------------------------------------------------------------------------------
ファーストインパクト
Episode 12 -火蓋-
------------------------------------------------------------------------------

<緑の砦>

アスカは、今日もヒカリと一緒に砦の民衆の食事を支度している。あの戦い以降、この
砦では平和が続いており、農作物も豊富で皆明るく毎日の生活を営んでいた。

「ヒカリー。火つけたわよ。」

「ありがとう。アスカがいると本当便利ね。」

次々と釜に火をつけていく。必死になって火を起こさなくとも、占いに使う火を手の平
から出すことができるので、こういう時便利。

「今日は、キノコが沢山採れたみたい。より分けてくれるかしら?」

「まっかせなさい。」

ヒカリに言われ、食べれるキノコとそうでない物を分け鍋に放り込む。シンジが居な
くなってからというもの、毎日ヒカリと一緒にこんなことをしている為、料理などの腕
がかなり上達した。

グツグツグツ。

今日は女手8人で、砦の民衆の料理を大きな16の釜を使って作っている。アスカの担
当はそのうちの2つ。

「みんなぁ。ご飯できたわよぉ。」

掛け声と共に男性も女性も、自分の器を持って釜の周りに集まって来る。最初の頃は、
アスカの前には誰も寄って来なかったが、最近はなかなかの繁盛振り。

もっともトウジだけは、必ずヒカリの釜の前にしか並ばないのだったが、それはそれ理
由を聞くだけ野暮というもの。

早く帰って来ないかな。
元気でいるわよねっ。
こんなに美味しいご飯作れる様になったのよ。

もうシンジと別れてから、かなりの日が経過した。まだ近くにいた頃は、占いでその姿
を見ることもできたが、もうそれすら適わない。

後はシンジが帰って来たら、言うこと無いんだけどねぇ。

自分が出て行ったことで、きっと西の国も平和になっただろう。緑の砦も平和になり、
後は末永くシンジと暮らしていけたら、それだけで十分幸せ。

ザワザワザワ。

その時、砦の門前が騒がしくなった。建物の陰で皆にキノコ鍋を配給していたアスカは
そちらの方向は見えない。耳を立てて何だろうと不思議な顔をする。

「男だっ! 怪我しているぞっ!」
「何処の者だっ!?」

騒ぐ男達のそんな声が聞こえて来る。どうやら、怪我をした男が砦の中へ逃げ込んで来
たらしい。

まさかっ!?
シ、シンジっ!

