「もう少し……えっ!?」
シンジは額に汗しながらATフィールドを展開していたが、スモークグレネードの煙が
天井にわだかまった次の瞬間、換気システムが作動し、みるみる内にスモークの煙が薄れ
ていった。
「そんな……」
だが、まだATフィールドの中和には至っておらず、今パレットガンを撃っても効果が
無いのでシンジは焦っていた。
「コレハ……ナニ……アナタ……ダレ?」
煙が晴れ、ラミエルが前進しながらアスカの方の通路に向かおうとしているのを見て、
シンジは顔色を変えた。
7周年記念作品
【明日を覗けば闇の中】〜続・窓に映るは明日の影〜
作:尾崎貞夫
第22話「戸惑い」
「止まれ! そっちに行かせる訳にはいかないんだ!」
この場所でパレットガンを使えば、ラミエルの向こうにいるアスカにまで被害が及ぶ為、
シンジはパレットガンをうち捨ててラミエルの前に立ちはだかった。
「アナタ……ダレ? ココ……ドコ?」
ラミエル……いや、奇妙な物体に閉じこめられている少女はきょとんとした目つきでシ
ンジを見つめていた。
「僕は……僕は碇シンジだ! ここは君が来るべき場所じゃないんだ」
前回のサキエルの場合はあからさまに敵意を持っていたので、躊躇する事なく戦えたシ
ンジであったが、数十人がすでに大けがを負っている今でも、シンジはラミエルに害を為
そうとは思えずにいた。
「シンジ!」
シンジが飛び出したのを見て、アスカもまたATフィールドを維持しながらラミエルの
前に姿を現した。ミサトがマイクに向かって必死に制止していたが、最早退く事すら出来
そうになかった。
「アナタ……ダレ? アタマ……痛い」
至近距離からシンジとアスカのATフィールドの干渉を受け、ラミエルは顔をしかめた。
「私は……惣流アスカよ……大丈夫なの?」
テロリストによって誘導されていない、素の状態のラミエルに敵意が少ない事を知り、
アスカはラミエルの問いに応えた。
「ここは空気が悪い……ほら、あっちに行こう」
シンジは一歩近づき、ラミエルに語りかけた。
「だめ……痛い……ワタシは……誰?」
ラミエルは顔を歪めて苦しみ始めた。
「君、大丈夫なのか?」
更にシンジが一歩踏み込んだ瞬間、ラミエルを包んでいた奇妙な物体が歪み、その形状
を維持する事が出来なくなり、ゼル状に解けていってしまった。
「何なのよ……一体…… って、息が出来ないんじゃないの?」
アスカは慌てて、ジェルの中で気を失っていた少女を引っ張り出した。
「ミサトさん! このテロリスト達を拘束して下さい! それと医療班も!」
シンジは近くで待機しているミサトを呼び、テロリスト達が持っていた武器を遠くへ蹴
り飛ばした。
「大丈夫なのね? わかったわ!」
ミサトは待機していた人員に声をかけ、率先してシンジ達の所まで歩いて来た。
「大丈夫……息をし始めたみたい……」
アスカはラミエル……いや、ラミエルであった少女の様子を見て肩の力を抜いて言った。
警備員四人がミサトの指示によって、テロリスト二名を拘束している間に、ミサトはラ
ミエルであった少女の側に来て、様子を見ていた。
「この子……たぶん10歳にもなってないわね……」
そんないたいけな少女が兵器として利用されている事にミサトは強い憤りを感じていた。
「もう大丈夫……大丈夫よ」
ミサトは横たわっていた少女を抱きかかえて、背中をさすり続けた。
「う……おかあさん?」
ラミエルであった少女は僅かに瞼を押し上げて、ミサトの顔を見てつぶやいた後、深い
眠りへと誘われていった。
* * *
一時間後……
「で、ラミエルだった少女は無事保護されているって訳か……けど、大丈夫なのか?」
吉田は病室でシンジとアスカの報告を聞き、複雑そうな表情を浮かべた。
「テロリストを一人尋問したんだけど、使徒としての能力を使わせる為に、特殊な薬剤の
アンプルを飲ませる必要があるんだけど、効果時間があまり長くないらしいんだ……」
「そうか……けど、よく使徒の前に素手で立ち向かったもんだな……俺がいたら、きっと
悩んだ末、その少女に戦いを挑んだだろうし……眠らされていて良かったのかもな」
吉田は苦笑いを浮かべてシンジに応えた。
「テロリストの服にアンプルが一つ残ってたから、今解析してるそうだけど……もう、ラ
ミエルの脅威は本当に無いのかしら……」
「どうやら、正常な判断が出来ないように、夢見心地になるような薬を服用させられてい
たそうよ……」
そこに、話を廊下で聞いていたのか、碧い髪の少女が報告書を手に姿を現した。
「そうだったんですか……そういえば、最初は言葉がぎごちなかったのが、徐々に変わっ
ていったように思ったけど、そのせいだったのかな」
「で、良いニュースと悪いニュースがあるわ……どっちから聞く?」
「悪いニュースかな……希望は最後に残しておくもんだろう」
吉田は少し顔をしかめて言った。
「じゃ、悪いニュースから……捕獲したテロリストの二名とも、尋問中に死亡したわ……
歯に埋め込んでいた毒のカプセルは除去したのだけど、どうやら、無事任務を終了して特
殊な解毒薬を投与しないと死ぬ類の毒素を体内に注入されていたらしいの」
「あの子は大丈夫なの?」
アスカはラミエルだった少女の安否が気になるのか、立ち上がって問いかけた。
「それも良いニュースかしらね……あの少女からは毒物は検出されなかったわ……それと、
意識を完全に取り戻し、普通に話す事が出来るようになったそうよ……葛城三左によく懐
いているそうよ」
「そうですか……ミサトさんに……」
「お母さんって言ってたものね……ミサトは複雑な気持ちかも知れないけど」
「俺はその少女の根本的な危険性は消えていないと思う。可愛そうだけど、何らかの処置
をするべきだと思う…………」
吉田が逡巡しながら紡いだ言葉は、シンジとアスカの顔色を失わせるには充分であった。
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第22話 終わり
第23話
に続く!
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