裏庭エヴァンゲリオン
第一話 「体育祭」Aパート 作:尾崎貞夫
うわっ! 痛てて、 また転んじゃったよ!
僕は赤くすりむけかけた膝をさすっていた。
「何やってんのよ! バカシンジ!」幼なじみのアスカが、
二人三脚の練習を始めて、今日だけで3回目の転倒に腹を立てた。
アスカはジャージに付いた砂を払っていた。
「ゴメン!」僕は、そう言ってから、立ち上がった。
「手を洗って来るよ」手洗いの方に歩いて行こうとしたが、
右足に妙な感覚がある。
「きゃっ」ステーン
僕はアスカの声に驚き振り向いた。
「アスカどうしたの?」
アスカは転倒していた。
「あんたバカぁ? まだ足繋がってるのよ!」
アスカに言われて足元を見ると、僕の右足とアスカの左足を
繋いだ紐がまだ解かれて無かったのだ。
「いたた」アスカは左腕を押さえている。
「大丈夫?」僕は覗き込んだ。
「大丈夫な訳無いでしょ! 見なさいよ 血が滲んできちゃったじゃ無いの! 」
「アスカ 保健室に行こう!」僕は責任感を感じて、
いやがるアスカの腕を引いて 保健室まで、歩いて来た。
「失礼しまーす」僕は保健室のドアを開けた。
中では、保健医の赤木先生が机に向かって書きものをしていた。
そして、椅子を回転させ、僕達の方に向いた。
「どうかしたの? 確か2年A組の碇君と惣流さんだったかしら?」
眼鏡のフレームを押し上げながら赤木先生は言った。
「いや、あのその 体育祭の練習してて、アスカが怪我したんです。」
僕は少しどもりながらも、赤木先生に言った。
僕は赤木先生が少し苦手だったが、今はそんな事言ってる場合じゃ無い。
「シンジ! たいした事無いって言ってるのに!」
アスカが後ろで何故か恥ずかしがっている。
僕は、アスカを赤木先生の方に連れて行った。
「ところで、ずっとそのままの格好で運動場から、ここまで来たの?」
赤木先生が、笑みを浮かべた。 どういう意味なんだろう?
「もしかしてホントに気づいて無いの? あなた達、息が合ってるのね! 」
言われて僕は足元を見た。
「ああっ ×2」
「バカシンジ何やってるのよ! 何故外さなかったのよ!」アスカが顔を赤 らめて怒った。
「そんなぁ アスカだって気がつか無かったんだろ!」僕はアスカに言い返 した。
「ま、喧嘩はそれぐらいにしなさい! 手当てするわ!」赤木先生が苦笑し ながら言った。
僕は脚を縛っていた紐を解き、保健室の前で待つ事にした。
数分後
「どうもありがとうございました」アスカが赤木先生に一礼して保健室から 出てきた。
「シンジ あんた待っててくれたの? 」アスカが僕が座り込んでいる壁際ま で歩いて来た。
「僕のせいでもあるんだから 当然だよ!」僕は神妙にアスカに言った。
何故なら、今謝っておかないと後で酷い目にあうのが、目に見えているから だ。
さすがに、幼稚園の頃からずっと一緒だったので、
僕の頭の中にはアスカにぶたれる恐怖がトラウマとして染み付いているから だ。
情けない話ではある。
何せ、良く覚えていないが、幼稚園の頃、何かの理由でアスカを怒らせた時 、
アスカにぶたれたのだが、泣き止まない僕に腹を立てたアスカが泣き止むま で、
僕のほっぺを二度三度とぶったそうである。
僕とアスカは人気の少なくなった校舎を歩いていた。
「もう鈴原も、相田も帰っちゃったし、今日はもう帰ろうよ アスカ!」
今日は土曜日だったが、明後日の体育祭の準備の為4時30分まで学校にい たのだ。
今日は放課後から1時間以上も、ずっとアスカに付き合わされて、
二人三脚の練習をしていたので、もうくたくただった。
「大体僕は、出席番号からいけば転校生の綾波と組む筈だったのに・・
いつもアスカが横から出てくるんだもんなぁ」
僕は心の中で呟きながら、下を向いて歩いていた。
そしてアスカと校門を出ようとした時、
「いっかりくーん!」声のした方を見ると、転校生の綾波が袋を持って立っていた。
「こんなに遅くまで練習してたの? 二人とも!」
綾波は微笑を浮かべながら僕たちに言った。
「まったく このバカシンジのせいで、苦労させられたわよ 今日は!