いてもたってもいられなくなったアスカは、鍋物を配るのもほったらかして、騒ぎ声の
している所まで走って行く。

あっ!
ち、違った・・・。

そこには無数の傷を体に負った、同じ年くらいの見知らぬ男の子が苦しそうな顔をして
倒れている。

酷い怪我。
いったい、どうしてこんな・・・。

アスカは遠巻きに、可哀想に・・・という顔で見詰める。その時、駆け寄って来たアス
カに気付いた少年が、はっと目を見開いた。

「み、巫女様っ!」

「えっ?」

すがる様な目で、アスカににじり寄って来る少年。その”巫女”という言葉に、アスカ
は驚きつつも、這って近寄ってきた少年の体を抱き起こす。

「巫女様っ! 西の国を助けて下さいっ! 」

「どういうことっ? アンタはっ!? どうしたのっ!?」

「俺はケンスケ・・・西の国はもう・・・。」

ガクッ。

その場で息絶えるケンスケと名乗った少年。わずか数秒の出会いと別れであった。

「国が平和になってないの?」

真っ青な顔で少年を見つめる。その時、砦の向こうから幾人かの兵達が、こちらに向か
って走って来るのが見えた。

「そっちへ逃げたぞーーーっ!」
「逃がすなーーっ!」

この少年は脱走でもしたのだろう。どうやら、追って来た兵の様である。

あの衣は。
近衛兵・・・。

アスカには、追って来ている兵達の身形に見覚えがあった。かつては自分を守り、母を
守ってくれていた西の国の側近の兵達。見間違うはずはない。

「なんだ、お前達はっ!」

他国の兵が数人迫って来るので、シゲル率いる砦の男達がアスカを守るような形で、剣
を抜き砦から出て行く。

「我々は西の国の者だっ。その男以外に逃亡者がいないか、砦の中を見せて貰おうっ。」

「余所の国の者を、砦に入れるわけにはいかんっ!」

「貴様っ! たかがその程度の兵で、西の国に刃向かうつもりかっ!」

「どうしても入ると言うなら、俺が相手になるっ!」

西の国の数名の兵達と、シゲル率いる男達は、互いに剣を構え一触即発の雰囲気で向き
合う。

「やめなさいっ!」

その時、アスカがシゲルの前にずいと身を乗り出した。西の国の兵達は、突然少女が自
分達の前に出てきたので、剣を向けて戦闘態勢に入る。

「なんだ貴様っ!」

「危ないっ!」

殺気立つ兵達。シゲルが守る様に出て来るが、それを制してアスカは更にその身を乗り
出す。

「アンタ達っ! 何? この騒ぎはっ!?」

「はっ! ま、まさかっ!? あなた様は・・・。」

しかしアスカが近付くと、兵達は驚きの表情を浮かべ剣をゆっくりと下に降ろしその場
に立ちすくんでしまう。

「いったい何事なのっ!?」

「み・・・巫女様・・・。ははーーーー。」

「アンタ達は、他国の侵略でも命じられたのっ!?」

「い、いえ・・・。そういうわけでは・・・。」

「じゃ、何だって言うのよっ!?」

たじたじになる兵達。さすがに相手が自分達の国の巫女となると、とても手が出せない。
巫女に手を上げでもしたら、どんな災厄が降りかかるかわかったものではない。

「事情を説明しなさい。今、西の国はどうなっているのっ!?」

「はっ!」

ひれ伏す兵達に向かい凛と立つアスカを前に、シゲルを始めとする緑の砦の男達は、や
はりアスカは大国である西の国の巫女なのだと感銘する。

「近頃、西の国では大きな工事が進んでおりまして、逃亡者が後を絶ちません。そこで、
  我々が逃亡者を捜す命を受けまして。」

「工事? キールがやらせてるのね・・・。」

「はっ。巨大な丸い城を作っております。」

「それは何なの?」

「私共にはわかりません。キール様は、人類最後の砦と申されております。」

「民の生活は、どうなっているのっ!?」

「それは・・・。その・・・。」

巫女を前に、恐々先程倒れボロボロになった少年に目を向ける兵達。その仕草を見たア
スカは、髪を逆立てて激怒した。

「ま、ままかっ! 民の皆があんな姿で働いてるって言うんじゃないでしょうねっ!!!」

「その・・・。おおせの通りで・・・。」

「なっ!」

光を失った瞳、愕然とした顔でがくりと膝を地に落とすアスカ。自分さえいなくなれば、
民はキールの言うことなど聞くはずがないと思っていた。その考えがいかに甘いものだ
ったかを、今痛感させられる。

