「母親が見てる前で何だけど……遠慮は不要よね……」
アスカの母親は言い終えると同時にシンジの頬を張った。
「え?」
シンジは訳がわからず、熱い頬を押さえていた。
「ちょっと……まさか……」
赤木博士は動揺して立ち上がった。
「そう……そのまさかよ……あの子……妊娠してるわ」
アスカの母親は少し困惑した表情を浮かべて言った。
7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第19話「動揺」
♪リッちゃんはね リツコって言うんだ本当はね<それは童謡
「その……病院に行って来ます!」
アスカの母親の言葉にシンジは一瞬茫然自失状態だったが、慌てて部屋を飛び出して
いった。
「はぁ……二人が結婚して子供が産まれるのはもっと先だと思ってたから、さすがに驚き
を隠せないわね……」
リツコは椅子に座って吐息を漏らした。
「リツコさん……貴方はあの二人を認めるつもりなの? いくらなんでも早すぎない?」
「もう二人は自分の道を歩き出した以上止める事は出来ないわ……だけど、戦力が低下す
るであろう事は容易に想像出来るわ……困ったわね」
「どちらにせよ……碇司令に報告して裁可を仰ぐしか無いわね……私は病院に行くから、
報告等、後はよろしく……」
アスカの母親は重い足取りで部屋を出て行った。
「こんな時でなければ本来は目出度い話なのに……継母とはいえ母は母。あの二人を理解
してあげなくてはね……ユイさんが生きていればさぞお喜びになったでしょうね……でも
下手したらこの歳でおばあちゃんか……」
リツコは椅子をくるりと回し、コンソールの上で両手を組んで呟いた。
* * *
そして、二週間後……
吉田がようやく左足のギブスを外して貰ったと聞き、シンジだけがNERV内の病院に
見舞いに来ていた。
「なんか、僕達いろいろあって……最近殆ど顔出せなくて悪いね。その後具合はどうなの?
吉田君」
「肋骨はほぼ問題ないと太鼓判押されたけど、右拳のヒビは自然治癒に任せるしか無いそ
うだ。だけど、手を開いたりしてみても痛みは感じないな……足の方も歩くのには問題な
い」
シンジが気恥ずかしそうに弁解しているのを見て、吉田はその原因に思い至った。
「そっか……あ、アスカは今カウンセリング中なんだ……僕はさっき終わったんだけど」
シンジは視線を左右させて、少しどぎまぎしていた。
「ところで、何か相談したい事があるんじゃ無いのか?」
吉田はため息を一つついて、シンジが話しやすいように誘導した。
「解る? あはは、さすが吉田君だね……実は……」
シンジは丸椅子に腰掛けて、落ち着く為か両手を何度も組み直してから話し始めた。
あの日、急激に訪れた変化への不安のせいか二人がついに結ばれ、そしてアスカを妊娠
させてしまい、父にある決断を迫られている事などをシンジは吐露した。
「そうか……薄々そういう気配は感じていたが……だけど、二人は婚約者だって聞いた事
があるけど、碇司令はそんなに怒っているのか? もう20歳だろ?」
「あ、そういえば、この間のごたごたの時、僕は20の誕生日だったんだ……アスカはま
だ19歳だけど……もう堕胎する気は無いらしいんだ。無論僕もね」
「ふむ……学生結婚なんてそれ程珍しい話じゃ無いと思うけど、碇司令はどんな事を言っ
ているんだ?」
「あ、別に怒っている訳じゃないけど……僕は、弁護士になるつもりで法学部に行ったん
だけど、父さんは子供が産まれようとしているのに、現役合格も難しい司法試験にチャレ
ンジし、尚かつ数年の下積みが必要な弁護士になろうとするのは諦めろって言うんだ」
「司法試験か……司法大学院に行くと言う手もあるけど、かかる期間は延びるって事か。
で、碇司令は具体的にどうしろって言ってるんだ?」
「それなんだけど……司法試験に落ちたらNERVの法務部に入社……合格したら、NE
RVの顧問弁護士の事務所に所属はさせるが、いずれも将来は僕にNERVの幹部になる
よう求めているんだ……僕は社会的弱者を救済出来るような弁護士になりたいのに」
「子供が産まれようってのに下積みに数年もかけるなって親父さんの言う事は解るけど、
親父さんが金銭的に面倒を見れば済むだけの事じゃ無いのかな。後継者云々にしても、ま
だ50代だろ?」
「あ、その事も言われたんだけど、それでは一生僕の心に負い目が残るぞって言われたん
だ……まぁ、それにこの間のような使徒が継続的に襲って来るのなら、NERVに協力し
ない訳にはいかないしね……」
「ふむ……結論は出ているけど、心情的に納得出来ていないって所か……だけど……俺も
親父さんの案に賛成だな……弁護士も無論大事な仕事ではあるけど、シンジが使徒から
人々を守るのは、誰にも代わりが効かない事だしな……具体的には法務部に所属しながら
法律の勉強を続けて、使徒の脅威が去った後にいつでも司法試験を受けて合格出来るよう
な体勢を取ればいいんじゃないかな」
「そうだね……NERVの仕事の事もあって大学には殆ど行けてないし、現役合格は無理
があるし……そういう方針で行く事にするよ……」
「そういう腹さえ決めればいろいろ交渉すればいいじゃないか……NERVの法務部なり
に所属はするが将来は弁護士として自立したいから、勤務形態とかを融通効かせてくれと
かな……下積みの期間も定期的な収入があるようにすればいいんだよ」
「そうか……そうだよね……それぐらいの主張をしても罰は当たらないよね……吉田君に
相談して良かったよ」
シンジは目の前が明るくなったかのように破顔一笑した。
「俺はおまえの中から答えを引き出しただけで何もしちゃいない……決めたのはシンジ……
おまえだって事を忘れるなよ?」
「うん、ありがとう……そろそろアスカのカウンセリングも終わる筈だし、そろそろ帰る
よ」
シンジは立ち上がり、吉田に右手を差し出した。
「ああ……お互い頑張ろうぜ」
吉田はシンジの手を取り、シンジを激励した。
だが、吉田は自らの心の底の微かな痛みを抑え込んでいる事に気づいてすらいなかった。
「シンジ、大変よ! 使徒の襲撃よ!」
シンジが最後に頭を下げて帰ろうとした時、アスカが血相を変えて飛び込んで来た。
今、まさに残酷な天使の奏でる挿話が幕を開けようとしていた……
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相変わらずの文章だな これでよく(ry
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
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どうもありがとうございました!
第19話 終わり
第20話
に続く!
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