裏庭セカンドジェネレーション
CHAPTER 10B
第10話【ミドリ・心の狭間】Bパート
−CASE2−
碇ミライの憂鬱
顔を洗って、居間に顔を出した途端アネキの声がかかった。
「あ、ミライ シンイチ君を起こしてきてね」アネキが朝食の準備をしながら言った。
「うん……」私は階段に向かって歩いていった。
「あ、ローラちゃん、ミドリさん おはよう」階段を降りて来た二人に声をかけて、私は階段を上がった。
昨日から憂鬱で勉強も身につかなかった……それと言うのも……私の悩みのタネは……」私は二度ノックしてシンイチの部屋の扉を開けた。
「シンイチだけね……」 ベッドの上で無防備な寝顔を晒しているシンイチを見ながら私は呟いた。
「ほら、早く起きなさい!」私は小さい声でまず第一声を放った。
熟睡している事を確認して、私は次のステップに進んだ。
ベッドの横に座り込んで、間近でシンイチの寝顔を見る事と……
「こいつめ……おまえのせいで……勉強が身につかなかったんだぞ
……アネキといちゃいちゃしちゃって……どうせ昨日だって」私はシンイチの耳元でブツブツ言っていた。
自分の中にため込むと爆発しそうになるので……こうして時々寝ているシンイチに思いをぶつけるのだ……
「睡眠学習……って訳にはいかないのよね……」ため息をひとつ……
「さーて、そろそろ起きてもらいましょーか」私は胸一杯に空気を吸い込んだ。
「シンイチ!早く起きなさいよ!」
私の朝は、こうして大声を張り上げる事で始まる。
「お、おはよう……ミライ」シンイチは珍しく一度で目を覚ました。
「朝御飯、もう出来てるから……早くしてよね……」
「うん……けどあんな大声出したら近所迷惑だよ……そんな大声じゃなくても起きられるから」
「何言ってるのよ……私何回も呼んだのに、ぜんぜん起きなかったじゃないの」
私は心の中で舌を出した。
「ほら、なんだかんだ言ってないで……早く服着なさいよ……」
私はそのまま部屋にいたい誘惑を振り切って扉を閉めた。
シンイチに、はしたない女の子だと思われたくないもんね……いいかげん、アネキみたいなのがいるんだから……
そうよ……いつも私はアネキと比べられて…………」
私は階段を降りながら昔の事を思い出していた。
「出来のいい姉を持つと苦労するわね……」
私はため息をひとつ、つついてから、階段を降りた。
「それじゃ行って来まーす」
「今日はお昼までだから、それまでお留守番お願いね」アヤさんがローラの頭を撫でながら靴を履いた。
「ミドリお姉ちゃんも戻って来るよね」ローラは少し心配そうに、樹島さんを見上げた。
「勿論よ」
「さ、そろそろ行かないと、遅刻しちゃうわね」
「昨日から父さん見ないけど、どうかしたのかな?」
「例の仕事で忙しくって、試験問題作るのが遅れてるからって、学校に泊まり込んでるそうよ」
「教え子が三人もいる家で試験問題作るのも問題あるだろうから、仕方無いね」
「けど、ローラちゃん ミドリさんに良く懐いてるわねぇ」アネキがミドリさんに声をかけた。
他愛も無い話をしながら、私たちは学校に向かっていた。
アネキと別れて、校門を潜った頃には、すでに始業5分前のチャイムが鳴り響いていた。
のんびりしている、シンイチとミドリさんを引き連れて、私は教室に急いだ。
「ちぇっ遅刻するかと思ったのに」ムサシが私たちを見てぼそっと言った。
「僕の勝ちだから、今度掃除当番一回ね」ケイタが珍しく笑みを浮かべながらムサシに言っていた。
「ひどいなぁ、賭けなんかしてたの?」
シンイチが笑いながら二人と話しているのを横目で見ながら、私は席についた。
「ミライ、おはよっ」隣の、風谷さんのいた、現在では空席になった椅子に、鈴原さんが腰掛けて話しかけて来た。
「どしたの?キヨコ なんか嬉しそうじゃない?」
「あ、わかる? 実はね……このクラスに転校生が来るんだって」
「転校生が来て、なにか嬉しいことでもあるの?」
「ふぅ……ミライはシンイチ君の事しか目に入らないだろうけど……
今朝、職員室に日誌を取りに行った時、碇先生と話してたの見たんだけど……
まじめそうで、結構格好良くて……ちょっといいかなって思ってるの」
「わ、私は別にシンイチとは……」
「隠さない、隠さないっ あ、もう時間無いか じゃぁねっ」
そういって、鈴原さんは自分の席に戻って行った。
「ほんとの所、どうなんだろ……シンイチの気持ちは聞けたけど……あの時の言葉信じていいよね、シンイチ」
前方の席に座っているシンイチを見ながら、私はため息をついた。
チャイムが鳴り響き、朝のホームルームが始まった。