「なんてこと・・・。ママに顔向けできない・・・。」

かつて西の国を守っていたキョウコに、そして重労働を強いられている西の国の民に、
自分の考えの甘さを詫びても詫びても詫びきれない気持ちになる。

「どないしたんやっ!」

アスカが西の国の兵達と揉めていると聞いたトウジが、血相を変えて飛び出してきた。
いつでも、土蜘蛛でもゴーレムでも召還できる体勢である。

「お願いがあるの。」

「なんや。何があったんや。」

「たぶん、もうすぐシンジが帰って来ると思う。伝えて欲しいの。」

「お前っ。何するつもりや?」

「アタシは、西の国に帰る・・・。」

「な、なんやてっ! あかんっ! シンジがおらん間に、そないなこと許せへんでっ!」

「ダメよっ! 一刻も早く帰らないとっ! 民がっ!」

「あかんっ! なんと言おうとそれはあかんっ! シンジが帰って来るまで待つんやっ!」

「そんなことアタシにはできないっ! だから、シンジに伝えて。アタシはアタシのや
  るべきことをするのっ。だから、シンジはシンジのやるべきことをしてってっ!」

「あかんっ! 絶対ワイは許さへんでっ! どうしてもっちゅーんやったら、ワイも付い
  て行くでっ!」

「ダメよっ! もし、また闇の獣が攻めてきたら、砦はどうなるのっ!? ヒカリはどう
  なるのよっ!」

「ウッ・・・。」

「甘えたこと言ってんじゃないわよっ! アンタにも、アンタのやるべきことがあるで
  しょうがっ!」

「ほやかて、ワイはシンジと約束したんやっ!」

「じゃ、シンジが西の国を見捨てろと言うとでも思うのっ!?」

「うっ・・・ほやかて・・・ほやかて・・・。」

「ごめん・・・心配してくれてるのはわかる。けどっ! アタシは巫女なのよっ! 西の
  国の巫女なのよっ! 自分の幸せの為に、民を見捨てるなんてことできないっ!」

「・・・わ、わかった。お前の好きにせぇ。その代わり、無茶したらあかんで。」

「ごめん・・・。」

「はぁ、これでワイとシンジの友情も終わりかもしれへんのう。とうとう男の約束破っ
  てもうたわ。」

「大丈夫よ。シンジなら・・・。」

「なんかあったら、どんな手段でもええ。ワイに伝えるんやで。すぐとんでいったるさ
  かいな。」

「ありがとう。」

アスカはトウジにニコリと微笑むと、自分の前にひれ伏している近衛兵達の前に凛と立
ち、力強く命令する。

「アタシを西の国へ連れて行きなさいっ! 砦の中に入る必要などないわっ!」

「ははぁっ!」

巫女を見つけてお連れしたなどという功績をもってすれば、脱走した労働者など芥子粒
程度の物である。兵達は、深々とひれ伏しながらも、キールからの膨大な褒美に欲を膨
らませるのだった。

<緑の砦付近の山>

アスカが砦から去って数日が経過した頃、シンジはリョウジと共に緑の砦へと向かって
歩いていた。

「もうすぐです。今日中には着けると思います。」

「今晩は屋根の下でゆっくりと眠れそうだな。」

「はい。久し振りにみんなに会えるんで、なんか嬉しいな。」

北の国の争いを治めたシンジは、リョウジと東の国へ向かうことになっていたが、長ら
く留守にしていた緑の砦に、無理を言って寄って貰っていた。

「この辺りからだと、東の国へはどのくらい掛かるんですか?」

「かなりかかりそうだ。」

「無理言ってすみません。」

「のんびりはしてられないが、これくらいの寄り道ならかまわんさ。」

「1人、一緒に行きたい女の子がいるんです。」

「ほぉ。それは初耳だな。」

「少し移動が遅くなるかもしれないけど・・・いいですか?」

「あぁ、歓迎するよ。」

東の国に自分に関係する大事なことがあると聞いたが、まだ詳細は知らされていない。
リョウジが言うべきことでは無いということだ。

「そうだ。その砦には、神剣と呼ばれる剣があるんです。リョウジさんなら、きっと気
  に入りますよ。」

「そんなに凄いのか?」

「それはもう。」

ここまで来る途中、何度か山賊に襲われたのだが、リョウジの剣の腕は桁違いであった。
術が使えないにもかかわらず、剣1本でシンジ並の攻撃力を持つ程の強者で、生っ粋の
剣士とはまさに彼のことであろう。