まぁ幼なじみの誼で、練習に付き合ってあげたんだけどね!」
アスカが綾波に、愚痴をこぼす。
「そこまで言うこと無いだろ!」僕は、綾波の前で悪口を言われたせいもあ って、
不満そうにアスカに言った。
「あらあら、息が合って無いわよ あなた達!それなら私が碇君と組もうか な〜」
綾波はアスカに挑発するかのように、言い放った。
「私もそう思うんだけど、もう決まっちゃった物はしょうが無いわよ!
だから不承不承このバカシンジと練習してたのよ! 」
アスカは顔を少し赤らめて言った。
出席番号順のペアにしようと、ミサト先生が言ったのに、
無理矢理、生徒達に自由にペアを組ませるように、提案したのはアスカだっ た
「それより、あんたこそまだ校内にいたの?」アスカが腰に手を当てて言っ た。
「私は頼んでいたジャージが届くのを待ってたのよ
一人だけ前の学校のジャージじゃちょっとね」綾波は笑った。
「それに、私は二人三脚出ないし、練習しなくていいしね」
綾波は少し悲しそうな目をした。
そうだ綾波は、運動会の始まる1週間前に転校してきた事もあって、
誰も綾波とペアを組まなかったのだ。
生徒の数が奇数だったのも、原因ではあるのだが。
男子生徒の誰もが、倍率が高くて望み薄だと絶望して声を掛けなかったので ある。
「それじゃ、さよなら〜」途中の分かれ道で、綾波と別れた。
一週間前綾波にぶつかった所だというのを思い出し、僕は一人顔を赤らめ た。
「あや あや 綾波のパンツ・・・」さすが現役中学生である。
僕は妄想していて、家を通りすぎようとしていた。
「何やってんのよ バカシンジ!」
アスカに呼び止められ僕は、家を通り過ぎようとしているのに、気が付い た。
「もーホントにバカシンジね! 世話がやけるんだから!」
アスカがシンジの腕を掴み アスカの家に連れていく。
「どーせ今日も碇のおじさまもユイおばさまも遅いんでしょう?食べていき なさいよ!」
アスカが仕様がない と言う風には言っているが、
僕を引っ張りながらも、アスカはほんのりと顔を赤らめているので、
彼女が素直で無い事を僕は再確認した。
僕もアスカも両親が研究所勤めなので、二人は鍵っ子同士だったのだ。
だから、こうして、アスカの家で食事する事は、日常茶飯事だった。
「ま、僕と二人三脚する為にあんな事言い出したんだし。」
シンジは内心そう思い、アスカを愛しく感じた。
「鞄置いて来るよ」僕はアスカに告げて、
一旦アスカの家の隣にある自分の家に戻る事にした。
ドアを開け室内に入ると、留守番電話に赤いランプが点灯していた。
僕は制服を脱ぎながら、再生ボタンを押した。
ピー 10月8日土曜日です メッセージが2件入っております。
ピー 「あ、シンジ?今日は研究の報告と発表会で、遅くなるから、食べててね! 」
10月8日土曜日 16時40分です。
ピー 「私だ 今日は冬月教授達と、母さんと、発表会の後に懇親会に行く事にな った。
戸締まりをしておくように!」 10月8日土曜日 18時02分です。
「ふぅ 最近やたらと父さんも母さんも忙しいようだなぁ、キョウコおばさ んも、
帰って来ないって、アスカ言ってたしなぁ」
シンジは普段着に着替えて部屋の電気を消した。
テーブルの上に、”となりにいます”と書き置きするのは忘れなかった。
コンコン 僕はおざなりに、アスカの家のドアを叩いた。
そして返事も待たずに入っていった。
もともとロックすらされて無かった。
僕は、勝手知ったる何とやらで、キッチンに向かった。
「遅かったわね シンジ!」アスカが鍋に入ったシチューをかき回しながら 言った。
「今夜は、二人とも遅いってさ!」僕はアスカに告げてから椅子に座った。
「私の所もよ! もう最近父さんの顔も見てないわよ!」アスカが呟いた。
「おいしそうな臭いだね」僕は鼻をヒクヒク言わせた。
「ま、朝から仕込んでたからね! 味もしみてるといいけど!」
アスカは鼻歌を歌いながら、シチュー皿におたまで、シチューを入れて行っ た。
