召喚師達 〜 裏庭亭外伝 〜
作 Ophanim
僕の名前は錨シンジ。一応、ロード(君主)を目指している14歳のサモナー
(召喚師)・・・の、見習い・・・。
経験を積まないとレベルアップもクラスチェンジもできないんだよぉ・・・。
「誰に向かって泣き言を言っているのよっ!!あんた馬鹿ぁ?そんなの
あったりまえじゃない!」
これは双竜=アスカ、ラングレィ・・・。僕と同じく召喚師見習い・・・。
「そうよ。何事も、経験を積まなければ、始まらないわ・・・。」
こっちの大人しいのは彩浪レイ・・・。これも召喚師見習い・・・。
「そうだよ・・・。そんなこと知っているよ・・・。でもさ、経験を積むには
モンスターを退治しなくちゃいけないの。判る?」
二人はこくこく、と頷いた。
「それにはね、パーティを組むのが一番いいの。判る?」
二人は一層激しくこくこく頷いた。
「敵が強いと傷つくときもある。強い敵には魔法で倒した方がいいときも
ある・・・。」
僕の言葉に、二人はもっともぉっと強く頷いた。
「だからパーティはバランスが大事なのっ!!どぉして
二人とも嘘つくかなぁっ!!!」
僕がそう言うと二人は一斉に耳を隠して聞こえないふりをした。
パーティを組むときに、アスカは『私は魔法使いよ』って言って仲間に
入って来たし、レイはレイで『私は僧侶・・・』なぁんて言っていた。
「もおええって・・・。シンジ。ここまで来てしもうたらしょうもない
やろ・・・。」
ため息混じりに話しているのは錫刃螺トウジ。こいつが頼れる戦士・・・。
「そうよ。幸い、私が回復呪文少しだけ持っているから・・・。」
そう言ってくれたのは法螺機ヒカリ。グループリーダーも兼ねる賢者。
彼女は魔法使いの呪文も僧侶の呪文も覚えることが出来るけど、
こうなってしまったら僧侶系に絞ってもらうしかない・・・。
「そうだね。ま、僕には何の影響も無いけど・・・。」
これは英田ケンスケ。学者・・・の、見習い・・・。学者は魔法使い・僧侶
に加えて僕らの持っている召喚の能力も身につけることが出来る・・・
んだけど、レベルの低いうちは全く使いものにならない単なるうんちく
野郎・・・。
「・・・お世辞にもバランスがいいとは言えないね・・・。」
はぁ・・・。
みんな一斉にため息をもらした・・・。
シンジ達はみんな紫国のとある村に住んでいた。
ある時、”お城の裏庭にモンスターが出るので、これを退治したものには
退治したモンスターに応じてご褒美が出る”、という立て札が立った。
そこでシンジ達(シンジ、トウジ、ケンスケ、ヒカリ)は小遣い稼ぎのつもり
でこれに挑戦することにしたのだ。
「ただ闇雲に行ってもかもられるだけや。わいらも少し手に職つけてから
行こうや。」
そう言うトウジの案に従って、シンジ達はそれぞれ思い思いに手近の師匠に
ついて少しづつ技術をつけて集まったのだ。
だが、ど田舎のシンジ達の家の近くに魔法使いなんて便利なものはいなかった
ので、誰も魔法使いにはなれなかった。
(ま、魔法ってコンビニみたいなものだし・・・。)
それに、専門の僧侶もいなかった。
(ま、”ど”がつく田舎だからお医者さんがいない、ということで・・・。)
そんな時に、自称”魔法使い”のアスカと、こちらも自称”僧侶”のレイが
仲間になったものだから、シンジ達は喜んで仲間に加え、勇んでお城の裏庭に
出陣して中に入ってしばらくした頃に・・・
「あ、あのさ・・・言いにくいんだけど・・・。」
ってなことになったわけだ・・・。
「か、かわりにいっぱいスクロールを持ってきたわよ。」