「ぼくも、あれくらい剣が上手くなりたいな。」

「少し教えただけで上達してるじゃないか。君の実力さ。」

「そうですか? ありがとうございます。」

孤児同然で育ったシンジだったが、その人柄のせいもあり、いつしかリョウジを兄の様
に慕っていた。

<緑の砦>

その日の夕刻、緑の砦にシンジが帰って来たという知らせが飛び交い、皆大騒ぎの状態
となった。

「シンジ様が帰って来られたぞーーーっ!」

「なんやてっ! ちょっと行ってくるわっ!」

「わたしも行くわ。」

「おうっ! 先に行ってんでっ!」

ヒカリと一緒に、城壁の周りで草むしりをしていたトウジは、知らせを聞き急いで走り
出す。普段は草むしりをサボるとヒカリの雷が落ちるが、今日はそれどころではない。

「やぁ、トウジ。久し振りだね。」

「シンジっ! 実は・・・。」

砦の門の近くで再会する2人。シンジは久し振りに会う親友に上機嫌で話し掛けてくる
が、トウジの面持ちは暗い。

「どうしたんだよ。暗い顔して・・・。」

「実は・・・アスカが西の国へ帰ったんや・・・。」

「えっ!???」

自分の耳を疑う様な顔で、困惑した表情を浮かべ、トウジに聞き返す。

「さすがに・・・止めれんかった。すまん。シンジっ!」

「どういうことだよっ! トウジつ! 何があったんだよっ!」

そこへ、ヒカリやコダマ達も出て来る。シンジは、トウジの肩をぐいと掴んで自分がい
ない間に何があったのかを問いただす。

「なんで、アスカがあんなとこに戻っちゃったんだよっ!?」

「すまんっ! お前との約束を守れへんかったんやっ。なんと言われてもしゃーない。」

「そんなことより、何があったか教えてよっ! アスカはどうなったんだよっ!」

「実はやな・・・。」

トウジは詫びながら、数日前の出来事を詳しく説明して聞かせる。それを聞いたシンジ
は、愕然として膝を折り地につけた。

「もう少し早く帰ってこれてたら・・・。怪我さえしなけりゃ・・・くそっ。」

「すまん。ワイの力が無かったんや。」

「トウジは・・・悪くないよ。でも、ぼくがいたら付いて行ってあげれたのに・・・。」

「とにかく、旅でお疲れでしょうから、1度中へ・・・。」

門前で愕然とするシンジを見たコダマは、ひとまず中へ招き入れようと促すが、シンジ
はそれを拒んで立ち上がる。

「いえ・・・すぐに西の国へ行きますっ!」

「待つんだ。」

しかし、その言葉を加持が止める。

「君の気持ちはわかるが、それでは同じことの繰り返しだ。東の国へ来てくれないか。」

「でも、アスカがっ!」

「わかっている。だが、ここは俺を信じてくれ。」

「・・・・・・。」

「例え、その娘を今助け出したとしても、民は救われないだろう。解決にはならないん
  じゃないか?」

「・・・・・・。」

「わかってくれ。」

「東の国へ行けば、アスカは助かるんですね。」

「悪いが、約束はできない。」

「ならっ!」

「だが、その娘も君の成すべきことをしろと言ったんじゃないのか?」

「・・・・・・。」

「君の今すべきことは、東の国へ行くことだ。」

「・・・・・・。」

「わかってくれないか?」

「・・・・・アスカなら・・・アスカなら、きっと行けと言うと思います。 わかりま
  した。」

「すまない。」

東の国へ行くことを決意したシンジは、久々に会ったコダマを中心とする緑の砦の人々
に向き直り軽く挨拶をする。

「もう少しゆっくりしたかったけど、すぐに行くことにするよ。」

「そうですか・・・。では、少しだけ待ってて下さい。旅の支度を整えさせます。」

「はい。ありがとうございます。」

シンジとリョウジは、神剣に加え、様々な新たな旅の支度を受け取り、砦の皆に一通り
挨拶をすると、日も暮れ掛けた道を東の国へ向かって旅立って行ったのだった。

<西の国>

シンジが緑の砦へ到着した頃、アスカも西の国へ到着していた。言うまでもなく、歓喜
したのはキール以外他ならない。

「よくぞ戻って来られた。」

「この国の有様はなんなのっ! 民が餓死寸前じゃないっ!」

「巫女様がおられなくなったばかりに、この有様です。」

「ぐ・・・っ!」

よくも平然と言えた物だと思うが、結果として身を引いたのではなく、一身の保身を計
って逃げたのと同じ状況になってしまったアスカには、何も言い返せない。

「とにかく、7日に1日は休息を与えなさいっ!」

