裏庭エヴァンゲリオン最終話【絆】Dパート
カヲルが襲って来た日から、もう3日が経っていた。
土曜の昼下がり
僕達は学校を出て、家に向かっていた。
「で、さぁシンジったらムキになって怒るのよ」
「無理も無いと思うわ その状況だと・・」
僕は綾波とアスカが話しているのを、後ろから聞きながら歩いていた。
綾波はこれで、彼等に狙われる心配がなくなった事もあり、
僕は少し安らいだ心で、二人を見ていた。
僕は嬉しそうにおしゃべりをしている二人の後ろ姿が眩しく見えた。
「綾波って・・着やせする方だったんだな・・」僕は3日前の出来事を思い出していた。
どんっ
僕は考え事をしながら歩いていたので、何かにぶつかってしまった。
「何やってんのよ・・もう着いたわよ」
僕は立ち止まった二人にぶつかったようだった。
「何考えてたのかすぐ分かる顔つきだこと・・」アスカが意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「な、何の事だよ」僕は、図星を突かれたせいもあり、動揺してしまった。
「私に言わせたいのかしら? バカシンジっ」アスカが笑いながら僕に近づき、
ヘッドロックをかけた。
「いたたたた 何するんだよ」
「罰よ・・」
まるまる二分程、僕を締め上げてから、ようやくアスカが身体を離した。
「碇君を苛めないで・・」綾波が少し笑みを浮かべてアスカに言った。
「ハイハイ・・わかったわよ・・けどあんたも・・素直になったわね」アスカが綾波をからかった。
一時はばらばらになりかけていた、僕達の関係も、だいぶ良い方向に進んでいると思う。
僕達はエレベータに乗った。
「レイ!今日の晩御飯は何を作る?」
「そうね・・冷蔵庫にはあまり無かったから、買い物に行きましょう」
母さんがまだ起きられないので、二人が夕食も朝食も作ってくれているのだった。
「二人とも・・ありがとう」僕は心から、二人に礼を言った。
「私達も・・家族でしょ お礼なんて言わないで」綾波がにっこりと笑った
「そうよレイの言う通りよ・・私たちが好きでやってるんだから・・それに」
「それに?」
「今の内からお姑さんと仲良くなってたら、後々有利に事が進むのよ」
「アスカ・・」僕はあれ以来、あまりに素直と言うか・・大胆になったアスカに驚いていた。
「綾波・・」綾波も頬を染めて、下を見ていた。
「僕の意志なんかどうでもいいのか・・」
シンジ・・・それは贅沢と言うものだぞ・・心の叫び・・
ガーガシャン
僕達は扉を開けた。
「あれ何だろ・」僕は書き置きを手に取った。
{シンジ・・母さんを病院で点滴を受けさせている・・8時ぐらいには帰るから待っていろ}
「じゃ、買い物に行って来ますね」買い物籠を下げた綾波が僕に声をかけた。
「僕も付いて行こうか?」
「碇君は家で待ってて」
「私達にまかせときなさい! じゃ行って来るわね」
二人は早速買う物の相談をしながら、家を出て行った。
「じゃ・・テーブルでも拭くかな・・」
僕はフキンを濡らせて、手でしぼり、食卓に向かった。
広いテーブルを拭ききるのには、骨が折れたが、シンジはウキウキしながらテーブルを拭いていた。
「さて拭きおわったし・・」シンジはフキンを洗って、ホルダーにかけて、食卓に戻った。
「幸せそうね」
食卓の椅子に、ラピスが座っていたのだ。
「ラ、ラピス」
「覚えてくれてたみたいね・・シンちゃん・・」
「じゃ、約束の事も覚えてるわよね・・・」ラピスは笑みを浮かべた。
「ごっごめん・・約束破ってしまって・・・・でも・・でも・・」僕はラピスの想いを裏切ってしまっていた事を思い出した。
「レイの反応が消えたわ・・・これで兄さんはもう駄目よ・・・ナイアルラトホテップの血脈も・・碇の巫女も終わりかもね・・」
「・・・・・」
「でも・・・只では私達も滅びないわよ」ラピスは、身も凍るような笑みを浮かべた。
「∃@≠∋〆」ラピスが何か訳のわからない言葉を叫んだ次の瞬間!