二人はそう言って背負ってきたザックを開けた。スクロール(巻物)という
ものは、それなりの修行を受けた人間ならば誰でも読むことが出来て、比較的
高度な呪文を使うことが出来る。但し、一番長持ちする呪文でも丸一日効力を
もたせるのが限度。同じ呪文を使いたければ毎日一本は消費し続けなければ
ならない。それに、やっかいなのは召喚した精霊が使い手に使われるのを
嫌ったり、からかったりする場合があること・・・。あんまり自分のレベル
よりも高い精霊を呼ぶべきではないのだ。
今見れば、なるほど、確かにスクロールはたくさん持ってきたようだ。
だけど、シンジがみたところ、どこかで見たような字が並んでいた・・・。
「あのさ、二人とも何処で修行した?」
答えは予想通り・・・。
二人ともシンジのうちで修行していた・・・。
「ほんっっっっっとに!もうっ!!それじゃ僕が持ってきたのと変わらない
じゃないかっ!!」
シンジは判ってはいたけどつい大きな声を出してしまった。
「そんなに怒らなくったってぇ・・・。」
レイは泣きそうな顔をしてアスカの陰に隠れた。
「そ、そうよ!それに、あたし達にはあたし達用にユイ叔母様が書いて
くれたんですからねっ!!」
ちょうど都合のいいことに、下級モンスターが前方に現れた。
それを見たアスカが背中からすらり、とスクロールを抜き取った。
(あ、ビ○ムサー○ル・・・。小学校の時ランドセルでよくやった・・・っておい)
「見てらっしゃい!」
《赤系呪文》
「ンュシミカミ!!!」
激しい閃光と共に、赤い精霊が飛び出して来た。
「やっておしまいっ!」
アスカの命令が出ると、精霊は攻撃体勢に移った。
シャーイニング、
萌ええええええええええっ!
さすが赤系最大級の呪文、雑魚キャラなんて苦にもしない。
「どう?」
えっへん、と胸を張るアスカ。レイもこそこそ、と出てきてアスカの真似を
して胸を張った。
「うん、アスカの勝ち。」
ケンスケがぶつぶつとメモを取っている。
「何を基準に・・・?」
とケンスケのメモをのぞき込んだヒカリはいきなりケンスケに強烈な平手打ち
をかました。
ぱっしっぃいいいいいんっ!!
「む、胸の大きさを比べんじゃないわよっ!」
「今回の第壱目的はお城の裏庭に潜む昆虫型モンスターの退治にするわ。」
リーダー=ヒカリは地面に図を書きながら説明をしている。
「モンスターの名前は”ひろ虫”。人に浮気をさせるちょこざいな
モンスターよ。これにやられるとSGが落ちて新しい連載が始ったり、〜if〜が
止まってFが進んだり、○さくが馬券を外したり・・・とにかく、いいことが
ないのよ、判る?だから、こいつの毒気を抜いて浮気を無くすのが目的よ。」
ケンスケが横合いから茶々を入れる。
「でも、ま、ひろ虫が浮気できなくなったら自壊するからつまり、やっつけろ、
ってことかな?」
ヒカリはくるり、と後ろを向いてごそごそとバッグの中を探った。眼鏡を
かけて『昆虫大図鑑』や『ファー○ル昆虫記』をめくる。
「そ、そうとも言うわね。」
ヒカリは再びこっちを向き直ると、顔を少し赤くしてこほん、と咳払いを
一つした。
「いい?ひろ虫はサクラに弱いわ。サクラには惹かれて寄ってくるけど
あんまり近づくと溶けてしまうの。そこを狙って浮気の虫を抽出するのよ。」
ヒカリは作戦を説明した。
「あのな、リーダー。ちょっとええか?」
トウジは手をあげた。
「なあに?トウジ?」
ヒカリは眼鏡をしまいながらトウジに秋波を送った。
「サクラってなんや?」