「それはできん。もう時間が無いのでな。」

「代わりに、アタシが一生懸命働くように号令を掛けますっ!」

「・・・。」

キールにも民が疲弊しきっていることはわかっている。ここで巫女の号令が得られれば、
1日休息を与えて力を養わせた方が得策であるとも思われる。

「・・・よかろう。」

「もう1つあるわ。」

「なんだ。」

「民と直接話しをさせなさい。皆を元気付けて頑張って働く様に言うわ。」

「ふむ・・・まぁ、良いだろう。」

「では、早速祭壇の準備をなさい。」

アスカはそれだけ言うと、キールから離れキョウコの館へと戻って行く。戻った時は、
荒れ放題になっていた館であったが、取り急ぎ侍女達が暮らせる様にしてくれた様だ。

「フン。あの小娘。言うようになりよった。影っ!」

「はっ!」

アスカが去った後、キールは舌鼓を1度打ち影を呼び寄せる。

「あの小娘の監視を怠るな。後少しだ。ここで挫折するわけにはいかん。」

「はっ!」

「ジオ・フロントさえ完成すれば・・・ククク。」

<巫女の館>

かつてキョウコが住んでいた館であり、本日より正式に新たな巫女となるアスカが住み
始める巫女の館に足を踏み入れる。

ママ・・・ごめんなさい。
アタシがあさはかでした。

真っ先に祭壇の前に腰を降ろしたアスカは、目を閉じ母であり師であるキョウコに詫び
を入れる。

でも、アタシは負けません。
必ず、元の西の国を取り戻してみせます。
平和な国を・・・。

アスカが祭壇に祈りを捧げていると、コンコンと扉を叩く音。閉じていた目を開け、入
り口の方へ向き直る。

「何?」

「今日から、巫女様の身の回りの世話を仰せつかった侍女のマユミです。」

「いいわ。入って。」

既にアスカは侍女だろうと、近衛兵だろうと全く信用していなかった。誰が入って来て
も、いつでも身を守れる体勢を整えて気を引き締める。

「失礼します。」

入って来たのは大人しそうな同じ年くらいの少女。それでも、気を許さずその少女を見
つめる。

「もうすぐ、祭壇の準備が整うとのことです。」

「そう。」

「この衣を着て、祭壇へ上がって下さい。」

「わかったわ。」

「お手伝いします。」

アスカは、マユミに手伝って貰いながら、祭壇に上る時に巫女が纏う衣に身を包む。い
よいよアスカの戦いが始まろうとしていた。

<祭壇>

その日の夕刻、アスカは用意された祭壇の上から、民衆達に号令を掛けていた。

「今日から、アタシが西の国の巫女になりますっ!」

「おーーーっ! 巫女様だぁぁぁっ!」
「巫女様がお帰りになられたーーーっ!」
「ははぁぁぁ。巫女様ぁぁぁ。ありがたいことじゃぁぁっ!」

アスカの姿を見た民衆は、救いの女神が現れたかの如くどよめきの声を上げる。多くの
者が感激のあまり涙を流している。

「みんなっ! 7日に1日の休養を約束しましたっ! 今のアタシにはそれが限界なのっ!
  でも、後少しで工事も終わるらしいわっ! 辛いだろうけど、頑張ってっ!」

ワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

大歓声が祭壇の周りから沸き起こる。

「ありがたやぁぁぁっ!」
「巫女様のおかげじゃぁぁぁっ!」

7日に1日の休養。それだけでも今の疲弊しきった民には、天の恵みの様にありがたか
った。

「それから、みんなの働く様子をアタシが見て回ることができる様になったわっ! 何
  か困ったことがあったら、アタシに言って頂戴っ!」

ワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

再び、大歓声が沸き起こる。

今迄、不平不満が頂点に達した民が度々起こす小さな暴動により、工事の遅れを気にし
ていたキールだったが、アスカの言葉で指揮が高まる様子をほくそ笑みながら見ていた。

「クククク。利用できるだけ利用させて貰うぞ。」

短い時間ではあったが、民への呼び掛けを終えたアスカは、祭壇を降り館へと戻って行
こうとする。その時、キールがアスカを呼び止めてきた。

「巫女様。後で我が館へいらして下さい。」

「何?」

「ここでは・・・。大事な話があります。」

「わかったわ。」

その奥歯に物が詰まった様な含みを持つ言い方に、嫌な感覚を覚えながらも、民の前な
ので明るく手を振って館へと戻って行くアスカであった。

