「アスカ! シンジ君……どうして……その格好は何?」
アスカの母親は訳が分からずに狼狽えていた。
「…………おかえりなさい……」
蒼い髪の女性は表情を微かに崩し、笑みを浮かべて呟いた。
「た、ただいま……」
シンジが入っていた方の装置に青と赤のプラグスーツを着た二人が折り重なるように
入っており、二人は少し気まずそうに同時に応えた。
7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第15話「二人の帰還」
「えっと……今、第一使徒はどうなってるんですか? 吉田君は?」
シンジはエントリープラグ状の筒から出るなり、そう問いかけた。
「一進一退だそうですが、パレットガンを失っているとの報告が……」
アスカの母親はコンソールを叩いて情報を引き出した。
「ピンチみたいね……急ぎましょっ シンジ!」
アスカは現状を認識するや否や、シンジの手を引いて駆け出した。
「ちょっと、あなた達! 場所分かっているの?」
アスカの母親は慌ててアスカを呼び止めた。
「大丈夫だから、そこで見ててよ ママ」
だが、アスカは少し走る速度を緩めて片手を上げて答えた。
「あの子達……一体何を……」
シンジとアスカが部屋を出た後、アスカの母親は膝の力が抜けたのか、へたりこんだ。
「信じてあげるしか無いと思いますよ……ただ、パレットガンの補充が必要だと思うので、
彼らに渡すように手配出来ますか?」
蒼い髪の女性は柔らかな笑顔を見せて言った。
「この先を曲がればいいのかな……」
「そうみたいね……その方角から使徒の波動を感じるわ……」
シンジとアスカは迷路のようなNERV施設内を駆け抜けていた。
「貴方達、お待ちなさい!」
角を曲がった所で、二人は碇リツコに遮られた。
「母さん……」
「おばさま……」
「これを持って行きなさい……残念ながら弾は少ししか入って無いけれど役に立つ筈よ」
碇リツコは足下に置いていたケースからパレットガンを取り出して、シンジに手渡した。
「あ、忘れる所だった……あの、これ……」
シンジは握りしめていた情報チップをリツコに差し出した。
「何かしら……あと、それ……向こうの世界のスーツなの? 貴方達には驚かされるわ」
アスカの母親から事情を聞いていたのか、リツコはすぐに現実を受け入れていた。
「おばさま……私達行かないと……一人で苦戦している筈だから……」
「じゃ、行くね……母さん」
シンジは意識しないままに、”リツコさん”から”母さん”に呼び方を変えていたが、
その事に二人が気づくのは、かなり経ってからであった。
「くそっ……もうバッテリー切れかよ……」
吉田は腰に装着していたプログレッシブナイフの存在を思いだし、使徒の右腕と左足を
根本から切断する事が出来ていたが、バッテリーの切れた今となっては、単にぎざぎざな
面のあるナイフと化してしまっていた。
それでも、武道家が刃物を持つとそれは必要以上の凶器たり得るので、吉田はじわじわ
と使徒を追いつめつつあった。
「グ……イタイ……ドウシテ……ボクヲ……」
吉田が止めを刺すべく腕を振りかぶった瞬間、こわばった彫刻のようになっていた使徒
の顔が僅かに動いて、言葉を紡いだ。
「人間としての、意識を取り戻したのか?」
吉田は振り下ろそうとしていた腕を下ろし、様子を見ながら近付いていた。
「危ないっ! 吉田君、どいてっ!」
お兄ちゃんどいて!そいつ殺せない
吉田はシンジの言葉に反応し、側転をしてその場を離れた。それとほぼ同時に、根本か
ら切断した使徒の右腕と左足が白熱して爆発し、シンジのパレットガンから放たれたN2
弾頭数発が使徒の頭内に叩き込まれた。
「くっ……罠だったのか……助かったよ シンジ」
吉田は再び使徒にナイフを向けながらシンジに話しかけた。ATフィールドが中和出来
る場所にいないと、あっという間に身体を修復される為、吉田は牽制しながらもじわじわ
と前進していった。
「だけど……もう、弾が無いみたいなんだけど……」
シンジは照準を使徒に定めたまま引き金を引いたが、パレットガンが火を噴く事は無か
った。
「弾なら、俺が脱ぎ捨てたジャージに弾倉が入ってた筈だけど……」
吉田は使徒から視線を外さずに答えた。
「この焦げてる服かしら……あった!」
「う……うん」
アスカが弾倉を見つけたが、シンジは今の弾倉を外す事がまだ出来ずにいた。
「しかし……パレットガンでは止めを刺すのは難しいと思うな……頭に数発叩き込んだの
に、効いてる様子が無い……」
吉田は使徒の攻撃を避けてナイフで斬りつけたが、深刻なダメージを与える事は出来て
いなかった。
「外れた……アスカ、それを」
シンジはパレットガンの空になった弾倉を外し、予備弾倉を装填した。
「少し危険だが……アスカももう少し近付いてATフィールドの圧力を高めてくれ……
シンジも、もう少し前から射撃してくれ……シンジが全弾撃ち尽くした次の瞬間に俺が
止めを刺す……」
シンジの目には超人的な体力のように思える吉田ではあったが、さすがに限界が近づき
つつあった。
「わかったわ……あ、シンジ……それ多分、そのままじゃ撃てないわ……そのレバーを引
いてみて」
「これ?」
シンジはアスカの指示で銃のレバーを引き、初弾をチャンバーに送り込んだ。
「準備はいいか? チャンスはもう無い……確実に仕留めよう……」
吉田が構えたプログレッシブナイフは鈍色に光っていた。
「うん……一発も逃さないよう、撃ち込むよ……」
シンジは肩に銃のストックを当て、照準越しに使徒を捉えた。
「コツが掴めて来たみたい……フィールドの圧力が上がって来たみたいよ……」
アスカもまた、二人をサポートするべく必死な表情でATフィールドを展開していた。
「よし、撃つんだ シンジ!」
次の瞬間、シンジはパレットガンに装填されていた24発のN2弾頭をセミオートで使
徒に叩き込んだ。射撃訓練など受けた筈も無いのに、シンジは銃身の跳ね上がりをうまく
コントロールしているのを、吉田は意識の隅で微かに訝っていた。
その頃……
「これと……母さんが残した研究データがあれば……生体コンピューターを作る事すら充
分に可能だわ……これはパンドラの箱なのかしらね……」
シンジがもたらした情報チップには、碇リツコとほぼ同等の頭脳と思考を持つ研究者に
よる、研究の粋が詰まっていた。
リツコは息を飲みながら、情報チップに記されている内容を確認していった。
それが今の彼女に出来る唯一の術(すべ)だと信じて……
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第15話 終わり
第16話
に続く!
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