修学旅行を前日に控えた、ある日の午後・・・
「お客さん! もう少し切るかい?」
「あ、これでいいです」
僕は明日からの修学旅行の為、散髪に来ていた。
カットも終わり、背もたれが後ろに倒れた。
ぺちゃぺちゃ
僕の顎や口元にはべったりと、泡が着いていた。
「シンジ!まだなの?」その時、横から突然アスカが現れた。
「この後頭洗ってもらったら終わりだよ」
「剃って貰う程無いんじゃない? 髭」アスカが笑った。
「・・・・」
「わかった! 待ってるね」アスカは待ち合い場所の椅子に座って週刊誌を広げた。
数分後
髭を剃ってもらい、髪を洗い終えて、髪をセットして貰っている時に、
目の前の鏡の隅に、散髪屋の外から僕を見ている綾波の姿を見つけた。
「綾波も終わったのか・・」
僕はこの散髪屋 アスカと綾波は二階にある美容室に来ていたのだ。
セットも終わり、僕は立ち上がった。
女性の店員が小型のレジの前に立った。
「3000円になります」
僕はお金を払い終えて、待ち合い場所で週刊誌を広げているアスカの元に歩いて行った。
「ふむふむ・・彼氏をその気にさせる 3つの方法ねぇ・・ ホントかしら・」
アスカは女性週刊誌に読みふけっていて、僕の接近を知らずにいた。
僕はいたずら心を少し出して、アスカの背面に回り込んだ。
「何読んでるのかな・・夢中だけど」
僕はアスカの後ろからアスカの読んでいる本を覗き込んだ。
「アスカのうなじ・・・きれいだな・・って いかんいかん!」
僕はアスカに気づかれないように、更にアスカに近づいて本の内容を知ろうとした。
「誰っ!」アスカが突然振り向いた。
ごちっ!
接近しようとしていた僕の額と、アスカの頭が当たった。
「いたた・・」
「何だシンジ?びっくりしたじゃないの・・」アスカも頭をさすりながら言った。
「いくら呼んでも反応しないから・・」
「!?」アスカは慌てて本を閉じた。
「ゴメンゴメン さっ行こうか!」アスカは週刊誌を棚に戻して、
僕の背を押して散髪屋の外に出た。
「あら、レイ!あなたも終わってたの? 中で待ってたらよかったのに」
アスカが外に立っていた綾波に声をかけた。
「今終わった所だから・・」
「そっか 帰ろ!」
僕たちは家に向かって歩いていた。
「ねぇ、明日の修学旅行楽しみよねぇ シンジ!」
「うん そうだね・・5泊6日って言ったら長いしね」
「えぇ〜っと 出発が・・」アスカはかばんから、修学旅行のしおりを取り出した
「出発は、校門前に朝7時! 第三新東京港まで行って、
さんふらわぁ三世号に乗って、海路を取り、船中泊。
翌朝 第二高知市着 市内観光・・夕方から、室戸岬山方面に移動!
ホテル室戸山にて泊! 翌日は、香川県に移動! 屋島で皿を投げて、
第二高松市内で、清涼飲料水工場の見学! 及び、市内観光!
夕方から、NEW瀬戸大橋を渡り、途中の与島にて、船に乗り換えて、
小与島のプライベートビーチのある、ホテルにて泊!
翌日の夕方までは、自由行動で、夕方から船に乗り、
船上バーベキューをしながら、九州は別府まで移動!
別府にて泊、翌朝から地獄巡りをして、昼から阿蘇山までやまなみリニアレールで移動!
阿蘇山頂上まで移動!そして草千里にて自由行動!
夕方からリニアレールで、博多に移動して、第二博多市にて泊
翌日は、半日間自由行動で、夕方から高速リニアレール”のぞみ2世号”
に乗って新第三東京市まで帰着! よね」
アスカはしおりの内容を読み上げた。
「アスカはどの日が一番楽しみなの?」
僕は、修学旅行のしおりを見入っているアスカに声をかけた。
「やっぱり、ビーチを借り切っての水泳よ!
