「君が何を望んで僕の力を一度は受け入れたのか……そこにいる彼に教えてもいいかい?」
綾波さんがカヲルと呼んでいた謎の存在の言葉に綾波さんは顔に血を上らせた。
綾波さんが血相を変えて右腕を振り下ろそうとした時、窓に映っていたカヲルの姿は消えた。

「綾波さん……知ってる事を教えて欲しいんだ……」
綾波さんの呼吸が落ち着いて来たので僕はそっと話しかけた。

「あなたは……やはり何も覚えて無いのね」
綾波さんは寂しそうな笑みを浮かべて僕の部屋から出ていった。



窓に映るは明日の影


第12話「スクランブルハート



動悸が収まらない……綾波さんとカヲルと呼ばれていた存在の話を聞き、

僕がここに引っ越して来たのが偶然では無かった事を知ったからだろうか……

いや……なにより最後に綾波さんに言われた言葉が胸のどこかに引っかかっているのだ。

まぶたを閉じると今日見た綾波さんの寂しそうな笑みが浮かび上がって来た



「もう9時か 父さん遅いな……」 僕は頭もとの時計を見て呟いた。

窓にはカーテンをかけ窓に背を向けてベッドで寝ていてもやはり落ち着かない 

自分にまで嘘をついてちゃ駄目だな……
それもあるけど……惣流さんとの刺激的な出来事がまだ忘れられないのだ。

お互いの意思による初めてのキス そして……
欲望と言う名の思念がもくもくと沸き上がって来る。

「トイレ行ってこよう……」
朝起きた時や尿が溜まっている時などに起こる現象が発生し、
僕はベッドから降りて 階段を降りてトイレに入った。

「だめだ……治まらないよ……どうしたらいいんだ……冷やせばいいのかな……」

結局父さんは帰って来ず、僕は朝の5時ぐらいまで悶々として眠れなかった



翌朝


僕は起き出して来てパンを二枚トースターに放り込んだ。
夕べは結局ご飯を食べてなくてお腹が空いたからだ。

パンが焼けるまでの間に僕は冷蔵庫から卵を四個取り出し、
スクランブルエッグを作っていた。

その時、玄関のチャイムの音が鳴り響いた。

「やっと父さん帰って来たんだ……」
僕は火を止めて手を拭いながら呟いた

「おかえり 父さん 朝ご飯出来てるよ」
僕は玄関に向かって歩いて行き、ロックを外しながら話しかけた

「朝ご飯出来てるの? じゃ頂いて行こうかしら
扉の向こうにいたのは父さんでは無く、惣流さんであった。

「あ……うん いいけど……どうしたの?」
僕は突然に惣流さんの訪問に戸惑っていた。

「昨日 図書館に一緒に行きたいって言ってたでしょ」
惣流さんは靴を脱いで中に上がりながら言った。

「ど……どうぞ」
僕は惣流さんをリビングに案内した。

「おっ邪魔しまーす」 惣流さんは機嫌がいいのか、軽い足取りで僕の後をついてきた。

僕は惣流さんを席につかせておいて、朝ご飯の準備をしていた。

「トーストとスクランブルエッグだけど、いい? 何ならもう一品作るけど」
僕はスクランブルエッグを皿に移しながら言った。

「菓子パン一つ食べて来たから、そんなにいらないわよ」
惣流さんはテーブルに頬をくっつけて今にも眠りそうな姿勢で答えた。

「惣流さんはバターの後にジャムか何か付ける? 自家製のいちごジャムがあるんだけど」
僕はトースターからトーストを取り出しながら話しかけた。

「じゃ、それでお願いね〜」 惣流さんは眠いのかテーブルに突っ伏したまま答えた。

僕は手早くパンにバターといちごジャムを塗って皿に載せて
皿に盛ったスクランブルエッグと共にテーブルに持っていった。

「あっ いい匂い」 机に突っ伏していた惣流さんはぱっと跳ね起きて眼を輝かせて言った

僕は冷蔵庫からオレンジジュースを出し、コップについだ。

「じゃ頂きまーす」
惣流さんは嬉しそうにフォークをスクランブルエッグに突き刺し口に運んでいた。

僕はトーストを千切り、上にスクランブルエッグを乗せて食べはじめた。

「美味しいぃ 今のママは全然こういうの作ってくれないのよね
いっつも固焼きの卵ばっかりでうんざりしちゃう……この独特の香り……
ママが作ってくれたスクランブルエッグと同じ匂いね……」

