と呼んでいる機械の状況を映し出した。
「スーパーソレノイド? 全体的に技術レベルが低いと思っていたのに、実用化させてい
たのね……」
蒼い髪の女性は呆れたような口調で、動作しているエントリープラグ状の装置を見つめ
た。
「245%……280%……まだまだ上がるわ……340……400っ!?」
アスカの母親が悲鳴を上げた瞬間、NERVの最深部にあるこの実験棟のブレーカーが
ついに負荷に耐えきれずに破裂し、部屋は暗闇に包まれた。
「どういう事?」
アスカの母親は暗闇の中で悲痛な叫びを上げていた。
「あいたたた……もしかして、成功したのかな……真っ暗だけど……いてっ……狭いよ」
「間に合わなかったって筈は無いわよね……それとも初号機がダウンしたのかしら……」
数秒後、暗闇の中でシンジとアスカらしい声が響いた。
その次の瞬間、予備電源が作動し、部屋の照明が復活した。
「アスカ! シンジ君……どうして……その格好は何?」
アスカの母親は訳が分からずに狼狽えていた。
「…………おかえりなさい……」
蒼い髪の女性は表情を微かに崩し、笑みを浮かべて呟いた。
「た、ただいま……」
シンジが入っていた方の装置に青と赤のプラグスーツを着た二人が折り重なるように
入っており、二人は少し気まずそうに同時に応えた。
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第14話 終わり
第15話
に続く!
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