プライベートビーチ・・いい響きよね
それに、そこのホテルにもプールがあるそうだし」
「そ、そう・・よかったね」
「シンジ、そういうあんたはどれが一番楽しみなの?」
「僕は遠くにみんなで行けるだけで、うれしいよ
父さんも母さんも忙しかったしね」
「綾波はどの日が楽しみなの?」
僕の少し後ろを歩いている綾波に声をかけた。
「私は、阿蘇山の麓の、草千里で馬に乗ってみたいな」
綾波が少し恥ずかしそうに言った。
「馬かぁ 綾波は馬に乗ったことあるの?」
「無いんだけど、おじいちゃんと住んでた時、おじいちゃんと、
昔の時代劇の再放送を見てたの!その番組が始まると、
主人公が馬に乗って現れるの!それが格好よくてあこがれてたの!」
「あ、それ知ってるよ!”チャチャチャーン チャーチャーチャーチャーー”
ってやつでしょ」僕は父さんのビデオライブラリの中のテープを思い出した。
「そうそう! 碇君も知ってるんだ!」
「うん!」
「シンジ!」
「なに?アスカ」
「家行きすぎるわよ!」アスカがエレベーターを指さした。
「ごめんごめん」
僕たちはエレベーターに乗った。
「今日はおじさまも帰ってくるんだったわよね」
「そうだね・・」
父さんは母さんがアメリカに行ってから、数度しか顔を見せていなかった。
ガー
エレベーターが開き、僕たちは家に向かった。
「シンジ!明日の準備できてるわよね」
「うん・・・かばんに詰めたよ」
アスカは明日の準備の為に、自分の家に帰って行った。
ガーガシャン
僕たちは家に入った。
「碇君・・傘なんだけど、折り畳みの傘が無いんですけど」
「傘かぁ う〜ん 母さんが持って行ったのかなぁ?
けど、2つくらいあると思うから、探しておくよ」
僕は傘をおいてるであろう場所を思い出そうとした。
「じゃ、晩御飯のしたくをしますので、お願いします」綾波が言った。
「綾波!」僕は綾波を呼び止めた。
「はい・・」綾波が少し驚いて振り向いた。
「君は家政婦じゃ無いんだからね・・・僕たちの家族なんだ
・・だからそんな・・言い方しないでよ」
「碇君・・・ありがとう・・」
「じゃ、傘探してくるよ」僕は緊張に耐えられなくなって、自分の部屋に行った。
「えぇ〜と折り畳み傘かぁ」僕は押入れのなかに入って傘を探した。
「えぇと、この箱かな?」僕はダンボール箱を引っ張り出した。
僕はガムテープを剥がして、中を見た。
「なんだ、アルバムか・・・」僕は緋色のカバーのアルバムを開いた。
「うわ・・これ僕の小さい時の写真かなぁ」僕は傘探しを忘れてアルバムを見入っていた。
「こ、これは!」僕は、幼児3人と親数人が写っている写真を見つけた。
その写真は、どうやら、立つことを覚えたばかりの、僕と、支える母 それに、
アスカとキョウコおばさん・・・そして、綾波らしき子供と、ハルカおばさんらしき姿もあった。
「これは近くの公園で撮ったみたいだなぁ・・・そうだ!」
僕は押入からアルバムを掴んで飛び出した。
ごんっ
頭を打ってしまったが、そのままキッチンに向かって走った。
「綾波ぃ!」僕は料理している綾波に声をかけた。
「どうしたの、碇君・・頭にたんこぶ作って」
綾波が僕のおでこをさすった。
「そ、それより、これ見てよ!」僕は綾波に写真を見せた。
「写真?」綾波はアルバムの中の僕の指差した写真を見た。
「こ、これは!」
「僕とアスカと、綾波の小さい時の写真みたいだね・・
ハルカおばさんも写ってるね・・・レイにそっくりだね」
僕は見入っている綾波の側で言った。
ガーガシャン
その時、アスカが旅行かばんを手にして、入って来た。
「何やってんのよ あんた達」
「あ、アスカ・・写真が出てきたんだ!」
「何の写真よ!どれどれ」アスカは見入っている綾波の横から写真を見た。
「私たちの写真?」
「うん・・押し入れで傘を探してたら出て来たんだ。」
「これ、本当に私なの・・・」
「これ、誰が撮ったのかな?」
「あんたバカぁこの写真に写って無い人に決まってるでしょ」
「じゃ、アスカのお父さんか、綾波のお父さんか、僕の・・・」僕も写真を凝視した。
「私だ・・・」その時、いつの間にか現れた父さんが言った。
「父さん・・これ父さんが撮ったの?」
「ああ、そうだ・・・私が撮った。」
「シンジ!」父さんが僕に声をかけた。
「何?」
「修学旅行の小遣いだ・・・カステラ忘れるな・・」
父さんがお年玉の袋の残りらしき物に入れたお金を僕に渡した。
「うん・・父さんありがとう ・・」
「レイ・・・・もっていけ」父さんは綾波にも同じ袋を渡した。
「ありがとうございます・・おじさま」
「これは、キョウコ君から頼まれた物だ」
アスカにも同じ袋を渡して、父さんは部屋を出ようとした。
「おじさま! ご飯食べて行きませんか?」綾波が父さんに声をかけた。
「ひじきの煮付けがあるなら食べて行こう・・」父さんが振り向いた。
「ハイ!」綾波が微笑んだ。
裏庭エヴァンゲリオン第7話【初陣】Aパート 終
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