裏庭エヴァンゲリオン第参話【レッドゾーンAパート



ハイキングの前日の土曜日の昼下がり。

僕達は、綾波のリュックサックを買いに、街まで出て来ていた。

「ねぇ 綾波 この色いいんじゃ無い?」

「う〜ん 碇君が選んでくれるなら、どれでもいいけど」

「あ、あんたたち!」


綾波は例の一件から後、よそよそしさが無くなり、

僕と、自然に話す事が出来るようになったのだ。

反比例するかのように、アスカの機嫌は悪い。

世の中うまくいかないものだ。

結局草色のシックなリュックサックを僕が選んで、

母さんに預かったお金で、買ってあげた。

少し、予算が余ったので、僕はアスカの機嫌を取る為、

「ねぇ アスカ この帽子アスカに似合わない?」
「う〜ん かぶってみようか」
「惣流さん、似合ってますよ!」

結局、残ったお金と、僕の小遣いの半分を消費して、

帽子は今、アスカの頭の上だ。

まぁこれで機嫌を治してくれたのならいいか。

小遣いは、また肩叩きでもすれば、いいし。


買い物を終え、三人で家路についていると、

後ろから誰かに呼び止められた。

「あら、A組の碇君じゃ無い?」振り向くと、

保健医の赤木先生が買い物袋を下げて立っていた。

「赤木先生!」僕は少し驚いた。

「ミサトに聞いてはいたものの、らぶらぶね!」笑いながら言った。

「そ、そんな! からかわないで下さいよ!」僕は顔を赤くして言った。

だが、両腕をアスカと綾波がゲットしている手前、

あまり異論を唱える事は出来なかった。

赤木先生と話していると、横の店から、研究員の日向さんが両手に沢山

荷物を抱えて出て来た。

「赤木博士 もう持てません!」日向さんは、弱音を上げていた。

「日向さんじゃ無い! どうしたの?」僕は日向さんに声をかけた。

「げげ、シンジ君がどうしてここに!」日向さんは慌てていた。

「ははーん なるほどね」後ろでアスカが呟いた。

「さっき赤木博士とか言いませんでした?」僕は素朴な疑問を口にした。

「一応 博士号を持っているからね・・」赤木先生は笑いながら言った。

「ところで、どうして研究所の日向さんが、赤木先生と?」

僕はいまだに訳がわかっていなかった。

「日向君はね 大学の後輩だったの それじゃね」赤木先生は言ってから背を向けた。

「それじゃね シンジ君 アスカちゃん レイちゃん」日向さんも、重い荷物を抱えたまま去って行った。

「怪しいわね あの二人」アスカが口にした。

「え? なにが?」僕はアスカに聞き返した。

「あんたはいいの!」アスカはその後何も言わなかった。



僕達は家に帰り着いた。

「おかえりなさい」母さんが僕達を迎えた。

「父さんは今夜遅くなるのよ 明日のハイキングに行く為にね」

母さんが晩御飯を作りながら言った。

「キョウコも同じ理由で、遅くなるからねぇ」アスカに母さんが声をかけた。

「手伝います」「私も」綾波とアスカは母さんの手伝いをしていた。

「あらまぁ うれしい 私 女の子も欲しかったのよねぇ」母さんが笑いながら料理していた。

「じゃ、レイちゃん これ切って」 「ハイ」

タンタンタンタン 軽快なリズムでたくあんが切られて行く。

「レイちゃん なかなか包丁使いがうまいじゃ無い!」

「はい 前の所で、よく料理してましたから・・」

「・・・」

「さて出来たっと」その言葉を聞いた僕は、料理の乗ったトレイを食卓まで運んだ。

「でね、シンジったら、ずっと寝てたんですよ 一昨日」

「シンジが赤点取らないのは、アスカちゃんがいっつも教えてくれるからよね〜シンジ」

僕達はおしゃべりをしながら、楽しく夕食を食べた。

食事の後、

「洗います!」と言って、綾波が食器を洗い、アスカがテーブルを拭き、

母さんにお茶を入れ、湯飲みを置いた。