シンジは、炊飯器の蓋を開け、二人分のご飯をよそい始めた。
さすがに、アスカの教育は行き届いているようである。
「お待たせ!」アスカはシチュー皿を食卓の上に置いた。
「いただきます!」僕は、熱々のカレーシチューを冷ましながら飲んだ。
「うん おいしいよ!」
「僕の好物を作ってくれるなんて いいとこあるなぁ」
シンジは内心そう思い、喜んでいた。
が、単にアスカにとっても好物だという事には僕はその時気付かなかった。
「おかわり 貰うよ」僕はカレーシチューを器の半分程入れて、
ご飯を放り込み、カレーライスもどきにして、二杯目を食べ始めた。
「また それやってる お行儀悪いと言ってるのに!」アスカは笑った。
「仕方無いだろ! こうして食べるのが好きなんだから!」僕は匙を止めて 反論した。
「私もそれ、しよーっと」アスカはシンジを真似て、カレーライスもどきを 作った。
「アスカも好きなんじゃ無いか!」僕はぶつぶつ言いながらも二杯目を平ら げた。
そして、流しに持って行き、器に水を張った。
30分後
僕はアスカの部屋でアスカとTVを見ていた。
別にリビングでも見られるのだが、幼稚園の頃からの癖は抜けなかった。
「ねぇシンジ 転校生の事どう思う?」
ポテチを片手にベッドの上でTVを見ていたアスカが、
ベッドを背にTVを見ていた僕に言った。
「え 転校生? 綾波の事!」僕は生返事を返した。
「そうよ、彼女どっかで見た事あると思わない?」アスカが僕に質問した。
「どっかでって、どこで?」僕は首をひねった。
「それが分かれば苦労しないわよ! だから聞いてるのに!」アスカは少し ふくれた。
「言われてみれば、そんな気がしないでも無いけど、あれだけ印象深い彼女 を見て、
何も覚えて無いって事あるのかな?」僕は何気なく言った。
「印象深いのは、転校生のパンティ見たからじゃ無いの?」
アスカは冗談めかして言った。
「んーそ〜かも知れない」僕は無意識の内に、最も最悪の答えを引き出して いた。
この時何気なく言った一言があんな波乱を巻き起こすとは、その時僕は気付 かなかった。
「それどういう事よ! あんな女のパンツ見てそんなに嬉しかったの?」
アスカは、顔を真っ赤に染めて怒り出し、僕の首を後ろから締め付けた。
「ギブアップ ギブアップ」僕は声をひねり出したが、アスカは聞いてはい ない。
そして、アスカの手から、逃れようとして、左によけたが、
アスカは手を離さなかったので、アスカはベッドから滑り落ちていた。
今の体勢は、完全にシンジがアスカを押し倒しているように見えた。
アスカは少し腕の力を弱めた。
そして、涙ぐみながら、しゃべりだした。
「シンジは、長年一緒にいた私より、パンツを見ただけのあの女の方がいいのね!
もう、私たち、いつまでも幼なじみのままではいられないのね!」
僕はアスカの意外な一面を見て驚いた。
「そんな事無いよ アスカ! なんか兄姉みたいに育った僕たちだけど、
僕は、アスカを大事に思っているよ!」
僕は初めて見たアスカの涙で少し動転していて、
普段なら到底言えないような事を言ってしまった。
「ホント?」アスカの顔が輝いた。
「その、あの事に引け目感じてるんならさ、アスカも僕にパンツを見せてく れたら
同じじゃ無いか!」僕は場を盛り上げる為の、冗談70%本気30%で言 ってしまった。
「もうバカシンジ何いってんのよ!」アスカは顔を真っ赤にした。
「冗談だよ! そんなに怒らないでよ!」僕はアスカをなだめた。
「冗談なの? やっぱり・・」アスカは涙を見せまいと、顔をそむけた。
「・・いったいどっちなんだよ・・」僕は呟いた。
”女心と秋の空”って奴を僕はその後実感した。
勿論二度目に泣いたと見せかけたのは、アスカの策略であった。
が、今はそれを知る由も無い。
「それに、パンツも何も、一緒にお風呂に入った仲じゃないの!」
アスカが笑いながら言った。 をいをい誤解する人がいたらどうするんだ よ!
