「ダメっ 彼の言葉に耳を貸してはいけない」
その声の主は綾波レイであった。
僕はようやく正気を取り戻した。

「行かなくちゃ……会いにいかなくちゃ」
僕は呆然としている二人を振り切り、惣流さんの後を追った。

いくつ角を曲がれば惣流さんに追いつくのだろう……
どれだけ走れば惣流さんに……どれだけ謝れば許して貰えるのだろう
僕の意識はは半ば熱に浮かれたようになっていた。

そして、惣流さんの後ろ姿を見つけた時、僕は気を失って転倒した。



窓に映るは明日の影


第10話「誤解六階大曲解?(謎)




「碇シンジ? ダメよあいつ てんで意気地無しなんだから……」
惣流さんが誰かと話している……
だが話している誰かの姿は黒いヴェールに被われているかのように誰だか分からない……

「クラスの他の子ならともかく、私はあんなのじゃ満足出来ないわ……」
僕が聞いているのにどうしてそんな酷い事が言えるのだろう……
僕? 僕って誰だ……碇シンジ……それが僕だ……だけどこの風景の中には僕の姿が無い。

「あんな奴なんかもう顔を見るのも嫌よ」
だんだん遠ざかって行く惣流さん……僕は必死で追いかけるがなかなか前には進まない。

「惣流さん……待ってよ 惣流さん!」
ようやくスピードを出せるようになったので、
僕は一気に距離を詰めて惣流さんを後ろから抱きしめた……

「きゃあっ」

暖かい……いつまでも離したくない……
きゃあ?

意識レベルのもっと高いところで聞こえた声で僕はようやく目を覚ました。


目を開けると困惑した惣流さんの顔が間近に迫っており、
僕は覗きこもうとしていたらしい惣流さんをベッドに寝たまま抱きしめていた。

「さっきのは夢で……まだ夢が覚めて無いのかな……」
僕は惣流さんの背中に回した手に少し力を入れた。

「いいかげんに目ぇ覚ましなさいよっ」
その瞬間 僕は惣流さんにおでこに軽い頭突きを食らって手を緩めた。

「えっ 夢じゃ無かったの? ごっごめん」
ずきずきと痛む額から僕はようやく目を覚ましていた事を実感した。

「油断も隙も無いんだから……」
惣流さんは少し顔を上気させて横目で僕を見ていた。

「ここ……僕の家だ……まだ家には帰り着いて無い筈なのに……
そう……惣流さんを追いかけてたんだ……惣流さんに謝らなきゃって……」

「気絶したあんたを苦労して起こそうとしてたらミサト先生が車で通りかかって
気絶したあんたと私を乗せてここまで運んでくれたのよ……
医者でもある赤木先生を呼んで来るからって10分前ぐらいに帰ったわ……」
惣流さんは僕の机で宿題をやっていたのか、ノートを片づけながら言った。

「そうだったの……ごめん……僕 夢の中でも惣流さんを追いかけていたんだ……」

知ってるわよ

「えっ?」 僕は惣流さんのその言葉に反応してしまった。
今起きてると思っているこの時もあいつに夢を見せられているのじゃ無いかと……

「寝言……言ってたから…… どうしたのかなって近づいてみれば……
いきなり抱きしめられたのよ……」

「ごめん……そんなつもりじゃ無かったんだ……」

「謝るのはいいけど、そんな卑屈な態度じゃダメよっ 言ったでしょ」
惣流さんは僕の額を人差し指でつんと突いて言った。
照れ臭そうに横を向いた惣流さんの顔には僅かながら笑みが浮かんでいた。

「惣流さん……」

「従順な犬じゃあるまいし、そんな呼び方しないでよ あんたはポチかっ
だから私の事はアスカと呼びなさい 言っとくけどあんたの性格改造の為だからね……
ヒカリにしか呼ばせて無いんだから……」
最後の方では声が消え入るかのように小さくなっていった。

「分かったよ……アスカ」
僕は唾を飲み込んでようやくその言葉を捻り出した。

「どうせもう誤解されてるんだから、これ以上誤解される筈無いしね……」
アスカと呼ばせる事の恥ずかしさの実感が今ごろ沸いて来たのか、
惣流さん……いやアスカは少し頬を染めていた。

普段……他の人にはいつも強い態度でいるアスカだけど……
それは彼女が他人を拒絶する為の殻のようなもので……
本当のアスカはちょっとした事で頬を染める……可愛い女の子だったんだ……