小さい球体が浮かんでいた。
その球体には、スーパーで買い物をしている、アスカとレイが映し出されていた。
「まさか!」
「そうよ・・裏切りの代償よ・・当然でしょ・・」
「止めろ!」
「私に命令出来るとでも思ってるの?」ラピスは僕を睨んだ。
僕はすかさず、ひざまずいた。
「僕はどうなってもいい・・あの二人を殺すのは止めてくれ!」
「どうなってもいい? どうなってもいいと言うの? シンちゃん」
「兄さんはもう駄目・・・碇の巫女はもう無理だけど・・シンちゃん・・あなたはまだ能力を失ってはいないわ・・」
「だから、私と結ばれたら・・・ナイアルラトホテップの血を残す事は出来るの・・」
「私と一緒に来るのよ・・シンちゃん・・」
「二人に・・お別れを言いたいんだけど・・・」
「駄目よ・・今すぐでないと、また約束破っちゃうから・・」
「分かったよ」僕はうなだれた。
「もぅ〜シンちゃんたら、深刻そうな顔しちゃって、要は私とらぶらぶな生活をして、
どんどんナイアルラトホテップの血を残せばいいだけなのよ・・
あなたがどうなる訳じゃ無いわ・・ね」ラピスはそういって、僕に抱きついた。
「あの二人には手を出さないでくれるなら・・・」僕は喉の奥から言葉を出した。
「商談は成立・・じゃ、二人の愛の巣に、れっつごー!」ラピスが何か叫んだ。
次の瞬間 僕は意識を失ってしまった。
「シンちゃん・・シンちゃん」僕は頬をぺちぺちと叩かれて目を覚ました。
「ん?」
「起きたぁ〜」ラピスが嬉しそうに、ほお擦りをした。
「やめてよ・・くすぐったい・・」
「ここはどこなのさ!」僕はラピスに聞いた。
「私達の愛の巣じゃない・・」
「ここは・・」
僕は周りを見渡した。
白い石の壁に囲まれたその部屋は、いずこからかの、光に淡く照らされていた。
「ここで、ゆっくりと、愛をはぐくみましょ・・シンちゃん・・」ラピスが後ろから抱き着いてきた。
ここに来てから・・・何日が経ったんだろう・・・
ことが終わった後はいつも、僕は光の取り入れ口を見ていた・・・・・
ラピスが言うには、遥か上から、鏡のようなもので、光を反射させて、地下深くのここに光を運んでいるそうだ。
「シンちゃんは、いつも、そこを見るんだね・・」横でラピスが呟いた。
「まるで・・籠の中の鳥が・・自由を渇望しているみたいね・・」
「いつも見ていたシンちゃん・・ここに来てから・・元気じゃ無い・・何故だろ・・」
「ラピス・・君も、僕の事をずっと見てたの?」僕は身体の向きを変えた。
「何故・・知ってるの?」
「君の兄さんに、あの刀を当てた時に・・流れて来たんだ・・レイを見続けていたイメージが・・」
「そうよ・・封印されてからは、ずっとあなたに触れる事も出来なかったけど・・シンちゃんを見てたのよ・・」
「ラピス・・」
「シンちゃん・・」
「なに?」
「あなたをここから出してあげる・・」
「どうして・・」
「そんなあなたを見ているのは辛いモン・・それに」
「それに?」
「私の願いはかなったわ・・」ラピスは下腹部に手をやった。
「ラピス・・」
「服を着て・・・シンちゃん・・送ってあげるから・・」
「ラピス・・ありがとう・・」
「私と、この子の事を忘れないでいてくれたら・・それでいいの・・」
僕とラピスは、僕の家の食卓に実体化した。
「懐かしいな・・あれからどれぐらい経ったんだろう・・」
「半年よ・・シンちゃん」
「半年? そんなに経ったのか・・」
カタカタ カタカタ
「あれ・・なんだろ・・音がする」
僕は音のする場所を目で探した。
「シンちゃん・・どうしたの?」
カタカタびゅん
次の瞬間、居間に釣り下げられていた、光る剣が、ラピス目指して飛んで来た。
「危ない!」僕は咄嗟に、ラピスを突き飛ばした。
だが、光る剣は執拗に、ラピスを追っていた。
「ラピスを狙っているのか・・」
僕はラピスの上に覆い被さった。
すると、空中で突然光る剣は動きを止めた。
そして、僕の頭の中に声が響いた。
{何故邪魔をする!ようやく、ナイアルラトホテップの血を絶やす事の出来る、千年に一度も無い機会であったのに!}
「おまえは一体何なんだ!」
{我が名はアザトース・・落とし子に魂の一部を移した者だ・・}
「アザトースと言うのは・・旧支配者の中でも、かなりの力を持つ者なの・・
知能を奪われていた筈なのに・・」
{そうだ・・だが、皮肉にも、我の落とし子を、碇の血族が使役したのだ・・
そして、碇の血族の者・・おまえとの血の盟約によって、限定的だが・・その力を行使する事が出来るのだ・・・・}
「じゃ・・僕のせいで・・・目覚めさせてしまったのか・・」
「シンちゃん・・あなたのせいじゃ無いわ・・あなたの心の隙をあざとく突いただけだったのよ・・」
「ラピス・・」
「もうお前など用が無い・・ナイアルラトホテップと共に、滅びよ!}
そして、光る剣はラピスに覆い被さっている、僕に向かって再び、加速を開始した。
「シンちゃん・・」
「ラピス・・」
「ありがとう・・あなたをさらった私をかばってくれて・・」
「ラピス・・」
どんっ
次の瞬間僕は強い力で、ラピスに突き飛ばされていた。
「ラピス!」
光る剣がラピスの胸に突き刺さるのが、視界の端で、見えた。
僕は慌てて起き上がった。
光る剣はラピスに刺さり、背中からも突き出ていた。
「ラピス!」
僕は慌てて駆け寄って、剣を引き抜こうとした。
「やめて!シンちゃん・・」
「ラピス!」
「今・・やつを押え込んでいるわ・・今なら・・滅ぼす事も出来るの・・」
「ラピス!」
「兄さん・・この子を頼みます・・」ラピスが何か叫ぶと、ラピスの身体が光り、
ラピスの下腹部から、光の固まりが飛び出て、いずこかに飛んでいった。
「シンちゃん・・ありがとね・・」ラピスは痛みのせいか、涙を流しながら、僕に微笑んだ。
「ラピス!」
次の瞬間!
ラピスの身体は光る剣を胸に差したまま、光に包まれ、そして消えた。
それが、ラピスとの別れであった。
僕は食卓に崩れ落ちた。
「ラピス・・」
ガーガシャン
その時、ドアが開き、アスカが入って来た。
「叔父様!レイが消えたんです! ちょっと目を離した隙に! 叔父様!いないんですか」
「アスカ・・」
「シ、シンジ!」
半年ぶりの、再会であった。
第10話Dパート 終わり
第10話Eパート に続く!
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