結局サクラの判らなかったシンジら一行は足でひろ虫を探すことにした。
「あんまり奥に行くと帰れなくなるよ・・・。裏庭は蟻地獄みたいなもの
だから・・・。」
シンジは先頭を行くトウジに注意をした。
「そうやな。入り口近くでいつでも帰れるようにしとこか。」
トウジはシンジの意見に賛成すると引き返そうとした。
「・・・敵や・・・。」
トウジは剣を構えた。
アスカもレイもスクロールを開く。シンジとヒカリは後列に回り(シンジは
攻撃系をアスカ、レイに任せて守備系のスクロールを優先的に使用する作戦に
出ていた)ケンスケが前列に出る。もっとも、ケンスケは楯で術者をかばう
役目だったけど・・・。
《赤系呪文》
「ァサズア@トサ!!!」
再び激しい閃光と共に、赤い精霊が飛び出して来た。
「いっけぇ!」
アスカの命令・・・しかし、精霊はアスカの命令を聞かなかった。
「あれ?あれ?」
アスカは混乱している。
「レベル低いからからかわれたんじゃないの?」
シンジが心配そうにアスカに囁く。レベルが低いと呼び出した精霊に
いぢめられるのだ。
「変ね。叔母様が私に良く懐いている精霊だけを選んで持たせてくれた
のに・・・。」
アスカは呼び出した精霊が何処へともなく去って行くのを呆然と見送った。
「じゃ、私が・・・。」
レイがおずおずとスクロールを開く。
「な、何でもええからはよう!」
前列で一人で攻撃を支えているトウジが必死の悲鳴をあげている。
《青系呪文》
「ルアイズキ!!!」
レイの言葉にはアスカもシンジも驚いた。
「そ、それってかなり高位の精霊じゃない?」「すごいね、レイ。」
ふふん、と得意そうな微笑みを浮かべたレイの頭上で、呼び出された精霊は
アイリス萌えええええええええ
ええええええええええ!!
と叫んだ・・・。
「え?」「はい?」「は?」
再び精霊は何処かに消えてしまった。
「あ、あんたねぇ!見栄張って偉いもん呼ぶんじゃないわよ!」
アスカは怒ってレイに当たり散らした。
「だ、だってぇ・・・アスカちゃんみたいにシンジ君の前でいいところ
見せたかったんだもん・・・。」
レイは半泣きでアスカに抗議した。
「ば、馬鹿!こんな時になにいってんのよっ!!」
アスカは顔を真っ赤に染めてレイの口を手で塞ごうとした。
「だって、だってぇ・・・シンジ君と同じ職業がいいから一緒にやろうって
言ったのアスカちゃんじゃないのぉ!」
アスカの努力は一歩及ばず、レイはアスカが一番隠したかったことをばらして
しまった。
顔を真っ赤にして固まる後列3人と、敵の攻撃を一生懸命防いで顔が真っ赤に
なっている前列3人との比較をしばらくお楽しみ下さい・・・。
「と、とにかく!他の精霊を呼びなさいよっ!」
アスカはこの場をごまかすためにわざと怒ったように言った。
これを逆切れと言います。
「ぐすっ・・・はぁい・・・。」
《青系呪文》
「チイキウトカッ!!!」
「こ、これまた紫国一の青系呪文(なんのこっちゃ)だっ!!」
シンジは驚いた・・・が・・・。
すかっ・・・。
精霊は出てこなかった。
「あれぇ?」
スクロールをのぞき込むレイ・・・。
そこには・・・。
【ギ○ンの野望が終わるまでお休みね】
と書かれていた・・・。
「判ったわっ!」
ヒカリが必死で敵の攻撃をかわしながら説明する。
「精霊もひろ虫にやられているのよっ!だから、ここはみんな目の前の敵に
物理攻撃することを考えてっ!!」
作戦を変更したシンジ達はフォーメーションを変更した。シンジ・アスカを
前列に、ヒカリ、ケンスケを後列に下げる。そこからヒカリは回復呪文で