・%・いきなり抱きしめる事がちょっとした事なのか?・%・

僕と違って強い人間だと勝手に想像していたから……
本当は不安だった彼女の気持ちを分かってやれず……
突っ走ってしまった自分が、とても情けなかった……

そう……黒板に書かれたあの時だって……
僕が堂々と対処していれば彼女を必要以上に苦しめる事にはならなかったんだ……

もっと強くならなきゃいけない……僕はその命題を忘れぬように右手を握り締めた。

「何よ……黙りこくっちゃって……」
アスカは鞄の金具をかちゃかちゃさせながら僕の様子を窺っていた。

寝言で……君の名前を呼んだだけで近づいてくれるのなら……
僕は勇気を持って次の一言を言った。

「君の事をもっと知りたいんだ……アスカ」

「そう…………わかったわ」 そういってアスカはするりと首のリボンを解いた。

「な、何してるの?」
そして、制服の上着を脱ぎはじめたアスカを見て僕は内心慌てた

「何してるのって……こんな状態の時……君の事をもっと知りたいなんて言われたら……」
アスカは急に泣き出しそうになってしまった。

僕はまたアスカを傷つけようとしている……彼女にこれ以上無い恥をかかせようとしている

僕は毛布を掴んでアスカに纏わせ、毛布ごとアスカを抱き寄せた……

「ごめん……僕は……朝早く学校に来てどんな事してるのかなって思って……
いろいろ聞きたいと思ったんだ…… ごめん アスカに恥をかかせるつもりじゃ無かった」

アスカは目をぱちくりしながら僕の言葉を聞いていた。

「君の事は同じクラスになってから……ずっと好きだった……だけど僕たち……
まだ中学生だし……」 僕はアスカの顔から目を逸らし、彼女の白い首筋を見ながら言った。

「ぶっ」 その時、アスカは堪え切れなくなったのか吹き出してしまった。

「あんたが急に気の効いた台詞言うから……からかっただけよ……」
アスカは顔を真っ赤にして下手な嘘をついた。

だが、アスカはずっとアスカの事を見つめ続けている僕と視線を合わして、
そして目を瞑った。 僕は恐る恐る顔を寄せて彼女の唇に僕の唇を重ねた。

これまで偶発的に……お互いの意志でなくキスした事はあった……
だけど今日は違う……今日が二人の本当のファーストキスだ……

毛布からはみ出たアスカの背中が小指にあたっていて、僕は小指に神経を集中していた。

意識し始めるとキリが無かった…… 毛布のすき間から見えるアスカのブラジャー……
これ以上アスカを抱きしめていると、
自分が自分じゃ無くなると思った僕はようやく唇を離した

「もう……勝手にキスするんだから……」
目を開けたアスカの一言で僕は凍りついた。

「えっ? あの状況で目を瞑られたら普通……」
僕は一方的にアスカの唇を奪ってしまったのかと、全身から一気に汗が吹き出た。

「嘘よ う・そ……分かったでしょう……さっきの私がその状態だったのよ……」
アスカは僕の唇を指でなぞりながら呟いた。

「冷や汗が出ちゃったよ……」
「それにさっきのはちゃんと告白してくれたから、そのお返しよ」

「告白? どういう事?」
僕は訳が分からず問い返した。

「もう……ずっと好きだったって言ってくれたじゃ無い……」
「あ……うん……」 僕はあの時の事を段々思い出して、頬を染めてしまった。
「告った方が負けなんだからね 私の言う事は何でも聞くのよ」
「そんなぁ……そういうものなの?」

「命令よ……もう一度私にキスをしなさい……今度はもっと上手にね」
アスカは頬を染め、少し恥ずかしそうに命令した。

僕は頷き、アスカを抱きしめたまま、足場が不安定だったのでベッドにいざない
そして今日二度目のキスをした。


「……教えてくれる?」

「……いいわよ」

「ずっと気になってたんだ……どうしていつも朝早く学校行くの?」

「さっきの仕返しのつもり?」

「どんな些細な事でも……アスカの事を知りたいんだ……」

「朝はいつも……図書館に行ってるのよ……」

「今度……僕も一緒に行っていいかな……」

アスカは頷く代わりにアスカの方から顔を寄せて来た……

ようやくわかりあえる事が出来て 至福の瞬間であった。


ピンポーン

お約束でごめん(笑)

「アスカちゃーん シンちゃん目覚ました?」
返事を待たずミサト先生が玄関のドアを開け、僕たちに呼びかけた。

「まだ目が覚めて無いのかも知れないから大声出しちゃダメじゃ無いのミサト」
リツコさんの声も聞こえて来た。

「これって誤解されるよね……」
「これ以上無くね……」

ベッドの脇には脱いだアスカの制服の上着……
そしてベッドの上でアスカを抱きしめている僕……

僕たちはお互いを抱きしめたまま硬直していたが、ようやく現状がわかり
慌ててアスカに服を着はじめ、僕は元どおりにしようと毛布をかぶった。

ミサトさんとリツコさんが二階に上がって来た時には奇跡的にアスカは着替えを終えていた
が、さっきのどたばたは当然聞こえていた筈で…… 僕は平静を装う為に深呼吸した。

「いい? あんたはさっき目覚めたばかりなんだからね…… あの事は秘密よ」
アスカは小声で僕に囁いた。

「何が秘密なの? アスカちゃん」 ミサト先生が部屋に入って来るなりそう問いかけた。



君が窓の向こうに見る風景……今日のものだと……言い切れる?




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どうもありがとうございました!
読者の期待を外すエキスパートだな(笑)>今回
笑いごとじゃねぇ? ごめんなさいm(__)m


第10話 終わり

第11話 に続く!


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