「そ、そんな・・・」ゆっくりとではあるが、地響きを上げて近づいてくる、
巨大なエヴァンゲリオンが生み出した影に僕は包まれていた。
裏庭エヴァンゲリオン第8話【決戦は水曜日】Bパート
僕は放心状態のように、草むらにうずくまったまま、何も考えられなくなっていた。
ガシャーン ガシャーン
だが、紫色の巨人は刻一刻と僕に近づいて来ていた。
「そ、そうだ・・・逃げなきゃ・・・いや、違う!綾波を助けなきゃ!」
僕は覚悟を決めて立ち上がった。
「エヴァンゲリオン初号機・・・って言ってたかな・・綾波を助ける為には、
なんとかして・・・」僕は迫り来るエヴァ初号機の背後に、
なにかがぶらぶらと揺れている事に気が付いた。
ゴクッ
僕は無意識の内に唾を飲み込んでいた。
「逃げちゃダメだ・・・逃げちゃダメだ・・・逃げちゃダメだ!」
ガシャーン ガシャーン
ついにエヴァ初号機は僕の目の前まで到着した。
ギンッ
エヴァンゲリオン初号機の目が光り、その瞬間僕は駆け出していた。
ゴオッ
衝撃波と共に、さっきまで僕が立っていた所に、初号機の手が直撃した。
「チキショー!」僕は無意識の内に叫びながら自分の戦意を高めていった。
僕は大回りして、エヴァ初号機背後に回ろうとしていた。
だが、エヴァ初号機も僕を攻撃しようとするので、それは簡単では無かった。
幾度かの攻防・・・・いや幾度も回り込もうとしては失敗し、
うなりを上げて襲い来るエヴァ初号機の手や足から逃れるので精いっぱいであった。
僕は一端後ろに下がって好機を待つ事にして、後退した。
ガシャーン ガシャーン
だが、エヴァ初号機は僕を執拗に追って来ていた。
人間の足と、疲れを知らない、エヴァの足だ・・・追い付かれるのは時間の問題だった。
「綾波・・・・アスカ・・僕はここで死ぬのかな・・・」僕はまるで走馬灯のごとく、
これまでの事を思い出していった。
「シンジ! そのクマのぬいぐるみ私に貸しなさいよ!」
「ヤだよ・・アスカに貸したら返してくれないじゃないか・・」
「人聞きの悪い事言わないでよ・・その代わり私のおもちゃ貸してあげてるでしょ」
「だってアスカのおもちゃは人形とかままごと道具とか、
女の子のおもちゃばっかりじゃないか!」
そうか・・アスカが僕のおもちゃを使いたがったのは、
そのおもちゃが欲しいんじゃ無くて、僕の物を欲しがってたんだ・・・
「シンジ・・・・ハイ!」
「何だよ これ!」
「あんたバカ? 今日はバレンタインでしょ・・・
私があげなきゃ誰からも貰えないんでしょ・・これはお情けなんだからね・・」
「僕はポッキーの方がいいのに・・・それに、4年生でまだチョコ貰った人いないよ・・」
「うっさいわねぇ〜私があげるって言ってるんだから素直に喜びなさいよ・・」
「わかったよ・・ありがとう・・」
「なら、お礼に、漢字の書き取りの宿題・・私の分もやってよね」
「えぇ〜 そんなぁ」
お互い淡い恋心を持ちながら、あまりに近すぎて相手の事がわからなかった頃・・
今も同じか・・
「いつか私たちが大人になったらあんな服着せてくれる?」
「うん!アスカが大きくなったら、きっとあの服が似合うと思うよ!」
「シンジ・・・」
女の子の方が早熟だって言うけどホントだよな・・僕はあの時その言葉の意味・・・
分からなかったんだ・・・
「ねぇ・・碇君・・私の事本当に迷惑じゃ無いの?・・・
碇君の知らない間にこんな事になっちゃって・・・」
綾波が僕の家に引っ越して来た時に、何故綾波があんな事を言ったのか・・
今なら分かる気がする・・・
ガシャーーン ガシャーーーン
僕は目の前に降ろされたエヴァ初号機の足音で我に帰った。
そして、エヴァの足の間の向こうに、僕が求めて止まなかった、
地獄に降ろされた一本の糸を見た。
「ウオオーーーー!」僕は一気にダッシュして、エヴァの足の間をすり抜け、
僕が降りる時に使った、ワイヤーに繋がれたグリップと三角形の金具に向かって飛びついた。
揺れている、そのグリップを片手でようやくつかみ、
親指でグリップに付いているボタンを押した。
キリキリキリキリ
ワイヤーが巻き上げられて僕の身体は浮上していった。
だが、本来足をかけて使うものだけに、片手だけで自分の体重を支えるのは辛かった。
グオォ
僕が背後から取り付こうとしているのに気づいたエヴァ初号機が、
その巨体を捻って僕を振り落とそうとしはじめた。
「くっ・・」
僕の右手は白くなりかかっているのが、見なくても分かった。
「早く上がってくれ・・もっと早く上がらないのか・・・」
「上がれ・・・上がれ・・・上がれ!」
僕は念じ続けた。
だが、ワイヤーを巻き上げる速度は遅々として進まなかった。
僕の身体は振り子のように振り回されていた。
「もう・・限界だ・・手の力が・・・」
僕は観念して目を閉じた。
その時!
ガチャン!
足をかける為の三角形のステップが僕の靴に当たった。
「!」
僕は足を震わせながら、三角形のタラップにかけた。
無事に足がかけられ、手の負担が減り、僕は100M下の大地に打ち付けられる、
最悪の事態を間逃れた。
キリキリキリキリ
「音が近い!」
僕は目を見開いた。
すると、僕が入っていた円柱のような物が目に入った。
ハッチは開いたまま、僕を待ち受けているかのようだった。
「シンジ君! シンジ君! 応答して!」
コクピットの内部からミサト先生の声が反響して来た。
ガチャン
ようやく巻き上がったステップから僕は揺れ動くエヴァの背中の、
リュックサックの上に降り立った。
そしてコクピットに飛び込んだ。
「ミサト先生・・・これどうやって止めたらいいんですか?」
僕は操縦席に座って、僕を呼び続ける画面の向こうのミサト先生に、
声をかけた。
「シンジ君!」
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