裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER

第10話【ミドリ・心の隙間】Dパート

−CASE4−


「ふぅ……あとは、この報告書だけか」私は目を擦りながら端末に向かっていた。

「どうしたんですか?碇教授、ここ最近根を詰めすぎてるんじゃないですか?」私の机の上に、研究員がコーヒーを置いた。

「私がここでこうしてるのが、珍しいかのような言い方ね」私はコーヒーカップを手に取って言った。

「そういう訳じゃ無いんですけど……」
この古参の研究員は、留守がちな私の為に、いつも研究室を任せっぱなしにして、
頼りにしているんだけど、いつも言わなくてもいいことまで言うのよねぇ……

「ほら、知ってるでしょ、中南米で迷子になってた子の事……」

「教授が施設に入れて勉強させた子で、今お家にいるんでしょ?何かあったんですか?」

「彼女は問題無いんだけど、明後日帰国する彼女の両親の反応が、妙なのよ」

「妙って、どういう事ですか?」

「こっちの質問には答えないか、はぐらかすだけだし……明後日には帰国なのに、確たる返事が無いのよ」

「えーと、ミドリちゃんでしたよね、彼女の受け入れの事ですか」

「そうなのよ……」

「帰国したら、その対応しないといけないから、そんなに根詰めて仕事してるんですね」

「帰ったら、あの子に両親の事聞いてみようかしら」

「他人には解りませんですもんね、親子の事は」

数時間後、私はエレカで大学を出て、自宅に向かっていた。

「もう、下校の時間よね……学校に行こうかな……ミサトとも相談したいし」
私はオートパイロットを切り替えて、行き先を変更した。


私は来客用のスリッパを穿いて、職員室に向かっていた。

生徒も殆ど下校し、クラブ活動をしている生徒の姿がちらほら見掛けられるだけで、静かだった。

来客用の受付機に、カードを通して、主人である、碇シンジと、教頭の葛城ミサトを呼び出した。

扉が開き、来客用の応接間に通された。

ガラスごしに見える職員室の中から、一人の女性が席を立って、応接室の扉を開けた。

「あら 碇さん、お久しぶりです」現れたのは、伊吹教諭であった。

「いつも、主人がお世話になってます」

実は防音防弾ガラスである、応接室の扉を閉めてから、伊吹教諭は顔色を変えた。

「司令になにか用事ですか?」

「あ、そっちの話じゃないんだけど、ミサトとシンジと話がしたくて……」

「司令は、今国語の教師だけのミーティングに出席されてますけど、もう帰って来る筈です。
葛城さんは、こっちに向かってます」


「あ、そうだ樹島さんなんですが、ここ最近授業の時に集中力が低下してるみたいですねぇ」

「モニターデータで解ったの?」

「そんなの使わなくても、解りますよ……見るからに思いつめた顔してるんですよ」

「実は今日来たのも、ミドリの事なんだけど……」

「何故か、両親の対応が変なのよ」

「樹島家の調査結果……出てるわよね」

「一応裏は取ったんですが、樹島家は、旧支配者の末裔とは、何の関わりも無いようです……ですが」

「何かあったの?」

「えーと樹島氏が国外に出る少し前の記録が出て来たんですが……」

「ちょっと待って下さい」息吹教諭は携帯端末を操作して、なにかを検索しはじめた。

「準備が出来ました。念のため、実線で繋ぎます」そういって、コードを取り出し、伊吹教諭の端末と、私の端末はコードで結ばれた。

「転送します」

私の通信画面には、ダウンロードの残り秒数が表示されていた。

小気味良い音と共に、ダウンロードは終了した。

「……これは……」

公園で遊んでいた子供二人が謎の突風に巻き込まれて重傷を負ったが、
すぐ近くにいた一人の少女だけは無傷であった事が記されていた。

「重傷を負った子供の親が、樹島氏の上司の息子でして、その感情のもつれで、樹島氏を中南米の支社に飛ばしたようですね」

「これが、あの奇妙な態度の理由なのね……」通信端末を持つ手が震えているのは、怒りからか……悲しみからなのか、解らなかった。


ミサトとシンジとの話を草々に終えて、私は家に向かっていた。


「あ、お帰りなさい、お母さん」玄関に入った私を、長女のアヤが出迎えてくれた。

「ただいま、お父さんはもう少ししたら戻って来るそうだから」

「あ、そうそう、伊吹先生に聞いたんだけど、あなたに親衛隊が出来たんだって?」

「何故伊吹先生が、知ってるんだろう……」

「何でも、所持品検査してて、ナンバー入りのカードが発見されたそうなのよね……」

「私は、何も知らないのに……」

「まぁいいじゃないの、あなたのファンなんだから」