「起立、礼、着席」
「えー、それでは転校生を紹介する、山中君入って来たまえ」パパが廊下に向かって声をかけた。
キヨコが噂していた転校生は、確かに真面目そうだった。
だが、次の瞬間には、シンイチの方に視線をずらしていた。
転校生の挨拶も殆ど耳には入らなかった。
「ミドリさん……羨ましい」シンイチの隣の席にいる、ミドリさんにまで嫉妬している自分に気がついた。
「シンイチ……」私はまるで遠くにあって手の届かない何かを掴もうとしているのかも知れない。
「あの、宜しくお願いします」物思いに耽っていた私は、声をかけられて正気に帰った。
「え?あ、はい」どうやら、席が空いていたので、隣の席になったようだ。
「碇さん、端末が届くのは来週になるから、それまでは一緒に使って下さい」
「はい、パパ」私は動転していたので、つい そう答えてしまった。
次の瞬間、教室内は笑いに包まれた。
これまで、パパの授業の時でもこんな事一度も無かったのに……
私は羞恥の余り、顔を真っ赤にしてしまった。
もっとも、親子である事は周知の事実ではあるから、笑い話だけで済んだのだが……
パパは苦笑しながら、教室を出ていった。
HRが終わり、一時限目が始まるまでの5分間は、隣の席の転校生に端末の使い方を説明していた。
一時限目は、緊張感からか、少しぎごちなかったが、
三時限目の頃には、すでに緊張感も解けて、いつしか、シンイチを眺めていた。
端末がメインとは言え、黒板にも要点が書かれるので、
黒板を見るふりをしながら、私はいつもシンイチを見つめていた。
だが、シンイチを見つめているのは私だけでは無い事にも気づいていた。
上級生の間では熱狂的な程のシンイチのファン?がいるのだが、
同級生にも、数人シンイチを気にしている人がいるようであった。
三時限目が終わり、私はキヨコに呼び出されて、女子トイレにいた。
「ミライ……シンイチ君を独占するだけでは、物足りなくて山中君まで……」
「何言ってるのよ……独占なんかしてないよ(アネキもいるしさ……)」
「あの転校生、山中って言うんだ……」
「聞いてなかったの?」
「うん、あまり興味も無かったし」
「どうせ、シンイチ君を見つめてたんでしょ」
「み、見てたの?」
「碇先生の事、パパって呼んだから……もしかしてって思って」
「……」
「ま、山中君に興味が無いなら、いいか」
「もう、休み時間終わるわね、行きましょ」
上機嫌になったキヨコに腕を引かれて、私は教室に戻った。
四時間目は体育だったので、男子と女子は別れていた。
「あ、今日は図書委員会があるから、先に帰っててよ」
昼までで授業も終わり、席を立とうとした時、シンイチが声をかけてきた。
「あ、私も今日は文化委員会がありますので」ミドリさんもおずおずと口を開いた。
「ローラもいる事だし、じゃ先帰るわね」私は鞄を手に立ち上がった。
廊下を歩きながら、私は何故か疎外感に苛まれていた。
「あ、碇君」帰ろうとした私をパパが呼び止めた。
「何でしょうか」
「山中君を連れて、学校の案内をしてくれないかな?」
「あ、はい」
私は転校生の山中君を連れて、校内を案内していった。
一通り、案内して、最後に屋上を案内していた。
「ねぇ、ミライさんは好きな人いるの?」山中君が鉄柵に手を置いて言った。
私は突然の事に少し驚いたが首を縦に振った。
「もしかして、前の方の席に座ってた、渚君だったかな……彼なのかな?」
「ど……どうしてわかったの?」
「そりゃね……ずっと彼を見てるから……正直羨ましいよ」
「どうして?」
「好きな人がすぐ側にいるって事がね……」
「転校してきた学校に好きな人が?」私はそっと口を開いた。
山中君は黙って肯いた。
「ありがとう……ちょっと気持ちが楽になった気がする」
「そう、良かった……今日は案内してくれてありがとう」
私は山中君と別れて、図書室に向かっていた。
私は図書室の扉の前の壁にもたれてシンイチを待っていた。
30分ほどして、会が終わり数人の生徒が出て来た。
「あれ、ミライ!どうしたの?」シンイチが私を見つけて近寄って来た。
「パパに頼まれて転校生を案内してたの、一緒に帰りましょっ」
「うん」シンイチが笑みを漏らした。
私はシンイチと手をそっと繋いで家路についた。
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第10話Bパート 終わり
第10話Cパート
に続く!
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