「うん、ありがとう……そろそろアスカのカウンセリングも終わる筈だし、そろそろ帰る
よ」
シンジは立ち上がり、吉田に右手を差し出した。
「ああ……お互い頑張ろうぜ」
吉田はシンジの手を取り、シンジを激励した。
だが、吉田は自らの心の底の微かな痛みを抑え込んでいる事に気づいてすらいなかった。
「シンジ、大変よ! 使徒の襲撃よ!」
シンジが最後に頭を下げて帰ろうとした時、アスカが血相を変えて飛び込んで来た。
今、まさに残酷な天使の奏でる挿話が幕を開けようとしていた……
7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第20話「絶対障壁」
30分前……NERV地上施設の搬入口。
外見上は食品加工会社の工場に擬装されている搬入口の脇で、四名の警備員が小銃を手
に警戒していた。この搬入口は機材や車両などを地下に下ろす為のものであり、厳重な警
戒も当然の事であった。
「ふぅ……暑いな……今日は後何件搬入されるんだ?」
警備員の一人が額の汗を拭いながら同僚に問いかけた。
「さぁな……搬入が終わったとしてもメインゲートが封鎖されるだけで、俺達の仕事が終
わる訳じゃないからな」
すぐ側にいた警備員が小銃の弾倉を取り出して手で弄びながら応えた。
「それもそうだが、この糞暑い中であと四時間もかよ……」
搬入口は地下一階となっており、空調も為されていない為、7月中旬の暑さに警備員は
辟易としていた。
「お、お出ましのようだが、メインゲートから連絡が無いな」
保冷トラックが走行音と共にスロープを降りて来ていたが、本来あるべきメインゲート
からの無線連絡は無く、警備員達は微かに緊張した。
「この暑さだ……ゲート脇の監視室はエアコンかけてても直射日光があるからな……ばて
てるんだろう」
小銃の弾倉を弄んでいる警備員が仲間の緊張をよそに、一人リラックスしていた。
そうこうしている間に小型の保冷車が方向転換をし、バックの状態で地下へのエレベー
ターに向かい始めた。
「オーライ・オーライ」
一人の警備員は銃を肩にかけて、保冷車の誘導を行っていた。
ゲートの脇には二人の警備員が残っており、もう一人の警備員が運転席に近づいた。
「IDカードの提示を願います」
警備員は銃の安全装置を外して右手で保持した状態で左手を差し出した。
そして開かれた車の運転席のドアの陰からサイレンサー付きのP99が顔を出し、ID
カードの提示を要求した警備員の額と首筋に一発づつ銃弾をたたき込んだ。
ゲートの運転席が見える側にいた警備員は未だに小銃に弾倉を装着しておらず、異変に
気づいて弾倉を装着して、レバーを引こうとした所で胸に二発くらって崩れ落ちた。
「な、なんだ!?」
ゲートの助手席が見える側にいた警備員と、誘導をしていた警備員が慌てて銃を構えた
時には既に遅く、助手席からMP5SDを手に飛び出して来た敵に一人は射殺され、一人
は足に銃弾を受けた。
運転席にいた男は銃をしまい、保冷車を地下へと向かうエレベーターに向けて車をバッ
クさせていった。唯一残った警備員が警報を押そうとした瞬間、彼ののど元に軍用ナイフ
が当てられ、軽い挙動の後、残った警備員はのどから血を吹き出しながら崩れ落ちた。
助手席にいた男は死んだ警備員からIDカードを盗みとり、エレベーターを作動させ、
二人の侵入者は保冷車と共に地下へと降りていった。
そしてNERV本部が異変に気づいた、10分前。地下搬入用エレベーターの電源を停
止したものの、外部からのハッキングを受けて電力が復旧し、二人の侵入者と保冷車は大
勢の警備員の待ち受ける地下施設へと降り立った。
「手を上げて出てこい! どこにも逃げ場は無いぞ!」
数十丁の自動小銃や対戦車ロケットを向け、警備責任者は意気揚々と警告した。短期間
にこれだけの警備を整える事が出来た己の能力を過信していたのが彼の敗因であった。
警告の次の瞬間、保冷車の後部ドアが展開し、中から氷のような物質で出来た八角形の
立方体が空中を浮遊しながら警備員達の前に出て来た時、警備員たちは自分の眼を疑った。
「撃てっ 撃てぇ!」
混乱してしまった警備主任の命令により数十の火線や対戦車ロケットが、ピラミッドを
上下に重ねたような物体に注ぎ込まれた。だが、それらの銃弾やロケット弾は激しい音と
共に弾かれ、ゲートの左右に爆発音が響いた。跳弾の心配の無い場所に警備員達が展開し
ていなかったら、彼らは自らの銃弾で命を絶たれた事だろう。
「イタイ……ドウシテワタシヲウツノ……テキ?」
氷のようなもので出来た八面体の中には一人の少女が膝を抱いてうずくまっており、そ
の少女が発した思念波は警備員達の脳内にダイレクトに響いた。
「イジメルヒト……キライ」
少女は涙を流しながら結晶の中で警備主任を指さすと、次の瞬間、光の奔流が巻き起こ
り、警備主任や数十人の警備員を施設ごと融解させていた。そして、氷のような結晶状の
八面体に包まれた少女は二人の侵入者に誘導されて、NERVの中核へと向かったのであ
った。
その頃、シンジとアスカは吉田を残して病院を後にし、本部へと向かっていた。
「僕達だけで何とかしないといけないんだ……頑張ろう……アスカ」
シンジは看護士に指示して吉田に睡眠剤の薬液を首筋に噴霧し、未だ病身の吉田が無理
をして戦闘に参加させないような手筈を整えていた。
「そうね……第一報ではどんな使徒かは分からなかったけど、数十人の警備員を一瞬にし
て殺害したそうよ……ATフィールドで守られてるとはいえ、油断出来ないわ」
二人は走り続ける事で胸の動悸を感じながらも、休む事なくリツコが待ち受ける準備室
へと向かった。
「さあ、早くプラグスーツに着替えて頂戴! あまり時間の余裕が無いの!」
リツコは準備室に用意したついたてを指さした。
「分かりました!」
二人は若干の気恥ずかしさを押し込み、一つしか無いついたての中で服を全部脱ぎ、プ
ラグスーツを装着していった。
「今、NERVを襲撃している使徒は、あなた達が持ち帰った資料では”ラミエル”と呼
ばれる使徒よ……強力なATフィールドを持ち、荷電粒子砲のようなビームを放つ事が出
来る強敵よ!」
紺と深紅のプラグスーツを身に付けようとしている二人にリツコは手早に状況の説明を
行った。
「ラミエルと言うと、確か第五使徒ですよね……第四使徒はどうしたのかしら……」
アスカは考え込みながらもプラグスーツを着込み、腕のボタンを押して身体にフィットさ
せた。
「それは分からないわ……因子の定着に失敗したのかも知れないし……」
リツコは不安に胸を痛ませながら、これから死地に赴く二人を見ていた。
「使徒は予想通り、最深度施設へのゲートに向かっているそうです! ゲート前まであと
10分も持ちません!」
一人のオペレーターが準備室に走り込んで来た。
「最深度施設?」
シンジが不審そうに問いかけた。
「そこに使徒が到達したら私達の負けよ……説明はそれで充分だわ……」
リツコはパレットガンをシンジに渡しながら宣告した。
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よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
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どうもありがとうございました!
第20話 終わり
第21話
に続く!
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