「……」アヤは恥ずかしそうに、もじもじしていた。
からかうと、すぐ反応する所がアヤらしいと想う。

「それじゃ、晩御飯になったら呼んでね」私はそう言って、自室に向かった。


鞄を置き、鞄から通信端末を取り出して、先ほどの情報を表示させた。

「……とりあえず話を聞かなきゃね」私は端末を置いて、部屋を出た。

重い足取りで、階段を上がりミドリのいる部屋のドアを叩いた。

「はぁ〜い」ローラがドアを開け、ちょこんと顔を出した。

「ミドリちゃん、いる?」

「さっき、電話がかかってきて、どこか行ったよ」

「あ、そうだ!これ預かってたよ」ローラは机の上に置いてあったディスクを取って差し出した。

「そ、そう……」

「ミドリお姉ちゃん……なんか、この前の私みたいな顔つきだったよ」

私は急いで下に降りて、自室に向かった。

慌てて、端末の電源を入れて、パワーランプが点灯するかしないかの内にディスクを差込み、内容を表示させた。

小型通信端末の狭い画面に、ミドリのメッセージが表示された。

====================EDIT MODE=================
!------midori kishima------id:3-tk.2a16------!

直接……話そうと、何度も何度も思ったのですが、
どうしても、話す事が出来なかった事を記します。

薄々感づいているとはおもいますが、私は両親に、
7歳の時に、中南米におきざりにされました。  
その理由は私が妙な力を持っていたからでしょう。

その事について両親を怨む気には今はなれませんが
何より、心苦しいのは、私がその事実をこれまで、
機会があったのに、アスカに話せなかった事です。

話したら、アスカにかまって貰えなくなるように、
想っていたのです。今想えば、失礼だと想います。

両親が私を引き取る気が無い事を、松代の祖父に、
聞かされました。今日今から出向くのは、
祖父の養子として、両親と縁を切る為の手続きに、
今から出向きます。

両親と、今会ったら何をしでかすかわかりません。
心の中では両親を許していても、感情では・・・。
7歳の時に引き起こした力で、両親が傷つくのを、
見るのは、絶対嫌です。内心では引き裂いてでも、
殺してやりたいと想った事もあるんです・・・・・

だから、祖父の提案を受ける事にしました。   
それが、私の為でもあり、両親の為だと想います。

永い間本当にありがとうございました。     

-page 2-

どこにいても、私はあなたを、慕っています。
こんな私に愛情を注いでくれて、私はどれほど嬉し
かった事でしょう。密林の中で、あなたに出会って
もう5年にもなりますね……あなたが施設に面会に
来てくれる日が近づくと指を折って待ったあの頃を
思い出します。

前に私の記憶を消去しようとしましたよね……あの
時の処置で、私の記憶は消えませんでした。 
アスカと、その家族が、どんな状況なのか、良く解
りました。中学を卒業したら……私のこの力を、是
非あなたと、その家族の為に役立たせて欲しいので
す。その日まで……お別れです。

アスカや、家族のみんな・・そしてローラと会うと
別れが辛くなるので、このまま失礼させて頂きます
これまでの、学費その他は、祖父が支払うそうです
そのような方法で恩が返せるとは到底想っていませ
んけれど、これ以上迷惑をかけたくないのです。 


愛するアスカと、その家族に、幸ありますように 

                  樹島ミドリ
          -end-


「ど、どうして言わなかったのよ、ミドリ!」
キーボードの隙間に涙が数滴零れ落ちた。
「そんな事を……一人、胸の底に隠してただなんて……私は保護者失格よ」
手にしている端末が軋む音も私の耳には入らなかった




次回予告はCM(メールフォーム)の後だよ


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どうもありがとうございました!




次回予告

祖父と共に第三新東京市を離れるミドリ……
アスカから事情を聞いた者達は、ミドリの為に涙を流した。

そして、最も恐れていた事態へと、運命の歯車は回っていった。


次回、第11話【別離】
ローラの叫びが響く時、時代は新たな展開を迎える。


第10話Dパート 終わり

第11話の前に【外伝】2本&第10話のCパートとDパートの間の【番外編】があります!

外伝「アヤは中学一年生!」 を読む!



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