裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 10A
第10話【
ミドリ・心の狭間
】Aパート
−CASE1−
樹島ミドリのジレンマ
7年前
「ほら、奇麗だろうミドリ」お父さんが車を運転しながら、フロントガラスの向こうの美しく広大な森を見ていた。
「うん!」私は後部座席から身を乗り出して、父と母の肩の間から森を見ていた。
「そんな格好してると危ないわよ」母が助手席から私に注意した。
「もう少しで着くから、我慢しなさい」
「はーい」私は後部座席に腰を落とした。
早朝にホテルを出て、もう半日近くも、道無き道を車は走りつづけていた。
車は、大木の生茂る森の側に止まった。
「うわーすごーい」私は車が止まると同時にドアを開けて駆け出した
私は腰を下ろして、大木に背中を預けて瞼を閉じた。
「気持ちいーい」
「運転で疲れたから、パパとママは車で寝てるから」
「うん」パパとママに連れられて、ちゅうなんべいって言うここに来てから、もう1週間が過ぎた。
日本にいられなくなったのは、私のせいだけど……パパとママは私を叱らなかった。
私は安心感から、ついうとうとしてしまっていたが、車のエンジン音で目を覚ました。
車は元来た道に向かって走って行こうとしているのが見えた。
「パパ、ママ待ってぇ」
私は必死になって、車の後を追った。
「私、いい子になるから……私を捨てないで……もう、あんな
力
使わないから……私を捨てないで」
「パパ!ママ!」
「また、あの夢見ちゃったの……」私は身体を起こした。
下着は汗に濡れて肌に張りついていた。
「ママァ」ベッドの隣に敷かれた布団の上で、ローラが寝言を言っていた。
「私も、この子と同じなのね……違う点は、親に見捨てられたか、そうでないかだけ……」
昨日から預かる事になった、ローラとか言う子……私は妙に親近感を覚えてこうして、隣で寝させている。
「まだ、3時か……」私は瞼を閉じようとしたが、瞼を閉じればまたあの悪夢が襲って来そうな予感に囚われた。
そう……悪夢ならまだマシ……だってあれは過去に起こった真実の出来事……
私は捨てられたのだ。 優しい……父と母に。
私は思い出したく無いのに、つい日本を離れる事になった、あの事件を思い出す。
あれは、私が小学校に入ったばかりの時だった。
7年前……
第二東京市にあった家の近くの公園……
「返してぇ〜」
私は必死になって、三年生ぐらいの男の子の後を追った。
「やぁ〜だよぉ〜」男の子は、私の赤いランドセルを頭上に持ち上げながら逃げ回った。
「ほれ、パス!」男の子は、周りにいた別の子にランドセルを放った。
「よっし、ほぉ〜れ こっちだこっち」
「嫌ぁ〜返してぇ ママに買って貰ったばかりなんだからぁ〜」
私はランドセルを持っている男の子の前まで走りよった。
「おっと、パス!」男の子は少しバランスを崩しながらも、ランドセルを投げた。
ランドセルは、公園を囲む低い塀に当たって、外に落ちてしまった。
「どこ、どこなの」私は公園を出て、ランドセルを探した。
「あっ」私は溝の中のランドセルをひっぱり出した。
買って貰ったばかりのランドセルは、ついさっきまで光沢を放っていたが、今は泥まみれであった。
「
ママに買ってもらったのに
……
ママに買ってもらったのにぃぃ
」
突然公園の中で、砂嵐が巻き起こり、ランドセルで遊んでいた二人はそれに巻き込まれて、一人は塀に背中からぶつかり、
もう一人は鉄棒に腹からぶつかった。
「何なの?私じゃない……私知らないもん」私はランドセルの、泥で汚れて無いところを持って、家に逃げ帰った。
その後、突発的な砂嵐に巻き込まれたとされたが、周囲は怪異と、憎悪の目で、私とパパやママを見た。
運の悪いことに、怪我した一人の子供は、パパの会社の重役の子供であった。
半年後……中南米の支店への転勤が決まり、私達は日本を旅立った。
赴任前の旅行のさなかに、父と母におきざりにされた私は、放浪している間、
地元の人に食べ物を貰ったり、朝露を飲んで、日々を過ごしていた。
自分の持つ力の為か、古くからのしきたりを守る原住民らしき者達は、私を神の宿る巫女だと呼んで、保護してくれた。
神様を感じた事はなかったが、放浪している間に、木々や草……風……落雷の後で燃え盛る炎……全てを育む土……
それらの自然の精霊の意志を知る事が出来る事になっていた。
父と母に捨てられて寂しいと思う事は無かった……何故なら、自分が悪い子だったから、日本から離れなくてはいけなくなった……
自分がいたから、優しい父と母に迷惑をかけた……自分がいなければ……父と母は優しいままだったかも知れないとまで思い込んでいた。
4年前に……調査に来た、アスカに拾われるまでは……
アスカに保護されて、4年間アメリカの施設で教育を受けた……父と母の消息も探してくれた……
アスカは私にとって、実の母以上の存在であった。
調べた結果、父と母は3年間中南米の支社にいた後、帰国し、1年後にアメリカへの転勤を命じられたそうだ……
私のことは行方不明と報告されていたそうだ……
父と母が一週間後、帰国するせいか、私の心は揺らいでいた……
実の母のように慕っている、アスカに……自分は捨てられた子だという事と、力を持っている事を隠している事に、
胸が締め付けられるように痛んだ。
アスカが……父と母が私を捨てた事を知れば……アスカは父と母を許さないだろう……
けど、父と母が私を捨てた理由……私があのような力を持っている事を知っても……
前と同じように接してくれるのだろうか……アスカに真実を知らせないまま別れたく無い……けど
私はそんな事を考えている内に、いつしか眠りに落ちていた。
「ほら、ミドリお姉ちゃん……朝御飯出来たって呼んでるよ」ローラに起こされて私は目覚めた。
「んっ……おはよう、ローラちゃん」私はもぞもぞと身体を起こした。
この子も私も……人ならざる力を持っている……シンイチさんも……力を持った者が幾多の偶然の後、
こうして一同に会している……なにか運命のようなものを感じて、私は背筋が寒くなった。
ローラは目ざとく私も同類だと気づいたようで、結構なついている……
「ミドリお姉ちゃんは、どうしてこの家にいるの?」階段を降りながらローラが声をかけた。
「ん〜話すと長いんだけど……お父さんとお母さんと外国で昔はぐれたのよ……それで、アスカに拾って貰ったのよ。
来週……日本に戻って来るの。 だから、ここにいるのは今週一杯かな」
「けど、よかったね……」
「ありがと……」だが……力を持っていたが故に捨てられた事は、口が裂けてもこの子に言えなかった。
アスカに言えないのとは、別の理由……そう……この子は私と同じだからだ……
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第10話Aパート 終わり
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に続く!
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