ミサトさんとリツコさんが二階に上がって来た時には奇跡的にアスカは着替えを終えていた
が、さっきのどたばたは当然聞こえていた筈で…… 僕は平静を装う為に深呼吸した。
「いい? あんたはさっき目覚めたばかりなんだからね…… あの事は秘密よ」
アスカは小声で僕に囁いた。
「何が秘密なの? アスカちゃん」 ミサト先生が部屋に入って来るなりそう問いかけた。
【
窓に映るは明日の影
】
第11話「
マリオネット
」
「ミサト どうかしたの?」 少し遅れてリツコさんも僕の部屋に入って来た。
「で、何が秘密なのかなぁ〜 いつの間にか親しくなったシンジ君とアスカちゃん」
ミサトさんは寝たふりをしようとしていた僕の顔とアスカの顔を交互に見て言った。
「せ……先生には関係の無い事です……いくら教師だからと言っても
生徒のプライベートな部分にまで干渉する理由は無い筈です」
アスカは劣勢にたたされていたのを挽回する為、強い口調でミサト先生に話しかけた。
「あっそう……まぁそれならいいんだけど……」
ミサト先生は簡単に口を割りそうに無いアスカを諦めたのか僕の眼をじっと見つめた。
「…………」僕は布団の下で握り締めてる手に汗をかいていた。
「ミサト何やってるの? はやくどいてよ」
リツコさんがミサト先生をおしのけてベッドの横に座った。
「具合はどう? シンジ君」 リツコさんは僕の腕を取り脈を見はじめた。
「今は 何とも無いです」
「一年生の時の検診の時、貧血の傾向があったから軽い貧血だったのかしらね
鉄分をもっと取らなきゃダメよ でもシンジ君が料理を作ってる訳だし……
今度栄養学の本を持って来るわね」 リツコさんは聴診器を耳にあてがいながら言った。
「リツコぉ……シンジ君の義母になれたらそんな心配無いのにねぇ」
ミサト先生はリツコさんと父さんとの関係(?)を知っているのか小声で囁いた
「ミサト……余計な事言わないでよ……私は別に…… あ、シンジ君ちょっと身体を
起して胸の処をはだけてくれる?」
「あ、はい」 僕は上半身を起してワイシャツのボタンを外し始めた。
アスカはさっきから何もしゃべらずに僕たちをじっと見ていた。
「じゃ大きく息を吸ってね」
リツコさんが僕の胸にあてがった聴診器はひんやりとしていて、
僕の心の奥底までも覗かれているような錯覚を感じた。
「
あら……これは何かしらねぇ
」
ミサト先生は僕がさっきまで寝ていたベッドの上から何かをつまみあげた。
その時、アスカは息を飲んで顔色を変えた。
僕は何だろうと思って横を見ると ミサト先生がアスカが付けていた制服のリボンを広げて
いる処だった。
「あら、このリボン誰のかしらねぇ……どうしてシンジ君のベッドにこんなものが……」
ミサト先生は会心の笑みを浮かべた。
「あら 凄い動悸ね……」 ミサト先生の行動に気づいて無いリツコ先生は聴診器から
聞こえる僕の心音だけに集中していた。
「へぇ……そっかぁ……なるほどねぇ〜」 ミサト先生はリボンをひらひらさせながら、
リボンを付けていないアスカの首もとを見て笑みを浮かべた。
「碇君をベッドに寝かせる時に外れたみたいですね 先生……返して下さい」
アスカは平静を装って手を差し出した
僕はその緊迫したやりとりを見て息苦しさを感じた。
「碇君はもう大丈夫みたいですので、失礼します」
アスカはにやにやしているミサト先生の手からリボンを奪いとり部屋を出ていった。
アスカが階段を降りる足音を聞きながら僕は少し寂しさを感じていた。
先程まであれだけ近くにアスカを感じていたのに…………
一度与えられたおもちゃをとりあげられた子供のように僕の心は不安定だった。
「特に異常は無いみたいね……もし気分が悪くなったら連絡してね」
先程までのやりとりに気づいて無いリツコさんは道具をしまいながら言った。
学生時代から研究に没頭していた為、以外と恋愛関係は奥手で、
それが父さんとの仲が深くならない理由じゃ無いかとミサトさんから前に聞いた事を
僕は思い出した。
ミサト先生はと言うとにこやかな笑みを浮かべていた。
僕がその事を不審がっているとミサト先生が口を開いた。
「最近ずっと暗い表情してたから心配してたんだけど……もう心配無いみたいね」
教師としてと言うより知り合いのお姉さんとしての表情でミサトさんは
僕を見下ろしていた。
「ミサト……」 ようやく事態を悟ったのかリツコさんがミサト先生を見つめていた。
「だけど……不純異性交遊(死語)は10年早いわよ? シンちゃん」
ミサト先生は微笑みながらげんこつで僕の頭を軽くぐりぐりしてから立ち上がった。
「今日は安静にしておいた方がいいわね もし明日欠席するなら電話頂戴」
ミサト先生は手を振って僕の部屋から出ていった。
「ゲンドウさんには私から電話しておきますから安心して寝ていてね」
リツコさんは少し恥ずかしそうに父さんの名前を出して言った。
