「一応、これはデートなんだから 当然食事は男性持ちよね」
「そ……そういうもんだよね……」
「じゃ、遠慮無く美味しい物たべよ」
惣流さんは僕の顔色を伺いながら言った。
「う……うん」
断れる訳が無いのに……意地悪だ。
僕は緊張をほぐす為、運ばれて来た水を飲もうとグラスを持ち上げた時、
水の表面にゆらゆらと何かが映し出された。
そう……恐らくは今日この場所にいたに違いない男性が苦しんでいる姿が……
【
窓に映るは明日の影
】
第9話「
彼女が流した涙の意味は
」
一年中夏だとは言えこの時期は多少夜が遅く訪れる……
午後6時半……まだ街灯が灯されるまでには時間がありすぎた
買い物をしてから帰ると言う惣流さんと駅前で別れて僕は一人帰途についていた。
「まるで……そうだ まるで夢のようだった……」
僕はそっと自分の頬を指でつねった
だが……痛みは伝わって来なかった
その瞬間 僕は今自分が立っているのがどこなのかも認識出来なくなっていた。
軽い目眩い そして嘔吐感……
僕の心はまるで蟻地獄に迷いこんだ蟻のように下に落ちないようにもがいていた。
「今のは嘘だよ……ちゃんと土産の袋も持ってるじゃ無いか」
絶望の縁に落ちる寸前に、あの謎の声が頭の中で響いた。
その声でようやく僕は自分を取り戻した。
だが、彼の言葉の真の意味に思い至った時、先程以上の心の喪失感を感じた。
彼は僕の感覚すらも自由に操れる……そして記憶も……
今日は土産と言う証拠がある……
だが、惣流さんと昔交わしたと思っていたあの約束は……
探しても見つからない証拠…… 二人を唯一繋ぐ証拠は見つからなかった。
僕はついにあの記憶が後から植えつけられたものである事を確信した。
その場所からいつの間に家に帰り着いたのかはあまり記憶に無い……
日曜だと言うのに父さんはまだ帰っておらず、僕はベッドの上で何も考える事無く
ただ、天井を見続けていた。
そして翌日……
僕は何とか平常を装って学校に向かっていた。
だが心のバランスが取れているとはお世辞にも言えない程、千々に乱れていた。
下駄箱で靴と上履きにはきかえている時、僕は背後から肩を叩かれた。
「誰?」 僕は右足を上履きに押し込みながらそっと振り向いた。
「碇君 昨日は急な事頼んでごめんね どう? 楽しかった?」
肩を叩いたのは洞木さんだった。 洞木さんは僕の顔色をそっと伺いながら話しはじめた。
「あ……うん 楽しかったよ あのこれ……お土産」
僕は遊園地で買ったキーホルダーの入った小袋をポケットから取り出して手渡した。
「悪いわね お土産まで貰っちゃって 惣流さんにも貰ったのに」
洞木さんは小袋を鞄に入れて僕の横に並んで歩きはじめた。
「初めて行ったけど面白いアトラクションが沢山あったよ」
「じゃ私も一度行ってみなきゃね……あ、委員会の朝礼あるんでまた後でね」
そう言って洞木さんは足早に去って行った。
僕はまだ人陰もまばらな教室に入り席についた。
まだトウジもケンスケも来ていないようだったので僕は机に突っ伏して寝る事にした。
昨夜はあまり眠れず睡眠不足気味だったからだ。
2分とかからず僕は眠りについていた。
途中で少し騒がしくなり、少し眠りが浅くなったが僕は朝礼まで眠り続けていた。
朝礼が終わり、一時限目の数学の授業が始まった。
だが後ろの席の方で小さいくぐもったような笑い声があちこちから聞こえていた。
何か面白い事でも書いている紙切れを回しているのだろうか……
「前回は出席番号1番までだったな じゃ出席番号一番 えー碇か この問題を解いてみろ」
数学の教師が黒板に手早く問題を書き込みながら言った。
方程式の問題は専用の問題集で先週予習していたので、僕は安心して黒板に向かった。
そして、僕は何とか問題を解き終え、黒板の前から離れようとした時……
「おい碇 背中に張ってあるそれは何だ」
「え?」 僕は訳が分からず苦労して手を背中に回した。
紙の手ざわりが有り、どうやらセロテープで止められているようだった
僕は背中から紙を取り外してその紙を見つめた。
その紙には超古典的な相合い傘に碇 惣流 と書かれていた。
僕がその紙を見て顔を赤らめた途端 クラスは笑いに包まれていた。
「碇ぃ おまえ可愛い顔して手は早いなぁ」
「机で寝てるからだよ 昨日はお疲れだったらしいから仕方無いか」
いくつか野次が飛んで来たが、
トウジがにらみを効かせてくれたので、野次はようやく止まった
僕はようやく先程の笑い声の意味がわかり紙をくしゃくしゃにして席に戻った。
だが惣流さんは顔色一つ変えずに席に座っていた。
だがこめかみがぴくぴくしているのが見えたので内心怒っているのだろう……
数学の時間の間 僕は授業に身が入らなかった。
そして三時限目の休み時間の時 洞木さんが現れて言った。
「3組の女子達が同じ遊園地に昨日行ってて碇君達を見つけたらしいの……」
洞木さんは少し済まなさそうな顔つきで報告していた。
「洞木さんは気にしなくていいよ……トウジのおかげでもう落ち着いたし」
「そう? 3組の女子と話してこれ以上噂話しないように頼んでおくわね……
このままだと尾鰭背鰭がついていっちゃうから…… じゃ」
