「よし、撃つんだ シンジ!」
次の瞬間、シンジはパレットガンに装填されていた24発のN2弾頭をセミオートで使
徒に叩き込んだ。射撃訓練など受けた筈も無いのに、シンジは銃身の跳ね上がりをうまく
コントロールしているのを、吉田は意識の隅で微かに訝っていた。
その頃……
「これと……母さんが残した研究データがあれば……生体コンピューターを作る事すら充
分に可能だわ……これはパンドラの箱なのかしらね……」
シンジがもたらした情報チップには、碇リツコとほぼ同等の頭脳と思考を持つ研究者に
よる、研究の粋が詰まっていた。
リツコは息を飲みながら、情報チップに記されている内容を確認していった。
それが今の彼女に出来る唯一の術(すべ)だと信じて……
7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第16話「戦力外通告」
「グルッ グァァァァァ」
3発づつシンジがN2弾頭を叩き込んで行くうちに、甲殻化していた使徒の胸が剥がれ
落ちて行き、赤いコアらしきものが露呈されていった。
「吉田君、弾が切れたっ!」
シンジが血相を変えて横を振り向いた時、既に吉田はその場にはおらず、手足を吹き飛
ばされて再生も叶わぬ状態の使徒に向けて走り出していた。
「シンジ……ATフィールドを強くしましょう!」
アスカは吉田の意図に気づいたのか、ATフィールドの圧力を高めた。
「う、うん……」
シンジがアスカの注意により、圧力を高めた次の瞬間……跳躍して使徒との距離を稼い
でいた吉田が、その右拳を使徒の露呈したコアに叩きつけた。
「グルァァァァァ」
使徒は怒りに身を任せ、吉田を巻き込む形で自爆を計ったが、胸のコアがひび割れて行
くのに気づき、銃弾で切り飛ばされた腕や足を爆破する事しか出来なかった。
「うわっ……」
「きゃっ……」
防火壁が下ろされている為、通路の行き止まりで吉田の退路を奪いかねない爆発が起
こった時も、シンジとアスカは吉田を信じて立ち続ける事しか出来なかった。
「吉田君……」
シンジは、これまで感じていた使徒からのATフィールドが途絶したのに気づき、ベー
クライトが焦げる刺激臭が鼻をついているにも関わらず、その場を動く事が出来なかった。
「救護班を呼んで! 聞こえてるでしょう?」
アスカが近くにいる筈の特殊部隊に伝令を伝えると、意を決した二人の隊員が担架を手
に現れた。
「アスカ…………あれは……」
シンジが指さした方向からは軽い刺激臭と炎が各所で立ち上っており、煙が通路を満た
しかけており、視界はかなり悪かったが、何者かの姿を認める事が出来た。
「無事だったか……シンジ……アスカ……使徒が最後に意識を取り戻したんだが、助けて
はやれなかった……」
吉田はシンジ達の前にゆっくりと進んで来ていたが、左足をかばっているようで、その
歩みは遅かった。
「救護班! もう脅威は無いから、早く!」
アスカは吉田がただならぬ状態であるのに気づいて、待機させていた救護班を呼び寄せ
た。
「くっ……もう気を張らなくてもいいんだよな……助かったよ……二人とも」
そう言ってようやく吉田は自分の意識を手放した。
「吉田君っ!」
シンジは、吉田が担架に寝かされる間も、息を飲むようにして見守っていた。
「シンジ……私達、間に合ったのよ……彼なら大丈夫よ……報告に戻りましょ……」
アスカはシンジの手を引いて、使徒の自爆現場から離れていった。
* * *
そして翌日……
「え! そんなに怪我してたんですか?」
吉田が意識を回復させたと聞いて駆けつけたシンジとアスカであったが、吉田の症状を
聞いて顔色を青くさせた。
「ほんとに無茶したものね……左足の靱帯損傷に、右拳にヒビ……肋骨は左右一本づつ
やっちゃってるし、一ヶ月は病院のベッドに縛り付けて貰うように進言しとくわね」
蒼い髪の女性はカルテを見て、息をつきながらシンジとアスカに説明をした。
「普通に動いているように見えたから、プラグスーツが正常稼働していると思っていたの
に……今度からモニター機能を付けないと……しかし、こんな状態でよくも……」
リツコは試作品のプラグスーツやパレットガンをあっさり壊された事で機嫌が悪いのか、
ギブスで固められた吉田の左足を書類夾みでとんとんと叩いていた。
「ちょっ……それ、痛いんですけど……それより、治療の方も技術供与すれば、二週間ぐ
らいで何とかならないか?」
吉田は蒼い髪の女性に哀願しはじめた。
「駄目ね……このまま放置したら疲労骨折になりそうな部位もあるし……技術は供与する
つもりだけど、それでも一ヶ月は見て貰わないとね……」
蒼い髪の女性は冷ややかな眼で吉田を見据えて言った。
「ちょっと待てよ……痛っ……」
吉田は上半身を起こそうとしたが、腹筋を使徒に蹴られた痛みにより、断念した。
「あまり、暴れるようなら筋弛緩剤を打つわよ……いい加減にしなさい……」
リツコも蒼い髪の女性に同調して、吉田をたしなめた。
「大丈夫……とは言えないかも知れないけど、僕達もいるから……何とか守ってみせるよ」
シンジはアスカの手を握ったまま、そう宣告した。
「そうか……じゃ、戦線復帰までの間は頼んだぞ……あ、赤木博士……今後もとどめは右
拳でコアを破砕って事になると思うので、右拳のスーツ側の方の改良も宜しく……」
「はいはい、わかったわ……シンジとアスカちゃんはどうするの? 一緒に帰る?」
リツコは病室の出口まで歩いていって振り向いた。
「そうするよ……母さん……行こう、アスカ」
シンジは、初めてリツコから”シンジ君”では無く、息子として呼ばれた事に気づいて、
アスカの手を引いてリツコを追いかけた。
「ま……いいか……」
シンジ達があっさり帰った事もあり、少し吉田は肩の力を抜いてベッドに身体を預けた。
「分かってるとは思うけど……あの世界のアスカさんから貴方を預かってるんだから、あ
まり無茶はしない事……いいわね」
そう言って蒼い髪の女性も病室を出ていった。
「トイレしたくなったんだけど……ここ、完全看護なのかな……」
吉田はため息をついて、ナースコールのボタンを探し始めた。
* * *
「…………やはり、ひずみはこの世界が元じゃ無いようね……もしかしたら、彼にもう
一働きして貰う事になるかもね……」
病室を出た後、蒼い髪の女性は壁に背中を預けて、一枚の報告書を眺めていた。
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第16話 終わり
第17話
に続く!
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