<キールの館>

夜になり夕食を終えたアスカが館へ入ると、幾人もの剣を持った兵に守られながら、ニ
ヤリと笑うキールに出迎えられる。

「本日、正式に巫女になられたことをお祝い申し上げます。」

「そんなことはいいわ。で、用な何なの?」

「7日に1日の休養。巫女様のご要望には極力お答えしているつもりです。」

「だからなんのよ。」

キールの話し方から、嫌な予感に捕らわれて仕方の無いアスカは、敵意も露にギンとキ
ールに睨み付ける。

「いやぁ、さすがは巫女様。民を統率する能力に長けておられると、キールは感服いた
  しました。」

「言いたいことがあるならさっさと言いなさいよ。」

「実は、以前・・・東の国が攻めて来たことがありました。」

「そう・・・。」

「今の我が国の国力では、対抗が難しいかと。」

「どうしろってのよっ! 休養の日は譲れないわよっ! たとえ兵の訓練だとしても。」

「いえいえ。めっそうもございません。もっと簡単に国力を上げる方法が・・・。」

「何よ。」

「神剣というものをご存じですかな?」

「なっ!!! まさかっ!!!」

アスカの顔から、一気に血の気が引いて行った。神剣。知らないはずがない。緑の砦で
作られる剣だ。

「神剣さえ手に入れば、東の国など大したことはございません。」

「なにバカなこと言ってんのよっ!」

「我が国の兵力を投入すれば、あの程度の砦くらい。ククク。すぐに落とせましょう。」

「ざけんじゃないわよっ! そんなこと、できるもんですかっ!」

「おやおや、仕方がないですなぁ。昼夜問わず民に工事と兵の訓練をさせねば。」

「バカなこと言ってんじゃないわよっ! 1日の休養は約束したでしょうがっ!」

「休養させるとは言いましたが、残りの6日をどう使うかまでは約束していませんが?」

「なっ!」

拳を握りしめて、キールに飛びかからんばかりの勢いで立ち上がるアスカだったが、周
りを固めている兵が一斉に剣を抜き、アスカの首元に切っ先を突きつける。

「おやおや、平和に話をしているつもりなんですが、困りましたねぇ。」

「くっ・・・。」

アスカは下唇を噛み締め、怒りに血走った目でキールを睨み付ける。しかし、今の自分
の力では、これ以上どうすることもできない。

ここでアタシが死ねば・・・。
民の皆は元の重労働に。
でもっ! 緑の砦だけはっ!

例え神剣を持っているとしても、西の国とでは国力が違い過ぎる。多勢に無勢で、あの
程度の砦などすぐに落とされるのは目に見えている。

「話はそれだけです。明日返事を受けます。お引き取りを。」

「くっ!」

噛み締めた下唇から血を流すアスカを、兵達が半ば強引に追い払う。アスカは悔し涙を
袖で拭いながら、巫女の館へと戻って行った。

<巫女の館>

館へ戻ったアスカは、怒りも露に祭壇の前に座り占いの準備を始める。これから自分は
どう動けばいいのかを神に問おうというのだ。

こんちきしょーーーっ!
誰が、アイツの思い通りなんかにっ!
アイツだけは、絶対に許さないっ!

怒りに震える手で祭壇に薪をくべていく・・・というより叩き込んでいく。この時アス
カはその怒りのせいで、キョウコに教わっていたことを忘れていた。占いをする時は、
必ず精神を落ち付けてからしなければならないという教えを・・・。

許さないっ!許さないっ!
殺してやるっ! 殺してやるっ! 殺してやるっ!

薪をくべ終わったアスカは、いつもの様に祭壇の準備をし、手を翳して火をつける体勢
に入る。

こんちくしょーーーーーーっ!!!

手の平に火をつけ様と、神経を集中する。

その瞬間。

ドガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンっ!!!!

爆発。

炎上。

巫女の館の半分が、一気に吹き飛ぶ。

アスカはその強烈な爆風で、真後ろに跳ね飛ばされ、祭壇に思いっきり体を叩き付けら
れた。

「ぐはっ!」

予想していなかった突然の衝撃に、口の中を切ってしまい血を吐くアスカ。

「うっ・・・」

そして、アスカは燃え盛る巫女の館の中で、意識を失った。


To Be Continued.


作者"ターム"さんへのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp


[Episode 13]へ

[もどる]