「う〜ん 娘が二人もいるみたいで嬉しいわぁ」母さんはお茶をすすりながら言った。

「これで、どっちかが、シンジのお嫁さんになってくれたら、言う事無いわね」

母さんが不穏当な事を言ったので、僕達は硬直してしまった。


僕達は、リビングでTVのクイズ番組を見ていた。
その番組を見終わった頃、

ガチャリ ドアが開き、父さんが帰って来た。

「おかえり 父さん!」僕は声をかけた。

「おじゃましてま〜す」アスカも声をかけた。

僕達に、「ああ」と言って、食卓に座り込んだ。

「あなた、大分疲れているようですわね」母さんがお茶を父さんの前に置いた。

「シンジ 明日の荷物は出来たのか?」父さんが僕に言った。

「うん みんなリュックサックに詰めたよ!」僕は父さんに言った。

「ま、明日は骨休み出来たらいいんですけどね」母さんが父さんに言った。

「第二支部に行っていた、赤木ナオコ博士が帰国するそうだ。これで少しは・・」


「明日も早いし、もう寝なさい」母さんが僕達に言った。

「それじゃ、おやすみなさい!」アスカが家に帰って行った。

「それじゃ、綾波 お休み!」 僕は綾波に言って部屋に入った。



布団の中に入ったが、なかなか寝付けなかった。

仕方無いので起きだして小説を書く という訳にもいかないので(笑)

天井を見ながら考え事をしていた。

僕は、遠足の前の日など、興奮して眠れない方だったので、いつも苦労していた。

丁度その頃、綾波レイも寝付けず苦労していたが、僕はそれを知る由も無かった。



そして、翌朝

ゲンドウの運転する4WDに、5人が乗り込んだ。

アスカの母のキョウコおばさんは、どうしても抜けられないとかで、

僕と父さん 母さん アスカ 綾波 の5人で行く事になったのだ。

「ねぇ綾波! ポテト取って」
「ハイ」

「シンジ 今から、そんなに食べてどうすんのよ」

僕達は車の中ではしゃいでいたが、

出発して1時間もたつと、睡魔に襲われ僕は寝入りかけていた。

綾波も僕の肩に頭をもたせかけているので、完全に寝入ったようだ。

アスカも静かになったので、僕も目を閉じた。


「着いたぞ!」父さんの声に目が覚めた僕達はあくびをしながら、車を降りた。

「ここから、山道を30分上がるのよ」母さんは荷物を手に取っていた。

僕達も忘れ物の無いよう、荷物を確かめた。

時間は11時30分といった所だろうか?

僕達は父さんと母さんの後を三人が並んで登って行った。

それほど、勾配はきつくは無いが、さすがに20分も歩くと息が切れてきた。

やっと頂上まで着いた頃には、みんな肩で息をしていた。

「わーきれい」
「ホントだ!」
「小さい湖もあるのね」

僕達は荷物を置いて、身体を伸ばした。

父さんはボートの置いて有る倉庫の鍵を開けてくれた。

僕達はボートを一艘引っ張り出して、湖に浮かべた。

「御飯を食べてからにしなさい!」母さんが呼ぶので、
僕達は中止して母さんの方に行った。

母さんは弁当を取り出し、僕達に渡してくれた。

「わ〜 おばさまの鳥飯好きなの」アスカは早速食べはじめた。

「じゃ、いただきます」僕達は弁当を食べた。

父さんは食べ終えると、木陰で横になって寝ていた。

母さんも疲れたのか、父さんの横で座ったまま、寝入っていた。

最近毎晩遅いから、僕は父さんの事を、少し心配していた。

僕達はお茶を飲んでいた。

「シンジ レイ ボートに乗りましょ!」

アスカがやけに張り切っている。

僕達は一艘しか無いボートに乗り込んだ。

どういう風に席を決めるかで一悶着あったみたいだけど、

なぜかすんなり、綾波が僕の横に座る事になった。

向かい側に座っているアスカは、少し憮然とした顔だ。


それでは特殊カメラで、惣流アスカの心の声を拾って見ましょう
(何で、あそこでチョキを出したの私わ! ぶつぶつ)