今のママと言う言葉に少しひっかかったが、惣流さんが嬉しそうに食べているのを見て
僕は内心とても嬉しかった。

と暖かく見守っている内にあれよあれよと言う間に
卵四個分のスクランブルエッグは減って行き、僕も慌ててフォークを突き刺した。

数分後 卵四個分のスクランブルエッグと、途中追加で焼いた一人二枚で計4枚のトースト
を奇麗に平らげ、僕と惣流さんは満足気にオレンジジュースを飲んでいた。

「あのね……自分でスクランブルエッグ作った事あるんだけど、こんな味にならないのよ
前のママやシンジが作ったようないい匂いにならないの……どうしてかしらね……」

「油を敷くかわりに僕はマーガリンを使ってるんだ だからこういういい匂いになるんだと
思う……これは母さんがいつもそうしていたからなんだけど……僕の母さんと惣流さんの
お母さんは知り合いだったみたいだし、僕の母さんから作り方聞いてたのかも知れないね」

「あ、それと当然卵もいいもの使ってるよ 有精卵って高いし手に入りにくいんだけど、
一度美味しいスクランブルエッグを食べるとレベル落とせなくなるんだ……」

「そうかも知れないわね……でもそのママは死んでしまったの……」
惣流さんのその言葉で僕は先程の言葉の意味を悟った。

「今日も授業まで図書館で過ごそうと思ったのに もうすぐ普通の登校時間ね……」
惣流さんは少し寂しげに笑いながら言った。

「もしかして……家に居づらいから早くから学校行ってたの?」

「…………」 惣流さんは視線を下の方にずらして押し黙った。

「ごめん……ちょっと無神経だったかな……」
僕は自分のコップと惣流さんのコップにオレンジジュースをつぎながら言った。

「気にしなくていいわよ……けど不思議ね……」
惣流さんはオレンジジュースの入ったコップを揺らしながら呟いた。

「何が?」
僕はその言葉の意味がわからず問い返した。

「あんたとこうやって話している事が不思議なのよ……この間まであんなにぎごちなかった
のに……どうしてなのか自分でも分からないの」
惣流さんはそう言って一気にグラスの中のオレンジジュースを飲み干した。

僕は惣流さんのその言葉が耳から離れなかった。
カヲルと呼ばれていた謎の存在の介入により惣流さんと親しくなれたけど……
それは本来とても不自然だと言う事はいわれなくても分かっているからだ……

「そろそろ行きましょ 図書館に行く時間は無いけど今からなら教室に一番乗りよ」

「あ……うん そうだね」
僕は手早く食器をまとめて流しに置いて水を張った。

「ごちそうさま 今度そのマーガリン使う方法試してみる……」

「うん」
屈託の無い惣流さんの笑みを見て僕は心の中の澱が流されるかのように感じた。


10分後 僕らは教室に辿りついた。

「この時間ならまだ誰も来てないと思うけど」
惣流さんは昨日の事もあり僕と一緒に教室に入る事を気にしているのか、
教室の扉を少し空けて中を覗いた。

だが、惣流さんは覗きこんだ体勢のまま動こうとしなかった。

「どうかしたの?」 昨日のようにまた悪ふざけでもされてるのかと僕は心配になり、
戸をもう少し空けて中を覗きこんだ。

「別に変わった所は無いみたいだけど……あっ」

窓際の席で綾波さんが一人で本を読んでいた。
始業時間の30分も前だと言うのにいつもこんな時間に来ているのだろうか

「アスカ 僕が先に入るから、もうちょっと後から入りなよ」
綾波さんがまだ僕らに気づいて無いようなので、僕はそう提案した。

「そ……そうね」 惣流さんはそーっと後ろに下がった。

僕はなにげないふりをして一人で教室に入った。

綾波さんは僕に気づかないのか、本に見入ったままだった。

僕はそっと自分の席に座った。

僕はちらっと入り口の方を見ると惣流さんが扉のすき間からこっちを見ていた。

どうして惣流さんが綾波さんを意識するのか僕には訳がわからなかった。

2分程たったであろうか、綾波さんは本を閉じ立ち上がった。

どこかに行くのか綾波さんは本を手にしたまま僕の前を通った。

「おはよう……綾波さん」
僕は今さらながらのあいさつをした。

「碇君……話があるの……昼休み 屋上で待ってるから」
綾波さんはそう言い残して教室を出ていった。
どうやら図書室に本を返しに行くようだったが、
僕はついに話が聞けると言う事でその内容が気になっていた。

考え込んでいた為、後ろ側の入り口から惣流さんが教室に入って来たのにも気づかなかった。

「何かワケありみたいなんだけど……どういう事か私に説明してくれる?」
惣流さんは両手のげんこつで僕のこめかみをぐりぐりと押しつけながら言った。

「いたっ いたっ やめてよ惣流さん」

「んもう また惣流さんって呼んでる……さっきみたいにアスカって呼びなさいよ
あの時はちょっと格好いいかなって思ったのに……」

「惣流さんが想像してるような事とは違うと思うんだけど……後で話すから

「仲いいのね お二人さん」
いつの間にか教室の扉が開いており、洞木さんが嬉しそうに微笑んでいた。



君が今食べようとしている卵……賞味期限内のものだと……言い切れる?(謎)



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どうもありがとうございました!


第12話 終わり

第13話 に続く!


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