洞木さんは隣のクラスに向かって歩いていった。
昼休みに食事を終えトイレに行った帰り 僕は惣流さんと出会った。
惣流さんは何か言いたそうにしていたので、僕は先手を打つ事にした。
「わかってるよ……昨日はたまたま僕が代理で行っただけだから……
その……勘違いなんか……してないから」 僕は言葉を選んで小声で呟いた。
「あんたって……本当に意気地が無いのね……見損なったわ」
その言葉が終わると共に僕は惣流さんに引っぱたかれていた。
「どうして……」 僕は訳も分からず火のついたように熱い左頬に手を添えていた。
「あんた男でしょ 人の様子ばかり窺ってるんじゃ無いわよ
今朝の事だってどうして堂々とした態度取らなかったのよ……
そんなに卑屈にならないでよ……私まで惨めになっちゃうじゃ無い」
惣流さんは目尻に涙を浮かべながらその場を走り去った。
僕は廊下のまん中に突っ立ったまま、何度も惣流さんの言葉を頭の中で反芻していた。
だけど……惣流さんの涙の意味が僕には理解出来なかった。
昼休みも終わった頃には僕のクラスの黒板に
”碇・惣流 すでに破局か?”などと書かれていたが、
僕の心はもう麻痺していて何の感慨も抱かなかった。
授業が終わり、鞄に教科書を詰めている時、
洞木さんが何か話す事があるのか隣の席に座って僕の方を見た。
「ど……どうしたの?」
僕は洞木さんの顔を直視する事すら出来ず ただ小声で問いかけた。
「惣流さんから聞いたわ……」
洞木さんは淡々とした声で話を初めた。
「そ……そう」
「今朝早く惣流さんと学校で会った時ね……彼女 これまでに無くいい表情してたの……
それでね 昨日のデートはどうだったの? って聞いたら
彼女ったら少し頬を染めて頷いたの…… 彼女ああいう性格でしょ?
素直になれない性格だけど……彼女が一番心を開いているのはあなたなのよ……
彼女は認めたがらないと思うけど……
あなたも悩んでるんでしょうけど……彼女はもっと悩んでるの……
その事……分かってあげてね」
僕は洞木さんの言葉を飲み込み その意味を完全に理解するまで少し時間がかかった……
惣流さんがことあるごとに”誤解しないでよね”って言ってたのはただの強がりだった事
そして……僕のせいで惣流さんを傷つけてしまった事にようやく思い至ったのだ。
「惣流さんはさっき図書館によってたみたいだから まだ校門の近くにいるかもね」
僕はその言葉を聞くや否や立ち上がり、鞄をひっつかんで教室を出て行った。
今ならまだ間に合う……惣流さんに謝るんだ……そして……
僕は上履きを下駄箱に入れるのすらもどかしく、
靴を履いて校門に向かって走って行こうとした。
陸上部の生徒達が校庭を走っているのを無視して校庭を横切り、
校門までもう少しの処で二つの影が僕を遮った。
「確か警告した筈だよなぁ 春日」
「ああ……その筈なのになぁ 未神」
校門そばの木の影から現れたのは、先日わらびもちを踏みにじったあの二人の不良だった。
「用があるんだ 通してくれっ」
僕は二人の間をすり抜け通り過ぎようとした時、僕は足をひっかけられて転倒した。
「俺達の方が先約なんだよ……どうやら痛めつけないと分からないらしいな」
長身の未神が僕のワイシャツのエリを掴んで僕を立ち上がらせた。
「おい ちゃんとおさえていてくれよ」
春日はボクシングのようなスイングをしながら言った。
「わかってるだろうが顔は駄目だぜ 教師にばれるからな」
「わかってるよ未神 ちゃんと腹にするさ へっへっへ」
素振りをしながらにじり寄って来る春日を見て僕は恐怖におののいている時、
再び頭の中で声が響いた……
「力を貸してあげようか? 早く惣流さんを追いかけたいんだろう?」
その声は甘美でそして僕の心のガードをかいくぐって僕の理性を犯していた。
「惣流さんに会わないといけないだ……力を……」
僕は熱に浮かれたように考えが定まらなかったが、
惣流さんに会うと言う事だけが表層に浮かび、それを邪魔しようとしている
この二人を排除すべきだと考えはじめていた時、誰かの声が響いた。
「ダメっ 彼の言葉に耳を貸してはいけない」
その声の主は綾波レイであった。
僕はようやく正気を取り戻した。
「行かなくちゃ……会いにいかなくちゃ」
僕は呆然としている二人を振り切り、惣流さんの後を追った。
いくつ角を曲がれば惣流さんに追いつくのだろう……
どれだけ走れば惣流さんに……どれだけ謝れば許して貰えるのだろう
僕の意識はは半ば熱に浮かれたようになっていた。
そして、惣流さんの後ろ姿を見つけた時、僕は気を失って転倒した。
君が窓の向こうに見る風景……今日のものだと……言い切れる?
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久々の再開なのにいきなり鬼引き?
デートの続きはどうなったんや
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
内容確認画面を出さないで送信する
どうもありがとうございました!
第9話 終わり
第10話
に続く!
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