二人が階段を降りて行く音を聞きながら僕は寝間着に着替えていた。
家の外でミサトさんが誰かに話しかけている声がかすかに聞こえて来た。
アスカがまだ家の外にでもいたのだろうか……
僕は淡い期待を一瞬抱いたが今日はいろいろな事があったので寝る事にした。
ベッドに横たわっているとかすかに玄関が開く音がした。
アスカだろうか……
少し照れ臭かったので僕は目蓋を閉じ、寝たふりをしようと考え実行に移した。
あまり大きな音では無かったが階段を上がる足音が断続的に聞こえていた。
そして少し開いていた僕の部屋のドアから誰かが僕の室内に入って来た。
誰かが僕の顔を覗きこんでいるのを感じた僕は唐突に眼を開いた。
鮮やかな紅の二つの瞳が僕を見据えていた。
アスカだと思っていた闖入者は紅い瞳の少女 綾波レイであった。
「あれほど警告したのに……」 綾波さんはぼそりと呟いた。
僕はようやく綾波さんがこの部屋にいる事の奇妙さを考える事が出来た
それはこれまでの異変と綾波さんが関っているのでは無いかと言う疑問の答えともなった。
「あなたが今日 彼の力を望んだ事でもう引き返しのつかない処まで追い込まれかかって
いる事にまだ気づいて無いようね」
綾波さんは冷徹とまで言える程の厳しさで僕を見つめていた。
「彼? もしかして頭の中に話しかけて来るあの声の事?」
僕はようやくあの事を相談出来る人に出会ったと思い少し安堵した。
「もう無意識に働きかけるだけで無く直接コンタクトを取るまでになってるのね……
危険……あまりにも危険だわ」
「どういう事なのか僕にはさっぱりわからないよ 綾波さんは何か知ってるんでしょ?」
僕は綾波さんの肩を両手で掴んで問いただした。
「くっふふふ ようやくのお出ましか」
その時、頭の中で例の声が響いた。
「黙れ カヲルっ」 綾波さんが右手を振ると僕の部屋の窓ガラスが外側に砕け散った。
・
ちょっち さかきばらりょうこ的な声(ハマーン)だと思いねぇ
・
「無駄だよ……無駄な事は分かっている筈だよね ここの前の住人だったのだから」
砕け散ったと思われたガラス片はまるでビデオの巻き戻しを見ているかのように
再び窓枠に向かって戻っていった。
さっき粉々になったのが嘘のようにガラスは元のように輝いていた。
「ここの前の住人? 綾波さんが?」
僕は突然告げられた情報に困惑した。
綾波さんは沈黙したままその事について否定はしなかった。
「今度は碇君で弄ぶ気? 碇君をここへ引っ越しさせたのも私を弄ぶつもりだったのね
わざと力が必要になる状況に追い詰めておいて碇君を取り込もうとしたのね」
綾波さんのその言葉は僕を驚愕させるには充分だった。
突然の引っ越し……そしてこれまでの出来事……
それら全てが仕組まれていたと言う事なのだろうか……
もし本当だとすれば……僕は…………
「彼は結局力を求めはしなかったよ……」
「なら惣流アスカを追いかけていたのを利用して無意識に働きかけて影響を強めたのね」
僕はわけが分からず二人(?)の対話を聞いていた。
「人の心というものは儚くて美しい 特にそこの彼なんかはね……」
うっすらと窓に中性的な顔だちの少年の姿が浮かび上がった。
「また封印されたいの?」 綾波さんは懐からお札を取り出して言った。
「君は聡明だがある一点においては愚かだ……
それが封印たりえるとでも思っていたのかい?」
次の瞬間 綾波さんが手にしていたお札は燃え上がった。
だが、綾波さんの手には影響を与えてはいないようだった。
「君が私と手を切りたいと言う事を知ったから手を引いてあげただけで
決して封印されていた訳じゃ無いよ 君の母上のお札はそこいらの悪霊どもには
有効でも私の行動を束縛する事など出来はしないよ」
綾波さんは怒りのせいか腕を震わせていた。
「君が何を望んで僕の力を一度は受け入れたのか……そこにいる彼に教えてもいいかい?」
綾波さんがカヲルと呼んでいた謎の存在の言葉に綾波さんは顔に血を上らせた。
綾波さんが血相を変えて右腕を振り下ろそうとした時、窓に映っていたカヲルの姿は消えた。
「綾波さん……知ってる事を教えて欲しいんだ……」
綾波さんの呼吸が落ち着いて来たので僕はそっと話しかけた。
「あなたは……やはり何も覚えて無いのね」
綾波さんは寂しそうな笑みを浮かべて僕の部屋から出ていった。
君が窓の向こうに見る風景……今日のものだと……言い切れる?
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全然訳が分からないよ父さん
謎で鬼な引きやな
よくやったな・・シンジ
問題無い・・・
おまえには失望した
ここに、何か一言書いて下さいね(^^;
内容確認画面を出さないで送信する
どうもありがとうございました!
第11話 終わり
第12話
に続く!
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