僕と綾波が櫓をこいでいた。

「綾波、あの木なんて木かな?」
「多分もみの木よ」
「ねぇ綾波あの葉っぱ赤いね どうしてかな」
「それは、紅葉っていうって母さんが言ってたわ」
「へぇ 綾波って博識なんだ」

「いいかげんにしなさい あんた達!」

堪忍袋の緒が切れたアスカが立ち上がった。

「ア、アスカ急に立ち上がっちゃ 駄目だ!」

僕の警告も空しく、バランスを失った船は転覆しかけた。

「きゃあっ」綾波が水面に落ちてもがいている。

「綾波!」僕は湖の中に飛び込んだ。

僕は綾波が溺れている所まで行ってもがいている綾波の腕を掴んだ。

アスカが櫓をこいで僕達の側まで来てくれた。

「綾波!」僕は綾波を押し上げて、船の手すりに手をかけさせた。

綾波は手すりをしっかりと握ったので、僕は安心した。


「そう言えば僕も泳げないんだった ブクブク」僕は力尽きて、

湖に沈んで行った。

僕は気を失う前に、上の方で水に何かが飛び込む音がしたが、

僕は水を飲み込み、沈んで行った。


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「ほらしっかりしなさいよ!」誰かが僕の腹を押して水を吐き出さそうとした。

げぼっ 僕は少しだけ水を吐き出した。

そして、感覚の無くなった僕の冷たい唇に、暖かい物を感じた。

フゥーー フゥーーー

誰かが息を吹き込んでくれているようだが、僕は意識が混濁してしまい、

何がなんだか、わからなかった。


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がばっ

僕は目が覚めた。

「碇君!」
「シンジ!」

「あれ、僕生きてたのか?」僕は起きた。

「私を助けてくれた後、沈んでしまった碇君を、

アスカさんが飛び込んで、碇君を助けてくれたの」

綾波が説明してくれた。

僕は綾波の方を向いた。

ゲホッ ゲホッ

「二人とも、何て格好してるんだ!」僕は焦って手で目を隠した。

「何言ってんのよ バカシンジ 濡れた服着たままじゃ風邪引くじゃないの」

アスカが言った。

「今、お母様とお父様が、下までタオルとか取りに行って下さっているの!」

「シンジ ゴメン」アスカが神妙な顔して言った。

「私が、変な嫉妬心だして・・ シンジに迷惑かけちゃった レイにも・」

「けどみんな無事で良かったです。」綾波が心底ほっとしたかのように言った。

「シンジ 気づいて無いかもしれないけど、レイはあんたが死ぬんじゃ無いか

って、ずっとその格好であんたに密着してたのよ あんたの体温が下がらないようにね」

「綾波 アスカ ありがとう」僕は二人に言った。

「けど、今さっきお母様とお父様が降りて行ったと言う事は、1時間たたないと

戻って来ないって事よね」アスカが寒さに震えながら言った。

「あ、そうね」綾波も今気づいたようだ。

「そう言えば空も陰ってきたから寒いな」僕は自分がパンツしかはいてない

事を思い出した。

船のへりに、三人分の服や下着を掛けているが、まだ乾きそうに無かった。

「こうなったら、しょうが無いわね 三人で肌を合わせて温まるのよ!」

アスカが寒さに肩を震わせながら言った。

「ええ〜 そんなぁ」僕は慌てた。

「何よ、こんな半裸の美少女二人と一緒で何が不満なの!」

アスカが怒り出した。

僕達はボートのあった小屋にボートを戻し、
母さんと父さんの残していった上着を上からかけただけの姿で、
三人が寒さから身を守る為、身体を寄せ合っていた。

「アスカぁ 頼むから、ブラジャーくらい付けてよ、綾波も!」
僕は叫んだ。

「今日はして無かったのよ! 悪い?」アスカが言った。

綾波は恥ずかしいのか、もじもじしていた。

「た、頼むから動かないで綾波」右肩と左胸に当たっている物の感触を僕は

忘れようと必死になっていた。

「おさまれ〜 頼むからおさまれ〜」僕は呪文のように、心の中で呟いていた。


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