援護する。レイ、ケンスケは・・・石を投げる・・・。
何とかモンスターを撃退し、一目散に入り口めがけて走り出した。文字通り
ほうほうのていで裏庭の入り口まで戻ってきた6人は、裏庭の入り口の扉を
抜けたところでやっと安堵のため息をついた。
「ふうふう・・・これじゃあレベルを上げて小遣いを稼ぐなんて夢のまた
夢だぁ・・・。」
シンジががっくりと肩を落とした。
「そやなぁ・・・。これじゃ命がいくらあっても足らんわ・・・。」
トウジも肩で息をしながらシンジに賛成した。
「そんなことも無いわ。最初の召喚は上手く行っていた訳だし・・・。
ただ、相手が悪かったわ。いつの間にひろ虫に攻撃されていたのかしら?」
ヒカリが首を傾げる。
「いつの間って・・・ひろ虫はこの裏庭に住み着いているわけだし。最初から
いたんじゃないの?」
ケンスケが眼鏡を光らせながらそれに答えた。
「あたしの最初の呪文は上手くいったわよ!」
アスカが凄い剣幕で反論する。
「あ、ンュシミカミは他に萌えるものがないから・・・。」
ケンスケが精霊図鑑を見ながらうんちくをひけらかした。
「あれ?そういえばシンジ君は?」
レイがきょろきょろと辺りを見回した。さっきまでいたはずのシンジの姿は
今は影も形も見あたらなかった。
「あ!」「いた!!」
ほとんど同時に、レイとアスカはシンジがこそこそとお城の小部屋の中に
入って行く姿を見つけた。
「あれって・・・。」「SGの部屋だわ・・・。」
もしかして・・・。
「アヤさんの所かしらね?」
ヒカリが小首を傾げた。<図星ですがな・・・。
「ゆ、許さないわっ!!」「外に出てきても浮気するなんて・・・。」
二人は光の速度でシンジの後を追いかけて駆け出した。
「ううん・・・。ひろ虫、おそるべしね。このままでは第二、第三の犠牲者が
出るのは確実だわ。早く退治しないと・・・。」
と、ヒカリは一人固く胸に誓うのであった・・・。
・・・・・・え?なぁに?ヒカリさん?
「ん?一人?」
そう、一人・・・。
いつのまにかその場に残されたのはヒカリ唯一人であった。
「すーずーはらぁっ!!どこに行ったぁっ!!」
ヒカリは頭から角を出しながら、消えたトウジを探しに走りだした。
「やれやれ、平和だねぇ・・・。」
ヒカリもいなくなり、静けさを取り戻した裏庭の城壁に、一部始終をのんびり
眺めているケンスケの姿があった。
「歌でも歌うかい?」
その傍らに銀髪の美少年が立っている。
「そうだねぇ・・・。一曲頼もうかな。」
ケンスケは美少年・・・凪紗カヲルに唄を頼んだ。
「何がいい?”パッヘルベルのカノン”と”心の闇に潜むもの”、それに
”Your song”があるけど・・・。」
吟遊詩人の職業に就いているカヲルも、まだレベルが低くて3曲しか持ち唄
がない。
「任せるよ。」
カヲルは頷くと、”心の闇に潜むもの”を歌いだした。
「歌はいいねぇ・・・。」
ケンスケは誰にともなく呟いた。
「ねがわくば、裏庭の混沌がいつまでも続きますように・・・ってか・・・。」
ケンスケはそう言うと、懐からひろ虫を取り出して裏庭亭の中にばらまいた。
「ま、みんなが好き勝手なことをしていても、楽しく過ごすことが出来れば
それが一番いいに決まっているんだよ・・・。」
カヲルは歌の合間にケンスケに賛成すると、こちらも懐から何やら取り出した。
「次はこれなんていいと思うんだけど、どう?」
「お、いいねぇ・・・。」
二人はよからぬ悪巧みを出し合いながら、互いに浮き世の繁栄(喧噪?)を
祈るのだった。
〜続く〜
わけないっしょ(笑)