「そ、そんなの小学校低学年の頃の話じゃ無いか!」
僕は、想像してしまい不覚にも顔を赤くしてしまった。
「アハハそういえば、そうね そう言えば思い出すなぁ
最後にシンジと入った時、あんたが恥ずかしがってなかなか入ろうとしなか ったのを、
私が頭からお湯をぶっかけた事もあったわねぇ」 アスカは思い出に浸って いる。
僕はさすがに、腕が痺れてきてしまった。 数分前からこの体勢のままだか らだ。
昔話を楽しそうに話しているアスカから離れるのは、 なんか気が引けるし 、
僕は我慢できる限界までこの格好でいる事にした。
数分後 アスカの昔話は続いていた。
そして、アスカの話を聞くより、腕が痺れるのを我慢する方に、気が向いて いた。
「ちょっと シンジ 聞いてるの?」アスカが僕がよく聞いてない事に気付 いた。
びくっとした僕は、腕の力を緩めてしまった。
当然 アスカに密着する事になった。
勘違いしたアスカは、顔を赤らめたまま目を閉じた。
「僕はいったいどうしたら いいんだぁ〜 アスカは何か勘違いしてるし、
このままだと、自分に自信が持てないし・・」僕は、悩んだ。
たしかに間近で見る、紅潮したアスカの顔は可愛かった。
そして、学校の制服とは違い、ラフな普段着を着ているから、
身体の線が、普段以上に、良く見えた。
「僕はアスカが好きだし、アスカも僕の事嫌いじゃ無い! これは、必然なん だ!」
僕は訳の分からない事を呟きながら、アスカの顔に自分の顔を近づけた。
そして、お互いの鼻息が感じ取れる程近づいた時、
ピンポーン ピンポーン ドアホンの音が鳴り響いた。
「ただいまぁー」アスカの母キョウコの声が玄関から聞こえた。
僕はドアホンの音に驚き、アスカから顔を離してしまった。
アスカも顔を赤らめたまま起きあがり、母親を迎えに行った。
アスカは恥ずかしいのか、僕とはあまり視線を会わせなかった。
「ママ おかえり 早かったのね!」
「もう、後は碇夫妻にまかせて来ちゃったわよ! 」
「シンジ君来てるんでしょ! ご飯は食べたわよね!」
「カレーシチューよ! ママも食べる?」
「明日の朝いただくわ!」
「それより、あなた顔が赤いわよ 熱でもあるの?」
「赤くなんか無いわよ!」
「あらら邪魔しちゃったのかな?」
「そ、そんな事ある訳無いでしょ!」
部屋の外のリビングから、アスカとキョウコの話が聞こえた。
僕はTVを見ている振りをした。 だが、この部屋に入って来そうに無かっ たので、
部屋を出た。
「どうも おじゃましてます キョウコおばさん」
僕はなるだけ平然とした振りで、リビングに行った。
「それじゃ、アスカ 御馳走様! また明日!」 「それじゃ失礼します。 」
僕はそそくさと靴を履きアスカの家から出た。
出る時に、キョウコおばさんが、
「シンジ君のお父さんとお母さんは、かなり遅くなるって言ってたわよ」
と、言っていたが、僕は良く聞いてはいなかった。
僕は家の鍵を開け自室に入り、そてベッドに座って考え事をしていた。
「今日のアスカ可愛かったな」 「いっつもああだったら言う事無いのにな ぁ」
そしてとりとめの無い事を考えていると、 玄関のドアが開く音がした。
「ん?父さん達帰って来たのかな?」僕は呟いた。
そして、寝間着に着替える為、ズボンを脱ぎ掛けた時、僕の部屋のドアがノ ックされた。
「いるよ!」僕は両親だと信じて疑わなかった。
ガチャ 入って来たのはアスカだった。
「シ、シンジ何してんのよ!」アスカが顔を赤くして驚いていた。
僕はアスカの言ってる意味が良く理解出来なかったが、
アスカの視線を辿った途端すべてを理解した。
「寝間着に着替えてたんだよ それに、アスカだとは思わなかったんだ!」
僕は慌てて弁解した。
「それより、玄関に鍵ぐらい掛けときなさいよ!」アスカが、横を向いたまま言った。
「ごめん ちょっと着替えるから!」 アスカは黙って部屋の外に出た。
僕はすばやくズボンを脱ぎ、寝間着に着替えた。
「もういいよ アスカ!」僕が呼ぶとアスカが入って来た。
「ところでどうしたの?こんな時間に!」僕はアスカにそれと無く聞いた。
「理由が無くちゃここにいては、いけないの?」アスカが少しふくれた。
「ごめん そんなつもりじゃ無かったんだ」僕はアスカに言った。
「まぁ立ち話も何だから座りなよ」僕はクッションを用意した。
だが、アスカはベッドに座っている僕の横に座った。
少し驚いた僕の方を見ながらアスカは言った。
「ねぇシンジ 私の事好き?」
「・・うん 好きだよ・・」僕は顔を赤らめながらも、
これまで言えなかったこの、たった一言を言う事が出来た。
「そう・じゃ、シンジにだけ見せて上げる」アスカは紅潮したままうつむ いた。
「え? 何を?」僕は何の事だか分からず焦った。
「バカ・・」アスカはそっとスカートをめくり上げた。
僕は突然の事に驚いていたが、その可愛いリボンのワンポイント付きのパンツを
目に焼き付ける事に成功した。
「それじゃ おやすみ 明後日は体育祭だから がんばるのよ!」
アスカはその一言を言ってから部屋を出ていった。
「そんな事されたら、気になって眠れないじゃないか〜」僕は心の中で絶叫した
Bパートに、つ・づ・く!
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