「はぁ……さすがに退屈だな……」
吉田はぼんやりと天井を眺めながら、眠りにつこうとしていた。
「たった数日前に因子を組み込んだ筈なのに……細胞分裂回数から逆算すると、三ヶ月以
上も経っているだなんて……」
その頃、シンジとアスカの検査の総指揮を執っているアスカの母親が、検査結果を凝視
したまま小声で呟いていた。
7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第18話「雌伏」
あれから一ヶ月……幸い使徒の侵攻は無かったので、NERVは使徒迎撃の為の準備に
余念が無かった。
「ふぅ……もうすぐ一ヶ月か……」
吉田は病院のベッドの上で、まだ少し痛む右手を撫でながら呟いた。左右の肋骨の骨折
はNERVの最新技術の応用の為ほぼ完治に向かいつつあったが、右拳のヒビはもう暫く
かかるし、左足の靱帯については、もうすぐギブスを外される程度でしか無く、もし使徒
が今侵攻して来ればアスカとシンジに委ねるしか無かった。
「ふぁ……身体がなまる一方だ……」
吉田はあくびを一つついて、ベッドに身体を沈めた。
「なんだか眠そうね……」
吉田がうとうとし始めた頃、蒼い髪の女性がいきなり病室に入って来て、開かれたまま
のドアを遅ればせながらノックした。
「そりゃな……しかし、久々のご登場じゃないか……姉さんが来た時以来か……」
シンジやアスカも忙しいのか顔を出さないので、吉田は少しふてくされて言った。
「私も……いろいろと忙しいのよ……愚痴なんか聞いてる時間なんてないわ……」
蒼い髪の女性はコンソールを操作して、吉田の治療データを閲覧していた。
「なぁ……まだギブスは取れないのか?」
かゆみを感じているのか、吉田は顔を歪めながらギブスで固められた足を指さした。
「駄目ね……ギブスなんか外したら無茶したがるに決まってるもの……それに……」
蒼い髪の女性は何かを言おうとして言い淀んだ。
「なんだよ……気になるじゃないか……それに 何だって言うんだ?」
吉田は足を動かさないように苦労して上半身を浮かせた。
「何故か分からないけど……今、時空の歪みが解消されているの……向こうの世界の技術
の導入のおかげで、この世界は何とかなりそうだし……帰る気は無いの?」
「転移して向こうで養生しろって言いたいのか……」
吉田は眉を顰めて手を握りしめた。
「いつ、また歪みが生じるか分からないのよ……帰れる時に帰ったらどうなの? それ
に……この世界での貴方の家族も……うすうす気づき始めているわ……」
「どちらにしろ、長くはいられないって言いたいのか? この世界での家族の件なら……
その、偽りの記憶を消去して、俺が高校一年の頃に死んだって状態に戻しても……」
「依るべき所の無い人間は弱いものよ……今の貴方では快復しても元のようには……」
「すまないが今日は帰ってくれないか……家族の記憶の事は……任せる」
吉田は震える拳を握りしめて言った。
「今無理したら後に響くから、無理をしない事ね……」
蒼い髪の女性は少し気まずそうに吉田の部屋を出て行った。
* * *
数日後……NERV最深度地区
この一ヶ月でようやく体裁が整ったチルドレン用訓練施設では、連日の訓練が行われて
いた。
「いいわよ、シンジ君。ATフィールドを維持し続けて頂戴……アスカちゃん……具合悪
いみたいだけど休憩する?」
赤木博士はやや緊張した表情で、実験用のベッドの上に横たわっている二人を注視して
いた。
「大丈夫です……もう少し続けさせて下さい……」
アスカはシンジと共にATフィールドの展開時間を増やす為の訓練に従事していた。
昼食を食べてから二時間半もの間、弾丸を弾く程度のATフィールドを展開し続ける事
が出来るようになったのは、ここ数週間の二人の特訓の成果であった。
「でもアスカ……無理しない方がいいよ……顔色良くないし」
アスカよりは若干余裕のあるシンジが意識を張りつめたまま、アスカをいたわった。
「予定では……あと15ふ……うぅ……」
アスカは吐き気を催したのか、ATフィールドを消失させてしまっていた。
「気分悪いの? トイレまで持つ?」
モニターしていたアスカの母親が慌てて駆け寄って、アスカをトイレへと連れていった。
「アスカ……大丈夫かな……」
シンジはアスカが去った方向をちらちらと見続けていた。
「休憩にしましょ、シンジ……」
赤木博士は口調を和らげて、横たわっているシンジの肩をぽんぽんと叩いた。
「あ、はい……母さん」
シンジは起きあがり、ベッドに腰掛けて答えた。
「喉乾いたでしょ……夜はよく眠れてるの?」
赤木博士はチューブタイプの栄養剤入りのドリンクをシンジに手渡して問いかけた。
表向きは国と大学と企業の合同プロジェクトに参加している事になっているシンジとア
スカだが、最低限の講義には出席する以外は、殆どNERVにこもっていた。ジオフロン
ト内の高級職員用のマンションの隣合わせの二室に地上から荷物を既に移しており、生活
の中心はジオフロントに移行せざるを得なくなっていた。
「ええ……まぁ」
シンジは何故か一瞬心拍数を上げてしまっていた。
「ところで、アスカちゃん、なかなか戻って来ないわね……何か悪い物でも食べたのかし
ら」
赤木博士はトイレの方角を見て呟いた。
「アスカは病院で検査させる事にしたわ……検査するまでも無いと思うんだけど……」
少しして、アスカの母親だけが実験室に戻って来た。
「アスカは……アスカは本当に大丈夫なんですか?」
病院で検査と聞き、シンジは腰掛けていたベッドから立ち上がってアスカの母親に詰め
寄った。
「母親が見てる前で何だけど……遠慮は不要よね……」
アスカの母親は言い終えると同時にシンジの頬を張った。
「え?」
シンジは訳がわからず、熱い頬を押さえていた。
「ちょっと……まさか……」
赤木博士は動揺して立ち上がった。
「そう……そのまさかよ……あの子……妊娠してるわ」
アスカの母親は少し困惑した表情を浮かべて言った。
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第18話 終わり
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